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「鉄旅日記」2006年如月【鉄道旅に目覚め、1泊2日で房総半島にまいりました。】最終日-安房勝山、君津、木更津、上総亀山、蘇我(内房線/久留里線/京葉線)

公開日: : 最終更新日:2023/04/27 旅話, 旅話 2006年

鉄旅日記2006年2月5日
寒い朝だった。
海上は穏やかで、対岸の横須賀の街は白く、工場の煙突が3基はっきりと見える。
霊峰富士も白い姿を見せている。

海辺へ。
伊豆で旗揚げした源頼朝が石橋山合戦で破れ、海上を漂い、勢力を募るために上陸した地が、勝山だった。
それは館山だったのではないかとの説もあったが、勝山に落ち着いたという。

そこは海水浴場で、夏を待つ店が並んでいた。
中でも洒落た店があって、早くから営業していて、紳士がコーヒーを飲んでいた。

川の手前で左折して駅への道。
畑の主はすでに今年の仕事にとりかかり、幼稚園をはじめ、風景は長閑だ。

赤い屋根を乗せた安房勝山駅はとても小さい。
駅前ショップはすでに開いていて、10:24に発車する上り列車に合わせて人々が集まってきた。

2013年3月9日撮影

昨夜ライトアップされていたのは、城を模した展望台とのこと。
気さくな駅員さんが教えてくれた。
「何もないところです」と彼は言うが、オレには十分だ。

部屋からも勝山海岸からもよく見えた富士山は、跨線橋からも美しい。
あたりは適当に鄙びていて、思えばこれまでこんな駅で列車を待ったことはなかった。
映画「男はつらいよ」の冒頭、夢から覚めた車寅次郎は人気のない駅でいつもこうして待っていた。

千葉行に乗って読書の続き。
登場人物の侍のその後が気にかかっていた。
彼は自身の悪い噂を流した男を斬り、屋敷に立てこもり、上意によって差し向けられた男達を迎え撃つ。
そして十数本の白刃の下で果てた。
「男の意地」というものを教えられた朝でもあった。

保田、浜金谷、竹岡。
列車は内房の海に沿って進んでいく。
かつての社員旅行で鋸山から下りてきた場所も特定できた。

勝山で眺めていた景色が近づいてくる。
線路が海を見ているあたりまでは、千葉県というより安房国を感じていた。

君津はだだっ広く、人の姿が希薄な街だった。
長い跨線橋が、君津駅が過去から現在に至るまで果たしてきている役割を静かに語っている。

2018年9月23日撮影

駅前で幅を利かせているのは和民、魚民、白木屋。
佐倉でもそうだった。
その光景を眺めると物悲しくなる。
古くからの勢力は姿を消してしまったのだろうか。

君津からが東京圏と思っていたが、次の木更津までの区間には、見たこともないほど大量の洗濯物が干された風景ほか、車窓の多くは牧歌的だった。

木更津は思っていたような街だった。
街はそれなりに賑やかで、史跡もある。
通りには街にちなんだ歌舞伎の文句が石に彫り付けてある。

駅舎もまた重厚だ。
臨海地帯では工場から煙が上がる。
視界からすでに海は消えていた。
暖かかった景色も形を変えてしまった。

2013年2月17日撮影

久留里線発車まで約30分。
2両編成のディーゼル列車はすでに入線している。

お年寄りばかりを乗せて、やがて田園地帯を進む。
そこは千葉の大いなる古里。
これまでに通ってきた道程にあんな風景や、こんな簡素な駅はなかった。

道中に町はなく1時間が経ち、幽谷の地へ。
終着駅の上総亀山。
駅前に食堂を見なかった。

確たる表示もなく、当てずっぽうに歩いてトンネルをくぐる。
開けた先に広がっていたのは深い山里。
道を誤り、蛭に注意しろとの表示にはほんの少しだけ怯えた。
今日あの道を歩いたのは、おそらくオレだけのように思う。

さらに当てずっぽうに歩くと、今度こそ表示を見つけて亀山ダムへ。
美味いものを出してくれそうな店もあったけど、時間には限りがある。
ダム湖に架かる橋を2度渡り駅に戻った。

途中、線路の果てを通った時に、オレが本当に見たかったものはこれだったのかと悟り、しばらく立ち尽くす。
駅前の自販機には、今じゃ東京では売られていない懐かしいデザインの「BOSS」が並んでいる。
購入して飲んだら懐かしい甘さが喉を通った。

煙草を立て続けに2本。
寒かったけど、内房に吹いていた強い風は、あの山里までは届かないようだ。

上総亀山駅はチープに見える建材で成っている。
何度か建て替わっているのだろうが、あの建材が使用されたのは、台風の通り道とも言える房総を襲う風も、ここまでは到達しないことが考慮されているのだろう。

2013年2月17日撮影

帰りは1時間7分。
途中の久留里駅では、降りてみたいと思わせる町並が見えた。

読んでいたのは安房鴨川駅前で購入した鷺沢萠さんの著作。
つい最近、自ら命を終えた薄命の女流作家。
重々しい内容の松本清張に比べると頁の進みが早い。
木更津に戻ると何だか懐かしく感じた。

蘇我まで。
関東平野はここでも実感できる。
海辺だが、そこは確かに関東平野。
だだっ広い平地が続いていた。

車のナンバープレートとして登場する袖ケ浦は気になっていたが、車窓から眺めた駅前はオレを誘わず、降りなかった。
姉ヶ崎では過去と遭遇。

蘇我に降りて、海の方に目を向けると川崎製鉄の巨大工場が視界から海を遮り、空に向けて2筋の煙を吐き出している。
駅周辺を一回りして、跨線橋からは内房と外房に分かれていく線路を眺め、子供の頃から気になっていた黄色い電車の終着駅をようやく知った。

2018年9月22日撮影

京葉線に乗る。
千葉みなとは、かつて何度もデートで訪れた千葉ポートタワーの最寄り駅にあたる。
あの細く空に伸びるタワー。
強風に見舞われると、わざわざ東京からやってきたオレたちを受け入れない。
何度かそんな目に遭った。

鷺沢萠さんの作品に涙が出そうになったのは、その頃のことだった。
高架から眺める車窓風景は、広大な空地か、無造作とも思える雑居ビルや住宅群。
どこか荒野を思わせる。
そのあたりでこの旅は終わったのだろう。

南船橋で武蔵野線に乗り換えて新松戸まで。

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