「鉄旅日記」2009年秋【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】5日目(松浦-伊万里-唐津-若松)その2-宇美、西戸崎、香椎、福間、赤間、折尾、ルートイン北九州若松(鹿児島本線/香椎線/筑豊本線)
鉄旅日記2009年9月22日
15:27 宇美(うみ)駅(香椎線 福岡県)
鹿児島本線で香椎へ。
そして香椎線に乗り換えて終着駅へ。
宇美八幡宮が近くにある。
駅舎は、有名な神社を持つ町だけが許される朱色をしている。
宮脇俊三さんの本で、かつて吉塚駅から分岐する勝田線という炭鉱線が走っていて、宇美にも駅を持ち、香椎線の宇美駅とは離れた場所にあったと知り、さらに崩れかけたボタ山があったと記してあったことから、廃線跡を探し歩いたけど、見当たらない。
廃線になったのはもう20年も前。
やっぱりないか。
筑豊にすらボタ山は残っていない。
そうこうしているうちに時間がきた。
折り返しの列車に乗る。
沿線から博多の匂いは消えて、平凡な車窓風景を眺めている。
16:47 西戸崎(さいとざき)駅(香椎線 福岡県)
海の中道を往く香椎線のもう一方の終着駅。
こじんまりとした素敵な終着駅だ。
海の中道は、志賀島橋で「委奴国王印」が発見された志賀島とつながっている。
元寇の際には、博多から海の中道が戦場となり、志賀島には蒙古塚がある。
折り返しの列車に乗って、次の海ノ中道駅に着くと、そこは海浜公園になっていて大勢が乗り込んできた。
博多湾から玄界灘に目を移し、砂丘を眺める。
あたりの景観はまるで違うが、オホーツクのサロマ湖を思い出していた。
海の中道にて。
17:33 香椎(かしい)駅(鹿児島本線/香椎線 福岡県)
降り止まない雨をはじめ、なかなか気分の乗らない一日だったが、西戸崎あたりから持ち直す。
ターミナル駅の香椎で降りる。
松本清張さんの「点と線」の殺人現場として登場する町だ。
その現場は西鉄貝塚線を越えた、さらに先の海辺になる。
線路沿いのうらびれたあたりが、当時の雰囲気を残しているだろうか。
スナックが何軒か入っている古錆びた雑居ビルのあたり。
もう少し歩くと町を流れる小さな川に行き当たる。
そこで引き返した。
17:54 福間(ふくま)駅(鹿児島本線 福岡県)
再び鹿児島本線に乗り、以前から気になっていた福間駅に降りる。
気になっていた理由は、ホームに立つ「宮地嶽神社参拝」と書かれた駅灯。
なぜかオレはあの駅灯に九州を感じていた。
「駅そば」があり、駅前は車通りも多く賑わっている。
車窓から玄界灘は見えないが、漁港や海水浴場を持つらしい。
慌ただしく次の列車で町を離れる。
18:33 赤間(あかま)駅(鹿児島本線 福岡県)
ここは宗像市という。
駅前を流れる釣川まで歩く。
これといって特徴のない駅前ロータリーには居酒屋が1軒。
北口にはステーション・ホテルが見える。
駅には大勢の人がいて、人が集まる場所に相応しい明るさを持っていた。
この駅にも「駅そば」があり、思わず寄る。
笑顔のかわいいおばちゃん。
かしわ入りそば350円。
とても美味しかった。
19:23 折尾(おりお)駅(鹿児島本線/筑豊本線 福岡県)
折尾的なものを欲していた。
降りてみてよく分かった。
鉄道と共に生きている町だ。
鹿児島本線から直接筑豊本線に乗り入れる列車専用の駅舎を別に持つ、明治大正ロマンを連想させる歴史的な駅舎。
交差する複雑な駅構内。
「かしわめし」を売る駅弁売りが現れるのは、どのホームなのか。
町に出るとスナックの看板が目につく。
堀川運河に沿って古くさい酒場が軒を連ねている。
小便臭い路地やガード下。
昔はどこもこんなだった。
大人の男が強い存在であった時代は、どこもあんな臭いがした。
折尾はまだそんな町なのだろう。
炭鉱全盛時の筑豊の匂いまで嗅いだ気がしたよ。
ここ40年、50年くらいのすべての空気をまとった歴史的な交差点だった。
22:58 ルートイン北九州若松701号
筑豊炭田の終着駅若松。
駅前はひっそりとしていた。
少なくとも折尾の活気は持たなかった。
駅前に海鮮居酒屋があった。
町を歩いてめぼしい店を見つけることができなかったら、あそこに行こうか。
歩き出す。
若戸大橋を見に行く。
洞海湾に架かるこの橋は、巨大大橋のはしりだと、後で入った「陣太鼓」のご主人から聞くことになる。
少なくとも30年前には、あの橋はすでにあったという。
戸畑の明かりを見ていた。
橋にかけたい願いがあった。
居酒屋、スナックビル、のれん街。
若松を知った気にはなれた。
タクシーが止まっているあたりにきれいな灯が見えた。
覗いてみると、駅の案内板にその存在が記されていた「陣太鼓」というおでん酒場だった。
筑豊言葉が飛び交う店で、佐賀の夜で経験したのと同じく、旅の最中にこんな場所にいたいと心から思える場所だった。
若松は30年前が最盛期だった。
筑豊炭田で掘られた黒い宝石が次々に若松に運び込まれ、炭鉱景気に沸いた町を人々が行き交い、キャバレー、クラブが至る所で客を呼び、洞海湾には外国船が列をなして、まさに不夜城のようだった。
その半面、新日鐵をはじめとした対岸の製鉄所が流す煙で町は曇り、異臭が漂い、冷房のない時代だったこともあって夏は苦労した。
そんな話をご主人から伺った。
そして現在、筑豊と北九州工業地帯が斜陽になれば、若松は当然のように影響を被る。
公害はなくなったが、景気は下がりっぱなしだと、ご主人は切なげに笑う。
何がいいのか悪いのかと。
北九州の全盛期の頃を知りたかった。
筑豊にはなく、若松にもない。
小倉にもないだろう。
政令指定都市北九州の人口は今じゃ100万人を切っている。
そんな若松で入った店で流れていた演歌は、「きっとくるくる、男の夜明け・・・」。
「お互い元気でいましょう」と言い合って、ご主人とは別れた。
店の脇に、猫の名がつけられたスナックがあった。
行きに通り過ぎる際に美しいママと目が合った。
気にはなった。
そして帰る際、EGO-WRAPPIN’の楽曲「満ち汐のロマンス」の美しく透き通ったメロディがその店から聞こえてきて、思わず立ち止まった。
東京に帰ったら、思いを伝えられるだろうか。
町にはチャルメラの音が聞こえていた。
若戸大橋のたもとにて。
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