*

「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】最終日 北陸より東京へ‐その3(R20)諏訪湖、韮崎、道の駅甲斐大和

公開日: : 最終更新日:2025/05/13 旅話, 旅話 1996年

車旅日記1996年5月6日

16:28 諏訪湖
松本市内を通過して塩尻峠を下りていく。

塩尻峠は信濃制圧戦に出た武田信玄率いる甲州勢が、山上に陣を張った信濃守護の小笠原長時軍を破るべく駆け上がった古戦場。

諏訪の盆地に下りていく道に差しかかり、眼下に諏訪湖を望む地点では目を見張る。

そこでは、かつて歓声を聞いた。
そして誘われるようにここに立ち寄った。

ここには以前、仲間と楽しく過ごすオレがいた。
家に帰ればその頃の写真が少なからず残っている。

そして今回はひとりで来た。
思えばずっと追憶のルートをたどってきた。

初めてここに寄ったのは7年前。
横には去年の夏に心を痛めて訪ねてきた友人、後部座席には二人の素敵な女性を乗せていた。

八方尾根にスキーに行った帰りだった。
二人の女性は交互にオレの横で写真に収まった。

ひとりの女性の横には控え目に少し照れたように立った。
彼女には大学卒業後に一度会って食事をしたが、その後の消息を知らない。

彼女は当時付き合っていた恋人との関係に心を痛めていて、オレに電話してきたことがある。
そして受話器のムコウで泣き出した。

そんなこともあって卒業後に会ったわけだけど、その時にはもう恋人と別れる決心を固めていて、強さのようなものを感じさせた。

数年前、彼女が暮らしていた部屋に電話を入れたら、もうそこにはいなかった。

もう一度会ってみたいけど、もう会えないだろう。
だけど彼女を思い出すようなことがあれば、その魅力的な姿を余さず覚えていることだろう。

もうひとりの年下の女性とは大胆に体を寄せて写っている。
彼女とはその後に何度か二人きりで会う機会を持ち、オレは彼女を好きになり、思いを打ち明けた。
その関係は進展することなく、おそらく彼女とももう会えないだろう。

3年前には今も続けている仲間たちとの旅行でここに立ち寄った。

当時、ブラザーと呼ぶ男と同じ女性を好きになった。
互いに意識はしたけど、友情が変わることはなく、3人で楽しくやっていたけど、やがてその優しげな三角関係にも終わりがくる。

聞くところによれば、ここで過ごした秋を過ぎて、その年のクリスマスに、ヤツは思いを打ち明けたらしい。
彼女は応じて、その事実をオレが知ったのはそれから1年後だった。

そんな過去の記憶が三度オレを湖畔に立たせた。
湖畔をとり巻く道は混雑して、かつてそこにいたいかなる時よりも多くの人々がいた。

そしてオレは初めてその場所でひとりだった。
家族に電話を入れたよ。
これから帰るって。

でも家には誰もいなかった。
だから「帰る」のはしばらくお預けだ。

恋する女よ、君より早く北陸路は抜けたけど、オレはまだこんなところにいる。
帰り着くまでは旅の途中だけど、心は帰り支度を始めている。
ただ、このまま国道を行くことに変わりはない。

君はじきに東京に着くんだろう。
素敵な旅だったことと思う。

次に会う時にはいろんな話をしよう。
今はそれだけが楽しみなんだ。

信濃路、春の訪れの中で。
いくつかの思いが去って、そこに残っていたのは旅人であるオレと、恋する女性への思いだけだった。

17:46 20号国道‐韮崎
富士山が見える。
とてもステキだ。

横には山裾を縫うように中央本線が走っている。
その線がそのまま都会の喧騒まで続いていることを知っているけど、ここでは素晴らしい旅情を身に着けている。

駅に向かう心細い道の途中で、老農夫が孫を連れて炭を焼いている。
その道をたどろうと思いはしたが、彼等の生活空間に踏み入ることをなぜか躊躇した。

そこに立ち入っていれば、あるいは故郷に似たような安らぎを得たかもしれない。
今も微かにあの風景が目に浮かぶ。

この道を以前通った時は雪に埋もれていた。

あの日はひどかった。
富士見パノラマスキー場に日帰りスキーに行き、あまりの大雪に早々に帰らざるを得ず、国道に出たら中央自動車道通行止めの表示。
そこから朝まで延々とこの道を往った。

