「車旅日記」1996年夏【再び北を目指した夏。不慮の事故に遭い、打ち切らざるを得なくなったのでございます。】初日 (東京‐三国峠‐新潟)- 成瀬センター前、東福生駅、籠原駅、北橘村、渋川、ドライブイン利根川、猿ヶ京湖城閣、越後湯沢駅、道の駅ゆのたに、堀之内パーキング
車旅日記1996年8月13日
1996・8・13 10:45 東京
ルートは決まった。
今までの旅立ちにはない穏やかな時間を過ごしている。
時に茫々と昨夜の彼女、あるいは記憶の中の彼女を思い出している。
彼女はどうしているだろう。
気になるけど、電話という手段は使えないんだ。
そんな勇気はどこにもない。
今回のツアーでその勇気が身につくことを願っているけど、車を走らせてみなければ分からないな。
今の気分に、今流れているクラプトンのギターがよくマッチしている。
さあ、荷物をまとめよう。
そしてシャワーを浴びよう。
出発だ。
しばらくのお別れになる。
心配しないでいい。
元気に帰ってくるよ。
11:50 成瀬街道-成瀬センター前
地元にいても旅の空の下だな。
この夏最初の入道雲をさっき見かけたよ。
ただ空の表情はやっぱり秋だな。
今オレに向けて吹いてくる風も秋からのもの。
とても涼しくて爽やかな風だ。
気分はかなりいい。
夏はとっくに幕が開いて、今は秋空の下だけど、オレの夏の始まりをここに置いてもいい。
今そんな気分だよ。
13:25 東福生駅
米軍キャンプの横を通っている。
ここに駐屯している軍隊は住民に危害を加える様子もなく、街は穏やかな午後を迎えている。
米軍御用達の古着屋にはそれらしい格好をした若者が集い、街のカラーも米軍色に染まっている。
善きにしろ悪しきにしろ、ここは米軍の街。
以前ここを通った時、すぐ先に当時の恋人がいた。
彼女はオレを好きになってはくれなかったけど、彼女を迎えに行くためによくこの道を走った。
まだしばらくオレの知る道が続く。
その後は果てしない。
空は曇っている。
だけど暑い。
それなりに立派な夏の日。
15:40 籠原駅
16と407。
国道を2つ抜けて17号。
越後路に連なる道に入った。
これから山を行く。
当り前だけど、まったくのひとりだ。
普段のように生活する人々とすれ違いながら、どこまで続いているのか分からない道を往く。
精神的にはすでにタフだ。
そして抜き差しならないところまできた。
地図を広げて、ひたすら北の方に目を移す。
もう後戻りはできないよ。
17:23 17号国道‐北橘村~渋川
渋滞。
後ろにいたマナーのいいライダーは前へ行ってしまった。
ふいに利根川を渡った。
小雨はやまない。
蛇行した国道は休息を許さない。
背中、イタイな。
また、渋滞。
原因は分からないけど、もう夕方だから。
きっとそういうことだろう。
今夜どこまで走ればいいのか、まだ目途はついていない。
5月の大阪では友人が食事を用意して待っていてくれたけど、今回はそうはいかない。
道端には指名手配された連中の顔写真が並び、オレたちは列を作っている。
でもつまらないものだけが目に入るわけじゃない。
由来は知らないけど、いくつか石碑も立っている。
歴史を感じるよ。
家並もいい感じだ。
だいぶ暗くなってきた。
そしてオレの前を真っすぐに延びる道は果てしない。
とうとうこんなところまできた。
上州路は厚い雲の下、生暖かい雨に降られている。
特に必然性を感じないけど、オレは今そんなところを走っているんだ。
18:30 17号国道‐渋川~ドライブイン利根川
