*

「車旅日記」2004年春 2日目(紋別-釧路)走行距離367㎞その1-紋別港、サロマ湖三里浜オートキャンプ場、芭露駅跡、サロマ湖ワッカ原生花園、網走市鉄道記念館、網走監獄、網走駅、北浜駅、浜小清水駅 【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】

公開日: : 最終更新日:2025/05/26 旅話, 旅話 2004年

車旅日記2004年5月2日・・・紋別港、サロマ湖三里浜オートキャンプ場、芭露駅跡、サロマ湖ワッカ原生花園、網走市鉄道記念館、網走監獄、網走駅、北浜駅、浜小清水駅

2004・5・2 8:12 紋別港
いい朝だ。

身に受けているこの風は関東じゃ吹いていない。

港に出る。

人気はなく、多くの漁船が岸に繋がれている。

朝方における鳥の世界がこの港にもあって、どこか退廃的な臭いを嗅いだ。

振り返ると雪の残る山がすぐそばに聳え、スキー場と思われる整然と削られた山肌が見える。

オホーツク海の風を受けたくてこの街を宿泊地に選んだ。
夜風に当たれる適当な海辺にいたかったんだ。

でも想像上のそんな場所はなく、少しばかり街を徘徊して離れる。
天国にでも行かなきゃそんな場所はないのかもしれない。

明後日のオレの気が変わらなきゃ、また紋別を通る。

9:20 サロマ湖三里浜オートキャンプ場(5月1日の旭川空港より383km)
オホーツク海とサロマ湖を隔てる砂州は、オレからすれば広大なものだった。
300~400メートルくらいだろうか。

オホーツク海に触れたかったけど、ここは遠くから眺めるべき場所と言えるのかもしれない。

ただし、奇跡的な海辺であることに変わりはなく、この場に立ちたかったことも間違いない。

湖畔に寄れば、虫の群れのような細かいさざ波が立ち、オホーツク海に目を向ければ朝靄の中でただ茫々と世界に向けて開けていた。

太平洋でも日本海でもないこの海辺で、身近なことを考えてみたかった。

でもやはり、人生の方向性は普段暮らす場所で決めるべきだ。

ただ、この旅の途中で浮かび上がるものがあるのなら、書き留めたいと思う。
それほど遠くまできた。

まだ朝も早い。
観光地には僅かな人の姿しか見られず、ここから去年の夏に通った道に戻る。

思いの外、早く戻ってこれたよ。

9:57 芭露駅跡(5月1日の旭川空港より406km)
昭和10年開業。
昭和62年廃業。

オホーツクを走る鉄道が存在したことを知った。
紋別での話はそんなに昔の話じゃなかったんだな。

湧別は鉄道ターミナル駅の役割を奪われ、現代の鉄道史からも追い出され、オレのように現在の地図だけを頼りに訪ねてくる旅行者の思考に引っ掛かりもしなくなる。

ただ、この歴史を知ったことはオレにとっては大きい。

ロマンとは未来にだけ存在するものでもなく、現在には失われているが、過去には存在したものにもある。

使用されることのなくなったこの駅舎を、20年近く保存してきた住民の気持ちがうれしいじゃないか。

朽ち果てそうなホームも遺され、線路もホームから数メートル先までは敷かれている。

そう言えば途中鉄橋も見かけた。
今じゃその上を何も走りはしない鉄橋を。

サロマ湖に沿って走るオホーツク鉄道。
そいつにオレは乗ってみたかったよ。

便所跡の脇に薪が積まれている。
ストーブの炊かれた冬には、ここには様々な人情が集まっていた。

そんな場所を奪う権限が一体誰に与えられていたんだ?

