「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】2日目(黒磯-郡山-いわき-仙台)その2-末続駅、双葉駅、原ノ町駅、相馬駅、亘理駅、岩沼駅、名取駅、ホテルイーストワン仙台
車旅日記2006年5月3日・・・末続駅、双葉駅、原ノ町駅、相馬駅、亘理駅、岩沼駅、名取駅、ホテルイーストワン仙台
13:26 末続駅(403㎞)
国道から見えたんだ。
こんな素敵な駅に出会えると思っていた。
そこそこの距離はあるが、適当な高台とも言えるホームから太平洋が見える。
国道と駅の間には水を張った田。
去年の羽前前波駅を思わせる。
ただ、羽前前波駅では海など見えない。
鳥のさえずりと蛙の鳴声、微かな風音。
昭和22年開業の駅だという。
駅舎は当時のままだろう。
風雪に褪せた屋根。
ペンキの剥がれた木造の駅舎。
ホームには花壇がある。
こうした風景に接すると、人を信じるべきだと思う。
そこで済まないが、ゴミを捨てさせてもらった。
言い訳として適当なものなどないが、遠来の身だ。
ご容赦を。
覚えている風景がひとつある。
久ノ浜のパーキング。
前の晩に渋谷で一夜の恋に落ちて、夜に町田を出て、明け方にそこに着いて眠った場所。
よくは眠れず、暑さと疲労にやられてしまった痛恨の旅だった。
その記憶と同じように、末続駅とここから眺めた太平洋を記憶し続けるだろう。
いわきの方へとゆっくりと進んでいく船を沖に見る。
14:42 双葉駅(438㎞)
昼食は納豆定食。
オバチャンの元気と情に、人の世に生きる喜びを味わう。
野菜ジュースに牛乳に納豆ごはん。
今日のオレの食事はやけに健康的だ。
睡眠時間は3時間。
タフな旅だが、こうしてちょくちょく止まりながら走るのがいいのだろう。
午後のけだるさはあるが、仙台に着くまでもう寝ないよ。
あれから6号国道の風景に太平洋が消えて、鉄路とはようやく再会した。
あの夏に喘いだ理由を探したけど、よくは分からない。
面白みに欠けた区間であることは確かだ。
みちのくらしさはなく、海からは離れた。
平凡な景色の中で、たまに信号渋滞にはまる。
途中にJ・ヴィレッジがある。
こんなところにあったのか。
W杯でドイツに行く前の代表が国内最後の仕上げを行った場所だ。
10年前にはもちろんなかった。
ここ双葉は、伝説の横綱が生まれた町かと思ったら原発の町なんだ。
原発と明るい未来を紐づけた大きな横断幕が駅前では印象的だった。
洒落たカフェのような素敵な駅舎。
原発効果とも言えるのだろうが、あたりの平板な景色に対して、これはこれでいいと思う。
15:43 原ノ町駅(463㎞)
まるで高速道路からの眺めのような平板な景色の中、道が滞りだした。
この街に着く頃には随分とイライラが募っていた。
国道を外れると状況も変わるだろうが、予定通りの行程でいく。
福島県内では少しばかり雰囲気の異なる街に着いた。
北の街だからか。
空気も違う気もする。
立派な駅で、洋風の温泉旅館を連想させる。
駅頭のランプも夜には温かみのある色を灯しそうだ。
駅前にはホテルにレストラン。
久し振りに風格のある街に着いて、理由は分からないがほっとしている。
長大な貨物列車がいわき方面に行くのを見送ったのが、この街に着く手前。
これからまだまだ長そうだと感じている。
ここでは車の音が、これまでにいた町よりやけに大きく聞こえる。
16:42 相馬駅(486㎞)
確かに6号国道の様相は変わってきている。
旅情を帯びたというより、いよいよ「みちのく」に入ったのだろう。
原ノ町から感じていたのは北の街にきたのだということ。
夕暮れがそう感じさせるわけじゃない。
違う気候帯に入ったことを感じている。
重厚な日本家屋風の立派な駅に、もうじき特急列車が着く。
迎えの車が方々から駅を目指してくる。
馬の産地として知られた相馬。
この街にもようやく着いた。
古くから相馬の名前は頭に入っていたんだ。
37年かけて、ようやく着いた。
特急列車がいってしまえば、また静寂が戻るのだろう。
夜の明かりは賑やかなものではなさそうだ。
17:48 亘理駅(517㎞)
跨線橋の先に立派なお城が建っている。
遠くからはあれが駅だと思い、お城風の駅は島原以来だと浮かれたけど、違った。
あのお城には図書館をはじめ多目的施設が収まっているようだ。
もう閉館していて中には入れない。
亘理駅には何本か特急列車が止まる。
そうした格を持った駅。
そして三春で述べた藤原経清は、三春の出身ではなく、亘理であったと過ちに気づいた。
