「車旅日記」1996年夏【再び北を目指した夏。不慮の事故に遭い、打ち切らざるを得なくなったのでございます。】最終日 事故から帰京を振り返って。
車旅日記1996年8月15日
1996・8・15 東京
望郷の思いとは別に昨日家に帰り着いた。
後悔とか、そうした感情をはさむ余地のない理由がそこにあった。
事故に遭ったのは三条市内の8号国道上。
後ろにいた善人のオジサンは八戸人だった。
衝撃は不意だった。
横を流れる信濃川や雄大な穀倉地帯に満足していたところを、ハンドルを握ったまま前に押し出された。
これはオレが乗る車が受けた衝撃に違いないが、状況の把握に数秒を要した。
後ろにいたオジサンは明らかに「しまった」という顔をして車から降りてきた。
その時になってようやくオレは夏休みがふいになったことを悟った。
彼にはぞんざいな口のきき方をした。
だけど彼に対して敬意を表す口のきき方になるのにたいした時間はかからなかった。
オレはそんな男よ。
しばらくの間、2人で汗を拭きながら警察車の到着を待った。
人間は本来善意を持った生き物なのだろう。
無言でいたわけじゃない。
悲しい気持ちのまま、精一杯人間であろうとした。
やがて交通警察はやってきた。
人のよさそうな笑顔の持主と、冷静な表情の2人組。
笑顔の方はオレのツアーに対して理解を示してくれた。
そこでも人間の本質を見たような気持になった。
必要な手配を済ませてオレとオジサンは自然に朝食を共にしようと言い合った。
2台の車はオレを先頭に走り出した。
だけど適当な食堂はなく、途方に暮れた。
やがて反対車線に賑やかな空間を見つけて、そこの駐車場に入った。
だがそこでもオレたちに飯を振る舞う店はどこにもなかった。
青空の下に置かれた白いテーブルと椅子。
彼は100円のジュースをオレに振る舞い、自分のこと、ご家族のこと、仕事のこと、様々な話を聞かせてくれた。
最後はお互いに笑顔だった。
そしてオレたちは東と西に別れていった。
奇妙な縁だったけど、その時にはもう彼に友情のようなものを感じていた。
元来た道を戻った。
湯沢までの道程。
そこでも視界に広がる穀倉地帯を見て満足していた。
それからのハイウェイ。
あれはやっぱりオレの走る道じゃない。
どうしてもバカみたいなヤツが周りをうろつく。
国道では勝負できない連中だ。
おとなしくしていたよ。
そこはオレのいるべき場所じゃなかったから。
ハイウェイを下りたのは確か16:00頃のこと。
それから家に帰り着くまで3時間を要した。
あんな時間に東京に帰ってきたくはなかった。
夜中か早朝。
くだらない感慨を思いつきようもない時間に走り抜けたかった。
だけど家族には事故を報告している。
きっと夕食を用意してオレの帰りを待ってくれているだろう。
そんな思いがあった。
そして米軍キャンプ脇の渋滞に巻き込まれた。
旅は終わったわけじゃない。
あの八戸のオジサンには悪いけど、ハイウェイに乗った時点からどうしようもない後悔に似た感情が込み上げてきた。
本来の居場所じゃないところに居合わせた居心地の悪さを感じていた。
体の方は何ともない。
もっともオレはあれくらいのことでどうにかなるようなヤツじゃないけど。
友人に宛てた残暑見舞いにも書いたけど、頑丈に生んでくれた両親に感謝しているよ。
国道には9月に戻る計画でいる。
それまでにオレが幸せになれたら別な話になるけど。
「幸せな男がひとり旅なんかするかよ」。
オレの夏休みはぽっかりと空いた。
今夜友人のひとりと連絡をとって、どうにか明日の予定を埋めた。
ヤツはそんなオレに「気にするな」と言ってくれた。
オレにもいい友達がいる。
彼女にもそんなオレのことを教えてあげたい。
その彼女に今日こんな便りを出した。
残暑お見舞い申し上げます。
元気ですか?
本当は旅先で書こうと思っていたけど、昨日新潟で事故に遭って今東京にいます。
悔しいな。
ところで君は今どこにいるんだ?
