「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】3日目 いよいよ金沢へ‐その1(R1→湖岸道路)伏見、山科西野、大津駅、瀬田駅、守山、彦根
車旅日記1996年5月5日
1996・5・5 11:36 1号国道‐伏見
黄金週間の混雑は古都の上空を曇り空に変える。
2日前と変わらない状況だ。
ただオレは違う。
何より友人の家で疲れを癒したんだ。
2日前は擦り切れていた。
危ないところだったよ。
今、鳥羽大橋を渡った。
これから古都に入る。
心は穏やかだよ。
今のところ盛り上がりを感じずにいるけれど、きっと大丈夫だよ。
そのうち元に戻るさ。
12:40 1号国道‐山科西野
なあ兄貴、天気なんていい加減なもんだな。
今日も天はオレの味方だよ。
したがって調子も悪くない。
古都の対応はよかった。
京都駅に立ち寄ろうと思ったのはいつの頃だったか。
とにかく適当な駐車場を見つけて立ち寄った。
最初にしたことは両親に電話を入れることだった。
母親が電話に出る。
心配そうでもあったけど、うれしそうだった。
家には兄貴が奥さんと二人の姪を連れて遊びにきている。
受話器から上の姪の元気な声が聞こえてくる。
義理の姉は、オレに挨拶させようと努力したけどうまくはいかなかった。
「別にいいよ」と言って電話を切った。
そして21:00の再会を約束した恋する女性の存在が大きくなってきた。
彼女は6人の女友達と能登半島を回っている。
地下食料品売り場を物色する。
そして京都では別の名で呼ばれる柏餅を売る店の前で足が止まった。
オレの注文に小気味よく応えてくれた店の女性はとても美しく、笑顔は素敵だった。
そして土地の言葉を聞かせてくれたんだ。
「おおきに」。
この街を気に入ったよ。
13:12 大津駅
去年、友や家族と連絡をとった場所。
あの時、近江大橋から大津市内に至る道はずっと渋滞していた。
擦り切れそうなオレの目に見えていたのは、果てしない夜の湖と湖畔に広がる夜景だった。
友と家族に電話を入れなければならないと思っていたけど、道に迷ってしまったんだ。
頼りにしていた広域道路地図は何の役にも立たない。
焦り、目をぎらつかせながら大津駅に至る表示を探した。
でも迷った街が大津でよかった。
街は清潔で、通りには恋人を連れていきたくなるような店がいくつか好まし気な灯をつけていた。
次第に坂を上がり、やがて丘の上にボーっと浮かぶように存在している大津駅を見つけた。
車から降りて電話ボックスまで走り、必要な連絡を済ませた。
そこにいたのはわずか数分だったが、あの旅でクライマックスを探すとしたら候補に挙げたくなる光景だった。
オレはここに戻ってきた。
「子供の日」の今日、この湖畔の首都はとても静かだ。
前回、この街に気品を感じた。
今回はこの街に故郷に似た感覚を持った。
駅の駐車場に車を入れて、駅の中を歩いてみた。
そしてここに集まる人の数が少ない理由が何となく分かったような気がした。
20分で駐車場を出た。
管理係のオッサンが「アイツは何をしに来たんだ?」という顔で、去っていくオレを目で追っていた。
オレは旅人。
用なんかない。
でもいつか恋人を連れて旅行者として訪れるだろう。
友よ、ここは素晴らしいところだ。
君がその気になれば、君の住む町から2時間で到着できるんだ。
早急に奥さんをここに連れてくるべきだ。
かといって今回のオレも、残念ながらここでのんびりするわけにはいかない。
ここに寄る理由はなかった。
だけど立ち寄った。
わかるだろう。
この街が好きなんだ。
13:48 瀬田駅
感じていた印象とは少し違うな。
ここにはロマンを求めていたんだ。
