「車旅日記」2004年夏【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】初日(佐賀空港-筑豊-別府)走行距離254㎞その2-田川後藤寺駅、豊前川崎駅、宝珠山駅、日田駅、豊前中村駅、鳥栖駅、別府・ホテル清風屋上ビヤガーデン
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最終更新日:2020/09/11
旅話 2004年
車旅日記2004年8月11日
14:42 田川後藤寺駅(佐賀空港より110km)
かつて男たちがシャベルを担いで向かった山を探した。
丘の上から山頂が削られた山が見えた。
香春岳は、あれか。
町へと、下りていく。
駅は、小さな教会を連想させた。
筑豊の象徴的風景だったボタ山は住宅団地に変わり、長屋のような炭坑住宅もまたモダンな物に造り変えられ、オレが見たかった筑豊の風景は、もうどこにも残っていないことを、駅の案内で知った。
あれだけ走り回ったのに、見つからなかったわけだ。
オレにとっては、何かが足りない風景だった。
この駅も、以前はもっと重厚な姿をしていたのじゃないか。
新たな筑豊として始めていくにあたり、建て替えられたのに違いない。
駅員に断って、便所を借りに改札を越えると、ホームに炭坑時代の歴史を見たような気がした。
跨線橋の階段に新聞紙を敷いて座っていた人々は何だったのだろう。
土地の言葉はどこからも聞こえてこなかった。
2009年9月19日撮影
2015年8月15日撮影
15:10 豊前川崎駅(佐賀空港より115km)
お盆ということもあるのかもしれないが、田川の商店街は閉まり、活気は見られなかった。
やがて豊前川崎を示す案内表示を見かけ、まるで大きな交番のような駅舎を発見する。
ここが、以前はターミナル駅だったと知ったのは、つい最近のことだ。
改札の先の空地に伸びた草々が、生暖かくぼんやりとした風に揺れている。
このあたりは日本一柄が悪く、筑豊ナンバーの車には気をつけろと、知人に言われたことがあるが、そんなことはない。
閉山とともに、荒くれ男たちも町を離れたのだろう。
駅前にめぼしいものはなく、宿泊施設もない。
脇に小さな神社があり、駅を跨ぐ無味乾燥な道が見える。
さっきは、あの道を通ってここにやってきた。
今オレが眺めている筑豊は、どこか別な町のように感じる。
筑豊と炭坑を結びつける世代は、もう消えつつあるのかもしれない。
この変貌は、よそ者のオレには寂しいが、地域住民が選んだ道だ。
筑豊の未来が、輝かしいものであるように。
16:15 宝珠山駅(佐賀空港より154km)
蛇行道を走り、少し疲れた。
涼しい風が吹いてきた。
5月の北海道が懐かしい。
201号国道から、211号国道へ。
素朴な田舎道から、陶器道へ。
途中に、筑豊の象徴でもある遠賀川源流地点を見て、ここで別のルートから峠を越えてきた鉄道と再会。
駅への表示はなく、川を渡ると旧校のような駅舎に出くわした。
古く鄙びた構造物に歴史を感じたかったが、肥前も筑豊も、駅舎も町も姿を変えていた。
でもここはいい。
暗くなったら、あの味のあるランプに、あたたかな色をした灯が点るのだろう。
この峠の小さな村にいることが。
東京の誰もが知らないような、この駅で涼んでいることが。
オレにとっては十分な旅の目的になる。
蝉の声は大きくないが、夏の音に囲まれている。
16:58 日田駅(佐賀空港より168km)
天領日田へ。
日田温泉を持つ、賑やかな街。
日の当たる、開けっぴろげで開放的な待合所で、可憐な少女が汗を拭きながら、列車の到着を待っている。
穏やかでいい街だ。
ビヤガーデンがあるなぁと見上げていると、蝉の声に交じって流行歌が聞こえてきた。
今日3本目の飲料水を求め、今日という一日の終わりが見えてきた。
