「鉄旅日記」2009年初夏【上信越ひとり旅】初日(東京-十日町)-上野、高崎、大前、渋川、沼田、水上、越後湯沢、六日町、越後川口、十日町(高崎線/吾妻線/上越線/飯山線)
2009・7・18 8:42 上野(うえの)駅(東北新幹線/秋田新幹線/山形新幹線/上越新幹線/長野新幹線/東北本線/高崎線/常磐線/東京メトロ線 東京都)
旅が始まっている。
まずは高崎まで。
今のところ雨の気配はない。
司馬遼太郎さんの「夏草の賦」の続きが読みたくて、先週実家に帰った時のような気楽さで電車に乗った。
木曜日には新橋のママに逢いに行き、居合わせたHさんと店を出てからさらに数軒飲み歩き、最後に入った中国人が経営する店では不当に金をとられたと憤慨して店を出たけど、思い違いだったことに後で気づいた。
悪いことをしたと思っている。
あんなに飲むもんじゃないよ。
昨夜はママの店からだと同じく常連のSさんから電話があった。
同い年の好漢Aも大阪から上京していたようだ。
あの店では連夜笑いが絶えない。
彼女には今回の旅を知らせていない。
次には土産を持って逢いに行く。
荒川を渡った。
膨大な食料を買い込んだ若者が座っている。
彼の行き先が気になる。
しかし上州に向かう車内はとても静かで落ち着く。
ここ最近を振り返る空間として悪くない。
がさがさした生活から一旦離れる。
10:46 高崎(たかさき)駅(上越新幹線/長野新幹線/信越本線/高崎線/上越線/両毛線/八高線/吾妻線/上信電鉄 群馬県)
駅で煙草を吸うのは久し振りだ。
東京じゃもう吸えないから。
駅そばも美味かったな。
大前行に乗っているが、どれだけの者が終着駅まで行くのだろう。
風景にはまだ旅情は見られず、山の拵えをした者が目立つ。
12:38 大前(おおまえ)駅(吾妻線 群馬県)
吾妻線の旅情は素晴らしい。
海音寺潮五郎さんが小説で描いた「執念谷」に雲が湧いている。
軽井沢や草津など近隣の観光地には、沿線の中之条、長野原草津口、万座・鹿沢口を経由して車で向かうことになる。
開業以来そうして多くの者たちを降ろしてきた駅にはただならぬ風格が漂い、沿線一帯の価値を高めることに一役買っている。
契約している会員制リゾートクラブが所有しているマンションが嬬恋にあって、関東のベースキャンプにしていた頃がある。
冬にはスキー板を車に取っ付けて何度も通った。
冬には賑わう「執念谷」一帯もこの季節には人影も疎らで、どうしても廃れた印象を持って帰ることになる。
終着駅大前に駅舎はなく、駅前を彩る商店もなく、温泉施設ひとつが川辺で営業している。
集落はある。

14:40 渋川(しぶかわ)駅(上越線/吾妻線 群馬県)
日が射すとにわかに蒸し暑くなる。
吾妻渓谷に沿った旅は終わった。
雀の姿を目で追ったのはいつ以来か。
沿線の緑が鮮やかだった。
本物の緑色を忘れてたよ。
サティがある地点まで街を歩いて駅に戻る。
そこに歓楽街はなく、渋川駅は改良工事中だった。
かつての姿を思い出せない。
あれは榛名湖から下ってきた9月の朝だった。
ここからさらに下ると利根川に出る。
そこで見た水墨画的な雨上がりの風景が忘れられない。
今回はさらに上流に行く。
金町から随分遠いが、そんな気がしないのはここがまだ関東だからか。
海の日を含めたこの3連休。
上州から海は遠い。
年輩の登山者ばかりを見かける。
あの年代になると山を慕うようになるのだろうか。

15:55 沼田(ぬまた)駅(上越線 群馬県)
遠い昔、オレのご先祖様が歴史の中に参加する頃、ここ沼田、「執念谷」、上田は真田氏に治められたひとつの国だった。
そこに降りてみたかった。
史実を知ってからすぐにその希望は芽生えた。
古くから市制が敷かれた街に着いて、地元民の多くが降りた。
駅前は何事もない。
城址公園は駅からそう遠くない。
あの小高い場所がそうだ。
街の機能は当時から変わらずそっちにあるのだろう。
行きたかったが、駅でビールを飲む方を選んだ。
これはこれでいい。
上り方面に人が集まってきた。
旅行者のようで、一様に大きな荷物を抱えている。
真田氏所縁の街だけど、天狗の面がかかったここ沼田にたぶんオレのルーツはない。

