「車旅日記」2000年春 初日(東京‐足利‐鬼怒川‐会津若松‐新潟豊栄)その1‐葛飾金町、幸手駅、古河駅、渡良瀬遊水地北エントランス、藤岡駅、佐野厄除け大師、足利駅 【一年のブランクを経て、旅再開。出発場所は東京町田から、下町葛飾へと変わっております。】
車旅日記2000年5月3日
2000・5・2 東京葛飾金町 前夜祭
旅に出る前夜。
これほどの胸の高鳴りを覚えたことはかつてない。
さっきまで持っていく音楽を選んでいた。
最初に選んだものから7、8枚が候補から外れ、その中からまた選んで今かけている。
荷物は少ない方がいい。
そう言うヤツがオレの中にいた。
仮に不測の事態が起こったとしたら、集めてきた宝物を失くすことに恐れおののいたヤツさ。
旅に不安は付きもの。
だけどその魅力は測り知れない。
路上に出ることをずっと待ち望んでいたよ。
今回の旅に連れていく意中の女性はいない。
いつもいないけど、心の中にはいたんだ。
それが今回はいない。
漠然と考えていることがある。
その中のどれが一番の議題に上がるのかに興味がある。
果てしない孤独の中で、オレは一体誰に拠り所を求めるのか。
それとも果てしない自由を感じて、ずっと晴れやかでいることになるのか。
どっちでもいい。
と言うより何でもいいんだ。
早く路上に戻りたい。
路上では自信がなくちゃやっていけない。
あの感覚を取り戻したい。
今日の仕事ぶりには満足できないが、結果に対してはOKという断を下した。
旅から戻ったら最低限こうなっていなければならないという目標がある。
それは自信さえ戻れば勝手についてくるものだと思っている。
懸念は不要。
見ていてほしい。
レベルを上げて、オレはここに戻ってくる。
2000・5・3 8:00 東京葛飾金町
イヤなニュースを目にはしたが、その後米国メジャーリーグ・ベースボールの夢に酔った。
目覚めた時は、窓から差し込んでくる光に狂喜した。
昨夜も記したが、不安はある。
雨の心配なんかしていないけど、いつものことでもある。
前回は2年前の夏。
それからずっと東京にいたんだ。
そしてその間にひとりで暮らし始め、今回はひとりの暮らしから旅立つ初めてのケースになる。
でもいつもと変わらない。
ここ以外の場所にいたい。
今日はどこまで行けるだろう。
どういうルートになるのか。
さあ、始まりだ。
10:20 幸手駅 43㎞
未だ東京圏内を走っている。
目の前の線路は浅草から日光へと通じている。
数人の同僚が通勤電車として利用もしている。
それでも東京の匂いはかなり薄れてきた。
やがて一掃されることになるだろう。
気分は何とも言えない。
ここに着くまではレンタカー屋からの事故に関する注意点や、今朝の新聞に載っていた高校生による主婦殺害について考えていた。
悪いニュースに接すると両親のことが心配になる。
そして両親の側にいないことを悔やんだりした。
オレの居ぬ間に、どこかの気ちがいに傷つけられたらと思うと、とてもやりきれない。
危害ということでいえば、オレもこの先どんな悪意を抱いたヤツと遭遇するか知れたものじゃない。
ふと、先日映画館で観た「グリーン・マイル」の主人公の言葉を思い出した。
「もう、たくさんだ」。
「悲しいことを見るのも聞くのも、もうたくさんなんだ」。
そんな心配をするために車を借りて、わざわざこんなところまでやってきたわけじゃないのに。
両親にはどこかで電話を入れてみようと思っている。
空は晴れている。
今日は初夏の陽気。
入道雲も浮かぶ。
旅に幸あれ。
11:32 古河駅 61㎞
この街に着いて日差しが戻り、また不安定な空模様になった。
オレの気分もまた不安定で、心ないタクシー・ドライバーのクラクションに気持ちを尖らせもした。
でも車を降りるとなぜか落ち着いた。
心配なのはロータリーに放置してきた車のことだけだった。
この駅には活気がある。
駅ビルには最新設備が施され、若者も集いやすいとてもきれいな場所だった。
