「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】最終日 北陸より東京へ‐その1(北陸道→R8)有磯海SA、玉ノ木パーキング、親不知ピアパーク、能生
車旅日記1996年5月6日
3:40 北陸自動車道-有磯海SA
多少はスッキリしたんだ。
あれから2時間以上経っているしね。
だけど寝ていないことも確かなんだ。
タフなツアーだよ、まったく。
夜は深く、ひどく寒かった。
雨は上がったよ。
オレの友である月も、三度頭上を照らしている。
兄弟、出発だろ?
目覚めてうどんを食べに行ったら、日本の夢がひとつ消えていたよ。
日本男子バレーボール代表のアトランタへの道は、日本海に降り注ぐ雨の中で消えたんだ。
サービスエリアを覆う早朝のけだるさの中で、やけに劇的な報道だったよ。
恋する女よ、昨夜のことは夢の中の出来事のようだよ。
東京から何100㎞も離れた場所で君に会えたんだからね。
あのまま君の眠る街で一晩明かすことも考えられたけど、今オレはこんなところにいる。
オレのツアーは移動することが目的なんだ。
いろんな場所を通過していく。
調子のいい時のオレは、その作業を夢をつなぐ作業だと言いふらす。
路上の生活もたまにはいいもんだよ。
だいいち月と友達になれたじゃないか。
さてと、地図を広げよう。
ブルース・スプリングスティーンの「サンダーロード」。
最後の旅が始まる。
4:34 8号国道‐玉ノ木パーキング
ガソリンスタンドのおじさんと挨拶を交わし、ともに月を愛でた。
しばらくハイウェイを走る。
ほんの数分のことだ。
最初に到着するインターチェンジがハイウェイの終着点。
料金所の男が怪訝そうな表情で尋ねる。
「どこかで休んでいたのか?」。
その通り。
サービスエリアで寝ていたんだ。
彼の疑問にはうなずける。
数時間ハイウェイに乗っていたけど、走ったのはわずかに一区間だけだったから。
料金所を出るとテープを巻き戻して、再度「サンダーロード」から始め、魚津のわずかな夜景を視界に入れて8号国道に戻った。
早朝の日本海路を通る車はほとんどなく、「オレの道」を往くオレを感じていた。
地元ナンバーをつけた車は例外なくオレを追い抜いて、どこかへ消えていく。
湿った路面に簡素な漁村の風景。
ブルース・スプリングスティーンが歌う光景を、自分の心象風景のように感じながら走った。
まだ眠い。
5月の夜は寒い。
しかもここは北陸。
車の中で暖房も焚かずに眠るのに適当な季節じゃない。
ブルースの楽曲にもそんな光景が現れる。
アメリカの貧しくてタフな男の話だ。
住むべき家を持たず、妻や子供とともに毎晩を車の中で過ごし、後部座席に眠る子供が今にも死にそうな咳をするのを聞きながら、現状に苛立つ男。
普段の生活では考えられないような世界が自然にR&Rに乗ってオレの中に入ってくる。
この時間帯の北陸の道にはそんな魔力があった。
いずれにしろさっきのハイウェイでは得られなかった睡眠という休息をとる必要があった。
目の前には、今日君を東京へ帰す線路が敷かれ、その先に日本海が横たわっている。
ただ線路と海があるだけだ。
食い入るように見続ける。
柵に腰かけて寒風に吹かれながら、さらに見続ける。
空は鈍色に曇っている。
海も同じ色だけど、忘れがたい風景だよ。
昔、あるブルースマンは線路伝いに歩いていった。
メンフィスからシカゴまで。
あるいは国境を越えて自由を求めて歩いていった。
チープなコートのポケットには友人から借りた2、3ドルの金しか残っていない。
たどり着いた街でギターを弾いて路銀を稼ぎ、また線路伝いに歩いていく。
そんな光景が頭をかすめる。
オレもまた彼等に似ていた。
だけどオレには惚れた女性がいる。
だからオレの行先は決まっている。
彼女が戻ってくる東京へ。
車に戻ってエンジンキーに手をかける。
隣に車を止めている男はよく眠っている。
オレもそうしたかったが、波の音が許さない。
次の場所へ。
再び朝靄の路上に出る。
君はまだ眠っているだろう。
オレの方はこのとおりだ。
ひと足先に日本海路を抜けることにするよ。
もう一度海を見に行った。
金沢行の夜行列車が通り過ぎていった。
君がここを通るのはどれくらい先の話だろう。
先に行くよ。
5:09 8号国道‐親不知ピアパーク
ブルース・スプリングスティーンが貧しくてタフな男の歌を歌っている。
線路はやがて険しい山の方へ進路を変えていった。
いくつものトンネルをくぐっていくのが見える。
ブルースマンはトンネルを回避したのだろうか。
あんな道をひとりで行くもんじゃない。
そしてオレの前方にもタフなカーブがやってきた。
そこはかつてブラザーと北陸道を走っていて、度肝を抜かれた場所だった。
天下の難所、親不知。
浄土、風波。
そんな名のついた洞門を抜けてきた。
多くの旅人がそこで命を落としてきたのだろう。
そこは険しい巡礼の道にどこか似ていた。
注意深くハンドルを切る。
切りそこなえばオレと車は目も当てられない姿になり果てるだろう。
そんな焦りは対向車を襲い来る獣のように見せる。
一連のタフなカーブを抜けて、ここに着く。
果てしなく海だ。
このルートを往くオレを気に行っている。
ここは男の世界なんだ。
