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「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】2日目(黒磯-郡山-いわき-仙台)その1-明治の森黒磯、高久駅、黒田原駅、白河駅、安積永盛駅、三春駅、船引駅、磐城常葉駅、川前駅、小川郷駅、四ツ倉駅

公開日: : 旅話 2006年

鉄旅日記2006年5月3日
2006・5・3 4:56 枝室街道‐道の駅明治の森黒磯
清々しい朝。
路上で明ける朝。
呉越同舟者との挨拶から始める朝。

この時間帯を生きることは滅多にない。

だから出発だよ。

5:25 高久駅(212㎞)
鶯の声。
あっちは雀か。
朝の音に包まれている。

ここは東北本線の無人駅。
あたりにはわずかな民家しか見えない。

牛の声かと思ったら、あれはバイクか。
いい朝だ。
もう少しすれば暖かくなるだろう。

道の駅を出て、黒磯の背後に聳える那須連山の最高峰、茶臼岳、三本槍岳には雪が残り、那須川渡河の際の旅情は見事だった。

夜が明けた黒磯駅は白を基調としたあまり目立たない色で、背後の新幹線高架に同化して見えた。
新幹線停車駅はひとつ手前の那須塩原。
歴史を持つ街はこうしたケースで往々にして後進に道を譲る。

黒磯駅は夜の方が姿がいい。
駅前通りから那須街道に戻る際、正面にテレビ塔が存在感を放っていた。
いい街だよ。

外はまだ寒い。
頭も体も完全には起きていない。
4号国道とは離れて山中に分け入った。
あたりに町はなく、東北自動車道のこの区間は険しい山道になる。

話をこの場所に戻す。
ここは黒磯の次の駅になるのか。
まだそれほどの距離しか走っていないのか。

乗客はここらで「みちのく」を思うだろう。
人気のない駅に電化された線路が延びている光景はどこか滑稽だ。

ホームに上がって体を伸ばしていたら遠くから踏切の警笛音が聞こえ、長大な貨物列車が通り過ぎていった。
いい日になる。

5:45 黒田原駅(217㎞)
那須から離れていない。
小さな町にまた車を止めた。

改札の営業は8:30から。
朝の早い高校生たちが黒磯行に乗っていく。

駅舎は何度かペンキが塗り替えられているのだろう。
白い壁が桜色に縁どられている。
古くて旅情を感じる駅だ。
ホームも跨線橋も古い。

駅前には足利銀行と喫茶店。
ちょっとした大通りがある。
朝の早い人々の姿はまだわずか。

ここを走る列車は黒磯郡山間を往復している。
そして油を満載にした貨物列車が通り過ぎる。

いよいよ白河の関を越える。

6:40 白河駅(234㎞)
那須の山中を迷走。
豊原駅の脇を通過して4号国道に戻る。
やがて「みちのく」の山河へ。

この街には何度も来ているが、明治20年開業のこの立派な駅を目にするのは初めてだ。
東北の玄関口として申し分のない堂々とした造りだ。
変遷はあるだろうが、開業当時の遺構が数多く残っているのだろう。
現代の建築家の作品にこうした荘厳さを見ることは少ない。

ガランとしたホールの中央にストーブが1台。
高校生たちが寒風に吹かれ、寒さを口にする。

街並は穏やかで、古くからの繁華街も残る。
黒磯で眺めた那須連山はここでも見える。
雪を乗せた山々が神々しい。

白河の関を越える。
そんなことだけを考えながら走っている時は楽しかった。

それにしても写真に残したい駅舎だ。
こうした駅舎とはそうは出会っていない。

2016年3月21日撮影

7:50 安積永盛駅(286㎞)
線路に寄り添っていたくて国道を離れ、それから随分と走った。
道路脇の水路や水を張った田に日が差し、輝く朝。
素晴らしい。

かつて何度も泊まった郡山が近い。
4号国道の日常はよく覚えている。

友よ、と口をついて出たのは白河あたりのことだったか。
胸に迫る思いがこみ上げたのは市内に入ってからだった。

郡山から2両編成の列車がやってきて子供たちが降りてきた。
運動をしている子供たち。
オレも昔はそうだった。

大鉄道駅郡山はこのひとつ先になる。
そしてここから水戸方面に向かう水郡線の線路が分かれていく。

いかにも田舎駅といった風情の古くて小さな駅舎で、4号国道の華やいだ雰囲気はここにはない。

途中、福島の民俗的な風景を見かけた。
朝だけに見られるそれは、もう明日まで見られない。

2020年2月24日撮影

8:33 三春駅(304㎞)
6年前の郡山は楽しくて、切なかった。
あの街を離れた朝のことをよく覚えている。

車通りは多くなく、まだ街は眠そうだった。
今朝もそうで、活動的なのは高校生くらい。
そして晴れていた空が不意に鈍色に変わった。

あの街ではいろいろなことがあった。
どれも楽しいものばかり。
友は今もあの街で仕事をしている。
郡山の脇を通りながら連絡もしないオレは冷たいのかもしれないが、彼は家族を持つ身だ。
チョンガーで気楽なオレとは違う。