17:30 水上(みなかみ)駅(上越線 群馬県)
新潟との国境の町、関東最北端の上州水上。
新幹線はすぐ側を走っている。
17号国道はすでに鉄路から離れ、猿が京を抜けて三国越えで国境を越える。
気のいいおかみさんがいる「チャコ」という店でイワナの唐揚げをつまみに一杯やった。
聞けば彼女は山形出身だという。
人生いろいろだ。
いくつかサービスもしてもらって楽しい時を過ごした。
彼女はこれからも水上を訪れる旅行者を自然な笑みで迎えることだろう。
町にとってステキな未来だ。
店を出て利根川遊歩道を歩き、激流に驚き、紫陽花の写真を撮る。
家並みは古く、温泉街のど真ん中には巨大ホテルの廃墟が居座り、町を憂える。
蜩の声を聞いた。彼等は夏の終わりに出現すると勝手に思いこんでいたけど、そうじゃない。
早朝や夕方、涼しくなってきた頃にその涼やかな声を聞かせてくれる。
東京じゃ、めっきり聞くこともなくなった。




18:38 越後湯沢(えちごゆざわ)駅(上越新幹線/上越線/北越急行 新潟県)
水上を離れると湯檜曽の手前から地下に潜り、土合を過ぎて大清水トンネルへ。
理由は知らないが、あのトンネルを好きな男と13歳の時に出会い、たった一年だったけど仲良くした。
そんなことを思い出しながら長いトンネルを抜けると結露で外がよく見えなかった。
スキーシーズンを過ぎた湯沢は新鮮だ。
在来線ホームは閑散として、ほくほく線特急に乗り換える客もまばらだった。
人影のない連絡通路で弁当を売るおばさんには哀愁が漂い、思わず立ち寄って「かに寿司」を買う。
外を眺めると山々に靄が立ちこめている。
一雨上がった湯沢の夕暮れに夏を感じることは難しい。

19:09 六日町(むいかまち)駅(上越線/北越急行 新潟県)
ほくほく線との分岐駅で数分の停車。
南魚沼市を謳う中心駅は夜の灯に浮かび上がり、アーケード街のシャッターは下りている。
北国のきれいな町並みを一望して列車に戻る。
谷間に敷かれた鉄路を取り巻く緑は濃く、暮れゆく山々の陰影もまた濃く、荘厳な風景に打たれていた。
「男はつらいよ」第25作。
朝丘ルリ子さん演じるどさ回りの歌手松岡リリーは、「執念谷」のバス停で車寅次郎と再会し、映画は終わる。
その後彼女は水上でのステージをこなし、清水トンネル潜ってここ六日町のステージに立つと寅次郎に伝えている。
二人が揃って銀幕に現れるのは48作目まで待たなきゃならないが、彼等はどこかでばったり会っていたかもしれない。
「寅さん、また会おうね。」
「ああ、日本のどこかでな。」

19:45 越後川口(えちごかわぐち)駅(上越線/飯山線 新潟県)
町は静まり駅員の姿はなく、駅の入口で多くの少年たちがふざけている。
駅前通りの人影は絶え、駅舎を撮ろうとケータイを向けると何も写らず、かろうじて輪郭だけが判別できる。
乗り換え時間は僅かで飯山線ホームに急ぐ。
22:09 ホテルニュー十日町401号
初夏の豪雪地帯に祭りがやってくる。
ある集落からついた火はまるで聖火リレーのように周辺を巡り、ここ十日町で大団円を迎えるという。
支払いの時に口を開いてくれたおかみさんに祭りの関係者かと尋ねられたんだ。
部外者で、でっかい寅さんカバン提げて、よくわからない格好をしているからな。
店を出て、駅に戻って買い物をしてホテルに行く途中でおかみさんと再会する。
カチッと一度拍子木を叩きながら駅前通りを歩いてくるんだ。
「あぁ、おかみさん、お疲れさまです」とすれ違う。
十日町は夏に来ても雪国を感じさせる。
ドンツキに駅を置いて、両側の歩道をアーケードで覆った通りが国道に向かって伸びている。
あぁオレが好きな街はどこもこうだったと、街に降りて思ったよ。
人通りはないが、酒を飲ませる店はいくつも開いている。
オレの想像を上回る街だった。
冬の話を聞きそびれた。
日本有数の豪雪地帯という看板はそのままだろう。
だけど夏は祭りだ。
それがこの国だ。
お盆になれば、また別の祭りがある。
素晴らしい文化だと思う。
飯山線に乗るのは初めてだ。
計画通りの旅もまた楽しい。
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