*

「鉄旅日記」2006年如月【鉄道旅に目覚め、1泊2日で房総半島にまいりました。】最終日-安房勝山、君津、木更津、上総亀山、蘇我(内房線/久留里線/京葉線)

公開日: : 最終更新日:2024/05/16 旅話, 旅話 2006年

鉄旅日記2006年2月5日・・・安房勝山駅、君津駅、木更津駅、上総亀山駅、蘇我駅(内房線/久留里線/京葉線)

寒い朝だった。
海上は穏やかで、対岸の横須賀の街は白く、工場の煙突が3基はっきりと見える。
霊峰富士も白い姿を見せている。

海辺へ。
伊豆で旗揚げした源頼朝が石橋山合戦で破れ、海上を漂い、勢力を募るために上陸した地が、勝山だった。
それは館山だったのではないかとの説もあったが、勝山に落ち着いたという。

そこは海水浴場で、夏を待つ店が並んでいた。
中でも洒落た店があって、早くから営業していて、紳士がコーヒーを飲んでいた。

川の手前で左折して駅への道。
畑の主はすでに今年の仕事にとりかかり、幼稚園をはじめ、風景は長閑だ。

赤い屋根を乗せた安房勝山駅はとても小さい。
駅前ショップはすでに開いていて、10:24に発車する上り列車に合わせて人々が集まってきた。

2013年3月9日撮影

昨夜ライトアップされていたのは、城を模した展望台とのこと。
気さくな駅員さんが教えてくれた。
「何もないところです」と彼は言うが、オレには十分だ。

部屋からも勝山海岸からもよく見えた富士山は、跨線橋からも美しい。
あたりは適当に鄙びていて、思えばこれまでこんな駅で列車を待ったことはなかった。
映画「男はつらいよ」の冒頭、夢から覚めた車寅次郎は人気のない駅でいつもこうして待っていた。

千葉行に乗って読書の続き。
登場人物の侍のその後が気にかかっていた。
彼は自身の悪い噂を流した男を斬り、屋敷に立てこもり、上意によって差し向けられた男達を迎え撃つ。
そして十数本の白刃の下で果てた。
「男の意地」というものを教えられた朝でもあった。

保田、浜金谷、竹岡。
列車は内房の海に沿って進んでいく。
かつての社員旅行で鋸山から下りてきた場所も特定できた。

勝山で眺めていた景色が近づいてくる。
線路が海を見ているあたりまでは、千葉県というより安房国を感じていた。

君津はだだっ広く、人の姿が希薄な街だった。
長い跨線橋が、君津駅が過去から現在に至るまで果たしてきている役割を静かに語っている。

2018年9月23日撮影

駅前で幅を利かせているのは和民、魚民、白木屋。
佐倉でもそうだった。
その光景を眺めると物悲しくなる。
古くからの勢力は姿を消してしまったのだろうか。

君津からが東京圏と思っていたが、次の木更津までの区間には、見たこともないほど大量の洗濯物が干された風景ほか、車窓の多くは牧歌的だった。

木更津は思っていたような街だった。
街はそれなりに賑やかで、史跡もある。
通りには街にちなんだ歌舞伎の文句が石に彫り付けてある。

駅舎もまた重厚だ。
臨海地帯では工場から煙が上がる。
視界からすでに海は消えていた。
暖かかった景色も形を変えてしまった。

2013年2月17日撮影

久留里線発車まで約30分。
2両編成のディーゼル列車はすでに入線している。

お年寄りばかりを乗せて、やがて田園地帯を進む。
そこは千葉の大いなる古里。
これまでに通ってきた道程にあんな風景や、こんな簡素な駅はなかった。

道中に町はなく1時間が経ち、幽谷の地へ。
終着駅の上総亀山。
駅前に食堂を見なかった。

確たる表示もなく、当てずっぽうに歩いてトンネルをくぐる。
開けた先に広がっていたのは深い山里。
道を誤り、蛭に注意しろとの表示にはほんの少しだけ怯えた。
今日あの道を歩いたのは、おそらくオレだけのように思う。

さらに当てずっぽうに歩くと、今度こそ表示を見つけて亀山ダムへ。
美味いものを出してくれそうな店もあったけど、時間には限りがある。
ダム湖に架かる橋を2度渡り駅に戻った。