樹齢1000年を超える滝桜を名所に持つ馬の産地、三春へ。
女性の名の響きを持つ優しい名を持つ町だ。
その響きはかつてひととき思いを寄せた女性をも思い起こさせる。

NHKの大河ドラマの主人公になった藤原経清がいた町でもある。
彼は北へと向かい、中央勢力の代理人とも言える源氏と戦い敗死した。

どこかに古い町並が残っているようだ。
駅で売られていたポストガードの絵柄にそんな風景があった。

この駅は町から外れていて、道の駅の温泉館みたいな駅舎が建っている。
昨夜からすでに12の街町を通過した。

9:18 船引駅(315㎞)
桜前線はすでに北へ移動したようだ。
花はまだついていたけど、盛は過ぎている。

塵のようになった花弁が微かに風に舞っている。
町に貼られていたポスターも用無しになって久しい。

阿武隈川を渡ったのはひと駅前のこと。
天下の名士との再会だった。

この後、磐越東線はいわきまで小さな川に沿って進んでいく。
オレの移動も国道ではなく、磐城街道になる。

ごく現代的な駅舎が目の前に建っている。
「駅そば」などない。
仕方がない。
朝食は牛乳とパン。

風情のある町だ。
駅前には旅館が2、3並び、町の名に船がつくとおり、牧野川と共に発展してきたことを想像させる造作だ。

いわゆる平成の大合併で、ここ船引も近隣とくっついて市制が敷かれたようだ。
田村市だったか。
田村はこのあたりの地名にはないが、どのような由来を持つのだろう。

車の中では夏を思わせるような陽気だが、外には冷たい空気が流れている。
だからオレのように半袖姿を東北の山河で見かけることはない。

10:35 磐城常葉駅(320㎞)
1時間ばかりの眠りだった。
かなりスッキリしたよ。
日差しが強烈で、足が悲鳴を上げたことにより目を覚ました。

気温5度で明けた5月3日は、とうとう半袖で何の問題のないところまで気温を押し上げた。

船引のひと駅先の小さな無人駅にいる。
歴史的な駅舎には錠がかかり入れない。
利用客の少ないことを見越してのことか、保存のためか。
古めかしくて立派な駅舎で、敷かれている線路は1本じゃなかった。

町なのか村なのか。
小さな町並が磐城街道に沿ってつながっている。
雄大な山並はここらには見えず、ハイキングによさそうな丘陵地帯に囲まれている。

2度目の眠りから覚めたので、旅の第3章が開けたような気分でいる。

11:38 川前駅(354㎞)
いわきが近い。
古い表示には平の文字もある。

早いものであれから3か月。
磐越東線沿線に鄙は見ない。

季節にもよるが、さっきは早まった。
このあたりの桜はまだ盛を過ぎてなどいなかった。
いくつもの桜の名所を記した看板を見ながら線路に沿って南下し、小野新町、夏井に及んで街道は最高地点を迎える。

夏井千本桜は見事だったよ。
堤に沿って延々と続いているんだ。
目当ての客も多く、桜の木の下は大層賑わっているようだった。

満開の連なりは過去のものとはいえ、壮観であり、何本かは満開を保っている。
文字通りの遅咲きでいる木々が目を楽しませてくれた。

やがて村が見えてきて、川を渡ると駅があった。
ここも無人駅で、あたりには民家とわずかな商店。
橋の下では釣り師が本格的に竿を振っている。

涼し気な風情もまた目を楽しませる。

12:17 小川郷駅(374㎞)
磐城街道は平で終わる。

夏井川がオレに見せてくれたものは、この旅の中でも印象的なものとして残るだろう。
似たような渓谷をこれまでにいくつも見てきたけど、まさに名勝といっていい。

磐越東線は夏井川渓谷を縫うように続いている。
古びた鉄橋に隧道。
見事な旅情を味わった。

随分遠回りをしたが、いよいよいわきに着く。

険しい山路を越えた先にあるこの郷はとても穏やかだ。
土地の老人クラブの手による駅の美化運動も素晴らしい。
オレの親父もこの郷で暮らしていれば、同じことをしているだろう。

駅は町の顔で、旅館や酒屋といった駅前商店はその女房みたいなもの。
なぜこうまで駅前風景に惹かれるのか、オレにもうまく説明がつかない。

13:02 四ツ倉駅(394㎞)
雪のない2月の平。
そして初夏の日差しがこぼれる5月の平。
懐かしい思いはなく、馴染みの街に寄ったような感覚でいた。

山里を過ぎて線路を越えたら、不意に街に入った。
いわき駅に2階の居酒屋。
東急インがある通り。
この街にもオレは帰ってきた。

取手以来の6号国道と再会。
2月の常磐線の旅の続きを、今度は車でやるんだよ。
終点の仙台まで。

いわきから2駅。
四ツ倉行の列車もあるほどだから、四ツ倉はいわき以北の中心駅でもあるのだろう。
横長の駅舎に乗る緑色の瓦屋根が目に鮮やかだ。

亀の町と謳っている。
もうじき太平洋が見えてくるはずだ。

仙台までは140㎞。
なかなかに長い一日を生きる。

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