*

「車旅日記」2004年春【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】2日目(紋別-釧路)走行距離367㎞その2-止別駅、緑駅、裏摩周、摩周駅、塘路駅、釧路湿原駅、細岡駅、釧路パシフィックホテル

公開日: : 最終更新日:2024/05/25 旅話, 旅話 2004年

車旅日記2004年5月2日・・・止別駅、緑駅、裏摩周、摩周駅、塘路駅、釧路湿原駅、細岡駅、釧路パシフィックホテル

14:22 止別駅 (5月1日の旭川空港より518km)
思いがけず各駅停車の旅になった。
この次が知床斜里になる。

現在のオホーツク鉄道は僅かに網走知床斜里間を走るに過ぎないが、どの駅にいても満足できただろう。

駅舎は番屋風に戻り、ここには「駅馬車」という喫茶店が入っていて、狭い店内は客で埋まっている。

見渡せば知床岳はすぐ近くにまで迫り、犬が通りを横切る。

さっき行ってしまった列車が戻ってくる気配はなく、駅はひっそりとしていて、まるで何か別の役割を持たされているかのように防風林を見据えている。

風が冷たくなってきた。
知床から下りてくる風だ。
去年の夏にも斜里で凄まじいのに吹かれた。

今日は知床には行かない。
釧路への表示が出たら、それに従う。

オホーツク海とは二日後に再会する。

14:56 緑駅 (5月1日の旭川空港より542km)
知床の風景から離れ、県道に入ると国道からは見えなかったものが見えてくる。

何の畑だか知らないが、大きな凹凸の大地の先に斜里岳が見えた。

峰もまた雪を頂き、果てしなく真っ直ぐに続く道は上下する度に蜃気楼を起こし、地平線がどれくらい先なのか理解させることを拒む。

頼りない地図を見ながら釧網本線との合流を図り、やっと踏切に出くわし、この通りはどこかの駅に続く道に違いないと判断して、やがて町に入るとスキー場が見えてきた。

随分とかわいらしい駅舎だ。
町名に由来して薄い緑色をしている。

脇には雪の掃き溜めがあり、子供たちが元気に登って遊んでいる。

これだけの雪が残っている大地にいて、オレが最初に雪を踏んだのもここだった。

旅は続く。

15:25 裏摩周 (5月1日の旭川空港より560km)
雪の残る県道を南へ。

どうやら上っているらしい。
次第に脇の積雪量が増えていく。

防雪トンネルの手前で右に曲がる。

その先に展望台がある。
雪を踏みしめていかないことには、そこに辿り着くことはできない。

空はよく晴れている。
期待はした。

なかなか人界に姿を現さないという摩周湖。

去年の夏に表から見下ろした時はほんの一瞬を除いて女神に見捨てられた。

でも今日の女神はことのほか機嫌がよかった。

断崖に囲まれ湖畔に人を寄せ付けない聖なる湖は、静かにさざ波を立てて、小山を浮かばせ、世俗とは遥かに離れた眼下にその柔らかな姿を晒していた。

さっき浮かんだ女性の顔が大きくなり、やがて湖の姿とだぶった。

16:23 摩周駅 (5月1日の旭川空港より615km)
人口の構造物が電線以外に見当たらないような真っ平らな大地に、真っ直ぐな道。

いつ果てるともしれない道をひとり走る。

これが全てのドライバーが憧れる北海道。
国道ではおそらく持ち得なかった爽快な気分を味わう。
これをやりにきたんだと、あらためて思う。

あたりは一面の放牧地で雪が残り、道の先が霞んでいる。
雪原をさっき浮かんだ女性とかけ上がる姿を想った。

今は摩周駅にいる。

世界的な透明度を誇る湖の玄関口だが、裏摩周からここまで50kmもの距離を走っている。

ロータリー中央にモニュメントが置かれ、駅舎はメルヘンに満ちている。

町を見るのは久しぶりのような気になる。
道東の小さな町だ。

少し町中を流して国道に戻ろう。

釧網本線と釧路川と一緒に、これから大きな街へと下っていくんだよ。

17:20 塘路駅 (5月1日の旭川空港より664km)
少しばかり疲れて、表示に従って小さな駅に寄った。

仄かで暖かな灯りが迎える木目調のきれいな駅舎がそこにあった。

ドアを開けると駅員の姿も改札口もなく、喫茶店のカウンターがある。

5人も座れば満席になる店で、厳つい顔の主人がコーヒーを入れている。

この静かな町の5月2日は日付変更を待たずにあと数時間もすれば終わり、すべてが眠りについてしまいそうだ。

釧路川に沿って走っていた。

線路は時に顔を出し、時に林に隠れる。

川辺は最初から独特だった。

弟子屈辺りじゃ春の小川みたいだったのが、徐々に葦や茅を生やし、とうとうここにきて湖や沼をこさえるに至った。

得意先の釧路出身のIさんが教えてくれた釧路湿原の名所細岡は、駅でいえば次だ。

釧路湿原へと気持ちも高まり、お披露目の時を心穏やかに待つ。