1階の様子は原宿あたりの建物の内装と何ら変わりはない。
タクシーの往来も激しい。
それだけ人を集める街なのだろう。
したがって今オレがこうしているこの場所は、とても落ち着かない。
12:02 9号群馬県道-渡良瀬川遊水地北エントランス 69㎞
ようやく旅心が戻った。
目の前に広がる湿原。
遠くに見える遊水地。
多くの車が競ってここにやってくる。
そしてオレもまた。
見渡した風景はこれまでに見たこともないようなものだった。
鮮やかな緑の湿原。
このルートを選んだオレの直感を賛美したい。
そして古河から選んだ矢沢永吉がよかった。
矢沢、偉大な男だ。
今回に限って言えば、ストーンズにもできない作用をもたらしてくれた。
気分は乗った。
旅はこれから。
12:16 藤岡駅 71㎞
便所に寄ろうと思って立ち寄った。
こんな駅こそが求めていたものだった。
でも便所の使用はできなかった。
どこらあたりまで行けば便所は外につくようになるのだろう。
だいぶ寂れてきた。
心なしかこの駅に止まった浅草行の列車も寂れて見える。
おかしなものだ。
さて次の便所の候補地を探さないといけない。
最初の目的地が近づいている。
12:59 佐野厄除け大師 84㎞
ここに寄ることで、思いがけなくかつて犯した罪について考えた。
オレにも人には話したくない過去がある。
彼女を抱き寄せた時の悲しい気持ちは今も忘れていない。
供養の結果、オレがどうなるかなんてどうでもいい。
今のオレにできることだけはしなきゃいけなかった。
1000円で頼んだ蠟燭は明かりを灯す。
十分に頭を下げたかどうかは覚えていないが、しっかりと祈りはした。
ここに行き着いたことを幸運に思う。
14:15 足利駅 105㎞
ここに向かう50号国道で、とても美しい白い鳥が目の前を横切り、これから向かう街の方へと飛んでいった。
ある女性を思い出しながらこの街に着いた。
その女性が鳥に姿を変えて会いにきてくれたのかと思ったよ。
大きな期待を抱いて、この街にやってきた。
足利は歴史上の英雄を生み、かつてオレが想いを寄せた女性を生んだ。
色が白くて、脚線美を持つ上品な女性だった。
横浜から彼女を送る車の中。
六本木ジェイトリップバーで踊る彼女。
あれは聖夜でのことだった。
そして、オレは初めて「メリー・クリスマス」と口にして、彼女を含めて居合わせた人々とグラスを合わせた。
電話の前でその時が来るのをひたすら待っていたこと。
様々を思い出す。
その時とは、勇気を出して彼女に電話をかけることさ。
最後に会ったのは新宿センタービル53階のストーン・ヘンジ。
もう10年も前の話だ。
彼女がこの街の出身であることを知っているのは、もしかしたらオレだけかもしれない。
とても言いづらそうにしていたのを覚えている。
なぜ彼女はあの時そんな態度をとったのか。
街は祭の最中で、車を降りた時は興奮したが、路上で車座になって座っている品のない連中を見て興ざめした。
特攻服に身を包んだ暴走族。
そうした手合いが何組も集まって勢力を競っていた。
それも大通りの真ん中で。
なぜ街は真昼間にも関わらず彼等の思うがままにさせているのか。
その中でちょっとオレとぶつかって、後ろから田舎訛の品のない言葉をかけてきた少年がいたけど、無視して通り過ぎた。
案の定、追ってはこない。
粋がってはいても、たいていはその程度だということは経験上知っている。
どうでもいいことだ。
駅舎は歴史を持ちそうな建造物だった。
駅だけは是非見ておきたかった。
かつて制服に身を包んだ可愛らしい彼女が毎日のように通ったであろう駅を。
ホームには時代を超えた列車が止まり、とても素晴らしい雰囲気を持ち合わせていたけど、さっきの若者たちの姿から考えて、足利は発展から取り残されたのではないかという印象が拭えない。
彼等があの姿で東京に足を踏み入れたら、おそらくすぐに帰りたくなるだろう。
