「鉄旅日記」2008年初夏 初日(東京-和歌山)その1-浜松、豊橋、大垣、京都、六地蔵、城陽、京終、帯解、天理、桜井(東海道本線/奈良線/桜井線) 【まほろばの路から紀州へ。紀伊半島で過ごした短い夏の記憶でございます。】
鉄旅日記2008年7月19日・・・浜松駅、豊橋駅、大垣駅、京都駅、六地蔵駅、城陽駅、京終駅、帯解駅、天理駅、桜井駅(東海道本線/奈良線/桜井線)
2008・7・18 23:12 東京駅を出て
残した仕事はない。
GHC王者の森嶋猛が、元タッグパートナー力皇猛を下してV2を果たした試合をリアルタイムで見て、部屋を出てきた。
旅立ちに伴う不安はいつものとおり。
ビールと西郷さんの言葉で冷静さを取り戻す。
今夜の夜行は満席になるらしい。
隣にはトレパン姿の巨大な男が座っていて、間断なく枝豆を口に運び、たまにため息をつく。
いい夜とは言えないが、きれいな月が出ている。
彼女にそう伝えたよ。
2008・7・19 3:18 浜松(はままつ)駅(東海道新幹線/東海道本線 静岡県)
長らくの停車。
貨物列車の通過音を聞いている。
今夜は列島のどこからでもあの美しい月が見えそうだ。
あの美しさをケータイのカメラで収めようなどと、馬鹿な望みだ。
だからあの月を覚えていよう。
4:34 豊橋(とよはし)駅(東海道新幹線/東海道本線/飯田線/名鉄本線 愛知県)
3度目になる豊橋の朝。
今日はよく晴れる。
隣の男は悪い人間じゃなさそうだが、むさ苦しい。
その男も発生源のひとつだが、時折品のない欠伸の音が聞こえてくる。
焼きそば、お好み焼き、たこ焼きをはさんだお祭りサンドが美味い。
出発の頃には夜もだいぶ明けるだろう。
6:55 大垣(おおがき)駅(東海道本線/美濃赤坂支線/樽見鉄道/養老鉄道 岐阜県)
夜行列車は無事に終着駅に着いた。
豊橋からはよく眠れる。
いつものことだ。
夜行で大垣まで。
これから何度同じスタートを切ることになるだろう。
大鉄道基地を後にして西へ、南へ。
不安はすでに消えている。
8:57 京都(きょうと)駅(東海道新幹線/東海道本線/山陰本線/湖西線/奈良線/近鉄京都線 京都府)
米原で乗り換えて、また眠りに落ちる。
この区間も快眠区間と言える。
関西人とは相性がいい。
だから安心できる。
大垣から2時間。
近江の景色は素晴らしく、瀬田、石山、膳所、山科。
いつかまた近い関係性を持つだろう。
女性が美しい。
かつて恋に落ちた、あの恋人は今どこにいるのだろう。
9:41 六地蔵(ろくじぞう)駅(奈良線 京都府)
京都と奈良。
古都を結ぶ奈良線は単線。
20分に1本くらいの割合で走っている。
ここは宇治市。
駅名町名の由来はどこにも書かれていない。
駅前は寂しく、地下鉄が走っていることが信じがたいような風情だが、イトーヨーカ堂と共存するように、古い商店街が通りの先に見えた。

しばらく都会とはお別れだ。
そんな町に降りたから、蝉の声に気づく。
東京じゃ聞かない種族の声だ。
10:11 城陽(じょうよう)駅(奈良線 京都府)
湿気は感じない。
懐かしい夏の暑さ。
東京都心や普段暮らす下町にも、もう2度と訪れることはない清々しい夏。
駅前に商店はなく、閑散としたロータリーに白い校庭が広がる学校。
近くには古墳群や、夜叉婆さん伝説の地があると書かれている。

奈良へ向かう一本の電車道は素朴な風景の中に敷かれている。
目が合った外国人と笑顔の交換。
階段を掃いていたオジサンが声をかけてくれる。
この青空を覚えていたい。

11:03 京終(きょうばて)駅(桜井線 奈良県)
木津川を渡り木津、そして奈良。
完成はまだだったが、奈良駅は着々と姿を変えつつある。
桜井線に乗り換えてひと駅。
その名から、降りることを楽しみにしていた京終駅は、廃れた無人駅だった。


都の果ての風景に、切り裂くような虫の声。
あれはやっぱり蝉なのだろう。
盛大に鳴く前の音合わせのようだ。
背後から聞こえる声は、幼い女の子とおばあちゃん。
振り向くと、京終という町に相応しい風景があった。

暑いな。
でも東京のような不快さはない。
こうして座っていると、心地いい風が足元を通り過ぎていく。
11:41 帯解(おびとけ)駅(桜井線 奈良県)
蝉の声に心地いい風。
この暑さなら我慢できる。
そして都会の暑さの異常さを思う。
関西は人情も言葉もいい。
滑らかで耳に優しい老婦人の会話に耳を傾ける。
「豊饒の海」に登場する帯解。
最終章の情景にも現れる町。
帯解寺に行ってみた。
天皇家と関係を持つことは分かった。


外国人をよく見かける。
日本人として、その事実を喜ぶ。
東京も彼等にはエキサイティングだろうが、誇れるのはこっちだ。
帯解もまた無人駅。

12:23 天理(てんり)駅(桜井線/近鉄天理線 奈良県)
「ようこそおかえり天理へ」。
そんな看板が迎える街。


駅前には天理教団の気配はなく、地図を見ると多くの古墳群を有していることを知る。
天理教の教義とはどのようなものだろう。
広大なロータリーに目を奪われるが、脇には天理本通という長いアーケード街があり、歴史を教えてくれる。
駅の背後にある田井庄池も素晴らしい。

どことなく奈良の街に似ていた。
残念だが、今年の夏の甲子園に強豪天理高校の姿はない。
13:39 桜井(さくらい)駅(桜井線/近鉄大阪線 奈良県)
天理と同じく、JRと近鉄線が乗り入れる桜井。


遠い昔に何事かがあった街。
かつての支配者が造った一帯。
当時の人口はとても少ない。
そんな時代に人々が集まった一帯。
現在その地域の商店街は廃れ、ボーリング場はかろうじて営業しているようだが、まるで廃墟のようだ。
駅前雑居ビルの窓に貼られた入居募集の貼り紙は傾き、入るアテをしばらく持ちそうにない。
昼食をとるのに苦労はしなかった。
喫茶店のご夫婦の気遣いは素晴らしく、正しい盛りつけの三輪ソーメンにビール。
懐かしい気持ちにさせてくれる小路で足を止める。
「国の始まりは大和の国」。
かつて聞いた車寅次郎の売り口上。
その国で夏を想う。

本屋に寄る。
美しい女性を見て、桜井の印象をあらためる。
この国の女性にはいつまでも美しくあってほしい。
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