途中、線路の果てを通った時に、オレが本当に見たかったものはこれだったのかと悟り、しばらく立ち尽くす。
駅前の自販機には、今じゃ東京では売られていない懐かしいデザインの「BOSS」が並んでいる。
購入して飲んだら懐かしい甘さが喉を通った。

煙草を立て続けに2本。
寒かったけど、内房に吹いていた強い風は、あの山里までは届かないようだ。

上総亀山駅はチープに見える建材で成っている。
何度か建て替わっているのだろうが、あの建材が使用されたのは、台風の通り道とも言える房総を襲う風も、ここまでは到達しないことが考慮されているのだろう。

2013年2月17日撮影

帰りは1時間7分。
途中の久留里駅では、降りてみたいと思わせる町並が見えた。

読んでいたのは安房鴨川駅前で購入した鷺沢萠さんの著作。
つい最近、自ら命を終えた薄命の女流作家。
重々しい内容の松本清張に比べると頁の進みが早い。
木更津に戻ると何だか懐かしく感じた。

蘇我まで。
関東平野はここでも実感できる。
海辺だが、そこは確かに関東平野。
だだっ広い平地が続いていた。

車のナンバープレートとして登場する袖ケ浦は気になっていたが、車窓から眺めた駅前はオレを誘わず、降りなかった。
姉ヶ崎では過去と遭遇。

蘇我に降りて、海の方に目を向けると川崎製鉄の巨大工場が視界から海を遮り、空に向けて2筋の煙を吐き出している。
駅周辺を一回りして、跨線橋からは内房と外房に分かれていく線路を眺め、子供の頃から気になっていた黄色い電車の終着駅をようやく知った。

2018年9月22日撮影

京葉線に乗る。
千葉みなとは、かつて何度もデートで訪れた千葉ポートタワーの最寄り駅にあたる。
あの細く空に伸びるタワー。
強風に見舞われると、わざわざ東京からやってきたオレたちを受け入れない。
何度かそんな目に遭った。

鷺沢萠さんの作品に涙が出そうになったのは、その頃のことだった。
高架から眺める車窓風景は、広大な空地か、無造作とも思える雑居ビルや住宅群。
どこか荒野を思わせる。
そのあたりでこの旅は終わったのだろう。

南船橋で武蔵野線に乗り換えて新松戸まで。

関連記事

「鉄旅日記」2017年夏【私鉄王国で過ごす夏】2日目(大垣-姫路)その2-新今宮、天下茶屋、堺東、三国ヶ丘、上野芝、百舌鳥、百舌鳥八幡、金剛、千早口、高野山、極楽橋、新今宮、大阪、姫路(南海本線/南海高野線/阪和線/高野山ケーブル/大阪環状線/山陽本線)

鉄旅日記2017年8月12日・・・新今宮駅、天下茶屋駅、堺東駅、三国ヶ丘駅、上野芝駅、百舌鳥駅、百舌

記事を読む

「鉄旅日記」2012年春【青春18きっぷで、相模・駿河・甲斐途中下車旅】その1-新子安、石川町、山手、磯子、根岸、大磯、二宮、鴨宮、早川、根府川、伊東、熱海、函南、東田子の浦(京浜東北線、根岸線、東海道本線、伊東線)

鉄旅日記2012年3月20日その1・・・新子安駅、石川町駅、山手駅、磯子駅、根岸駅、大磯駅、二宮駅、

記事を読む

「車旅日記」2004年春【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】4日目(旭川-稚内)走行距離428㎞その3-稚内サンホテル

車旅日記2004年5月4日・・・稚内サンホテルにて 21:39 稚内サンホテル325号 素敵な部屋

記事を読む

「鉄旅日記」2013年夏【青春18きっぷで、鹿児島県志布志へ】2日目(徳山-南宮崎)その1-徳山、長府、西小倉、城野、行橋、新田原、中津、中山香、高城、佐志生、熊崎、上臼杵、臼杵(山陽本線、日豊本線)