家族と別れて以来しばらくぶりに人と口をきいた。
ラーメン屋のオヤジはこう言うんだ。
「美味いだろう?」って。
そう、ゴマだれのつけめん、とても美味かったよ。
オレみたいにひとりで店のドアを開けるヤツはあの手の言葉に弱いんだ。
そして人情にも。
来てよかったよ本当に。
空も晴れだしたよ。
夏の夕暮れ空だ。
まばらな茜色が素晴らしい。
蝉の声に心も和む。
川も雄大だ。
少し息継ぎができたよ。
店のオヤジとオカミは最後にオレにこう言ってくれたよ。
「気をつけてなっ」。
ありがとう。
いい旅になるだろう。
そんな予感がした。
上州路、夏の夕暮れの中で。
19:52 猿ヶ京湖城閣
旅の空の下には何でもあるさ。
心配しなくていい。
ひと風呂浴びてきたところだ。
これから三国峠を越える。
家族には湯沢で電話を入れる予定だ。
きっと心配してくれているだろう。
だけどそれから先がある。
オレの一日がどこで終わるのか、実はこのオレにもよく分からない。
何度も言うけど、そういう旅だ。
さて、行くか。
20:55 越後湯沢駅
峠を抜けたらリゾート地。
奇妙な組み合わせが交錯する道を苗場まではひとりで、後の道中は数台の車を引き連れて走った。
それにしても苗場のあたりは奇妙な光景だったな。
オレには用のない一帯だった。
もっとも苗場もオレのようなひとり旅の男を歓迎してはくれないだろうけど。
ここで家族に電話を入れた。
今回はできる限り電話しようと思っている。
オレも27歳。
もう家族に心配をかけるような年じゃない。
さて、また行くか。
相変わらずねぐらは決まっていない。
今日のオレの体力と気力が朽ち果てるのはどこらあたりでのことか。
要するにそういうことだ。
ビールを飲みたいけど、この先都合よく自販機があるだろうか。
クーラーボックスを持ってくればよかったよ。
少し悔しい。
それと歯ブラシを忘れた。
こいつは大いに悔しいな。
さあ、もういいだろう。
ここはかつての恋人との最後の思い出の場所。
ここにいる時点で彼女はもう悲しい顔をしていたっけな。
よくは思い出せないけれど。
22:45 ゆのたに(道の駅)
ひとやすみ。
だけどうまくはいかない。
この部分だけは相変わらず小心だ。
仕方がないから先へ行くよ。
そのうちまた眠くなるだろう。
もっと涼しい場所があるかもしれない。
それに隣のガキどもが痰ばかり吐いてうるさい。
タフさはさらにエスカレートしていく。
望むところではあるけれど。
24:35 17号国道‐堀之内パーキング
いろいろ模索した結果、このスーパーコロナをステキなベッドにする方法を編み出したよ。
少し格好悪いけど、こいつはイケる。
これなら眠れそうだ。
今夜は月がない。
星は出ている。
走ることはここで断念しようと思っている。
ここはいい。
虫の声が涼しげで、外気もまずまず涼しい。
それに夜を走っても町並が分からないから。
だから朝を待とう。
しかし旅に出て、初めて腹が減ったよ。
ビール飲みたいな。
おやすみ。
1996・8・14 7:15 17号国道‐堀之内パーキング
こんな時間に起きるとは。
こいつは計算外だった。
予想以上にたっぷり休息をとれたわけだ。
空はよく晴れている。
涼しくて爽やかな朝だ。
もう秋だな。
空を見れば分かる。
ここで休息をとれたことは幸運だった。
とてもいい場所だった。
さあ、行こう。
2日目、どこまで行けるか。
そして視界に海が見え始めるのは何時くらいの話になるのか。
走ることがうれしい。
そんな気分の朝だ。
気分?