大渋滞。
大雪の中、車列は遅々として進まない。

根拠はないが、日付が変わる頃には今よりはマシでいるだろう。
変化なし。
根拠などないが、朝になれば少しは事態は好転しているだろう。
そして変化なし。

事態は最悪の予想を遥かに上回り続け、希望が見えないこととはこんなにもツラいことなのかと、眠気と闘いながらハンドルを離さずにいた。

事態が好転し始めたのは翌日昼近く。
大月を過ぎたあたりだった。

悪夢のような一日だったが、今となれば思い出。
こうして晴れた日に通ると旅情にあふれた道であることが分かる。

ただ難点がひとつだけある。
休憩場所がないことだ。

ボチボチ疲れたよ。

18:58 20号国道‐甲斐大和(道の駅)
多少の滞りはあったけど、スムースと言っていい流れで勝沼まで着いた。

最近親父はワインを好んでいる。
だから彼のために甲州ワインを買って帰りたかった。

見つけたのは家族経営の農園。
奥さんに相談する。
つまり、どれがいいか。

彼女の意見は貴重だった。
手にしたのは白ワイン。
旅の素晴らしさを実感できる時だった。

車線がひとつ減り、前後の車はまばらになってきた。
大型ダンプの後ろについた。

ヤツは明らかに整備不良で、うんざりするほどの黒く濁った排気ガスを吐きかけやがる。
そしてオレの前をどこうとしない。

しかしやがてその機会がやってきた。
トンネルの手前に道の駅があった。

やっぱり今夜も晴れたよ。
まだ月は顔を見せていないけど、そのうちオレに会いに来るだろう。

さて、整備不良のトラックも行っちまったし、あとはオレも帰るだけだよ。

今、両親にも電話を入れたんだ。
「これから帰る」ってさ。

甲斐路、一番星輝く中で。

関連記事

「鉄旅日記」2021年夏 初日(東京-上田)その1 ‐金町、上野、高崎、水上(常磐線/高崎線/上越線) 【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】

鉄旅日記2021年7月10日・・・金町駅、上野駅、高崎駅、水上駅(常磐線/高崎線/上越線)

記事を読む

「鉄旅日記」2020年如月 最終日(釜石-東京)その4‐安積永盛、鏡石、須賀川、新白河、黒磯、宇都宮(東北本線) 【東日本大震災で被害を受けた大船渡に泊まりにまいりました。山田線完全乗車も目指しておりましたが・・。】

鉄旅日記2020年2月24日・・・安積永盛駅、鏡石駅、須賀川駅、新白河駅、黒磯駅、宇都宮駅(東北本線

記事を読む

「鉄旅日記」2009年皐月【四国へ、途中下車の旅】2日目(三ノ宮-琴電琴平)-三ノ宮、元町、和田岬、兵庫、須磨、西明石、加古川、網干、上郡、和気、高松、志度、琴電屋島、瓦町、一宮、琴平(山陽本線、和田岬支線、瀬戸大橋線、予讃本線、高徳本線、琴平電鉄志度線、琴平電鉄琴平線)

鉄旅日記2009年5月2日・・・三ノ宮駅、元町駅、和田岬駅、兵庫駅、須磨駅、西明石駅、加古川駅、網干

記事を読む

「車旅日記」2004年春 2日目(紋別-釧路)走行距離367㎞その2-止別駅、緑駅、裏摩周、摩周駅、塘路駅、釧路湿原駅、細岡駅、釧路パシフィックホテル 【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】

車旅日記2004年5月2日・・・止別駅、緑駅、裏摩周、摩周駅、塘路駅、釧路湿原駅、細岡駅、釧路パシフ

記事を読む

「鉄旅日記」2018年如月 初日(東京-直江津)その1-保谷、代々木、都留市、富士山、河口湖(西武池袋線/山手線/中央本線/富士急行) 【冬の町を見たくて、週末パスを買いました。】