鉄旅日記2013年8月11日その1・・・徳山駅、長府駅、西小倉駅、城野駅、行橋駅、新田原駅、中津駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2018年弥生【秩父へ。西武線とのお別れでございます。】-練馬区役所、芦ヶ久保、西武秩父、御花畑、秩父、入間市(西武秩父線/秩父鉄道/西武池袋線)

鉄旅日記2018年3月24日・・・芦ヶ久保駅、西武秩父駅、御花畑駅、秩父駅、入間市駅(西武秩父線/秩

記事を読む

「鉄旅日記」2003年冬【ご縁と別れがあり、34歳の誕生日を北九州で迎えた日の記憶でございます。】初日(宇部-飯塚-博多)その1-山口宇部空港、宇部新川、宇部、下関、小倉、折尾、飯塚、博多(宇部線/山陽本線/鹿児島本線/筑豊本線/篠栗線)

鉄旅日記2003年2月15日・・・山口宇部空港、宇部新川駅、宇部駅、下関駅、小倉駅、折尾駅、飯塚駅、

記事を読む

「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】初日(東京-大阪茨木 R246→R1→名神高速)その2-掛川、磐田駅、浜松、音羽町、岡崎、知立、名古屋渋滞、佐屋町、弥冨町

車旅日記1996年5月3日 6:25 1号国道‐掛川 あれから1時間か。 始まるよ、これか

記事を読む

「車旅日記」1998年春【下北半島を目指した春。男の旅は北を目指すものと思っていた20代後半。高倉健さんの影響でございましょうか。】2日目(岩手山SA-大間崎-青森駅)-岩手山SA、折爪PA、三沢市ドライブイン三陸、東通村レストラン潮騒、田名部駅、大間崎公営パーキング、大湊駅、陸奥横浜駅、青森駅

車旅日記1998年5月2日 1998・5・2 7:43 東北自動車道-岩手山SA 昨夜の強風が続

記事を読む

「鉄旅日記」2020年卯月【緊急事態宣言発令直前のことでございます。常磐線全線運転再開を祝して人知れず旅に出たのでございます。】初日(東京-新津)その5‐小国、坂町、新津(米坂線/羽越本線)

鉄旅日記2020年4月4日・・・小国駅、坂町駅、新津駅(米坂線/羽越本線) 17:50 小国(おぐ

記事を読む

「鉄旅日記」2012年春【青春18きっぷで、鶴見線・伊豆・駿河途中下車旅】その2-新清水、静岡、草薙、興津、裾野、御殿場、駿河小山、国府津、逗子、横須賀、田浦、新川崎(東海道本線、静岡鉄道、御殿場線、横須賀線)

鉄旅日記2012年4月8日その2・・・新清水駅、静岡駅、草薙駅、興津駅、裾野駅、御殿場駅、駿河小山駅

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2021年春【大人の休日倶楽部パスで東北へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。続くコロナ禍ではございますが、約半年の辛抱の時を過ぎて、天候にも苛まれながら秋田内陸縦貫鉄道に乗りに行きました。】初日(東京-米内沢)その1‐金町、上野、古川、陸前谷地(常磐線/東北新幹線/陸羽東線)

鉄旅日記2021年4月17日・・・金町駅、上野駅、古川駅、陸前谷地駅

2020年神無月~2021年弥生【SNSへの投稿より】写真をお楽しみいただけますと幸いでございます。ーハロウィン、柴又帝釈天、金町夕景、今年も暮れゆく東京、金町睦月如月、菜の花の頃

2020年11月1日 ハロウィンとは縁を持たない人生でございま

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】最終日(武生-東京)その3‐西金沢、新西金沢、野町、鶴来、金沢、上野(北陸鉄道石川線/北陸新幹線)

鉄旅日記2020年11月23日・・・西金沢駅、新西金沢駅、野町駅、鶴

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】最終日(武生-東京)その2‐敦賀、北鉄金沢、内灘、金沢、野々市(北陸本線/北陸鉄道浅野川線)

鉄旅日記2020年11月23日・・・敦賀駅、北鉄金沢駅、内灘駅、金沢

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】最終日(武生-東京)その1‐越前武生、武生、三方、美浜(北陸本線/小浜線)

鉄旅日記2020年11月23日・・・越前武生駅、武生駅、三方駅、美浜

→もっと見る

    PAGE TOP ↑