「車旅日記」1998年夏【20代最後の旅でございます。青森港から北海道上陸を目指して北へ向かったのでございますが・・・。】最終日(鳴子温泉-高畠ー郡山-東京)-鳴子サンハイツ、潟沼、瀬見駅、道の駅むらやま、羽前中山駅、高畠、道の駅七ヶ宿、道の駅安達、郡山文化センター前、須賀川駅、西那須野三島セブンイレブン、与板ラーメンとん太、築地電通前、東京町田
車旅日記1998年8月14日
1998・8・16 8:26 鳴子サンハイツ
5日目。
一番遅い出発になる。
部屋から見える風景を見ながら茫然としていた。
結果、朝食に40分をかけた。
これまでの人生で一番のんびりした朝飯だったかもしれない。
ここの湯は最高だ。
露天風呂に行こうと思ったが、先客に遠慮して、内湯の熱い方に心行くまで浸かった。
彼女に手紙を書きたい。
だけど何も考えられない。
旅に出ないと味わえない心境だ。
東京に帰った明日、数人の友人に残暑見舞いを書くつもりでいる。
オレの夏はこんな具合だったと。
こっちの夏はこんなにも寒い。
冷害が心配だ。
雨はようやく上がった。
心穏やかに少し眠った。
やがて潮が来て立ち上がった。
至福の時がそこにあった。
9:27 潟沼 1624㎞
奇妙な沼の周辺にクレー射撃の銃声がこだましている。
沼は何事もないように、ひっそりと酸性の匂いを漂わせて沈黙している。
通るたびに魅力を感じてきたが、近寄りがたい雰囲気を持つ沼ではある。
以前晴れた日にここで仲間と写真を撮った。
確か2年前のことだ。
残りはずっとひとりで眺め続けている。
10:20 瀬見駅 1659㎞
太陽が顔を出し始めた。
帰りの東北路は大概晴れている。
以前から気になっていた小さな温泉街に寄ってみた。
時間的余裕があれば、こんな町に泊まってのんびりもしてみたい。
旅情にあふれている。
11:29 13号国道‐むらやま(道の駅) 1700㎞
以前通った時、確かこの駅はなかったはずだ。
東北は道路行政にかなり熱心で感心する。
太陽が姿を見せ始めてからしばらく経つ。
気温は上がり続けて27度と出ている。
梅雨の明けない東北では、今年最後の夏らしい日になるのかもしれない。
目の前では緑色の稲が風に揺れている。
これが東北の夏。
昨日はきっとビールを飲みすぎたのだろう。
さらに朝の天気も影響してか、イマイチ気分が優れなかったけど、ようやく調子が上がってきた。
自由の日、最終日。
楽しくいく。
12:43 羽前中山駅 1749㎞
一気に走るのに適当な距離をきて、この駅へ。
待ち人はひとりもいない。
ここに着いた時ちょうど山形行が行った後で、ひとりの客が降りたようだ。
その客を初老の男性が迎えに来ていた。
人が作る穏やかな風景。
ホームに上がると、あたりに山形の小さな風景が広がった。
レールや敷石でさえ自然と同化している。
呆然としていると不意にアナウンスが入り、上り列車が通過すると告げた。
ホームから離れていると7両編成の東京行「つばめ」が通り過ぎた。
車内はすでに混雑を極めていた。
あれだけの人間がいっぺんにここを通ることはそうはないだろう。
そして乗ってるいる者は誰もこの場所を気に留めない。
そんなところだ。
ケータイの電波も届かない。
しかし線路は続いている。
そう、どこまでも。
13:53 113号国道‐高畠町 1768㎞
友と連絡がつかないまま食事を済ませた。
ひとりでやってきた中年男性がいたが、彼も旅の途中だったのだろうか。
彼の穏やかな表情に好意を持った。
オレが店を出る時、彼は土産物を見ていた。
大切な人がいるのだろう。
そう願った。
それにしても米沢牛は美味かった。
これから行こうとしている上空を厚い雲が覆っている。
峠道だから、おそらく途中でひと雨くるだろう。
そしてそのロードが今回最後のカントリー・ロード。
あとは4号国道に出てそのまま東京に向かう。
福島あたりじゃ今も渋滞が続いているのだろう。
14:43 113号国道‐七ヶ宿(道の駅) 1800㎞
素晴らしいドライヴィング・ロードだった。
ここはとても小さな町で、ケータイの電波は届かない。
目の前にはダム湖が広がっている。
大好きな水のある風景。
水を噴き上げたりしているが、そんなことをしなくてもいい。
水面は穏やかなものだ。
いずれにしろここが最後の観光スポットになるだろう。
だから目を大きく見開いて湖をしっかり眺めた。
とても幸せだ。
16:44 4号国道‐安達(道の駅) 1847㎞
知っている限りではこれから東京方面に向かう道に駅はない。
ここが最後だ。
