「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】5日目(青森-八戸-気仙沼-女川-安達)その1-駅前ホテルニュー青森館、野辺地駅、三沢駅、十和田市駅、本八戸駅、陸中八木駅、久慈駅、岩泉駅、茂市駅
車旅日記2006年5月6日
2006・5・6 8:07 駅前ホテルニュー青森館311号室
夢で見たのは仕事のことだった。
東京に帰る日が近い。
東北の朝食は質素で美味だった。
少し体が冷えている。
外に出よう。
天気予報は今日も優れないが、街には日が差している。
記憶の通り。
青森は巨大な街だった。
9:39 野辺地駅(1,277㎞)
青森駅、ベイブリッジ、テレビ塔。
すべてを記憶に収めて青森を後にした。
4号国道をまずは野辺地まで。
浅虫温泉で陸奥湾に並ぶ。
脳裏を去来する様々。
彼女が浮かべば、たまらなく抱き締めたくなる。
強くじゃなく、そっと。
野辺地は下北へ向かう道との交差点。
30年前に世界的スーパースターになる前のリック・フレアーが、この街でジャンボ鶴田のUN王座に挑戦して破れている。
その頃は今よりも人が多く、町も元気だったのだろう。
雪国仕様の駅は、静かに乗客の訪れを待っている。

2016年3月20日撮影
10:41 三沢駅(1,314㎞)
東北本線に沿って寒村を抜けていく。
乙供を過ぎ、原始の川を渡り、悲しい伝説を持つ小川原湖。
京から下った美しい姉妹の話。
基地の街、三沢へ。
郊外の団地群が風景を平凡に見せ、賑やかとは言えない街に現代的な駅が建っている。
特急列車が走り、外国人や十和田観光の人々を見る。
十和田観光線の駅舎は、昭和の匂いがたくさん詰まった薄暗く古びたコンクリート造り。
あまり見かけることのないガムの自販機が置かれ、若者たちが並んで「駅そば」をすすり、改札前では駅長が仁王立ちで客を迎えている。
JRとの間には明らかに一線を引いている。
十和田に対する誇りを「貧」で示そうとするように見える様は、古武士を思わせる。
暑くなってきた。
11:25 十和田市駅(1,326㎞)
「とおてつ」に沿って十和田へ。
妖精が暮らす湖はまだまだ遠い。
遠くに見えるのは八甲田山。
山頂付近の雪はまだ深いように見える。
かつてあの山で、死の雪中演習行軍を行った戦友を持つ弘前第八師団は、その後の日露戦争における満州黒溝台で勇名を馳せた。
その日も雪だった。
工業高校前の桜が見事で、この終着駅は百貨店に吸収されている。
開業当時の姿を想像できない。
百貨店の片隅に切符売場と待合椅子が置かれ、さらに奥には「駅そば」がある。
白い天ぷらを乗せたそばは、とても上品な味で美味かった。
「とおてつ」乗場は階段を上がったところにある。
とても狭い階段だった。
12:29 本八戸駅(1,360㎞)
三陸街道に沿って久慈まで走る色とりどりの3両編成が、高架駅に止まった。
東北新幹線が終点を迎える八戸駅は街はずれにあり、八戸を特徴づけるものはこっちにある。
坂の上から南部の都会が見えた。
通りが広く、空地の多い街だった。
弘前も確かそうだった。
駅前にシティホテルが2軒。
遠くにテレビ塔。
繁華街はどこにあるのだろう。
三陸では日常とも言える、曇り空に覆われた午後の街は気だるげに見える。
仙台まで400㎞という表示にはたまげた。
今夜そのあたりまで行くつもりでいたけど、東北とはあらためて広大なものだと思う。
今日はタフな一日になる。
ここからしばらく街が消える。
そして太平洋との再会が近い。
駅舎は客車をイメージさせるパステル色の建物で、丸みを帯びた窓が、ディズニーランド内を走るミッキー列車を思い出させた。
