「鉄旅日記」2005年秋【軽井沢で挙式する身内を祝うために、初めて鉄道で旅をいたしました。ここから鉄旅が始まったのでございます。】初日(東京-名古屋)-根府川、島田、豊橋、岡崎、名古屋(東海道本線)
鉄旅日記2005年11月5日・・・根府川駅、島田駅、豊橋駅、岡崎駅、名古屋駅(東海道本線)
2005・11・5 紀州鉄道名古屋栄ホテル908号室
根府川、熱海、沼津、静岡、島田、浜松、豊橋、岡崎そして名古屋。
金町を出てから9時間。
東海道本線各駅停車の旅で、思っていたより中部国際都市は近かった。
根府川で西湘の海を見下ろした。
駅員のいない崖上の駅は関東の駅100選に数えられているという。
寂れた海辺の風景の中にひっそりと存在しているものと思っていたが、駅前を135号国道が走っている。
熱海では伊豆行の客に揉まれた。
美味そうな駅弁が売られていた。
もう10年以上前のことになるが、始発電車が動く前の早朝の風景を知っている。
棕櫚が、冬枯れから南の街の風景を守っていた。
今日はあの日とは逆で、改札口から外の景色をチラと見たに過ぎない。
たぶん当時と変わっていない。
沼津は大鉄道基地を抱えている。
時代と共に錆びたホームのたたずまいには風情がある。
そのホームで販売されている「駅そば」がことのほか美味くて汁まで飲み干した。
改札を出て街に出れば、都会があることを知っている。
でも改札の中は明治の時代に生まれた歴史が保存されていた。
雨や風、爆撃もあっただろう。
やむを得ぬ事情に晒されたまま我慢強くあの場所で生きてきた古寂な沼津駅には、神社仏閣のような清閑さがあった。
2018年9月15日撮影
吉原、富士で乗り換えホームに目をやり、あのあたりに立ち寄った時代がほんの少しだけ脳裏を掠める。
由比海岸には東名自動車道での記憶がある。
いつも由比PAに立ち寄っては眺めてきた。
そしていつも東海道本線の線路も眺めていた。
その線路に、いついかなる時も未来へと通じる線路に乗って名古屋へと向かっていることに感動していた。
清水から寄り添っては離れていく静岡鉄道には目を奪われた。
静岡はたんに乗り継ぎで降りたに過ぎない。
駅前にツインタワーが聳え立つ風景は都会だったけど、安倍川渡河と共に都会は消えた。
ここまでで4時間。
各駅停車に乗っても静岡なら4時間もあれば着くのだと、心の中で誰かに説明する。
そして新幹線に乗っていたのでは見られない風景を堪能したことに満足していた。
焼津、藤枝にはちょっとした思い出がある。
島田では心地いい風に吹かれた。
馴染みのない地方駅で降りて、適当な居場所が見つからず、すぐにホームに戻ってしまった。
街に下りたら、いつもテレビ塔を探すが、駅からは発見できなかった。
ホームでは美味しいコーヒーを飲んだ。
そして煙草を2本。
東京を離れると、街には普段どんな風が吹いているのかよく分かる。
空は概して広い。
2019年3月23日撮影
大井川を渡ると金谷駅。
段々畑のように茶畑が広がっている。
車窓から眺める掛川は大きな街だった。
掛川城の存在に気づいたのも今回が初めてになる。
磐田にもちょっとした記憶がある。
浜松駅は10年振りだ。
当時想いを寄せていた女性と寄ったものだ。
駅は賑わい、街は大きい。
弁天島駅の広いホームも記憶に残っている。
豊橋では歩いた。
新幹線の車窓から何度も眺めてきた巨大な豊橋駅。
街に出ると路面電車が行き交い、三河の雄都を感じさせる。
豊川まで歩こうと思ったが、とても歩けず、様子のいい商店街を記憶して岐阜行快速列車に乗る。
2018年9月15日撮影
左手に工場群と三河湾が見えてくる。
三河人、尾張人の中に紛れ込んだことをその時に実感する。
岡崎駅は街はずれに位置していたのだろう。
改札を出てもこれといった景色も店もなく、跨線橋で高校生の集団が踊りの練習をしていた。
岡崎中心街に行くには環状鉄道に乗らなきゃならない。
2018年9月15日撮影
名古屋へと近づいていくが、なかなか都会の顔を見せなかった。
やがて夕日が沈んだ。
三河安城、旧友が暮らす刈谷。
車窓から眺める風景に都会の明かりはない。
そして大府に着く。
降りてみようと思っていた駅だが、夕暮れの大府にもオレを誘う明かりは見えない。
やがて金山。
いよいよ都会が始まったかと思う。
巨大な輝きはショッピング・センターただひとつが放つもので、当然のように金山駅周辺で完結していたけど、そこから名古屋の巨大な明かりが見えた。
見上げた名古屋駅は高島屋、JRセントラルタワーズを従え、ひたすらに巨大だった。
駅構内は大雑踏で、当初は閑散としていた地下食品街も時が経つにつれて客足が盛んに聞こえてくる。
2018年9月16日撮影
遠来の客が集う名古屋駅に、京都駅のようなビヤ・レストランはなく、食の街の意地からか、名物料理をしっかりと出す店ばかりが並んでいる。
どこも重い料理を用意している。
不満は持たなかったが、もう少し明るい場所で名古屋を感じたかった。
太閤口の風景は京都駅八条口に似ていた。
繁華街を別の街区にとられた都会の風景。
栄に行かなきゃならない。
案内板に目をやり、この街の大筋を掴んだ。
繁華街は駅周辺にはない。
京都がそうであり、最近じゃ博多、札幌、新潟がそうだった。
桜通を東へ。
国際センター、大手町、そして栄。
高名なテレビ塔がとうとう姿を現し、子供の頃に兄からその存在を聞いて驚いた100メートル道路に立つ。
残るは名古屋城。
朝になればどこにあるのか分かるだろう。
土曜の夜の桜通は疎らで路地に人影が見られない。
栄までその光景が続いた。
角の観覧車だけは乗客を絶やしていなかった。
でもオレは東京都心の土日の風景を知らない。
案外そういうものなのかもしれない。
工事中だったが、テレビ塔の明かりは素晴らしかった。
かつて得意先で世話になり名古屋に嫁がれたMさんはどこで暮らしているのだろう。
名古屋との縁など持たないと思っていたが、こうしてつらつらと思えば、ひとつやふたつあるものだ。
明日離れるまで、時に彼女の面影は浮かぶのかもしれない。
明日、名古屋駅までは今夜のように歩いていく。
久屋大通の角に立てば駅の頭上に聳えるセントラルタワーズの丸い塔が見えるだろう。
東京ナンバー車を運転して尾張に入ると、必ずといっていいほど腹立たしい目に遭ってきて、実はこれまで避けていた街だった。
そんな名古屋との縁を深めていくのは明日を生きるオレ。
少なくとも今日を含めた過去のオレじゃない。
期待しよう。
そのために、こうして名古屋のベッドに座っている。
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