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「車旅日記」1998年春【下北半島を目指した春。男の旅は北を目指すものと思っていた20代後半。高倉健さんの影響でございましょうか。】3日目(津軽SA-十和田湖-酒田駅-鳴子温泉)-津軽SA、温川、十和田湖休屋、長木渓谷、道の駅鷹巣、道の駅琴丘、道の駅西目、象潟駅、酒田駅、道の駅戸沢、鳴子サンハイツ

公開日: : 最終更新日:2023/04/29 旅話, 旅話 1998年

車旅日記1998年5月3日
1998・5・3 5:45 東北自動車道-津軽SA 1087km
聞き慣れない鳥の鳴き声がする。
朝食の用意はまだできていないが、あまり人のいないエリアでよかったと思っている。

昨夜のことは夢のようだ。

雨に打たれて、あの雨を避けた上で合理的な食事および睡眠場所を考えるのに焦っていた。

雨に洗われる青森市内の様子を正確に把握できず、ライトアップされたテレビ塔を自由の女神、あるいは悪魔の巣窟のように感じていた。

全体的にきれいな街だったが、駅の在り方が一番古くさくて、そこに温かみを覚えた。
新幹線が通っていない現実は大きい。

ベイブリッジはなかなかのものだった。
道に迷う形で渡ったけど、通行料はかからないし、いい思い出になった。

それにしても昨夜の雨はひどかった。
きっと青森でも記録的な豪雨だったのじゃないか。

とにかく雨の中で一日が暮れて、通過してきた街並を正確には思い出せないけど、北の美しい街にやってきたという印象はある。

それと菜の花畑。
菜の花は明るいんだよ。
そこにだけ照明装置が埋め込まれているかのようだった。

来た甲斐はあったと思う。
雨はまだ完全に上がっていないし、今後も油断はできないけれど、これから行く場所は決まっている。

十和田湖の女神に会いにいく。

6:51 102号国道‐温川 1125㎞
十和田湖にはまだ着かない。
エリック・クラプトンのブルースが風景にマッチしていた。

今は音楽を止めて川の音を聞いている。
昨夜の雨でかなり濁っているが、もとはとてもきれいな川なのだろう。

ここが何という場所なのか正確には分からないが、山里という表現がぴったりのとても素晴らしい場所だ。

津軽から十和田へ。
そのルートにはりんご園があり、深山幽谷があり、川が流れ、そしてこの先には何があるのだろう。

近くのオジサンが何かを川から引き揚げている。

このルートにはもうひとつ。
朝の人の暮らしがあった。

8:13 十和田湖-休屋 1147㎞
15年振りに訪ねた。

当時は中学生。
あの時分に思ったことを忘れずにここまで生きてきた。

ここにはもう一度必ず来ると誓い、奥入瀬のポスターを購入した。

その思いにはおまけがあって、再訪の際はオレが選んだ女性を連れてくるという条件もついていた。
それは叶わなかったけど、ここにいることには満足している。

この湖は人を優しい気持ちにさせる。

食堂は朝早くから営業していて、オレのような客を待っている。
鍋焼きうどん、とても美味かった。

そして土産を買った。
誰かに買っていきたくなったんだ。

そしてその品を手にして分かった。
渡したい相手が誰であるのかを。

ひとりしかいない。
彼女以外に浮かぶはずもない。

湖には妖精が暮らしている。
今回来てみてその思いを強くした。

オレには尽きない思いがある。

またいずれ。

9:35 県道2号樹海ライン‐長木渓谷 1190㎞
旅に疲れて渓谷に下りた。

昨夜からの雨で川は濁っている。
それも自然が作ったものだ。
清流だけが川の顔じゃない。

ここに立ち寄ってみてよかった。
人間の手がつけられていない風景をよく見ておく必要がある。

背筋を伸ばして空を見た。
雨降りが続いたから下ばかり見がちだけど、今は5月。

上を見るといい。
緑がきれいだ。
ここに来るまでに緑の門をいくつかくぐったけど、その度に肩のあたりの疲れが抜けていくような気がしたよ。

道のムコウには桃色の花が咲いている。
誰かオレにあの花の名前を教えてくれないか。

オレも花や緑と素直な気持ちで付き合える年齢になった。