鉄旅日記2018年2月10日・・・保谷駅、代々木駅、都留市駅、富士山駅、河口湖駅(西武池袋線/山手線

記事を読む

「鉄旅日記」2018年春 初日(東京-飯田)その1-国立、高尾、宮田、伊那八幡、三河東郷、新城、三河一宮(中央本線/飯田線)【伊那谷へ。長篠へ。安曇野へ。木曽へ。青春18きっぷを握ったそんな旅でございます。】

鉄旅日記2018年4月7日・・・国立駅、高尾駅、宮田駅、伊那八幡駅、三河東郷駅、新城駅、三河一宮駅(

記事を読む

「鉄旅日記」2015年夏 4日目(西鉄柳川-広島)その2-田川後藤寺、糸田、糒、金田、門司港、厚狭、湯ノ峠、四郎ヶ原、南大嶺、美祢(平成筑豊鉄道糸田線、平成筑豊鉄道伊田線、鹿児島本線、美祢線) 【日本最南端の終着駅、枕崎までの往復旅】

鉄旅日記2015年8月15日その2・・・田川後藤寺駅、糸田駅、糒駅、金田駅、門司港駅、厚狭駅、湯ノ峠

記事を読む

「鉄旅日記」2021年春 初日(東京-松本)その1 ‐金町、神田、吉祥寺、国立(常磐線/中央本線) 【週末パスで信濃へ。妙高高原駅で引き返し、松本の友人を訪ね、大糸線を旅して思い出の白馬へ。先の旅から一週間後のことでございました。】

鉄旅日記2021年4月24日・・・金町駅、神田駅、吉祥寺駅、国立駅(常磐線/中央本線) 20

記事を読む

「鉄旅日記」2019年長月 2日目(盛岡-宮古)その3-陸中野田、久慈、陸中八木、八戸(三陸鉄道リアス線/八戸線) 【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】

鉄旅日記2019年9月22日・・・陸中野田駅、久慈駅、陸中八木駅、八戸駅(三陸鉄道リアス線/八戸線)

記事を読む

「車旅日記」2006年皐5日目(青森-安達)その1-駅前ホテルニュー青森館、野辺地駅、三沢駅、十和田市駅、本八戸駅、陸中八木駅、久慈駅、岩泉駅、茂市駅 【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】

車旅日記2006年5月6日・・・駅前ホテルニュー青森館、野辺地駅、三沢駅、十和田市駅、本八戸駅、陸中

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2022年新春 2日目(湯瀬温泉-三沢)その3 ‐川部、五所川原、木造(五能線)/神武食堂 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】

鉄旅日記2022年1月9日・・・川部駅、五所川原駅、木造駅(五能線)

「鉄旅日記」2022年新春 2日目(湯瀬温泉-三沢)その2 ‐東大館、大館、弘前(花輪線/奥羽本線) 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】

鉄旅日記2022年1月9日・・・東大館駅、大館駅、弘前駅(花輪線/奥

「鉄旅日記」2022年新春 2日目(湯瀬温泉-三沢)その1 ‐湯瀬温泉、鹿角花輪、十和田南(花輪線)/和心の宿姫の湯 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】

鉄旅日記2022年1月9日・・・湯瀬温泉駅、鹿角花輪駅、十和田南駅(

「鉄旅日記」2022年新春 初日(東京-湯瀬温泉)その3 ‐盛岡、渋民、八幡平、湯瀬温泉(IGRいわて銀河鉄道/花輪線) 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】

鉄旅日記2022年1月8日 盛岡駅、渋民駅、八幡平駅、湯瀬温泉駅(I

「鉄旅日記」2022年新春 初日(東京-湯瀬温泉)その2 ‐竜田、原ノ町、鹿島、仙台、小牛田、一ノ関(常磐線/東北本線) 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】

鉄旅日記2022年1月8日・・・竜田駅、原ノ町駅、鹿島駅、仙台駅、小

→もっと見る

    PAGE TOP ↑