男が見たいと思っているものがすべて揃っているんだ。
オレの服装は昨日と変わらない。
無精ひげもずいぶん伸びた。
でもそんなスタイルがここには似合う。
風は吹き、海は荒れ、波が襲いかかる。
ここは男がひとりで来る場所だ。
雄々しさが世界を覆っている。
そんな男には惚れた女性が必要だ。
その女性がたとえ遠い街で生活していようと、いた方がいい。
オレにとってのそんな女性は今から数時間後にこの風景を列車の窓から見るだろう。
あるいは友達と喋っているうちに通り過ぎてしまうかもしれない。
タフな旅路の末に、やがてオレは彼女にたどり着くことができるだろう。
そう思うことが心を休めた。
ここでも眠ることを試みたが、またしても波音が許さない。
オレの旅路と一緒で、波の音までタフで、しかもハードだ。
ルート変更だな。
このまま直江津まで行こう。
もう少しこの海と付き合っていたいんだ。
6:20 8号国道-能生
日本海が見えるうちは彼女がすぐそばにいるような気がしていた。
金沢から、日本海が見えるうちは二人は同じルートを行く。
それが何か重要な意味を持つように思えた。
何度でも海を見に行く。
それにしても、なんて風の強い町なんだ。
天気は悪くなさそうだけど、この町には厳しい朝が訪れている。
海沿いの町の厳しさを、ここで初めて知ったよ。
だけど日本海を走るのは朝に限る。
さっきも言ったけど、ここには男が求めるすべてのものがある。
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2008年皐月 4日目(徳島-善通寺)その2-海部、桑野、阿南、穴吹、佃、琴平、善通寺(牟岐線/徳島本線/土讃本線) 【旅は京都から始まり、山陰から下関へ。そして四国へと渡ったのでございます。】
鉄旅日記2008年5月5日・・・海部駅、桑野駅、阿南駅、穴吹駅、佃駅、琴平駅、善通寺駅(牟岐線/徳島
-
-
「鉄旅日記」2007年新春 2日目(高岡-金沢)-高岡駅前、越ノ潟、高岡、氷見、高岡、城端、金沢(万葉線/氷見線/城端線/北陸本線) 【本格的に鉄旅が始まりまして、まずは冬の北陸を目指したのでございます。】
鉄旅日記2007年1月7日・・・高岡駅前駅、越ノ潟駅、高岡駅、氷見駅、高岡駅、城端駅、金沢駅(万葉線
-
-
「鉄旅日記」2018年師走 初日(東京-津)その1-金町、西桑名、楚原、阿下喜、麻生田、丹生川(常磐線/三岐鉄道北勢線/三岐鉄道三岐線) 【伊勢のいくつもの終着駅に降りまして、神島で2018年最後の満月を眺めたのでございます。】
鉄旅日記2018年12月22日・・・金町駅、西桑名駅、楚原駅、阿下喜駅、麻生田駅、丹生川駅(常磐線/
-
-
「鉄旅日記」2021年春 最終日(松本-東京)その2 ‐神城、千国、南小谷、小滝(大糸線)【週末パスで信濃へ。妙高高原駅で引き返し、松本の友人を訪ね、大糸線を旅して思い出の白馬へ。先の旅から一週間後のことでございました。】
鉄旅日記2021年4月25日・・・神城駅、千国駅、南小谷駅、小滝駅(大糸線) 7:53 神城
-
-
「鉄旅日記」2007年如月 2日目(天王寺-奈良)その2-なんば、上本町、鶴橋、桃谷、寺田町、天王寺、恵美須町、新今宮、奈良(南海電鉄南海線/関西本線) 【初日天王寺、2日目奈良。宿泊地だけを決めて、心のままに移動した記録でございます。】
鉄旅日記2007年2月11日・・・なんば駅、上本町駅、鶴橋駅、桃谷駅、寺田町駅、天王寺駅、恵美須町駅
-
-
「鉄旅日記」2015年春 最終日その2(宇治-東京)-水口、水口石橋、水口城南、八日市、近江八幡、高宮、多賀大社前、彦根(近江鉄道本線/八日市線/多賀線) 【朝に宇治を出て、近江鉄道に乗る一日】
鉄旅日記2015年3月22日その2・・・水口駅、水口石橋駅、水口城南駅、八日市駅、近江八幡駅、高宮駅
-
-
「鉄旅日記」2017年春 最終日(JR難波-東京)その2-大曽根、勝川、春日井、中津川、上松、原野、広丘、みどり湖、相模湖、豊田(中央本線/篠ノ井線)【近鉄に乗る日々】
鉄旅日記2017年3月20日・・・大曽根駅、勝川駅、春日井駅、中津川駅、上松駅、原野駅、広丘駅、みど
-
-
「車旅日記」2005年初夏 最終日(新潟-長岡)走行距離246㎞ その1-新津駅、五泉駅、巻駅、弥彦駅、柏崎駅、笠島駅 【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】
車旅日記2005年7月18日・・・新津駅、五泉駅、巻駅、弥彦駅、柏崎駅、笠島駅 2005・7・18
-
-
「鉄旅日記」2007年新春 最終日(金沢-東京)-金沢城址、金沢、倶利伽羅、黒部、直江津、長野、東京(北陸本線/信越本線/長野新幹線) 【本格的に鉄旅が始まりまして、まずは冬の北陸を目指したのでございます。】
鉄旅日記2007年1月8日・・・金沢駅、倶利伽羅駅、黒部駅、直江津駅、長野駅、東京駅(北陸本線/信越
-
-
「鉄旅日記」2017年夏 最終日(十三-東京)その2-野洲、米原、神領、定光寺、中津川、塩尻、岡谷、日野(東海道本線/中央本線)【私鉄王国で過ごす夏】
鉄旅日記2017年8月14日・・・野洲駅、米原駅、神領駅、定光寺駅、中津川駅、塩尻駅、岡谷駅、日野駅
