*

「車旅日記」1998年春 3日目(津軽SA-十和田湖-酒田駅-鳴子温泉)-津軽SA、温川、十和田湖休屋、長木渓谷、道の駅鷹巣、道の駅琴丘、道の駅西目、象潟駅、酒田駅、道の駅戸沢、鳴子サンハイツ 【下北半島を目指した春。男の旅は北を目指すものと思っていた20代後半。高倉健さんの影響でございましょうか。】

公開日: : 最終更新日:2025/05/10 旅話, 旅話 1998年

車旅日記1998年5月3日

1998・5・3 5:45 東北自動車道-津軽SA 1087km
聞き慣れない鳥の鳴き声がする。
朝食の用意はまだできていないが、あまり人のいないエリアでよかったと思っている。

昨夜のことは夢のようだ。

雨に打たれて、あの雨を避けた上で合理的な食事および睡眠場所を考えるのに焦っていた。

雨に洗われる青森市内の様子を正確に把握できず、ライトアップされたテレビ塔を自由の女神、あるいは悪魔の巣窟のように感じていた。

全体的にきれいな街だったが、駅の在り方が一番古くさくて、そこに温かみを覚えた。
新幹線が通っていない現実は大きい。

ベイブリッジはなかなかのものだった。
道に迷う形で渡ったけど、通行料はかからないし、いい思い出になった。

それにしても昨夜の雨はひどかった。
きっと青森でも記録的な豪雨だったのじゃないか。

とにかく雨の中で一日が暮れて、通過してきた街並を正確には思い出せないけど、北の美しい街にやってきたという印象はある。

それと菜の花畑。
菜の花は明るいんだよ。
そこにだけ照明装置が埋め込まれているかのようだった。

来た甲斐はあったと思う。
雨はまだ完全に上がっていないし、今後も油断はできないけれど、これから行く場所は決まっている。

十和田湖の女神に会いにいく。

6:51 102号国道‐温川 1125㎞
十和田湖にはまだ着かない。
エリック・クラプトンのブルースが風景にマッチしていた。

今は音楽を止めて川の音を聞いている。
昨夜の雨でかなり濁っているが、もとはとてもきれいな川なのだろう。

ここが何という場所なのか正確には分からないが、山里という表現がぴったりのとても素晴らしい場所だ。

津軽から十和田へ。
そのルートにはりんご園があり、深山幽谷があり、川が流れ、そしてこの先には何があるのだろう。

近くのオジサンが何かを川から引き揚げている。

このルートにはもうひとつ。
朝の人の暮らしがあった。

8:13 十和田湖-休屋 1147㎞
15年振りに訪ねた。

当時は中学生。
あの時分に思ったことを忘れずにここまで生きてきた。

ここにはもう一度必ず来ると誓い、奥入瀬のポスターを購入した。

その思いにはおまけがあって、再訪の際はオレが選んだ女性を連れてくるという条件もついていた。
それは叶わなかったけど、ここにいることには満足している。

この湖は人を優しい気持ちにさせる。

食堂は朝早くから営業していて、オレのような客を待っている。
鍋焼きうどん、とても美味かった。

そして土産を買った。
誰かに買っていきたくなったんだ。

そしてその品を手にして分かった。
渡したい相手が誰であるのかを。

ひとりしかいない。
彼女以外に浮かぶはずもない。

湖には妖精が暮らしている。
今回来てみてその思いを強くした。

オレには尽きない思いがある。

またいずれ。

9:35 県道2号樹海ライン‐長木渓谷 1190㎞
旅に疲れて渓谷に下りた。

昨夜からの雨で川は濁っている。
それも自然が作ったものだ。
清流だけが川の顔じゃない。

ここに立ち寄ってみてよかった。
人間の手がつけられていない風景をよく見ておく必要がある。

背筋を伸ばして空を見た。
雨降りが続いたから下ばかり見がちだけど、今は5月。

上を見るといい。
緑がきれいだ。
ここに来るまでに緑の門をいくつかくぐったけど、その度に肩のあたりの疲れが抜けていくような気がしたよ。

道のムコウには桃色の花が咲いている。
誰かオレにあの花の名前を教えてくれないか。

オレも花や緑と素直な気持ちで付き合える年齢になった。

10:44 7号国道‐鷹巣(道の駅) 1216㎞
道の駅につられて寄ってみた。
煙草とコーヒーを楽しもうと思っていた。

そして秋田全域の地図を見ていたらアンケートのオバチャンに呼び止められた。
そこでオバチャンと約束したから「太鼓の館」に入ってみた。

面白かったよ。
実際に太鼓を叩けてうれしかった。

「ウレシイ」。
本当に口をついて出たんだ。

こんな旅もいい。

秋田に行って太鼓を叩いてきた。

いい土産話になる。

12:36 7号国道‐琴丘(道の駅) 1274㎞