13:35 陸中八木駅(1,396㎞)
宮古までは45号国道。
八戸を出ると退屈な風景になり、岩手県に入る。
なかなか太平洋は見えてこなかった。
八戸線はこの駅で上下線が交わった。
久慈方面に去ったのは、さっき本八戸に止まっていた列車だろう。
重いディーゼル音がしばらく耳に残った。
駅前の見事な桜木は満開。
ここは小さな漁港。
水平線がもやっている。
2人の青年が焚火をしながら竿を振っている。
何度も同じ姿に建て替わってきたのであろう駅から人が消えて、オレは飽かずに海と駅を眺めている。
疲れが引いた。
車を降りると肌寒かった。
14:20 久慈駅(1,419㎞)
ところどころに小沢一郎代議士のポスターが貼られ、このままだと日本は危ないと訴えている。
岩手県最初の街、久慈。
北国の冷気が街中を覆い、どことなく痩せた土地を思わせる。
若者は遠慮なく岩手弁で喋り、少女たちの服装に都会の香りはない。
駅前デパートの古い建物は普段は営業しているのだろうが、今日は開いている様子はない。
タクシー会社が入っている雑居ビルが、この街じゃ一番古い建物かもしれない。
飲み屋にサウナ。
「汗が演出する」というキャッチは笑える。
南北にシティホテルが建ち、駅では宝石とアイスクリームが一緒に売られている。
三陸鉄道にもJRにも「駅そば」がある。
いろいろ言ったけど、この街も離れがたい。
2019年9月22日撮影
15:54 岩泉駅(1,487㎞)
茶と白のポニーが元気に走り回っていた。
カモメが2羽、挨拶にきてくれた。
桜の木の下では2人の少女が遊んでいた。
姉が妹に自転車の乗り方を優しく教えていたんだ。
龍泉洞がある観光地、岩泉。
町に入ると、岩がむき出しになった威容が心を躍らせる。
缺山の姿にもうならされた。
廃墟となったドライブインのような岩泉駅。
駅舎内の電気は消されていて、少年と少女が、列車を待っているのか、たんに暇をつぶしているのか、ガランとした待合室に座っていた。
駅長室だけに明かりがつき、男が団子を頬張っていた。
駅を出るとなだらかな山の連なりがある。
旅館や食べ物屋はあるが、静まりかえり、犬の鳴声だけが聞こえる。
掲示板にはこんなことが書かれていた。
「岩泉線にもう一度乗りたいな。何とかっていうトンネルに感動しました。」
ホームを過ぎても線路はしばらく草叢の中に延びていた。
迷惑はかからないだろう。
歩いていった。
でも線路の終点には行き着かない。
そこに別荘のような建物があった。
人の気配はない。
こんな終着駅の雰囲気がたまらく好きだ。
17:04 茂市駅(1,531㎞)
悠久の時と共に走る岩泉線。
この鉄道を利用してきた人々の愛情が伝わる古い駅舎。
国道から眺めた駅構内は、まるで小さな村のようだった。
険しい道だった。
鉄道も国道もよく通したものだ。
渓谷美を堪能できる山岳道路だった。
トンネルが多いが、そのたたずまいに感動した人が漏らした感想に、さっき岩泉駅で接した。
雪解け水を得た川は勢いを増し、線路が敷かれている場所の険しさには目を見張った。
茂市駅は、盛岡から宮古に出て釜石へとつながる山田線とのターミナル駅。
脇にはまだ電話ボックスが置かれている。
2020年2月23日撮影
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2006年晩秋【浜名湖へ。そして飯田線に乗って、友に会いにいったのでございます。】初日-掛川、尾奈、リステル浜名湖(東海道本線/天竜浜名湖鉄道)