10:44 7号国道‐鷹巣(道の駅) 1216㎞
道の駅につられて寄ってみた。
煙草とコーヒーを楽しもうと思っていた。

そして秋田全域の地図を見ていたらアンケートのオバチャンに呼び止められた。
そこでオバチャンと約束したから「太鼓の館」に入ってみた。

面白かったよ。
実際に太鼓を叩けてうれしかった。

「ウレシイ」。
本当に口をついて出たんだ。

こんな旅もいい。

秋田に行って太鼓を叩いてきた。

いい土産話になる。

12:36 7号国道‐琴丘(道の駅) 1274㎞
路上の生活も疲れる。
今夜の宿をとっておいてよかった。

形としては宿に向かうことになるけど、それだけにならないように旅人としての視点を失わないようにしっかり持っていたい。

飯も食ったし、とりあえず生きるために必要なことは道中見当たらない。

ここの食堂は空いていて、店もきれいで感じがよかった。

できればこうして安心しながら進んでいきたい。

14:38 7号国道‐西目(道の駅) 1362㎞
灰色の日本海。
今回は間近に見ることはないだろう。

気にしていた道川駅のオッチャンの店はちゃんと営業中だった。

少し前に勘違いしたんだ。
ひとつ前の駅が道川駅とよく似た造りで、駅に隣接している店が廃屋のようになっていたんだ。

だからオッチャンの店を見つけた時は心から喜んだ。

あそこもまた行くことがあるだろう。

そんな気がしてならない。

15:31 象潟駅 1385㎞
思い出に浸ってみた。

2年前に訪れたあの喫茶店は当時のまま明るくて清潔な店だった。

美しいマスターには会えなかったけど、おそらくご亭主だろう。
やはり上品な男性が美味しいコーヒーを淹れてくれたよ。

あの日も雨だった。
そしてよくは思い出せないが、心の中も同じような状態だっただろう。

当時想っていた女性を今も想っている。
そしてあの時と同じように、渡せるかどうかも分からない土産を手にしている。

時間とは心のある部分においては進みもせずに、ただ思いを濃密にするだけの役割を担うものらしい。
いつもはもどかしく思う時の流れも、今日はちょっぴり見直してみたくなった。

多少の切なさは伴う。
仕方がないというよりもむしろ、それでいいのだと言いたい。

ここもこれで終わりじゃない。
また来るだろう。

九十九島も蚶満寺も、今日は激しく雨に打たれている。

16:42 酒田駅 1423㎞
弁当を買いに立ち寄った。
でも駅弁は置いてなかった。

この街も思い出の中にある。
オレに職質をしてきた巡査は今もこの街の治安を守っているのだろうか。

あの夜は寒くて結局眠れずに立ち去った。
初めてのツアーの時のことだ。

そして当時想いを寄せていた女性がくれた悲しい音楽をここで聴いていた。

18:01 47号国道‐戸沢(道の駅) 1469㎞
空がようやく明るくなった。

この地に高麗館が建っている。
妙な組み合わせだが、それなりに人を呼んでいる。

経緯は知らないが、これはこれでいいのだろう。
キムチそばも結構イケたよ。

思えば今日は様々な場所にいた。
同じ空を眺めるのでも気持ちに若干の違いがあることに気づく。

山形の風に吹かれてぶらぶらとオレが歩いている。

この構図をとても気に入っている。

21:25 鳴子サンハイツ 1535㎞
野球が終わったあとは特にすることがない。

清原とダンカンの2本の素晴らしいホームランを見ることができたのはよかった。
スカッとしたよ。

ここに着くまでには必ず心に負担を感じる。
スピードを出さない自分に引け目を感じる。

誇り高くもいられない自分もイヤになる。
だから余計に疲れる。

いつもここに精魂尽き果てた状態でたどり着く。
そして気づく。

いつもひとりでたどり着くことに。

路上ではひとりきりの自分に自信を持てるが、大勢の人々がいる中では姿を隠そうとする自分に。

もう、ひとりでいるのはいい。

どこに行くのでもひとりではいたくない。

そう思った。

その思いを収穫として東京に帰るべきなのだろう。

ビールに酔った。
きっと疲れが噴き出したのだろう。

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