*

「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】3日目 いよいよ金沢へ‐その2(R8→北陸道)敦賀、尼御前SA、金沢駅

公開日: : 最終更新日:2025/05/14 旅話, 旅話 1996年

車旅日記1996年5月5日

18:11 8号国道‐敦賀
琵琶湖ともお別れ。
8号国道を飛ばした。

北陸自動車道の渋滞表示を目にする。
約束の時間に間に合うだろうか。
少しだけそんな心配が生じた。

国道は空いていた。
やがて、わずかだけど琵琶湖との再会があった。

国境を前にした琵琶湖は様相を変える。
風景は険しくなり、脇に敷かれていた線路は吸い込まれるように山中に姿を消す。
木々の色は急に寒々しくなり、冬の国に紛れ込んだかのような錯覚を起こす。

そうして最初に到着する街はかつての恋人の故郷。
駅に向かう通りを曲がり、途中で車を止めた。
そして駅へと歩く。

5年前の恋人の母親は、あの日この街でオレにこう言ったんだ。
「ここで暮らさないか」。

オレと彼女はこの駅に降りて、母親の運転する車で実家に向かい、とても大切な話をした。
話は半ば成功して、半ばは失敗した。

彼女が東京に残ることは許されたが、二人は若く、結婚は許されなかった。

そして翌日また母親の運転する車でこの駅に戻り、旅費やたくさんの土産を渡され、さっきの言葉を聞いた。
あれからもうずいぶんと月日が流れた。

この街は今「火祭り」でわずかに賑わいを見せている。
いるとは思わないが、通りすがりの人の顔を見ながら歩いた。

やがて山車はロータリーを一巡して車に近づいてきた。
その群れが来る前に慌てて車を出して、今ここにいる。

彼女はもうお嫁に行っただろうか。
去年の夏に電話をもらっていた。
彼女の現在の恋人が神戸復興のために現地に向かうので、ついていくと。

ご両親は変わらずこの街でご健在だろう。
彼女はどこで暮らしているのだろう。

5年前の恋人の故郷は風が冷たかった。
この街では春は暦通りには来ないものらしい。

北の街にきた。
何物もつかめず、彼女が暮らしてきた街に戻ってきた。

月も星も見えない夜が訪れている。

20:03 北陸自動車道-尼御前SA
感傷を振り払うように走ってきた。
金沢への道を急いだ。

8号国道はやがて日本海に通じる。
そこが昔からの交通の難所であることは理解できた。
上杉謙信も柴田勝家も雪に閉ざされ、中央での勝機を逸した。

国道を照らす明かりはわずかで、人生の裏道を往くような心地がした。
武生あたりで、このままだと約束の時間には間に合わないと悟り、ハイウェイへ。

さらに飛ばした。
福井市内の明かりが遠くに見えた。

今オレは金沢へ50㎞の地点にいる。
もう少しで彼女に会える。

不思議と体からは疲れが引き、眠気もどこかに消え失せた。
これから最終目的地に向かう。

風は穏やかだ。
もう少しで彼女の笑顔に会える。

21:25 金沢駅
冷静な気持ちでハイウェイを降りた。
そして冷静な気持ちで約束の場所を探し当てた。

金沢駅に21:00。
このツアーでずっと頭を占めていた再会劇が始まる。

駅のパーキングに車を止めて、約束の場所に向かう。
幸い改札口はひとつしかない。
これで迷う心配はない。

約束の時間には少し早い。
どこにも彼女の姿はない。

もう一方の出口へ。
車を止めた側は地方都市然としていたけど、そっちにはいくつものライトが灯り、まるでクリスマスの表参道のようだった。

きれいな街だ。
加賀100万石の城下町は、時を越えてもまだその実力をこうして見せつけている。

わずかなタクシーが止まっているだけで、あとは恋人たちの空間。
煙草に火をつけて、彼女の到着はいつになるだろうと思い、胸がいっぱいだった。