10:45 サロマ湖ワッカ原生花園(5月1日の旭川空港より442km)
暖かい一日に、まだ桜の開花を見ない北の大地の春を想う。

すでに去年の夏のルートを辿っている。
あの日は時間がなかったけど、今回はオホーツク国道を思う存分満喫できている。

さすがにサロマ湖は大きかった。

琵琶湖、霞ヶ浦に次ぐ面積を誇る湖の大きさを実感したよ。
湖の口が開かれている箇所も目にして、今は湖東にいる。

ここから先は車の通行が許されていない。
まるで国境線みたいだ。

確かにこの大地の先は日本じゃない。

朝鮮半島、ロシア。
太平洋の先にある国々が持ち合わせていない、何やら影のようなものをまとう国々がこの海の果てにある。

そう、この海は国境線なんだよ。

浜佐呂間で廃線跡を探した。

オレには分かったよ。
たぶん駅が置かれていたのはここだったんだと。

面白くなってきた。

橋の袂には踏切と客車が、意図的かどうかの判断はつかないが放置されていた。

11:31 網走市鉄道記念館(卯原内駅跡) (5月1日の旭川空港より469km)
また廃線跡に出くわした。

国鉄の民営化に伴い廃線となったと記念碑には記されている。
ここには機関車と客車が当時のまま置かれている。

ホームに上がれば野取湖が見渡せる。

道人の郷愁が雨ざらしのまま置かれている。

どんな交通手段を使ってここに入り込んだのか知らないが、記念館内にひとりの若者がポツネンとしゃがみこんでいて、オレが足を踏み入れると不貞腐れたように横になった。

独り者の気持ちがオレにはよく分かる。
ただし、彼がいつまでそこでそうしているつもりなのかまでは分からない。

次は網走。

去年の夏に足早に通り過ぎたオホーツク国道を丁寧に回る中で、もう北の大地の雄大さに驚かなくなってきていることに寂しさを感じるけど、車を走らせる気分はとても素晴らしい。

12:54 網走監獄 (5月1日の旭川空港より482km)
最果ての北の大地を切り拓いたのは囚人たちだったと知った。

旧平屋舎房内は涼しい。
とても貴重な記念館だった。

黄金週間の今日、多くの観光客がこの監獄を訪れている。

ぞろぞろと獄内見学から戻ってくる人々が、オレには囚人の群れに見えた。
いい経験だった。

これから何か悪事を目論んでいる者が、どういった経緯にしろここを訪れることがあったら、思い止まるかもしれない。

少なくとも訪問前よりはマシなことを考えるようになっているだろう。

13:20 網走駅 (5月1日の旭川空港より487km)
寒い網走で駅そばを一杯。

他にも美味そうな弁当が売られている。

そばをすすっていると、坊主頭に大きな傷をこさえた人の良さそうな小太りの男がやってきて、かけそばと握り飯を注文した。

さっき出てきたばかりなんだよ。

彼には悪いが、そう言いだしそうな風情の男だった。

待合室は暖かい。
夏でもストーブを焚いていたっけな。

網走湖畔に入り、網走川と並走するようになると網走刑務所の全容が見えてくる。

さっき網走監獄で見たような昔ながらの平屋棟が塀の外にひっそりと並んでいた。
おそらく職員棟だろう。

貧しさと「時代」がそこに見えた。
昭和の遺産があんな形で残るここ網走は、仕方ないけど昔も今も監獄の街としてイメージされている。

ただ、穏やかでいい街だと思う。
少し港の方を回ってから離れよう。

そう言えば、駅舎もレンガ造りで監獄を連想させる。

アメリカの古い歌で、ポール・マッカートニーがカバーしたことで知った「Midnight special」に、刑務所脇を通る夜行列車が放つ明かりに照らされた囚人は早く出所できると言われていて、今夜はオレの番だと夜行列車の通過を待つ囚人たちの姿がポップに表現されているが、この北の獄内ではそんな話は伝わっていそうにない。