路上の生活も疲れる。
今夜の宿をとっておいてよかった。

形としては宿に向かうことになるけど、それだけにならないように旅人としての視点を失わないようにしっかり持っていたい。

飯も食ったし、とりあえず生きるために必要なことは道中見当たらない。

ここの食堂は空いていて、店もきれいで感じがよかった。

できればこうして安心しながら進んでいきたい。

14:38 7号国道‐西目(道の駅) 1362㎞
灰色の日本海。
今回は間近に見ることはないだろう。

気にしていた道川駅のオッチャンの店はちゃんと営業中だった。

少し前に勘違いしたんだ。
ひとつ前の駅が道川駅とよく似た造りで、駅に隣接している店が廃屋のようになっていたんだ。

だからオッチャンの店を見つけた時は心から喜んだ。

あそこもまた行くことがあるだろう。

そんな気がしてならない。

15:31 象潟駅 1385㎞
思い出に浸ってみた。

2年前に訪れたあの喫茶店は当時のまま明るくて清潔な店だった。

美しいマスターには会えなかったけど、おそらくご亭主だろう。
やはり上品な男性が美味しいコーヒーを淹れてくれたよ。

あの日も雨だった。
そしてよくは思い出せないが、心の中も同じような状態だっただろう。

当時想っていた女性を今も想っている。
そしてあの時と同じように、渡せるかどうかも分からない土産を手にしている。

時間とは心のある部分においては進みもせずに、ただ思いを濃密にするだけの役割を担うものらしい。
いつもはもどかしく思う時の流れも、今日はちょっぴり見直してみたくなった。

多少の切なさは伴う。
仕方がないというよりもむしろ、それでいいのだと言いたい。

ここもこれで終わりじゃない。
また来るだろう。

九十九島も蚶満寺も、今日は激しく雨に打たれている。

16:42 酒田駅 1423㎞
弁当を買いに立ち寄った。
でも駅弁は置いてなかった。

この街も思い出の中にある。
オレに職質をしてきた巡査は今もこの街の治安を守っているのだろうか。

あの夜は寒くて結局眠れずに立ち去った。
初めてのツアーの時のことだ。

そして当時想いを寄せていた女性がくれた悲しい音楽をここで聴いていた。

18:01 47号国道‐戸沢(道の駅) 1469㎞
空がようやく明るくなった。

この地に高麗館が建っている。
妙な組み合わせだが、それなりに人を呼んでいる。

経緯は知らないが、これはこれでいいのだろう。
キムチそばも結構イケたよ。

思えば今日は様々な場所にいた。
同じ空を眺めるのでも気持ちに若干の違いがあることに気づく。

山形の風に吹かれてぶらぶらとオレが歩いている。

この構図をとても気に入っている。

21:25 鳴子サンハイツ 1535㎞
野球が終わったあとは特にすることがない。

清原とダンカンの2本の素晴らしいホームランを見ることができたのはよかった。
スカッとしたよ。

ここに着くまでには必ず心に負担を感じる。
スピードを出さない自分に引け目を感じる。

誇り高くもいられない自分もイヤになる。
だから余計に疲れる。

いつもここに精魂尽き果てた状態でたどり着く。
そして気づく。

いつもひとりでたどり着くことに。

路上ではひとりきりの自分に自信を持てるが、大勢の人々がいる中では姿を隠そうとする自分に。

もう、ひとりでいるのはいい。

どこに行くのでもひとりではいたくない。

そう思った。

その思いを収穫として東京に帰るべきなのだろう。

ビールに酔った。
きっと疲れが噴き出したのだろう。

関連記事

「鉄旅日記」2020年睦月 初日(東京-湯沢)その2‐新白河、郡山、福島、仙台、あおば通(東北本線) 【秋田内陸縦貫鉄道に乗りにいきました。五能線の名所も歩いた旅初めでございます。】

鉄旅日記2020年1月11日・・・新白河駅、郡山駅、福島駅、仙台駅、あおば通駅(東北本線) 8:2

記事を読む

「鉄旅日記」2020年盛夏 2日目(防府-肥前鹿島)その6‐博多南、博多、鳥栖、佐賀、肥前鹿島(博多南線/鹿児島本線/長崎本線) 【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】

鉄旅日記2020年8月14日・・・博多南駅、博多駅、鳥栖駅、佐賀駅、肥前鹿島駅(博多南線/鹿児島本

記事を読む

「車旅日記」2000年春 2日目(新潟豊栄‐象潟)道の駅豊栄、道の駅神林、瀬波温泉龍泉、道の駅温海、立岩海底温泉、酒田南郊、象潟駅、象潟松籟館 【一年のブランクを経て、旅再開。出発場所は東京町田から、下町葛飾へと変わっております。】