改札前に戻る。
彼女はいない。

改札口では様々な人々の往来が見られた。
関西からの旅行者、日本海沿いに住まう人々。
そしてこの街を出ていく者たち。

そんな往来を眺めていた。
帽子を目深にかぶり、彼女の到着を待った。

やがて、視界の左側から赤い服を着た女性が、二人の女性とともに改札前を横切った。
それが彼女だった。

彼女はあたりを注意深く見回し、オレを発見する。
天使がいつものように耳に心地い声で近づいてきた。

ツアーの最中ずっと夢に見ていた光景が、東京から遥かに離れた北陸の都会で現実となった。

彼女には陽気な友人がついている。
きっと幸せな旅だったのに違いない。
ひとりはオレたちの再会を記録に残そうとビデオカメラを構えている。

オレは彼女に汚いひげ面でいることを詫び、彼女は気にしないと返す。
声はかすれていた。
大阪を辞して以来、まともに人と口をきいていなかったこともあるが、何を話せばいいのか分からなくて。

何より東京で見慣れている彼女が、あまりにも魅力的な姿で約束通りに現れたことに動転していたんだ。

気持ちは固まっていたけれど、この場で伝えるべきじゃない。
彼女の連れは気を利かせて少し離れたところで見守っていたけど、勇気は萎えてしまった。

だけど、すべては東京で。
東京に帰ってからすべてを始めよう。

再会の時はすぐに幕を迎える。
できることならその場から彼女を連れ去りたかったが、冗談でもそんなことは言えなかった。

互いの手には、互いの手からの土産が握られ、それは深い意味を持つものではなかったけど、彼女から受け取った時はとてもうれしかった。

別れはいつもの新宿のようにさりげなかった。
彼女は振り向くことなく二人の友人と街に消えていった。

今は胸がいっぱいなんだ。
うまくしゃべれないよ。

遠く金沢で彼女に会えたことは一生忘れない。
そして今夜の彼女の笑顔も。

この感動をうまく書き残せない自分がもどかしい。
こんな場所で再会できたのに。

もう少しすれば落ち着いて、もっとマシなことが書けるだろう。
それまで走り続けよう。

彼女に伝えたとおり、今夜のオレは宿無しなんだ。

関連記事

「鉄旅日記」2020年如月 2日目(大船渡-釜石)その3‐宮古、蟇目、茂市(山田線)/蛇の目寿司 【東日本大震災で被害を受けた大船渡に泊まりにまいりました。山田線完全乗車も目指しておりましたが・・。】

鉄旅日記2020年2月23日・・・宮古駅、蟇目駅、茂市駅(山田線)/蛇の目寿司 13:25 宮古蛇

記事を読む

「鉄旅日記」2008年初夏 2日目(和歌山-松阪)その2-串本、新宮、尾鷲、紀伊長島、三瀬谷、多気、松阪(紀勢本線)【まほろばの路から紀州へ。紀伊半島で過ごした短い夏の記憶でございます。】

鉄旅日記2008年7月20日・・・串本駅、新宮駅、尾鷲駅、紀伊長島駅、三瀬谷駅、多気駅、松阪駅(紀勢

記事を読む

「車旅日記」1997年夏 最終日(鳴子-米沢-東京)-鳴子サンハイツ、瀬見駅、羽前中山駅、萬世大路記念碑公園、栗子トンネル、松川駅、里白石駅、常陸大子駅、我孫子、東京町田【男鹿半島を目指した夏。友と過ごし、旧友と再会したみちのく旅でございます。】

車旅日記1997年8月16日 1997・8・16 8:18 鳴子サンハイツ 拝啓 残暑お見舞い申し

記事を読む

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 2日目(焼津-静岡)その1 ‐焼津、金谷、千頭、井川(東海道本線/大井川鐡道本線/大井川鐡道井川線)/焼津温泉やいづマリンパレス 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

