「車旅日記」2006年皐月 3日目(仙台-大曲)その2-羽前豊里駅、真室川駅、及位駅、院内駅、湯沢駅、横手駅、後三年駅、大曲グランドホテル 【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】
車旅日記2006年5月4日・・・羽前豊里駅、真室川駅、及位駅、院内駅、湯沢駅、横手駅、後三年駅、大曲グランドホテル
14:15 羽前豊里駅(738㎞)
駅では少女たちが待っている。
広場では少年たちが縄跳び遊びをしている。
この村じゃオレが吸っている煙草は手に入らない。
奥羽本線は秘境に入っている。
単線の線路が果てしなく延び、平行する県道を往く車はない。
広場では桜木が対に植わり、実りある春を実感させる。
日差しに喜び、駅舎はあたりの家屋と同じような姿をしている。
壁が新しいから、開業当初のものではないだろうが、あるいはそうした駅舎なのだろうかと思わせる古風な姿だ。
少し先に城跡があるようだ。
14:33 真室川駅(742㎞)
駅名になっている川に沿って北上している。
ここは町だ。
観光用ポスターが貼られている。
梅の里、真室川には真室川音頭があり、昭和の初めには随分と流行ったという。
あたしゃ梅の花。
蕾のうちから男が奪いにやってくる。
そんな内容だ。
地主の家のような立派な駅舎内では物産展を開催していて、草餅を購入した。
これが昼飯になる。
たいしたものを求めちゃいなかった。
これでいい。
そしてやはりここでも、オレが吸う煙草の銘柄は売っていなかったよ。
15:13 及位駅(766㎞)
駅名は「のぞき」と読む。
大昔に山伏が崖の端から宙づりになり、中腹にある穴を覗くという修行をこの地で行ったことにちなむという。
その修行を終えて偉くなった者が京の都に上がり、天子様より位を授かったという。
それで位に及ぶか。
今でも奈良の方ではこの恐るべき修行を行っている一団がいるという話。
明治37年開業ということは、この簡素で味気ない駅舎は何代目にあたるのだろう。
自転車が置いてあるから利用者はいるのだろうが、人家はまばら。
駅には雪が残り、もう県境が近い。
15:38 院内駅(775㎞)
豊富な雪をかぶった鳥海山は彼方。
雄勝トンネルを抜けて秋田県に入った。
奥羽本線は新庄を出て以来、山深い地帯を通ってきた。
ここ院内には秋田藩の関所跡があり、縄文の発掘跡があり、院内銀山跡がある。
明治に入ってドイツ人技師を招き、住まわせた館を復元したものが、駅舎と一体となった院内銀山異人館。
明治を象徴するレンガ造りだ。
旧駅舎はそう遠くない過去に焼けてしまったという。
近くには城跡があり、キリシタン殉教碑があるという。
奥羽本線開業時は新庄院内間のみで、今も日に2本ほど院内止まりの列車がある。
雄物川に接したこの小さな町が持つ様々な歴史に惹かれた。
16:14 湯沢駅(793㎞)
街に着いた。
ずいぶん久し振りに街に着いたよ。
13号国道も奥羽本線も鄙びた一帯を走り抜いて、ようやく街に着いた。
国鉄文化を残す三角屋根の駅舎が建っている。
古びた跨線橋が、風雪に耐えて現代に至った様を体現している。
湯沢は、かつて秋田方面から鳴子温泉に向かう際に通った地点で、あの時は暗くなる頃で心細く、必要以上にあたりを暗く感じてしまったけど、明るい街だ。
商店もどうやら元気そうで、名店街という昭和の路地に湯沢が歩んできた歴史を想像する。
17:04 横手駅(813㎞)
今日もいよいよ終盤戦。
まだ日は暮れないが、大曲で前進行動を停止する。
かまくらの里、横手の駅は雪国特有の横長の鉄筋造りで、緑色をしている。
かまくらだけあって、豪雪地帯なのだろう。
街はなかなかのものだ。
きっと大曲でも失望せずに済むだろう。
ユニオンという百貨店が駅前にあり、人々が集まっているけど、ここは雪国。