18:08 釧路湿原駅 (5月1日の旭川空港より679km)
こんなにも素晴らしい風景が待っているとは思いもしなかった。

どう繕っても陳腐な表現になるからよそう。
暗くならないうちに着いてよかった。
かろうじて言えるのはそれだけだ。
ただただ感動したよ。

この駅には車じゃ行けない。

たいていの人々には駅の存在は目に入らず、展望台ではしゃぐだけはしゃいだら帰っていく。

誰が掃除しているのか知らないが、きれいなログハウス風の駅だった。

ドアを開けると中は暗く、自動販売機の明かりが鮮やかで雑記帳が数冊置かれていた。
めくってみると今日の訪問者が書き残したものもある。

ここは秘境の駅。
3人の男が離れがたそうにしていた。

釧路行の最終はここを20時に出る。

他の町に比べれば、駅としての一日はとても短く、人間の手のつけられない時間がとてつもなく長い。

展望台から釧路湿原を眺め、できれば湿原に下りてみたいと思った。
どうすればいいのだろう。

でもすぐに考え直した。
函館の夜景や摩周湖に触れたいと言っているようなもんだ。

そっとしておくべきだ。

18:25 細岡駅 (5月1日の旭川空港より681km)
こんな場所に来ると、オレはなかなか帰らないんだよ。
駅があって、車を止めるのに適当な場所がある。

さっきの展望台からここまでは蛇行する釧路川と並走できて、それだけで満足できたんだ。

だけどさっき持ち出した禁を破ってしまった。
どうしても触れたくなってしまったんだ。

川辺に下りて、葦や茅の上に腰かけると柔らかく、釧路川は音をたてることもなく原始的な流れを晒している。

そんな姿に打たれていると、向こう岸で川辺に向けて走り寄ってくる存在が目に映った。

熊だ!
そう思うのと立ち上がるのが同時で、泡を食って逃げた。
脱兎の如くとはまさにこのことだ。

冷静さを失ったオレは来た道を誤り、敷かれていたトタンを踏み破り、繋がれていた犬に吠えられ、逃亡者のような気持ちでどうにか車の近くまで辿り着いた。

振り替えると熊の姿はなかった。
とんでもない目に遭った。

駅はまったくの無音の中に置かれている。

これから闇に閉ざされるわけだがあたたかな灯がひとつぽつっとある。
隣接するお宅の家主がきっと面倒をみているんだろう。

釧路湿原の中にたった一軒だけたつ家から夕げの匂いが漏れてくる。

街に入るのに適当な時間になった。

22:14 釧路バシフィックホテル816号 (5月1日の旭川空港より706km)
熊に遭遇した出来事が頭を離れないまま391号国道に戻り、釧路へ。

道はスムーズに流れ、釧路は近く、ザ・ローリング・ストーンズのパリ「オリンピア劇場」での演奏が街の明かりを華やかに見せる。

街に下りてくると湿原の名残が国道沿いにも散見できる。

去年の夏に根室から釧路に向かった時、釧路川を挟んで対岸に光る街の明かりをダイヤモンドと表現したことを覚えている。

その釧路川を渡り街に入った時は、大きな街に着いたことを懐かしく感じた。

国道沿いに見慣れたチェーン・レストランや金貸しの明かりが並び、駅への道を左へ左へとハンドルをきっていくと通りの様子は落ち着き、ホテルへの道を迷うこともなかった。

旧釧路川沿いにこのホテルはある。
繁華街に位置していて外に出ると客引きの姿がいくつかある。

オレは生ビールが飲みたかったんだ。
幣舞橋という未だに読み方を記憶できないでいる街のシンボルの下を通り、「MOO」へ。

観光案内にも大きく載っていることから釧路の象徴的スポットという認識でいたけど、たいていの店は閉まり、片隅のたいしてやる気の感じられないビヤホールに入った。

店は空いていたけど、店員は3人だけでなかなかつかまらない。
苛立つ気持ちを抑えて、美味いビールとステーキを腹に納めた。

熊に出会った経験が今後の人生に大きく影響してくるといい。
完全に度を失ったけど、あの時に比べればたいていのことはマシだと思えるだろう。
それに、相手が人間であれば対処の仕様もあるだろう。

店を出て市役所通りを駅へ。

人通りはなく、大きなチャペルが見えたらあっけなく駅に到着。
カモメの鳴き声を聞いて、また去年の夏を想う。

駅前大通りを歩いてホテルに戻る。

そこでの人通りも言ってみれば昨日の紋別とたいして変わらない。
ただ、どんな街にもこんな時間帯にしか街に用を持たない連中がいて、彼等が騒ぐ声が8階のこの部屋まで上がってくる。

そして不意に彼等の声が絶えると、まるで湧る起こるようにカモメの鳴き声が聞こえてくる。

街は寒かったよ。

関連記事

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】初日(東京-砺波)その3 ‐氷見、雨晴、越中国分、伏木、中伏木(氷見線/万葉線)/義経岩/伏木神社