ともあれあのお城が見えた時、好きなことだけをしながら、こうしてここまでやってきたのだという実感が湧くのを感じていた。
駅周辺に商店は見られないが、少し離れた県道沿いが賑わっている。
「みちのく」の清々しい空気の中で、そろそろ日暮れだとぼんやり思う。
旅は宮城県に入った。
福島県はさすがに大きかったよ。
白河の関から300㎞。
タフな行程だった。
仙台にはおそらく20時頃に着く。
18:18 岩沼駅(527㎞)
阿武隈川を渡るとテレビ塔が目に入る。
大河を渡り次の街に入る時の感覚が好きだ。
常磐線はこの街で東北本線と合流する。
岩沼駅にはターミナル駅としての格がある。
いよいよ仙台が近いが、ここはまだ仙台圏じゃない。
地元の亀有でよく行く居酒屋が一番偉そうな場所に店を構えている。
駅前には他に目立つ存在はなく、古くからの旅館があるが、元気を失くしているように見える。
大きくて赤くて丸い夕陽が低い山の端に今さっき姿を隠した。
あの日没を見ることができたことを幸運に思う。
2019年1月6日撮影
18:47 名取駅(536㎞)
仙台は間近まで迫った。
名取駅は現代的なきれいな駅だ。
ここから都会が始まるのだと主張しているように見えなくもない。
駅前は清潔に整備されている。
ただし岩沼と同じで、周囲に目立つものはない。
仙台のベッドタウンと表現するにはあまりにも仙台に近いが、おそらくそうなのだろう。
この街の人々の消費活動は仙台で行われているのだろう。
数年前に名取で三冠統一ヘビー級王者を決めるトーナメント1回戦のカードが組まれた。
天龍源一郎×マイク・バートン。
好カードだった。
街の格を知るのに重要視している要素を、こうして名取は過去に持っている。
上り白石行3両編成が街を離れていった。
乗車率はそれなりのものだった。
いよいよ仙台へ。
22:27 ホテルイーストワン仙台402号室(552㎞)
このホテルは旧4号国道沿いにあると聞いた。
広瀬川を渡るとバイパスと分かれるらしい。
大都会に入るわけだが、予想に反して夕暮れ時の4号国道に渋滞はなく、みるみるうちに大都会に吸収されていく。
「青葉城恋歌」に歌われた広瀬川は予想以上に大きな川だった。
そして川向うに見えた街。
街には入口がある。
そこから見えた仙台は一風変わった都会だった。
ライトアップされた個性的なテレビ塔が3本空に向かって伸びている。
その存在を知りも聞きもしてこなかったが、暗くなってから仙台に入ってよかった。
しかしそこで道を間違えてしまった。
旧4号国道の表示は山形方面という表記に置き換えられ、迷う間もなくバイパスをしばらく走ってしまい、なかなか引き返す地点が見つからない。
仙台の歴史は古いから、最近の街のように碁盤目状に区画などされていない。
そんな街に慣れきってしまった身をほんの少しだけ恥じたけど、疲れてもいた。
街中で方向感覚を正すのに若干要した。
そんなこんなで、やっと着いたよ仙台に。
道幅の広い街だ。
繁華街は駅周辺に形成されている。
仙台銀座という昭和の路地もあって街への興味は尽きないが、通りを歩く人の数は多くない。
駅には観光客もあり賑わっている。
通りで店を探すのは面倒だから食事は駅で済まそうと思ったけど、仙台らしさを売る店はどこも一杯。
ビール飲みのオレだ。
仕方がない。
KIRIN CITYへ。
ここのビールは美味いし、食べ物にこだわりは持たない。
駅の2階テラスから眺めた仙台は大きく、ただ案外暗かった。
この通りを10分も行けば仙台球場に着くのだろうと納得して、ホテルへの道を。
地下の街路は目新しくて広い。
探していたあおば通駅はその地下にあった。
そこから地上へ。
そこが青葉通り。
やはり人通りは多くない。
政令指定都市だが、おそらく仙台市はおそろしく広いのだろう。
中心街は100万人もの市民を持つような規模じゃない。
仙台に着くまでの552㎞ではやりたいことをやりきった。
道中では特に触れなかったが、様々なことが頭に浮かぶ。
当り前のことだけど。
仕事のこと、将来のこと、彼女のこと。
でも深く考えるような時間にはならなかった。
あと4日あるから、どこかの街で真剣に考えるようなことがあるかもしれないけど、それが目的じゃない。
仙台についてもう少し書きたいが、もう浮かばない。
たぶんオレは仙台をある程度知っているのだろう。
両親とも寄ったし、大勢の友とも寄ったことがある。
繁華街はたいして大きくないし、仙台青葉城は少し離れている。
それよりも今日は、久々の路上暮らしが楽しくて仕方なかったよ。
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