「鉄旅日記」2016年春【下北半島から東日本大震災被災地へ】初日(東京-下北)その2-村崎野、六原、盛岡、八戸、野辺地、下北(東北本線、いわて銀河鉄道線、大湊線)
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最終更新日:2020/09/05
旅話 2016年
鉄旅日記2016年3月19日その2
16:41 村崎野(むらさきの)駅(東北本線/岩手県)
一ノ関で乗り継ぎ、さらに北へ。
この懐かしさの正体が分かった。
どんな経緯を辿ったかは物語によるが、この町のどこかに「健さん」がいるような気がする。
だだっ広くて何もなく、空だけが広い。
北海道に似た風景を持つここはかつての蝦夷だ。
同じ文化圏になる。
こんな場所にいて寂しさを感じる者もいるだろうが、オレはそうじゃない。
もしも暮らすようなことにでもなれば、「健さん」のように生きることを目指すさ。
シネマ的アメリカ世界はここでも感じることができる。
オレの想像上のアメリカとはマンハッタンや西海岸などではなく、こんな片田舎の風景が広がる場所だったなのだとあらためて気づく。
今年の大統領選挙でトランプ氏は結局負けるんだろ?
彼に面白さを感じているような連中が世界の中心に席を置いたら、かつてはヒスパニック・ヒーローも誕生させたアメリカ最大のプロレス団体WWEは、これからどんなストーリーを世界に発信していくのだろう。
ロングシートの混雑した車内で、酒を飲みながら二人分の席を占めた人相の良くない南部人がいた。
オレは本に目を落としていたから何があったのか知らないが、その男に対して真向かいの旅行中の若者が非難の目を向けたのだろう。
男は食ってかかり大人の恥を臆面もなく見せつける。
若者の対応はなかなか立派だった。
男は降り際に空き缶を投げつけ、降りてからも窓に顔をつけ睨みを効かせていた。
最近思うが、大人が病んでいる。
どうしようもなく病んでいる。
東京じゃ毎日のように人身事故で列車が止まる。
雄大な北上川に感嘆したあとだったから失望は大きかった。
村崎野駅前風景
17:06 六原(ろくはら)駅(東北本線/岩手県)
上り列車に乗って2駅戻る。
がっしりとした雪国駅舎ではストーブが焚かれている。
駅前の集合住宅は米軍キャンプのようでもあり病院にようにも見える。
活気のない生活風景だ。
商店は廃墟になって久しく、駅を降りると懐かしいとも言える鼻につく便所の臭いを嗅いだ。
果てしのない空が地と交わるあたりにカメラを向けた。
盛岡(もりおか)駅(東北新幹線/東北本線/田沢湖線/山田線/IGRいわて銀河鉄道 岩手県)にて
IGRいわて銀河鉄道に乗り継ぐ。
20:22 八戸(はちのへ)駅(東北新幹線/八戸線/青い森鉄道 青森県)
車寅次郎が降り立った頃の旅情が残っているはずもないが、新幹線開業が八戸駅にもたらした作用はオレの気に入るものじゃなかった。
駅として生まれ変わった清潔さは、まるで街が辿ってきた歴史を消す役割を負わされたかのようだ。
駅を出て夜の街を望んだら違和感の理由が分かった。
広大な闇の中に飲み屋やスナックの灯がぽつりぽつりと浮かんでいる。
酒場から演歌が聞こてきそうな街の玄関風景。
でもあれが港町八戸の本来の風景なんだよ。
駅はそんな街に溶けこむことはなく、滑稽なまでに孤高の姿を晒している。
そして愛すべき八戸出身の友人Sさんには申し訳ない表現になるが、すれ違った八戸人の運転態度はどれも好きになれなかった。
21:16 野辺地(のへじ)駅(大湊線/青い森鉄道 青森県)
オレの野辺地の記憶は比較的新しい。
それでも10年以上前にはなる。
世界王者になる前のリック・フレアーが未来の大物としての風格を漂わせて、この町でジャンボ鶴田のUN王座に挑戦したのは38年前。
野辺地は、大正の頃に由来を持つ常夜灯の町だという。
明日、明るい時間にまた降りる。
下北半島を北上する最北列車に揺られている。
車窓には白が目立つ。
本州最北端には雪が残っているんだ。
ただ野辺地に吹いていた風に、刺すような冷たさはなかった。
下北(しもきた)駅(大湊線 青森県)にて
23:06 民宿鈴谷菊の間
方角も分からないような闇の中に雪と時折の町明かり、駅灯が浮かび上がる。
なぜこんな時刻にこんな最果て列車に乗る羽目になっていたのか。
オレにもたまに分からなくなることがある。
まるで割り当てられた義務を遂行するかのように下北駅で降りた。
駅員の迎えはなかった。
古めかしい駅を想像していたが、ロータリーから何から新装を終えていて、もとより闇の中ゆえに探すことは困難だが、廃止されて久しい下北線の跡も最早コンクリートの下だろうと思わせる。
最果ての道は広く、遅い時間にもかかわらず車通りはないわけじゃない。
歩いている人の姿も見かける。
違和感の正体は想像していた情景との誤差に起因している。
ここに特別な風景があるとは思っていなかったが、あってもおかしくない数少ない町だ。
150年の昔に精強を誇った会津士族を哭かせ、霊場恐山の麓町として多分に土俗的な僻地だが、コンビニもマクドナルドもあり、はてはヤマダ電機さえ集う町角があることに安心と失望を感じている。
特別なものがありそうでいて、探し物は見つからない。
海峡に行けば荒々しい風と波がある。
でもほんの少し内陸に入っただけで町は虚構を帯びる。
かつて北海道の根室でも感じた違和感だ。
だからどうしたというわけじゃないが、いつかきっとオレは今感じていることを最適な言葉に置き換えるだろう。
思えば、この違和感は南国にはなかった。
雪国としての調和を欠いた風景。
言ってみれば、青森を旅していていきなりハワイが現れたような。
大袈裟に言えばそういうものをオレは感じている。
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