こうしてオレは、歴史的な街に辿り着いている。
近くに象徴的な川が流れているはずだ。
そこには、昔ながらの石造りの橋でも架かっていそうだ。
東京の暮らしに疲れた男が、この街を故郷に持つ女性に魅かれて、新しい生活を始めた。
そんな話が映画「男はつらいよ」に登場する。
街に17時を告げるメロディが鳴り響いた。
「カラスの子供」だっけな。
夕暮れを迎えた夏の甲子園みたいに、どこか物悲しい。
2009年9月19日撮影
18:08 豊前中村駅(佐賀空港より207km)
温泉道路が日田から別府まで続く。
玖珠川沿いの国道を走ってきた。
姿のいい山に、観光客を集める豪快な滝。
夕暮れ時になって、蜩の声が聞こえだした。
瓦を乗せた、旧家のような駅舎。
駅員はいないだろうと中を覗くと、生真面目そうな表情をした鉄道員が事務仕事をしていた。
時刻表を見ると、この駅に停車する列車の本数は多くない。
この村は玖珠川からは少し離れ、九重連山登山口にあたるという。
登山客を見越してか、駅前には喫茶店、大衆食堂がある。
もっとも、営業をしている様子は見えない。
子供たちが家から出てきた。
そういうものだ。
子供たちはじっとしていられない。
夏の夕暮れとはそういうものだ。
そんな時分に走る210号国道は、美しかった。
20:50 別府・ホテル清風屋上ビヤガーデン(佐賀空港より254km)
大きな明かりをともす街、別府。
あれから、険しい男の面相をした鶴見岳を前にしながら、この街に向かった。
2年前の壮大ツアーでも、あの山は見たはずだ。
当時、山の名は知らなかったけれど、九州らしい豪壮な姿をした山を見たことは覚えている。
鶴見岳外周道路を走る気分は懐かしさを呼び、長野県白樺湖近くのエコーバレーを思い出させた。
風土も気候帯も違えど、この国には似たような風景と高原道路が存在する。
そんなことを感じたのが、東京近郊の山地のことではなく、遠く離れた九州であることが、オレには誇らしい。
由布院を抜けると、大分市内に向かう国道とはおわかれ。
蜩の声がよく聞こえる林道が、別に別府へと通じている。
鶴見岳外周地点で上り勾配になり、上がりきった地点から別府の街が遠望できる。
さらに遠くに、別府湾が見える。
2年前の続きをこの街から始められる。
夏に、西国の街にいることが懐かしく、またうれしい。
2年前の九州には、オレが見たかったものがそこらじゅうに転がっていた。
別府の街には、正直驚いた。
10号国道から駅へ向かう道は人で埋まり、まるで休日の竹下通りのようだった。
あの日は、きっと大きな祭りでもあったのだろう。
関門海峡で、あの海峡花火大会が行われた日のことだ。
そして今夜。
今年の夏の催しはすべて終わってしまった。
マンションの管理人にそう聞いたよ。
街を歩くと人の姿は少なく、駅に何らかの用を抱えた者の姿も少ない。
駅から10号国道へとつながる坂を下りていく。
1軒感じのいい店を見つけたけど、さらに先へ。
アサヒ・ビールの広告塔ともいえる、別府タワーの明かりに誘われ、海辺をさすらううちに、ビヤガーデン特有の提灯行列を暗いビルの屋上に見かけ、エレベーターで上がった。
そして、ひとり飲んでいる。
飲み食いフリーで3,000円。
安い。
料理はホテルのものだから美味い。
これをオレは、地方都市の実力と表現している。
空を見上げた。
星の見えない都会の空だ。
波の音が聞こえる。
対岸の大分の街明かりが、ほのかに見える。
飲み食いフリーといっても、ひとりじゃそうは飲めず、また食べられないものだ。
漠然と九州を想い、別府という、東京から遠く離れた街にいることを、ただただ感じていた。
いい一日だった。
ここでは気取ってもいられたよ。
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