13:45 北浜駅 (5月1日の旭川空港より501km)
網走はいい街だったよ。

刑務所に入れられる者にとっちゃ三途の川かもしれないけど、運河を挟んで縦長に広がる街には旅情があり、清潔さがある。

港の近くに品のいい商店街があった。
車寅次郎と朝丘ルリ子さん演じる旅回りの歌手、松岡リリーが出会ったのが網走だった。

出漁する父親を見送る家族を眺めながら、己の存在をあぶくみたいなものと自嘲する切なくも美しい名場面だった。

二人は、いつのことになるのか一切不明の再会を約して分かれる。

網走を出るとオホーツク国道には鉄道線路が加わり、離れずに海沿いを往く。

そして前面に知床の峰々が幻想的に現れる。

雪をかぶった頂付近だけが空に浮かんでいるようだ。

道路表示じゃ知床峠の通行は15:30以降は許されていない。
秘境とはそういう場所を指す。

車を止めた目の前を知床斜里行ワンマンカーが通り過ぎた。

今オレはとても気に入った場所にいる。
番屋のような駅に、駅事務所の代わりに「停車場」という喫茶店が入っている。

待合室の壁には夥しい数の名刺が所狭しと貼られている。

北を旅すると誰もがこんな場所に郷愁を覚えるのかもしれない。

ホームからは果てしのないオホーツク海が見渡せる。

こんな場所があったんだな。
旅で目指したい場所はこんなところだと、オレにはもう分かっているけど、いつか愛しい人と一緒にきて、そういうことだよと教えたい。

いい旅が続いている。

14:07 浜小清水駅 (5月1日の旭川空港より509km)
番屋の駅は終わり、ここには道の駅が併設され、アイスクリームを求める者やバイカーで賑わっている。

素晴らしい区間だった。
立ち止まりたくなる景観に常に包まれているんだ。

遠くに見えていた知床の峰々が近づき、右手には小さな沼が点在している。

道は時速80kmで流れ、回りも均しく気持ちよさそうに走っている。

かつて車を走らせた道の中で対抗できるのは別府大分間くらいか。
もちろんその時の気分によるし、いい加減な比較ではあるけれど。

そして走りながら、感動しながら、エアロスミスの音楽に乗りながら、ある女性の顔が浮かんできた。

関連記事

「鉄旅日記」2011年夏【みちのくひとり旅】3日目(函館-鹿角花輪)-函館、木古内、湯ノ岱、江差、津軽新城、川部、深浦、能代、東能代、十和田南(江差線/津軽海峡線/奥羽本線/五能線/花輪線)

鉄旅日記2011年8月15日・・・函館駅、木古内駅、湯ノ岱駅、江差駅、津軽新城駅、川部駅、深浦駅、能

記事を読む

「鉄旅日記」2019年長月 最終日(宮古-東京)その2‐陸前赤崎、大船渡、気仙沼、一ノ関(三陸鉄道リアス線/大船渡線) 【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】

鉄旅日記2019年9月23日・・・陸前赤崎駅、大船渡駅、気仙沼駅、一ノ関駅(三陸鉄道リアス線/大船渡

記事を読む

「車旅日記」1998年夏 2日目(木曽-野麦峠-信州新町-志賀高原湯田中)-道の駅日義 木曾駒高原、木曽福島駅、木曽福島タイムリー、開田村、野麦峠扇屋、奈川渡ダム、道の駅信州新町 【伊那、木曽から志賀高原へ。気乗りのしない旅で選んだ行き先は、初夏の信濃路でございました。】

車旅日記1998年7月19日 1998・7・19 6:28 19号国道‐日義 木曽駒高原(道の駅)

記事を読む

「鉄旅日記」2020年弥生 最終日(速星-東京)その1‐速星、越中八尾、楡原(高山本線) 【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】

鉄旅日記2020年3月22日・・・速星駅、越中八尾駅、楡原駅(高山本線) 2020・3・22 7:

記事を読む

「鉄旅日記」2019年長月 2日目(盛岡-宮古)その1-盛岡、仙北町、花巻、遠野、足ヶ瀬(東北本線/釜石線) 【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】