それもどうでもいい。
駅周辺には大人が入れる静かな喫茶店もない。
オレは確信した。
彼女はもうこの街には戻ってこないだろう。
そして彼女の面影を探すのはやめにした。
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2019年如月 初日(東京-安中)その3-高麗川、丹荘、児玉、高崎、安中(八高線/信越本線) 【週末パスで東京から伊豆。そして上州、信州へ。友人は言ったものでございます。何気に大層な移動距離だと。】
鉄旅日記2019年2月9日・・・高麗川駅、丹荘駅、児玉駅、高崎駅、安中駅(八高線/信越本線) 18
-
-
「車旅日記」1997年1月【空しい日々を振り払い、28年目の人生もまた旅。そんな年頭の姿でございます。】-町田、愛甲石田駅、御殿場駅、岩波駅、熱海駅、西湘パーキング、奈良北
車旅日記1997年1月4日 1997・1・4 1:01 東京町田 明かりをつけた部屋にストーンズの
-
-
「鉄旅日記」2013年如月【休日おでかけパスで、上総下総途中下車旅】その2-久留里、上総亀山、横田、木更津、巌根、袖ヶ浦、長浦、姉ヶ崎、八幡宿、浜野(久留里線、外房線)
鉄旅日記2013年2月17日その2・・・久留里駅、上総亀山駅、横田駅、木更津駅、巌根駅、袖ヶ浦駅、長
-
-
「鉄旅日記」2021年秋 最終日(飯坂温泉-東京)その3 ‐米沢、赤湯、中川、山形、北山形(奥羽本線) 【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】
鉄旅日記2021年10月10日・・・米沢駅、赤湯駅、中川駅、山形駅、北山形駅(奥羽本線) 9
-
-
「鉄旅日記」2020年初秋 2日目(高松)その2 ‐祖谷口駅、小歩危駅、大歩危駅、剣山リフト乗場、恋人峠、穴吹駅、黒田屋高松西インター店 【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】
車旅日記2020年9月20日・・・祖谷口駅、小歩危駅、大歩危駅、剣山リフト乗場、恋人峠、穴吹駅、黒
-
-
「鉄旅日記」2014年秋【休日おでかけパスで、関東ローカル旅】その2-富田、佐野、佐野市、大平下、新大平下、栃木、思川、新白岡、白岡、東大宮(両毛線/東北本線)
鉄旅日記2014年11月3日その2・・・富田駅、佐野駅、佐野市駅、大平下駅、新大平下駅、栃木駅、思川
-
-
「車旅日記」2000年夏Part.2【友を訪ねて備後福山へ。長門宇部へ。2000㎞に及ぶ長大な旅路でございました。】最終日(東京町田-東京葛飾)
車旅日記2000年8月16日 2000・8・16 23:09 東京葛飾金町 旅が終わってほっとして
-
-
「鉄旅日記」2020年睦月 最終日(鷹ノ巣-東京)その2‐角館、大曲、峰吉川、新庄(田沢湖線/奥羽本線) 【秋田内陸縦貫鉄道に乗りにいきました。五能線の名所も歩いた旅初めでございます。】
鉄旅日記2023年1月13日・・・角館駅、大曲駅、峰吉川駅、新庄駅(田沢湖線/奥羽本線) 10:0
-
-
「鉄旅日記」2020年盛夏 最終日(門司港-東京)その3‐宇部、富海、福川、戸田(山陽本線)/富海海岸 【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】
鉄旅日記2020年8月16日・・・宇部駅、富海駅、福川駅、戸田駅(山陽本線)/富海海岸 8:
-
-
「鉄旅日記」2009年秋【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】5日目(松浦-若松)その1-松浦、有田、伊万里、唐津、筑前前原、姪浜、天神、西鉄福岡、博多(松浦鉄道/筑肥線/福岡市地下鉄空港線)
鉄旅日記2009年9月22日・・・松浦駅、有田駅、伊万里駅、唐津駅、筑前前原駅、姪浜駅、天神駅、西鉄