かなりいいよ。
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2014年夏【青春18きっぷで、中国ぶらぶら旅】最終日(呉-東京)-呉、広、竹原、安芸幸崎、松永、東尾道、相生、西相生、比叡山坂本、用宗、富士、沼津(呉線/山陽本線/赤穂線/湖西線/東海道本線)
鉄旅日記2014年8月17日・・・呉駅、広駅、竹原駅、安芸幸崎駅、松永駅、東尾道駅、相生駅、西相生駅
-
-
「鉄旅日記」2018年春【伊那谷へ。長篠へ。安曇野へ。木曽へ。青春18きっぷを握ったそんな旅でございます。】最終日(飯田-安曇野-木曽-東京)その2-安曇沓掛、信濃常盤、細野、海ノ口、信濃大町、信濃松川、安曇追分、南松本(大糸線/篠ノ井線)
鉄旅日記2018年4月8日・・・安曇沓掛駅、信濃常盤駅、細野駅、海ノ口駅、信濃大町駅、信濃松川駅、安
-
-
「鉄旅日記」2018年師走【伊勢のいくつもの終着駅に降りまして、神島で2018年最後の満月を眺めたのでございます。】最終日(神島-鳥羽港-伊良湖岬-三河田原-豊橋-東京)その2-中之郷駅、伊勢湾フェリー乗場、道の駅伊良湖クリスタルボルト(伊勢湾フェリー)
鉄旅日記2018年12月24日・・・中之郷駅、伊勢湾フェリー乗場、道の駅伊良湖クリスタルボルト(伊勢
-
-
「鉄旅日記」2019年霜月【津軽鉄道、弘南鉄道に乗りにいきました。羽州街道を歩いた晩秋の旅でございます。】最終日(北上-東京)その2‐新庄、鳴子温泉、小牛田(陸羽東線)
鉄旅日記2019年11月4日・・・新庄駅、鳴子温泉駅、小牛田駅(陸羽東線) 11:19 新庄(しんじ
-
-
「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】初日(東京-高山)その4‐多治見、坂祝、美濃太田(太多線/高山本線)
鉄旅日記2020年3月20日・・・多治見駅、坂祝駅、美濃太田駅(太多線/高山本線) 14:19 多治
-
-
「鉄旅日記」2020年如月【東日本大震災で被害を受けた大船渡に泊まりにまいりました。山田線完全乗車も目指しておりましたが・・。】初日(東京-大船渡)その2‐新白河、郡山、福島、仙台(東北本線)
鉄旅日記2020年2月22日・・・新白河駅、郡山駅、福島駅、仙台駅(東北本線) 8:20 新白河(し
-
-
「鉄旅日記」2018年エイプリルフール【8年振りに金町に帰ってまいりました。青春18きっぷはまだ3日分残っております。呼んでくれたのは会津でございました。】その3-谷田川、磐城石川、磐城塙、常陸大子、玉川村、常陸大宮、上菅谷、水戸(水郡線)
鉄旅日記2018年4月1日・・・谷田川駅、磐城石川駅、磐城塙駅、常陸大子駅、玉川村駅、常陸大宮駅、上
-
-
「鉄旅日記」2019年霜月【津軽鉄道、弘南鉄道に乗りにいきました。羽州街道を歩いた晩秋の旅でございます。】初日(東京-五所川原)その3‐小牛田、一ノ関、盛岡、八戸、野辺地(東北本線/IGRいわて銀河鉄道/青い森鉄道)
鉄旅日記2019年11月2日・・・小牛田駅、一ノ関駅、盛岡駅、八戸駅、野辺地駅(東北本線/IGRいわ
-
-
「鉄旅日記」2018年卯月【ときわ路パスでめぐる常陸旅でございます。】その1-取手、竜ケ崎、佐貫、岩間、赤塚、大洗、鹿島神宮(常磐線/関東鉄道竜ヶ崎線/鹿島臨海鉄道)
鉄旅日記2018年4月25日・・・取手駅、竜ケ崎駅、佐貫駅、岩間駅、赤塚駅、大洗駅、鹿島神宮駅(常磐
-
-
「鉄旅日記」2017年夏【私鉄王国で過ごす夏】初日(東京-大垣)その2-郡上八幡、北濃、美濃白鳥、郡上八幡、関、美濃太田、岐阜(長良川鉄道/高山本線)
鉄旅日記2017年8月11日・・・郡上八幡駅、北濃駅、美濃白鳥駅、関駅、美濃太田駅、岐阜駅(長良川鉄