鉄旅日記2019年9月22日・・・盛岡駅、仙北町駅、花巻駅、遠野駅、足ヶ瀬駅(東北本線/釜石線)

記事を読む

「鉄旅日記」2018年弥生-小手指、西所沢、西武遊園地、小川、東村山、西武園、西武遊園地、萩山、小平(池袋線/狭山線/山口線/多摩湖線/国分寺線/拝島線/西武園線/新宿線)【西武線を楽しむ日。いくつかのターミナル駅に降りてみたかったのでございます。】

鉄旅日記2018年3月17日・・・小手指駅、西所沢駅、西武遊園地駅、小川駅、東村山駅、西武園駅、西武

記事を読む

「鉄旅日記」2018年エイプリルフール その1-金町、上野、鹿沼、日光、東武日光、宇都宮、野崎(常磐線/東北本線/日光線) 【8年振りに金町に帰ってまいりました。青春18きっぷはまだ3日分残っております。呼んでくれたのは会津でございました。】

鉄旅日記2018年4月1日・・・金町駅、上野駅、鹿沼駅、日光駅、東武日光駅、宇都宮駅、野崎駅(常磐線

記事を読む

「鉄旅日記」2018年弥生 初日(東京-会津若松)その2-土合、越後湯沢、大沢、上越国際スキー場前、越後堀之内、小出(上越線) 【青春18きっぷを握り、目指したのはまたしても会津。練馬から旅立つ最後の旅でございます。】

鉄旅日記2018年3月3日・・・土合駅、越後湯沢駅、大沢駅、上越国際スキー場前駅、越後堀之内駅、小出

記事を読む

「車旅日記」2004年夏 4日目(鹿児島-田原坂-長崎)走行距離384㎞その1-鹿児島東急イン、城山公園、鹿児島中央駅、出水駅、八代駅、熊本駅 【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】

車旅日記2004年8月14日・・・鹿児島東急イン、城山公園、鹿児島中央駅、出水駅、八代駅、熊本駅

記事を読む

「車旅日記」1998年夏 最終日(鳴子温泉-高畠ー郡山-東京)-鳴子サンハイツ、潟沼、瀬見駅、道の駅むらやま、羽前中山駅、高畠、道の駅七ヶ宿、道の駅安達、郡山文化センター前、須賀川駅、西那須野三島セブンイレブン、与板ラーメンとん太、築地電通前、東京町田 【20代最後の旅でございます。青森港から北海道上陸を目指して北へ向かったのでございますが・・・。】

車旅日記1998年8月14日 1998・8・16 8:26 鳴子サンハイツ 5日目。 一番遅い出発

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 最終日(静岡-東京)その2 ‐十島、鰍沢口、甲斐住吉、国母、常永(身延線) 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

鉄旅日記2022年3月21日・・・十島駅、鰍沢口駅、甲斐住吉駅、国母

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 最終日(静岡-東京)その1 ‐新静岡、静岡、由比、富士、芝川(東海道本線/身延線)/駿府城址 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

鉄旅日記2022年3月21日・・・新静岡駅、静岡駅、由比駅、富士駅、

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 2日目(焼津-静岡)その3 ‐尾盛、千頭、金谷、静岡(大井川鐡道井川線/大井川鐡道本線/東海道本線)/くれたけインプレミアム静岡駅前 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

2022年3月20日・・・尾盛駅、千頭駅、金谷駅、静岡駅(大井川鐡道

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 2日目(焼津-静岡)その2 ‐奥大井湖上、接岨峡温泉(大井川鐡道井川線) 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

2022年3月20日・・・奥大井湖上駅、接岨峡温泉駅(大井川鐡道井川

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 2日目(焼津-静岡)その1 ‐焼津、金谷、千頭、井川(東海道本線/大井川鐡道本線/大井川鐡道井川線)/焼津温泉やいづマリンパレス 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】

鉄旅日記2022年3月20日・・・焼津駅、金谷駅、千頭駅、井川駅(東

→もっと見る

    PAGE TOP ↑