鉄旅日記2020年11月21日・・・氷見駅、雨晴駅、越中国分駅、伏木駅、中伏木駅(氷見線/万葉線)

記事を読む

「鉄旅日記」2020年盛夏【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】最終日(門司港-東京)その2‐若松渡場、戸畑渡場、戸畑、下関(若戸渡船/鹿児島本線)

鉄旅日記2020年8月16日・・・若松渡場、戸畑渡場、戸畑駅、下関駅(若戸渡船/鹿児島本線)

記事を読む

「車旅日記」1996年秋【夏をあきらめきれず、秋。再び夏のルートへと向かったのでございます。】初日 (東京‐三国峠‐新潟)- 橋本、拝島、東松山、籠原駅、高崎、月夜野情報サービスセンター、猿ヶ京湖城閣、越後湯沢駅、堀之内パーキング、道の駅豊栄

車旅日記1996年11月1日 1996・11・1 12:13 東京町田 昨夜の決意は固かったけど

記事を読む

「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】初日(長岡-会津-福島-山形)走行距離388㎞ その1-長岡駅、小出駅、田子倉駅、只見駅、会津水沼駅、会津坂下駅、猪苗代駅

車旅日記2005年7月16日・・・長岡駅、小出駅、田子倉駅、只見駅、会津水沼駅、会津坂下駅、猪苗代駅

記事を読む

「車旅日記」1998年夏【伊那、木曽から志賀高原へ。気乗りのしない旅で選んだ行き先は、初夏の信濃路でございました。】初日(東京-伊那-木曽)-東京町田、相模湖駅、鳥沢駅、道の駅甲斐大和、勝沼、長坂、伊那市駅、道の駅日義 木曽駒高原

車旅日記1998年7月18日 1998・7・18 12:48 東京町田 久しぶりに空がよく晴れて

記事を読む

「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】2日目(新大宮-大阪難波)その4-柏原、道明寺、河内長野、古市、畝傍御陵前、田原本、西田原本、新王寺、近鉄王寺(道明寺線/長野線/南大阪線/橿原線/田原本線/生駒線)

鉄旅日記2017年3月18日・・・柏原駅、道明寺駅、河内長野駅、古市駅、畝傍御陵前駅、田原本駅、西田

記事を読む

「鉄旅日記」2018年秋【サンキューちばフリーパスでめぐる上総下総安房旅】初日(松戸-流山-潮来-銚子-東金-松戸)その1-松戸、北松戸、馬橋、萬満寺、流山、近藤勇陣屋跡、小金城趾、幸谷、新松戸、北小金、南柏、北柏、我孫子(常磐線/流鉄流山線)

鉄旅日記2018年9月22日・・・松戸駅、北松戸駅、馬橋駅、流山駅、小金城趾駅、幸谷駅、新松戸駅、北

記事を読む

「鉄旅日記」2019年長月【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】最終日(宮古-東京)その2‐陸前赤崎、大船渡、気仙沼、一ノ関(三陸鉄道リアス線/大船渡線)

鉄旅日記2019年9月23日・・・陸前赤崎駅、大船渡駅、気仙沼駅、一ノ関駅(三陸鉄道リアス線/大船渡

記事を読む

「鉄旅日記」2016年春【下北半島から東日本大震災被災地へ】最終日(石巻-東京)その2-久田野、新白河、豊原、白坂、黒磯、西那須野、那須塩原、矢板(東北本線)

鉄旅日記2016年3月21日その2・・・久田野駅、新白河駅、豊原駅、白坂駅、黒磯駅、西那須野駅、那須

記事を読む

「鉄旅日記」2018年如月【冬の町を見たくて、週末パスを買いました。】最終日(直江津-六日町-大前-東京)その3-金島、中之条、川原湯温泉、大前、羽根尾、高崎問屋町(吾妻線)

鉄旅日記2018年2月11日・・・金島駅、中之条駅、川原湯温泉駅、大前駅、羽根尾駅、高崎問屋町駅(吾

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2021年秋【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】初日(東京-飯坂温泉)その1 ‐金町、高浜、友部、水戸、いわき(常磐線)

鉄旅日記2021年10月9日・・・金町駅、高浜駅、友部駅、水戸駅、い

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】最終日(上田-東京)その3 ‐十日町、越後川口、渋川、敷島(飯山線/上越線)

鉄旅日記2021年7月11日・・・十日町駅、越後川口駅、渋川駅、敷島

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】最終日(上田-東京)その2 ‐北飯山、飯山、蓮、森宮野原(飯山線)

鉄旅日記2021年7月11日・・・北飯山駅、飯山駅、蓮駅、森宮野原駅

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】最終日(上田-東京)その1 ‐上田、滋野、長野(しなの鉄道/信越本線)

鉄旅日記2021年7月11日・・・上田駅、滋野駅、長野駅(しなの鉄道

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】初日(東京-上田)その4 ‐長野、御代田、小諸、上田(信越本線/しなの鉄道)

鉄旅日記2021年7月10日・・・長野駅、御代田駅、小諸駅、上田駅(

→もっと見る

    PAGE TOP ↑