ペラペラ喋る姿を見ない。
土産をここで買い込んだ。
横手は奥羽本線と北上線が交わるターミナル駅。
かつて車の旅で、ここから北上へ向かったことがあった。
城下町、横手。
駅舎の屋根に取り付けられた大きな看板がそのように謳う。
17:38 後三年駅(820㎞)
1,000年前の古戦場に、1,000年後の夕日が落ちようとしている。
親子がキャッチボールをしていて、駅にいた二人の少女の言葉に秋田訛はなく、東京人のようにラフな格好をしている。
何度かペンキを塗り替えたような駅舎は、古くも見えるが、案外新しくも見える。
後三年の役の最終決戦地、金沢の柵が近くにあり、駅名はその古事にちなむ。
この国最初の兵糧攻めが行われた戦いだったという。
東北人はこの戦争に対して、今もなお恨みを残しているという話を何かの本で目にしたことがある。
そして奥州藤原氏はこの地ではなく、岩手の平泉で繁栄を築いた。
無人の駅の周囲は秋田平野。
清原一族が最後の望みを託した地はのんびりとしたところだ。
雁の群れの乱れから伏兵の存在を知った「雁行の乱れ」。
剛に見える武者と臆病に見える武者を分けて、武者の健闘を煽った八幡太郎義家の「剛臆の座」。
鎌倉武士の象徴とも言えるような剛勇、若干16歳の鎌倉権五郎の奮戦。
多くの逸話と悲劇を残した古の古戦場に日が沈む。
20:47 大曲グランドホテル610号室(838㎞)
この街に着いてから3時間近くが経とうとしている。
湯沢、横手と辿ってきて、ここ大曲の活気のなさが信じられなかった。
何が基準なのか。
まさか地理的に東京から離れていることが原因ではないだろう。
大曲駅の現在の姿は秋田新幹線開通によるものだろう。
この街で一番の現代的な建築物と言える。

だけど大曲を故郷に持つ者を除けば、多くの旅行者はここを素通りして秋田に向かうのだろう。
オレも当初は秋田で今夜の宿を探した。
大曲の存在は20年前から知っている。
その10年前にこの街で、王者組ジャイアント馬場、ジャンボ鶴田の最強師弟コンビに、挑戦者組テリー・ファンク、ディック・スレーターのテキサス師弟コンビが挑んだ王座戦が組まれたことを知った。
当時この街に何があったのだろう。
奥羽本線と田沢湖線が交わるターミナル駅としての事情は当時から変わりはないが。
かつて、プロレス一座が各地を巡って王座戦を組む地方都市は、多くは今じゃもう閉山して賑わいを失った炭鉱町だった。
他の理由ももちろんあるが、ここ大曲でもその後そうした興行は打たれていない。
変化を押しつけるわけじゃないが、秋田新幹線や秋田自動車道は大曲に何をもたらしたのだろう。
そう思うのは、そうしたルートから外された湯沢、横手の方が街道は賑わっていたから。
スローガンが街に貼られていたよ。
山形新幹線を新庄から大曲へ延伸せよと。
JR東日本で検討されたことはあるのだろうか。
実現する可能性は乏しいように感じる。
大曲は市町村合併により大仙市となった。
人口は10万人に満たない。
駅前通りのホテルのネオンは半端な光を放ち、飲み屋はどれもぱっとせず、久々に再会したといった背景を持つであろう男たちが入っていった店も覗いたが、結局は百貨店の蕎麦屋に入って酒を飲んだ。
客はオレひとりで、同じフロアーにある「美味しい生ビール」と謳う焼肉屋は早々に店を閉めていた。
ミュージック・バーという洒落た店も角にはあったけれど。
昨夜の仙台では空を見忘れた。
星がどれだけ見えるか本当は知りたかった。
ここ大曲の空に見える星はあるかなしか。
天気が少し崩れている。
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2008年初夏 初日(東京-和歌山)その1-浜松、豊橋、大垣、京都、六地蔵、城陽、京終、帯解、天理、桜井(東海道本線/奈良線/桜井線) 【まほろばの路から紀州へ。紀伊半島で過ごした短い夏の記憶でございます。】
