「鉄旅日記」2014年春【青春18きっぷで、紀伊半島へ】最終日(紀伊勝浦-東京)その2-神志山、賀田、九鬼、相賀、紀伊長島、多気、名古屋、豊田町、六合、由比(紀勢本線/東海道本線)
鉄旅日記2014年3月9日その2
11:19 神志山(こうしやま)駅(紀勢本線 三重県)
数分の停車。
車窓からミカンの名産地は消え、ここは海沿いの道から目立たない場所にひっそりと存在している。
海水浴場でもあるのか喫茶店、ラーメン屋、一杯飲み屋を見かけ、池がある。
結構大きな池だ。
あるいは川なのか。
目の前に見えている山並みが深い。
あの山向こう、熊野から十津川へ出て長島へと到る心細い国道を走ったことがある。
ろくに舗装はされておらずガードレールすらない人跡まれな危険な道で、緊張しながらの運転は、聴いていたザ・ローリング・ストーンズすら受け付けず、もう大丈夫だという地点までどうにか行き着いた時は心の底からほっとした。
津軽で、三厩へと向かう道でも似たような心地になったが、あれは濃霧が原因だった。
11:58 賀田(かた)駅(紀勢本線 三重県)
数分の停車。
目の前に見える小さな入江の名は賀田湾でいいのだろうか。
工事の手の入ったあまり美しくない入江だが、その入江に山が迫り、その山に穴を穿ち、鉄道は歩を進めていく。
途方もない工事が過去に行われ、もはや自然と化したような鉄道風景を前にして茫々とする。
長いトンネルが続く。
12:12 九鬼(くき)駅(紀勢本線 三重県)
数分の停車。
次の入江へ。
そこにまた駅がある。
この入江を根拠地とした九鬼水軍は戦国時代をその腕ひとつで渡りきった。
織田信長につき、大阪沖では瀬戸内勢力の毛利水軍を手痛い目に遭わせ、関ヶ原合戦の折には西軍に身を投じ、東海道に現れては東軍を脅かし、徳川家康をして悩ませ、激怒させた九鬼嘉隆。
西軍の敗北後絶望して自刃して果て、東軍についた息子は幕末まで残った。
そんな大水軍の親玉はあの入江を出ることから人生をスタートさせ、やがて外洋を掌中に収め鳥羽に本拠を置く。
九鬼湾の現在のたたずまいには安土で感じたような、偉大な歴史が終わった後の果てることのない静寂があった。
12:35 相賀(あいが)駅(紀勢本線 三重県)
数分の停車。
駅前を流れる銚子川がこの場所からは窺い知れない入江へと注いでいく。
釣り客相手だろうか。
古い旅館が2軒認められた。
町のためにも今も営業を続けているのであればいいと心から思う。
山が迫り、列車から眺める空が狭くなった。
そして冷たい風を感じなくなったと思ったら、あたりはすっかり春だ。
13:07 紀伊長島(きいながしま)駅(紀勢本線 三重県)
10数分の停車。
かつて車で夜に着いた時には真っ暗で周辺の記憶はなかった。
駅前を一回りする。
牛乳屋と2軒の寿司屋。
あとは住宅街。
何もないと言えば何もないが、町としての長島を楽しめた気持ちではいる。
「NAGASHIMA SHIP」と書かれた大型船が浮かんでいた長島港。
海というものは、夢と同義語なのかもしれないな。
そんな気持ちにさせられた太平洋と、またしばしのおわかれだ。
多気(たき)駅(紀勢本線/参宮線 三重県)にて
名古屋行き快速列車に乗り換え。駅前でビールを買い求める。
名古屋(なごや)駅(東海道新幹線/東海道本線/中央本線/関西本線 愛知県)にて
東海道本線に乗り換え。土産を購入する。
18:16 豊田町(とよだちょう)駅(東海道本線 静岡県)
蒲郡、浜松と乗り継いできたが、よく眠ったものだ。
いつも寝てしまう区間だ。
まだ眠るだろう。
浜松掛川間で最後に残った駅、豊田町。
車内から見ていた印象とたいして誤差はない。
駅前に商店の類はひとつとしてなく、小ぎれいなマンションが建ち、少しはなれた場所に車での来訪を望む大型店が見える。
ひとつ手前の天竜川駅前も確かこんな感じだった。
まったく気付かなかったが、ここに着く前に豊田川というのを渡っていたらしい。
桜の名所を謳うところはいくつもあるが、そこの河畔もとても見事だという。
静岡は暖かいから、もうじき咲く頃か。
ずっと電車に乗っているわけだが、この空間はいい。
東京の朝にはこの空間に殺伐とした空気が持ち込まれることがあるが、このあたりじゃそんなこともないだろう。
老若男女が揃い、若者の元気の姿がある。
痛ましい事件は絶えることはなく、世相も決して明るいとは言えないが、彼等の姿には希望がある。
この社会もまだ平気だと思える。
そんな思いに耽っているところにたまたまだが、春がきている。
19:05 六合(ろくごう)駅(東海道本線 静岡県)
駅前風景は豊田町と大差ない。
こちらは灯の消えた郵便局があるのみで、町の明かりは並行する1号国道に委ねられている。
セブンイレブン、回転寿司・・・。
昭和40、50年代頃の地方の景色を見てみたい。
人口が増え、日本全国に活気があった頃の景色を見てみたい。
19:56 由比(ゆい)駅(東海道本線 静岡県)
数分の停車。
東名高速や1号国道から何度も眺めた由比海岸は闇に隠れ、駅の改札業務は終了していた。
「桜えび通り」も沈黙していたが、断崖を背にして旅館があり、海辺の小さな町に降りたと実感させる風情が漂っている。
21:10 根府川手前
1月に両親の金婚式がこの丘の上のホテルで行われた。
あれから相模湾を望む名勝根府川はとても大切な場所になった。
この3月に6度目の来日を果たしたザ・ローリング・ストーンズは平凡なセットリストを残して6日の演奏を最後に日本を離れた。
彼等がやってくる3月は特別だった。
2003年には大阪ドーム公演を見に行き、翌朝は甲子園のセンバツ開幕戦にも足を運んだ。
前回2006年には平日の名古屋ドーム公演を見るために仕事を早引けして彼等のパフォーマンスを楽しみ、当日夜の寝台列車で東京に戻り、翌朝の仕事に間に合わせもした。
そして今年はこうなった。
ストーンズのチケットをとれなかった代わりが、この旅だ。
2週間後にも予定している。
人生に起こることには必ず意味がある。
そのように肯定的に捉えていくことだけが人生に残された課題とも言える。
それにしても昨日の尾鷲、熊野がすでに懐かしい。
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