鉄旅日記2022年3月20日・・・焼津駅、金谷駅、千頭駅、井川駅(東海道本線/大井川鐡道本線/大井

記事を読む

「鉄旅日記」2009年秋 3日目(大分-佐賀)その1-大分、中判田、豊後竹田、宮地、肥後大津、水前寺、辛島町、熊電上熊本、上熊本(豊肥本線/熊本市電) 【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】

鉄旅日記2009年9月20日・・・大分駅、中判田駅、豊後竹田駅、宮地駅、肥後大津駅、水前寺駅、辛島町

記事を読む

「鉄旅日記」2020年盛夏 3日目(肥前鹿島-門司港)その1‐肥前鹿島、肥前大浦、長里、湯江(長崎本線)/鹿島城跡 【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】

鉄旅日記2020年8月15日・・・肥前鹿島駅、肥前大浦駅、長里駅、湯江駅(長崎本線)/鹿島城跡

記事を読む

「鉄旅日記」2017年冬 最終日(喜多方-東京)その2-会津若松、芦ノ牧温泉、大川ダム公園、芦ノ牧温泉南(会津鉄道)/大塚山古墳群【会津へ。会津へ行きたかったのでございます。】

鉄旅日記2017年12月3日・・・会津若松駅、芦ノ牧温泉駅、大川ダム公園駅、芦ノ牧温泉南駅(会津鉄道

記事を読む

「車旅日記」1998年春 初日(東京-岩手山SA)-町田、蓮田SA、都賀西方PA、黒磯PA、阿武隈PA、吾妻PA、菅生PA、前沢PA、岩手山SA 【下北半島を目指した春。男の旅は北を目指すものと思っていた20代後半。高倉健さんの影響でございましょうか。】

車旅日記1998年5月1日 1998・5・1 11:53 東京町田 出発を前にして空が晴れてきた。

記事を読む

「鉄旅日記」2012年春 その2-川原湯温泉、岩島、群馬藤岡、高麗川、拝島、昭島、中神、武蔵溝ノ口、武蔵中原、鹿島田、尻手(吾妻線、八高線、青梅線、南武線) 【青春18きっぷで、ダム湖に水没する鉄路へ】

鉄旅日記2012年4月1日その2・・・川原湯温泉駅、岩島駅、群馬藤岡駅、高麗川駅、拝島駅、昭島駅、中

記事を読む

「鉄旅日記」2021年春【週末パスで信濃へ。妙高高原駅で引き返し、松本の友人を訪ね、大糸線を旅して思い出の白馬へ。先の旅から一週間後のことでございました。】最終日(松本-東京)その3 ‐南小谷、白馬大池、信濃森上、白馬(大糸線)

鉄旅日記2021年4月25日・・・南小谷駅、白馬大池駅、信濃森上駅、白馬駅(大糸線) 11:

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 最終日(静岡-東京)その3 ‐南甲府、金手、甲府、八王子、京王八王子(身延線/中央本線)/甲府城跡 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

鉄旅日記2022年3月21日・・・南甲府駅、金手駅、甲府駅、八王子駅

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 最終日(静岡-東京)その2 ‐十島、鰍沢口、甲斐住吉、国母、常永(身延線) 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

鉄旅日記2022年3月21日・・・十島駅、鰍沢口駅、甲斐住吉駅、国母

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 最終日(静岡-東京)その1 ‐新静岡、静岡、由比、富士、芝川(東海道本線/身延線)/駿府城址 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

鉄旅日記2022年3月21日・・・新静岡駅、静岡駅、由比駅、富士駅、

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 2日目(焼津-静岡)その3 ‐尾盛、千頭、金谷、静岡(大井川鐡道井川線/大井川鐡道本線/東海道本線)/くれたけインプレミアム静岡駅前 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

2022年3月20日・・・尾盛駅、千頭駅、金谷駅、静岡駅(大井川鐡道

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 2日目(焼津-静岡)その2 ‐奥大井湖上、接岨峡温泉(大井川鐡道井川線) 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

2022年3月20日・・・奥大井湖上駅、接岨峡温泉駅(大井川鐡道井川

→もっと見る

    PAGE TOP ↑