鉄旅日記2006年11月3日 2006・11・3 リステル浜名湖239号室 飲みすぎた翌朝。
-
-
「鉄旅日記」2018年神無月【北陸へ。信州へ。友を訪ねての巡礼旅でございます】最終日(松本-辰野-天竜峡-岡谷-東京)その1-松本、辰野、北殿、伊那市、伊那福岡、伊那本郷、上片桐、飯田、天竜峡(篠ノ井線/中央本線辰野支線/飯田線)
鉄旅日記2018年10月8日・・・松本駅、辰野駅、北殿駅、伊那市駅、伊那福岡駅、伊那本郷駅、上片桐駅
-
-
「鉄旅日記」2014年春【青春18きっぷで、丹後若狭から北陸、信州へ】初日(東京-西舞鶴)その1-西岐阜、京都、二条、日吉、胡麻、下山、和知、綾部、高津(東海道本線/山陰本線)
鉄旅日記2014年3月21日その1・・・西岐阜駅、京都駅、二条駅、日吉駅、胡麻駅、下山駅、和知駅、綾
-
-
「鉄旅日記」2012年春【青春18きっぷで、銚子へ、房総へ。】その2-猿田、旭、八日市場、八街、成東、本納、茂原、千倉、佐貫町、姉ヶ崎、市川(総武本線、東金線、内房線、外房線)
鉄旅日記2012年3月12日その2・・・猿田駅、旭駅、八日市場駅、八街駅、成東駅、本納駅、茂原駅、千
-
-
「鉄旅日記」2016年夏【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】2日目(弘前-小樽)その1-弘前、蟹田、津軽二股、奥津軽いまべつ、木古内、札苅、桔梗、新函館北斗、大中山(奥羽本線/津軽線/北海道新幹線/道南いさりび鉄道/函館本線)
鉄旅日記2016年8月11日・・・弘前駅、蟹田駅、津軽二股駅、奥津軽いまべつ駅、木古内駅、札苅駅、桔
-
-
「鉄旅日記」2016年春【下北半島から東日本大震災被災地へ】最終日(石巻-東京)その1-石巻、西塩釜、下馬、塩釜、岩切、利府、伊達、郡山、白河(仙石線、東北本線、利府支線)
鉄旅日記2016年3月21日その1・・・石巻駅、西塩釜駅、下馬駅、塩釜駅、岩切駅、利府駅、伊達駅、郡
-
-
「車旅日記」2003年夏【北海道初上陸。2,300㎞を移動した5日間の記録でございます。】4日目(帯広-襟裳岬-苫小牧-札幌)走行距離374㎞ -帯広東急イン、帯広緑ヶ丘公園、忠類、襟裳岬、様似駅、静内駅、恵庭中島公園、札幌東急イン
車旅日記2003年8月16日 2003・8・16 帯広東急イン826号室(8月13日の函館空港より
-
-
「鉄旅日記」2009年晩秋【陰陽を行き来した3日間。この国の秋は美しゅうございました。】最終日(和田山-東京)その1-和田山、福知山、丹波竹田、石生、篠山口、三田、神鉄三田、宝塚、阪急宝塚、川西池田、川西能勢口、伊丹、阪急伊丹(山陰本線/福知山線)
鉄旅日記2009年11月23日・・・和田山駅、福知山駅、丹波竹田駅、石生駅、篠山口駅、三田駅、神鉄三
-
-
「鉄旅日記」2019年長月【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】最終日(宮古-東京)その1‐宮古、岩手船越、浪板海岸、吉里吉里(三陸鉄道リアス線)
鉄旅日記2019年9月23日・・・宮古駅、岩手船越駅、浪板海岸駅、吉里吉里駅(三陸鉄道リアス線)
-
-
「鉄旅日記」2009年秋【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】初日(東京-新山口)その2-廿日市、広電廿日市、宮島口、広電宮島口、大竹、岩国、徳山、新山口(山陽本線/岩徳線)
鉄旅日記2009年9月18日・・・廿日市駅、広電廿日市駅、宮島口駅、広電宮島口駅、大竹駅、岩国駅、徳