「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】4日目(大曲-阿仁合-弘前-三厩-青森)その2-弘前駅、つるた、毘沙門駅、津軽中里駅、三厩駅、中小国駅、駅前ホテルニュー青森館
車旅日記2006年5月5日
14:21 弘前駅(1,046㎞)
津軽平野を横断する102号国道は快走路だった。
この先に津軽の雄都弘前がある。
舞台設定は整った。
街に着いて、想像以上に小さな街であることに少しだけ戸惑いがある。
勝手な話だが、巨大な歓楽街を抱える街だと思っていた。
弘前という街の名は、オレにそうした想像を植えつけるだけのものを持っていた。
駅は賑わっている。
「駅そば」には列ができていて、寄ることは断念した。
花見客によるものか、今日一日どこのホテルも塞がっていただけのことはある。
現代的な駅舎はいつの作だろう。
改札を出た旅行者は、この先にどのような街が展開されているか大いに期待するだろう。

2012年8月12日撮影
これから少し市内を流す。
弘前城周辺には渋滞が見られそうだが、一目でいい。
姫路でもそうしたし、名古屋じゃ見もしなかったじゃないか。
可愛らしいリンゴ娘は見かけたよ。
弘前に着く前に、この街からきた大学時代の友人を思い出した。
器用な方じゃなかったし、東京に馴染むのに苦労しそうな男だった。
あるいはこの街に戻っているかもしれない。
弘前に停車する特急列車は、秋田行か八戸行しかなかったよ。
15:45 339号国道‐道の駅つるた(1,069㎞)
弘前市内を一巡。
桜祭りを渋滞の車中から愛でた。
賑わいは上々で桜も満開。
夜桜も見事だろう。
完全に雨が上がるといいけど、まだしぶとく降っている。
リンゴ畑を走るカントリーロードは素敵だった。
ここには鶴が飛来するという。
季節はいつなのだろう。
今は桜で浮かれている。
車寅次郎も桜の開花に合わせて北へ行くと、柴又を出ていったことがあった。
湿原を目にしたのはどこのことだったか。
ここには180度に広がる空がある。
16:28 毘沙門駅(1,090㎞)
岩木山を記し忘れていた。
初めはぼんやりと。
次第にうっすらと雪をかぶった姿がはっきりと見えた。
通過した五所川原駅は時代に錆びた鉄道駅だった。
2019年11月3日撮影
オレンジ色の津軽鉄道が走り、警笛が聞こえた。
真上にはテレビ塔が見えた。
ここは津軽平野の真ん中にある小さな駅。
背後は鬱蒼としている。
踏切の脇にホームがあり、よく清掃された待合小屋はうらぶれた装いで雨に打たれ、駅はわずかな灯を放っている。
カーナビの表示がなければ、ここにはたどり着けなかった。
17:04 津軽中里駅(1,104㎞)
あの時も雨だった。
五所川原ではすでに降り始めていた。
そして今日も本降り。
雨雲はここらで停滞していたのか。
津軽鉄道は奮闘しているようだ。
途中の町では梅祭りが開催されていた。
味のある提灯が街道に灯り、集っていた人々は楽しくてたまらないという表情をしていた。
津軽の終着駅はスーパーの中にある。
タクシーが待っているが、列車はさっき警笛とディーゼル音を残して出てしまった。
2019年11月3日撮影
太宰治はこの町で生まれたという。
何歳までを過ごしたのだろう。
遠く東京で死を選ぶ際、彼は何を思ったのか。
津軽を象徴するのに相応しい人物ではあると感じている。
18:36 三厩駅(1,168㎞)
十三湖へ。
龍飛へ。
いつの間にか十三湖を過ぎ、日本海に出た。
途中から道往く者の姿は絶えて、ただ一人さらに北を目指した。
龍飛への道が黒く蛇行する様は、男が行くべき道に見えた。
そして霧の中。
5月には毎年こんな目に遭う。
まさに完全に視界は閉ざされ、その中で冷静さを失わずにいられたことと、今生きていることを感謝している。
対向車に怯え、命と向き合い、猿の姿だけを覚えている。
霧を抜けると岬へは行かず、この駅への道を選んだ。
岬へ行っても何も見えなかっただろう。
最果てにしか吹かないような風の中にいる。
何もない場所に終着駅がある。
ここにいられることを喜ぶ。

2011年8月14日撮影
利用客はいるのだろうか。
待合室のストーブの火は消えている。
時刻表を見ると、青森への直通列車はほとんどなく、多くが蟹田止まりになっている。
最果ての日常の想像はつかない。
伝説じゃ、平泉を逃れた義経もこの地を目指したという。
逃げる先はここしかなかったのだろう。
密入国者に注意との看板を見かけた。
あの霧の中で一瞬、化外の連中に拉致される悪夢を見た。
19:15 中小国駅(1,193㎞)
津軽平野が夜に染まった。
軽トラックを止めたオッサンがラジオで野球中継を聞いている。
巨人ファンなのだろうな。
津軽海峡線はここから別の線路を往く。
この地域に似つかわしくない立派な高架線路が海峡を向いていた。
地上の最後の駅がここになるわけだが、海底を往く列車はこの駅には止まらない。
周囲には何もなく、駅舎もない。
国道上にはこの駅へ誘う案内表示もなかった。
また雨に濡れ、真っ暗なホームで屈伸運動。
さっきより確実に闇は深まっている。
いよいよ青森へ。
22:59 駅前ホテルニュー青森館311号室(1,230㎞)
青森もまた雨。
バイパスを通って市内に入り、ベイブリッジを渡る。
前にあの橋を渡ったのはつい最近のことだった。
記憶じゃそうだった。
でもあの頃オレは確かに20代だった。
市内を巡っている祭の列があった。
「ねぶた」が引かれていた。
強烈な光を放っていた。
5月にもこうした催しがあるとは知らなかった。
青森はたいした街。
繁華街の規模は仙台とたいして変わらず、ベイブリッジという新たなシンボルを加えた港町。
少し歩けば、かつて寄った際に、「魔宮か!」と驚愕したテレビ塔が建つ。
青森も秋田もオレにとっては雨の街。
いつも降られる。
ホテルの目の前にある居酒屋へ。
黄金週間の今日、ひとり客はオレだけかと思いきや、後から3人のひとり客が加わり、楽しくやった。
やはり弘前はどこも一杯で、その影響で青森の客室もほぼ埋まっているという。
一人の男が言った。
この連休が終われば仕事が変わると。
示唆的な話だった。
オレもいつまでもこのままではいられないと思っている。
3日前に益子で見た星が今夜も見られると思っていたけど、この様。
でもさっきも言ったように青森ではいつも降られる。
だからここじゃ雨の日が上天気。
2019年11月2日撮影
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