鉄旅日記2008年7月19日・・・浜松駅、豊橋駅、大垣駅、京都駅、六地蔵駅、城陽駅、京終駅、帯解駅、
-
-
「車旅日記」2004年夏 4日目(鹿児島-田原坂-長崎)走行距離384㎞その2-田原坂古戦場跡、大牟田駅、肥前山口駅、長崎ニューポート 【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】
車旅日記2004年8月14日・・・田原坂古戦場跡、大牟田駅、肥前山口駅、長崎ニューポート 2004
-
-
「鉄旅日記」2014年夏 最終日(呉-東京)-呉、広、竹原、安芸幸崎、松永、東尾道、相生、西相生、比叡山坂本、用宗、富士、沼津(呉線/山陽本線/赤穂線/湖西線/東海道本線) 【青春18きっぷで、中国ぶらぶら旅】
鉄旅日記2014年8月17日・・・呉駅、広駅、竹原駅、安芸幸崎駅、松永駅、東尾道駅、相生駅、西相生駅
-
-
「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】初日(東京-大阪茨木 R246→R1→名神高速)その1-町田、御殿場、道の駅富士川、静岡駅、掛川
車旅日記1996年5月3日 1996・5・3 0:36 東京町田 旅が始まる。 今はそれ以外の感慨
-
-
「鉄旅日記」2007年如月 2日目(天王寺-奈良)その1-南霞町、浜寺駅前、浜寺公園、羽衣、春木、和泉大宮、岸和田、和歌山市、和歌山港、堺(阪堺電気軌道/南海電鉄南海線) 【初日天王寺、2日目奈良。宿泊地だけを決めて、心のままに移動した記録でございます。】
鉄旅日記2007年2月11日・・・南霞町駅、浜寺駅前駅、浜寺公園駅、羽衣駅、春木駅、和泉大宮駅、岸和
-
-
「鉄旅日記」2013年如月【休日おでかけパスで、上総下総途中下車旅&習志野シンフォニックブラス(NSB)演奏会】その1-我孫子、東我孫子、新木、湖北、布佐、小林、木下、安食、下総松崎、成田空港、酒々井、物井、東千葉、本千葉、西千葉、新検見川、幕張、東船橋、津田沼(成田線、総武本線)
鉄旅日記2013年2月17日その1・・・我孫子駅、東我孫子駅、新木駅、湖北駅、布佐駅、小林駅、木下駅
-
-
「鉄旅日記」2013年春【青春18きっぷで、房総途中下車旅】その2-上総興津、安房小湊、安房天津、安房鴨川、和田浦、九重、若井、竹岡、上総湊、佐貫町、青堀、稲毛海岸、新習志野(外房線、内房線、京葉線)
鉄旅日記2013年3月9日その2・・・上総興津駅、安房小湊駅、安房天津駅、安房鴨川駅、和田浦駅、九重
-
-
「鉄旅日記」2012年夏【青春18きっぷで、みちのくひとり旅】最終日(羽後本荘-東京)-羽後本荘、古口、袖崎、天童、漆山、かみのやま温泉、山形、左沢、寒河江、長町、太子堂、南仙台、名取、館腰、船岡(羽越本線、陸羽西線、奥羽本線、左沢線、東北本線)
鉄旅日記2012年8月15日・・・羽後本荘駅、古口駅、袖崎駅、天童駅、漆山駅、かみのやま温泉駅、山形
-
-
「鉄旅日記」2019年如月 最終日(安中-東京)その2-屋代、坂城、小諸、三岡、中込、羽黒下、松原湖(しなの鉄道/小海線) 【週末パスで東京から伊豆。そして上州、信州へ。友人は言ったものでございます。何気に大層な移動距離だと。】
車旅日記2019年2月10日・・・屋代駅、坂城駅、小諸駅、三岡駅、中込駅、羽黒下駅、松原湖駅(しなの
-
-
2018年初秋 最終日(桑名-東京)その1-桑名、養老、大垣、揖斐、垂井、美江寺、本巣、樽見(養老鉄道/東海道本線/樽見鉄道) 【JR東海&16私鉄乗り鉄☆たびきっぷ」でめぐる東海旅】
鉄旅日記2018年9月16日・・・桑名駅、養老駅、大垣駅、揖斐駅、垂井駅、美江寺駅、本巣駅、樽見駅(