ステキな夏休みになっているといいな。
暑いけど、オレの方はこっちにいるしかないな。
また元気で逢おう。
8・15東京
旅先で彼女に便りを出すつもりでいたんだ。
このひとり旅の中に無理やりにでも彼女を割り込ませようと思っていたんだ。
そんな目論見は潰え、プライベートでも忙しい彼女は一体今どこにいるのか。
それさえオレには分からない。
この夏、二人はそんな間柄でいるしかなかった。
酔っ払って便りを書いたんじゃない。
オレは彼女が好きなんだ。
そんな気持ちを日記に下書きしたうえで清書した。
絵葉書の柄は、この夏にはまるで関係のない夜明け前の富士山。
それは持っているポストカードの中で一番のお気に入りだった。
そうした事情はいずれ彼女に伝わる。
そう思っているよ。
夏が生きているのなら、そのうちに。
でも秋になっても構わない。
彼女がオレを大切な男だと思ってくれるのであれば。
勇気はこの東京で作ろう。
それしか、もう手はなくなったんだ。
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2012年初冬【週末パスで、甲信越途中下車旅】最終日(長野-東京)その1-長野、信州中野、湯田中、安茂里、戸倉、上田、別所温泉、西上田、田中(長野電鉄、信越本線、しなの鉄道、上田交通)
鉄旅日記2012年12月9日その1・・・長野駅、信州中野駅、湯田中駅、安茂里駅、戸倉駅、上田駅、別所
-
-
「鉄旅日記」2022年皐月 最終日(磐梯熱海-東京)その3 ‐駒形、前橋大橋、高崎、本庄(両毛線/高崎線)【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】
鉄旅日記2022年5月8日・・・駒形駅、前橋大島駅、高崎駅、本庄駅(両毛線/高崎線) 14:
-
-
「鉄旅日記」2020年睦月 2日目(湯沢-鷹ノ巣)その4‐五所川原、川部、弘前、大館、鷹ノ巣(五能線/奥羽本線) 【秋田内陸縦貫鉄道に乗りにいきました。五能線の名所も歩いた旅初めでございます。】2日目(湯沢-鷹ノ巣)
鉄旅日記2020年1月12日・・・五所川原駅、川部駅、弘前駅、大館駅、鷹ノ巣駅(五能線/奥羽本線)
-
-
「鉄旅日記」2020年文月 3日目(萩-三次)その3‐黒松、仁万、出雲市、荘原(山陰本線) 【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】
鉄旅日記2020年7月25日・・・黒松駅、仁万駅、出雲市駅、荘原駅(山陰本線) 12:06&
-
-
「鉄旅日記」2009年初夏【上信越ひとり旅】初日(東京-十日町)-上野、高崎、大前、渋川、沼田、水上、越後湯沢、六日町、越後川口、十日町(高崎線/吾妻線/上越線/飯山線)
2009・7・18 8:42 上野(うえの)駅(東北新幹線/秋田新幹線/山形新幹線/上越新幹線/長野
-
-
「鉄旅日記」2020年文月 最終日(三次-東京)その1‐三次、上下、府中(福塩線) 【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】
鉄旅日記2020年7月26日・・・三次駅、上下駅、府中駅(福塩線) 2020・7・26&nb
-
-
「鉄旅日記」2019年長月 初日(東京-盛岡)その3-盛岡、上米内、区界(東北本線/山田線)/大正館 【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】
鉄旅日記2019年9月21日・・・盛岡駅、上米内駅、区界駅(東北本線/山田線)/大正館 17:39
-
-
「鉄旅日記」2020年晩秋 初日(東京-砺波)その2 ‐電鉄魚津、西魚津、新魚津、魚津、高岡(富山地方鉄道本線/あいの風とやま鉄道)/魚津城跡 【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】
鉄旅日記2020年11月21日・・・電鉄魚津駅、西魚津駅、新魚津駅、魚津駅、高岡駅(富山地方鉄道本
-
-
「鉄旅日記」2015年夏 2日目(新南陽-鹿児島中央)その2-直方、新飯塚、彦山、豊前桝田、夜明、御井、川尻、住吉、三角(筑豊本線/後藤寺線/日田彦山線/久大本線/鹿児島本線/三角線) 【日本最南端の終着駅、枕崎までの往復旅】
鉄旅日記2015年8月13日その2・・・直方駅、新飯塚駅、彦山駅、豊前桝田駅、夜明駅、御井駅、川尻駅
-
-
「鉄旅日記」2019年霜月 初日(東京-五所川原)その2‐郡山、福島、仙台、品井沼、松島(東北本線) 【津軽鉄道、弘南鉄道に乗りにいきました。羽州街道を歩いた晩秋の旅でございます。】
鉄旅日記2019年11月2日・・・郡山駅、福島駅、仙台駅、品井沼駅、松島駅(東北本線) 9:25