車旅日記2000年5月4日 2000・5・4 8:09 7号国道-豊栄(道の駅) 路上で夜を明かす

記事を読む

「鉄旅日記」2008年初秋【秋になると北陸に行きたくなるものでございます。能登半島をはじめ、いくつもの終着駅へと行き着いたのでございます。】初日(東京-羽咋)その1-東京、大垣、米原、長浜、敦賀、鯖江、西鯖江、大聖寺、加賀温泉(東海道本線/北陸本線)

鉄旅日記2008年9月13日・・・東京駅、大垣駅、米原駅、長浜駅、敦賀駅、鯖江駅、西鯖江駅、大聖寺駅

記事を読む

「車旅日記」2004年夏【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】初日(佐賀空港-筑豊-別府)走行距離254㎞その2-田川後藤寺駅、豊前川崎駅、宝珠山駅、日田駅、豊前中村駅、鳥栖駅、別府・ホテル清風屋上ビヤガーデン

車旅日記2004年8月11日・・・田川後藤寺駅、豊前川崎駅、宝珠山駅、日田駅、豊前中村駅、鳥栖駅、別

記事を読む

「鉄旅日記」2017年秋 その1-東長崎、本鵠沼、鵠沼海岸、藤沢、石上、柳小路、鵠沼、湘南海岸公園、鎌倉(西武池袋線/小田急電鉄江ノ島線/江ノ島電鉄) 【湘南へ向かう休日。江ノ電に乗りに行ったのでございます。】

鉄旅日記2017年11月12日・・・東長崎駅、本鵠沼駅、鵠沼海岸駅、藤沢駅、石上駅、柳小路駅、鵠沼駅

記事を読む

「鉄旅日記」2019年長月 最終日(宮古-東京)その2‐陸前赤崎、大船渡、気仙沼、一ノ関(三陸鉄道リアス線/大船渡線) 【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】

鉄旅日記2019年9月23日・・・陸前赤崎駅、大船渡駅、気仙沼駅、一ノ関駅(三陸鉄道リアス線/大船渡

記事を読む

「車旅日記」1997年夏 初日(東京-三国峠-新潟)-町田、東福生駅、山田うどん、前橋市田口町、月夜野道路情報ターミナル、奥平温泉遊神館、越後湯沢駅、堀之内パーキング、道の駅豊栄 【男鹿半島を目指した夏。友と過ごし、旧友と再会したみちのく旅でございます。】

車旅日記1997年8月13日 1997・8・13 10:30 東京町田 出発が遅れている。 急ぐべ

記事を読む

「鉄旅日記」2018年師走 最終日(神島-鳥羽港-伊良湖岬-三河田原-豊橋-東京)その2-中之郷駅、伊勢湾フェリー乗場、道の駅伊良湖クリスタルボルト(伊勢湾フェリー) 【伊勢のいくつもの終着駅に降りまして、神島で2018年最後の満月を眺めたのでございます。】

鉄旅日記2018年12月24日・・・中之郷駅、伊勢湾フェリー乗場、道の駅伊良湖クリスタルボルト(伊勢

記事を読む

「鉄旅日記」2014年夏【青春18きっぷで、中国ぶらぶら旅】最終日(呉-東京)-呉、広、竹原、安芸幸崎、松永、東尾道、相生、西相生、比叡山坂本、用宗、富士、沼津(呉線/山陽本線/赤穂線/湖西線/東海道本線)

鉄旅日記2014年8月17日・・・呉駅、広駅、竹原駅、安芸幸崎駅、松永駅、東尾道駅、相生駅、西相生駅

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2021年秋 最終日(飯坂温泉-東京)その5 ‐仙台、鹿島、原ノ町、浪江、常陸多賀(常磐線) 【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】

鉄旅日記2021年10月10日・・・仙台駅、鹿島駅、原ノ町駅、浪江駅

「鉄旅日記」2021年秋 最終日(飯坂温泉-東京)その4 ‐山寺(仙山線)/立石寺山門売店/高砂屋本舗 【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】

鉄旅日記2021年10月10日・・・山寺駅(仙山線)/立石寺山門売店

「鉄旅日記」2021年秋 最終日(飯坂温泉-東京)その3 ‐米沢、赤湯、中川、山形、北山形(奥羽本線) 【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】

鉄旅日記2021年10月10日・・・米沢駅、赤湯駅、中川駅、山形駅、

「鉄旅日記」2021年秋 最終日(飯坂温泉-東京)その2 ‐峠(奥羽本線)/力餅商店/峠の力餅売り/峠駅今昔物語 【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】

鉄旅日記2021年10月10日・・・峠駅(奥羽本線)/力餅商店/峠の

「鉄旅日記」2021年秋 最終日(飯坂温泉-東京)その1 ‐飯坂温泉駅、福島駅(福島交通飯坂線/奥羽本線) 【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】

鉄旅日記2021年10月10日・・・飯坂温泉駅、福島駅(福島交通飯坂

→もっと見る

    PAGE TOP ↑