「鉄旅日記」2022年新春 2日目(湯瀬温泉-三沢)その1 ‐湯瀬温泉、鹿角花輪、十和田南(花輪線)/和心の宿姫の湯 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】
鉄旅日記2022年1月9日・・・湯瀬温泉駅、鹿角花輪駅、十和田南駅(花輪線)/和心の宿姫の湯
2022・1・9 5:58 和心の宿姫の湯
線路を越えた先にささやかな温泉街がある。


灯りはほぼ消えていた。



到着時間はホテルにとって好ましいものではなかったようで、少し迷惑をかけてしまった。ともあれ宿で食事を摂ることのないオレには新鮮ともいえる品々で、朝食への期待もふくらんだ。


だんぶり(トンボ)長者伝説が残る里での湯治。あえて湯治と表現しよう。おかげで癒えた。
約1500年ほど前のことになるのだろう。暮らしは貧しいが働き者の夫婦がいた。暑さと疲労のために農作業中に眠ってしまった二人の口にトンボが触れ、夢のお告げにより何事かの予感に包まれてトンボの後を追うと泉にたどりつく。泉をすくって口にすると甘美な味わいの霊酒で、これを口にする者はどんな病も癒え、二人は長者となり、さらに娘は継体天皇の后となったという話。
長者の死後、霊酒はただの水に変わったという。
ここで酒もよく飲んだ。眠りの質はそれほどでもないが、湯は適温で素晴らしかった。朝起きて入り、朝食前にも。朝酒がまた美味い。朝食後にも温まろう。
川の瀬から湯が湧きだしていたことからその名がついた湯瀬。アルバイト先で湯瀬姓の同級生と出会っている。その女性をふと思い出した。30年前の彼女の夢が叶ったのであれば看護婦になっている。
鹿角の冬。窓から見える景色は白く凍りついている。空の色もまた同じ。見ようによっては空もまた銀世界。なるほど銀を表現するのに多くのケースでグレーで代用する。
急ぐような旅をこれまでしてきたけど、こうして温泉地で落ち着いた時間を持つのも得がたい。最愛の存在にもこんな時間を経験させてあげたい。そのためにこれからどうしていくか。
湯瀬温泉という小さな温泉街で過ごした朝が示してくれたものに感謝。心地よい眠気がやってくる。
8:38 湯瀬温泉(ゆぜおんせん)駅(花輪線 秋田県)
銀世界に染まった身。すれ違いの杖をついた老婦人に挨拶をすると、笑みを浮かべながら聞き取れない方言で応えてくる。




ホテルから駅へは約3分。昨夜たどった温泉街に下りて米代川を写し、再び駅への道。


昭和の看板をつけた町角にもまたスマホを向ける。

3度の温泉で温まった体は保温性に優れ、吹雪いた村の空気を清々しく感じさせる。
雪は昨夜からさらに降り積もっていた。


9:05 鹿角花輪(かづのはなわ)駅(花輪線 秋田県)
10年以上振りに降りる。街は縄文遺跡群の世界遺産登録を掲げ、駅前には活気が見られた。


特別豪雪地帯の鹿角市。古くは上津野といったらしい。全国各地にプロレス興行が行っていた昭和50年代頃に、この街の名を初めて目にしている。かつて宿泊した宿も健在で、酒はないかと通りを行けば、最初の角に朝早くから営業している。
象潟、大曲、秋田、鹿角花輪、羽後本荘、横手、大館、湯沢、鷹ノ巣、米内沢そして湯瀬温泉。これまでの旅で泊ってきた秋田県内の町は11を数えるようになった。よほどの縁があるのだろう。秋田県出身の知人で思い浮かぶ者はいないが。
最多は北海道の12の町、秋田に次ぐ3位にあたるのが山口県、岩手県の9の町になる。遠くを目指した痕跡がそんなところにも残っている。
ここでは9分の停車時間。1923年の開業当時は陸中花輪駅で、4年前に「駅そば」を閉めたとのこと。様々あるのは人生も同じ。またひとつ、記憶に残る街との得がたい再会を祝した。


昨日も記したが、これから通る土深井の旧駅名は尾去沢。銅山跡には38年前の修学旅行で寄っている。
「つまらなかった」と感想文に記して高橋先生から苦言を呈せられたが、思わぬ再会となった。
9:19 十和田南(とわだみなみ)駅(花輪線 秋田県)
スイッチバック構造の駅で、方向転換のため停車5分。こうして降りるのは3度目になる。
銀世界の駅前はかつての記憶を曖昧にする。だからといって何かを思い出したかったわけじゃない。

雪に駅名標さえ埋まった十和田南駅は、冬に映える駅だった。
20年ほど前までは十和田湖観光の玄関口として賑わい、売店も「駅そば」もあり、駅弁も売られ、駅前から何本もの路線バスが十和田湖方面へ発着していたそうだが、今じゃそのすべてがない。



発車するとこれまでにたどってきた線路が左手に離れていく。
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