だけどこの際どうでもいい。
今ここにいる事実を大切にしたいと思うよ。
さっき神輿が通った。
ここじゃ今日は祭なんだ。
1号国道の騒音を抜きにすれば静かでいいところだよ。
できれば彼女のために瀬田の橋に関係のある土産を用意したかったんだ。
そいつが二人をつなげる橋になってくれないかと思って。
でも駅に土産物屋などなく、いつも路上で見かけるような連中や高校生たちが町の風景を作っていた。
瀬田とは、かつて京都への入口であり、大坂の陣の冒頭で真田幸村は、籠城ではなく大坂城を出て、まず瀬田の橋を落として東海道を進軍してくる東軍を防ぐことを進言した。
瀬田とはオレにとってそんな場所で、東と西をつなぐ交差点だった。
だからそこに浮世離れした風景があるのかと思っていた。
でもそれは幻。
琵琶湖に出るには、この1号国道をどこで曲がれば最適なのか思案を始めた。
14:29 湖岸道路-守山
左に曲がれば1号国道とお別れ。
琵琶湖へ通じる道を走り始め、やがてシャウトする。
琵琶湖は平らに霞み、対岸に比叡の山並が悠然と広がっているんだ。
きっと何度見てもこの風景に感動するだろう。
その道が湖岸道路で尽きることは分かっている。
でもその頃から、この道の行く手は果てしないと思うようになっていた。
この先に何が待ち受けるのか分からず怯えることの多いオレだけど、ここでは違う。
どの道を選んでもいい。
好きなようにしていいんだ。
路上の生活に戻りたがる理由はそこにある。
先日ある友人と話した。
奇しくも彼は琵琶湖近くで暮らす女性との関係を終えていた。
彼はスキー場でその女性と知り合い、都合がつけば東名から名神へとこの地に降り立ち、彼女を訪ねては楽しく時を過ごしていた。
しかし彼女は遠距離恋愛に不安を感じていた。
彼より以前に現れた男もまた埼玉で暮らしていたという。
彼にしてみれば距離なんか関係ない。
会いたくなればすぐに大井松田ICに向かう熱い男だ。
結局彼女は、甘い関西弁で彼との関係を断った。
オレは湖岸道路を走りながら彼女への土産を購入する店を探した。
16:03 湖岸道路-彦根
湖は荒れて、オレは少し疲れた。
ここまでは去年来た道を忠実にたどっている。
あの頃と風景に変化はなく、またここで救われた。
湖が荒れている。
予想もしなかった場所で車は水を浴びている。
たたずむ人はまばらで、オレの気持ちも休まった。
去年休息したビーチは、今日は波の中に消えている。
確かこのあたりだったよ。
恋する女よ、君への土産を見つけたよ。
何を贈れば君が喜ぶのか。
オレには生まれつきそうしたものを選ぶセンスが欠けている。
だからオレと同じように旅の途中と思われる可愛らしい女性が選んだものと同じにしたよ。
彼女はきっと友人に渡すんだろうな。
「琵琶湖」と書かれた唐傘にカワイイ男の子と女の子がぶら下がっている小さな置物。
君も気に入ってくれるとうれしい。
さあ、ここからは北陸路だ。
君がいる場所に向かうんだ。
16:47 湖岸道路-彦根
何気ない食堂でうな丼を食べた。
食堂は波しぶきを浴びながら夜の客を待っていた。
最初にオレを出迎えたのはとても大きな老犬。
オレに一瞥をくれると檻に戻っていった。
とても寂びしそうな目をしていたよ。
店は控え目なご主人と恥ずかしがり屋の娘さんと、「おおきに、寒いね」と言ってくれたオバチャンとで運営されている。
オレは飯を腹に詰め込みながらこれから行くルートを考えていた。
今、長浜に向かうルートは混んでいる。
大阪から北へ向かう街道はオレの予定を聞いてくれない。
彼女との約束の時間まで、あと4時間に迫った。
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