そして友が暮らす街まで30㎞。
もうすぐそこだ。
彼からの連絡はまだない。
再会できるかどうかまだ分からない。
会いたいけど、心置きなく仕事はしてもらいたい。
オレたちは責任ある世代だから。
コーヒーを飲んでいると、ガラス越しに老竹細工職人の小さな背中が見えた。
そして地元の力強そうで人懐こい笑顔の持主が、老職人の技術に対して敬意を持った表情で眺めている。
いいなあ。
ああいうの。
これから再会を約束している友人は、おそらくああいうオジサンになるだろう。
しばらくしてオレも老職人のところにいって、その笑顔を見て、背中掻きとツボ押しが一体になった800円の品を購入した。
これから渋滞するとこうしたものが必要になる。
老職人は不器用に、しかしとても丁寧に頭を下げた。
「頑張ってください」。
そう言って品物を受け取り、その場を後にした。
駐車場整理係の女性は軽く横にステップを踏みながら誘導している。
彼女の仕事振りには誇りを感じる。
郡山に着くまでに友から連絡がなかったら、そのまま東京に向かう。
互いにとって、それがいいのだろう。
18:00 郡山文化センター前 1878㎞
友からの連絡はなく、彼の家に連絡を入れた。
しばらく会っていない優しい奥さんが出て、当たり前だが友の不在を告げた。
このまま東京に帰ります。
そう伝えてください。
そう言って電話を置いた。
約束だ。
それでいい。
18:35 須賀川駅 1891㎞
あといくつこんな駅に寄れるだろうか。
地方都市の駅というより東京の駅に近い姿をしている。
でも中にコミュニティセンターなどがあって、地域性のあるちょっとした雰囲気を持っている。
テープは憂歌団の切なげなブルース。
「家に帰ろう」。
そんな楽曲があった。
一緒に歌った。
家に帰ろう。
あたりはだいぶ暗くなった。
さあ、家に帰ろう。
20:08 4号国道‐西那須野三島セブンイレブン 1954㎞
福島を後にしたら毎度のような過酷なレースが始まった。
東北路はよかったよ。
道路行政がしっかりしていて。
このたりじゃ国道沿いで一番目立つのはラブホテル。
あとはオレにしてみればどうでもいいものばかりが建っている。
次はどこで止まれるだろうか。
このままノンストップでいくには東京はあまりにも遠い。
だがそれだけの気力は持っていなくちゃいけない。
21:07 4号国道‐矢板ラーメンとん太 1981㎞
食事が済んだ。
タフでいることを強要している。
これも紛れもなく旅。
それなりに楽しんでいる。
東京突入の際はやっぱりストーンズがかかっているだろう。
24:13 築地電通前 2104㎞
春日部を過ぎると東京だった。
気温とともに湿度も高くなった。
今夜は熱帯夜。
東京では、車の流れが途絶えることはなく、救急車はフルに出動して、渋滞表示は各方面に延び、時折道路工事が道を封鎖し、信号ごとに止まらされ、通りを歩く男女は艶めかしい。
それが東京。
だけど東京圏に入ったとたんにほっとしていることに気づいた。
やっぱりここがオレの故郷。
どうもそのようだ。
ぶっ通しで120㎞走った。
ここは普段仕事で通っている町。
最後にここに寄ったのも今後のオレを暗示しているようで、なんかおかしい。
この場所がこんなにも静かなのは初めてだ。
さあ帰ろう。
東京に着くと彼女の顔が見たくなる。
オレの故郷。
そして彼女が暮らす都会に帰ってきた。
26:07 東京町田 2140㎞
東京に戻ると暑い夜が待っていた。
築地からは順調とは言えない運びだったけど、平日にかかる時間よりは少しはマシだった。
環七から環八へのあの渋滞は何だったのだろう。
相変わらずの道路工事か事故か、あるいは暴走族が暴れていたのか。
あのまま渋滞に巻き込まれてその正体を見たいとも思ったけど、やめた。
ガソリンも底をついていたことだし。
仮に暴走族が暴れていたのなら、その数にもよるが、そうした手合いに挑む気力はあった。
正直な話、車内に何か武器になるものはないか見渡しもした。
いずれにしろ深夜に至るまで東京は狂っているというお話。
無事に家に帰って酒を浴びて、かなり酔った。
これも旅の疲れなのだろう。
でも酔わなきゃ眠れない。
こんなにも暑い夜は久しぶりだ。
おやすみコロナよ。
おやすみ、今夜を路上で明かす旅人たちよ。
オレはこうして家に帰り着いている。
ひげは明日にでも剃るつもりでいる。
もう伸ばし続ける理由もない。
旅の中では、彼女はずっと夢の中にいた。
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