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「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】最終日 北陸より東京へ‐その2(R8→R18→R19)直江津駅、新井、豊野町、長野駅、道の駅信州新町、道の駅大岡村

公開日: : 旅話, 旅話 1996年

鉄旅日記1996年5月6日
6:58 直江津駅
恋する女よ、いつの間にか日本海とさよならしていたよ。
そしてもうすぐ8号国道ともおわかれだ。

君がまだ眠っているうちに北陸の道を通り過ぎたんだ。
最後まで海は荒れて、風が強かったよ。

人通りのない寂びた商店街を抜けると古い駅があった。
君がこの駅に着くのはどれくらい先なのだろう。

改札口から何本ものレールが見える。
やがて君はいずれかのレールを伝ってこの駅に降り立ち、また違うレールから東京へ向かう。

時刻表を見たけど、どの時刻に君がやってくるのか見当もつかない。
そこにいた神に、君の帰りの無事を祈ったよ。

次は東京で。
いつものように東京で会おう。

君と同じルートをたどるのもここまでだ。
この先オレはひと足先に家路を行く。

ここから南に延びる道をひたすら行けば東京に達する。
また会おう。

オレが通ってきた北陸路はとても寒かったが、彼女が往く頃は暖かくなっているだろう。

早朝じゃまだ冬も居残っているが、太陽が昇ればしっかりと春が息づいているだろう。

オレのように寒い思いをせずに済むだろう。

10:15 18号国道‐新井
ルートは18号へ。
道はまっすぐだった。

気の短い新潟の車がオレを追い抜いていく。
休息を欲しているオレを気にもかけず追い抜いていく。

朝が来れば路上はレースの時間になる。
日本海ルートでの幻想は途切れ、オレは本当に疲れていることを正確に感じとった。

越後路には田中角栄が首相だった頃に整備された休息場所がいくつか設けられている。
ひとつを過ぎてもまたすぐにそんな場所がある。

ダンプカーの隣に車を止める。
外は明かりにあふれ、気温もまずまず。

シートを倒して横になる。
眠りに落ちるのにそれほど時間はかからなかった。
大休止。

車の中にしちゃよく眠れたよ。
ただし夢の中でも同じシチュエーションだった。
連れがいたけど、夢の中でもオレは運転していたんだ。
あまりいい夢じゃなかったな。

連中に言わせれば、オレは鬼みたいな顔をして眠っていたんだろう。
でも仕方ないだろう。
このツアーがタフなものだってことは理解できるだろう。

だから東京まであと何㎞なんて聞くんじゃないよ。

11:15 18号国道‐豊野町
再び走り始める。
ろくに腹に飯を入れていなかったが、そのことは別段気にならなかった。

越後路から信濃路へ。
ある地点から路上は混み始めた。
スキー板を積んだ連中がレースに参入し始めたんだ。

このあたりにもまだ冬は残り、遠くの山並にもまだ白いものが見える。
風景は穏やかだ。
街に向かっているが、当分の間は行き着く街も穏やかな風景の中にあるだろう。

目標を失いかけたが、それはこの日の終着点が東京だったからに他ならない。
さらに走っているルートに問題があった。
その問題はやがて解消されたが、信濃路を知っているオレには新鮮さが感じられなかった。

そこはオレの祖先が暮らしてきた国。
そして一族がそこから遠からぬ場所で今も暮らしている。

ふとそこに寄って今夜の宿を提供してもらうことも考えた。
いい考えだと思ったが、すぐに思い直した。

新井で眠るより以前のことがすべて夢の中のことのように思えるよ。
日本海路は冬だった。
とても長くて寒くてタフな一日を生きた。

今18号の長い坂を長野市内へと下りていっている。
ブルース・スプリングスティーンの「ネブラスカ」がかかっていた。
そしてさっきまで横に居座っていた雪をかぶった山並も消えて、長野盆地に日が差している。

旅の途中ということを忘れかけていたよ。
ここはオレの故郷。
景色に見覚えがあるんだ。

そして日本海を後にすると、彼女の匂いが少しずつ消えていくのが分かった。

12:00 長野駅
昼時を間近に控えた長野市内には豊かな陽光が降り注ぎ、人々の出足も活発で、穏やかな街に着いたことを喜ぶべきかどうか考えていた。

ずっとタフな気持ちでいたかったんだ。
でも街の風景に文句を言うのは筋が違う。

土産を仕入れる場所はここになった。
大阪へ出かけるって言ってきたけど、土産は長野の饅頭。

体力が続く限りオレはどこにでも出没するんだ。
大阪も琵琶湖も、そして彼女がいた金沢もすべて通り過ぎて、長野盆地に現れたってわけだ。
旅はまだ終わっていないどころか、これから先のルートさえ決まっていない。

駅へ向かう道に車を止めて、駅へと歩いていく。
すれ違う人々がオレを見ているような気がした。

スタイルは昨日と変わらない。
帽子もシャツもズボンも下着ですら変わらない。
無精ひげだけが一日生きた分だけ伸びていた。

そんなオレを好奇に近い目で一瞥しながら人々は通り過ぎていく。
それでいい。
オレは旅の途中。

街の人間と呼吸を合わせるわけにはいかない。

12:58 19号国道‐信州新町(道の駅)
最後に信濃路を選んでよかったよ。
次に往く国道についた番号は19。
街を通ることもなく、道は山裾を縫うように敷かれている。

こういう景色。
どこにでもあるものだと思っていたけど、これは長野にしかない風景だってことにたった今気づいた。

旅の果てにたどり着いた場所。
いいところだ。
犀川が泥の河になっていることが気がかりで、ここで何が起こっているのか、人間社会と自然環境を少しだけ心配した。

そして信州新町に着く。
この道の駅でビールを飲んで、おやき食べて。
安っぽいけど、昼めしはこれでいい。
そしてまた車の中で横になった。

この町では、泥の川も本来の正常な色を取り戻していた。

14:14 19号国道‐大岡村(道の駅)
名の知らない鳥が飛んでいる。
鳥といえば最近はカラスくらいしか見ていなかったから、やけに新鮮だよ。

観光ガイドになんか出ちゃいないけど、ここだって立派な観光地だな。
山があって、川が流れている。
オレにはそれだけで十分だ。

こういう場所に来て風景が汚されている様を目の当たりにすると、民度の低い人間がいかに大勢いるかということに驚かされる。

そんな連中がオレと同じように、恋する人に愛の言葉を言おうとしているのか。
ふざけるんじゃないよ。
この世はとてつもなく安っぽい言葉にあふれている。

ここは素晴らしいと、ただそれだけを表現したかっただけなのに、余計な言葉があふれた。

街が近づいている。
追憶のルートが間近に迫った。

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