*

「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】初日(東京葛飾-黒磯)-天王台駅、水海道駅、下妻駅、真岡駅、益子駅、烏山駅、黒磯駅、道の駅明治の森黒磯

公開日: : 最終更新日:2024/05/16 旅話, 旅話 2006年

車旅日記2006年5月2日・・・天王台駅、水海道駅、下妻駅、真岡駅、益子駅、烏山駅、黒磯駅、道の駅明治の森黒磯

2006・5・2 18:59 東京葛飾金町
雨の出発も過去にはあっただろう。
だからどうしたというわけじゃない。
ストーンズを見に行った日と同じだ。
神を信じていいい。
何より旅立ちを前に難なく仕事を上がれたんだ。

彼女に「素敵な連休を」と言い残して旅に出る。
出発が早まった。

この町のトヨタレンタカーには毎度世話になる。
今回の旅は長くなる。

20:38 天王台駅(24㎞)
オープニングはストーンズの「フラッシュポイント」で。
旅が始まった。

6号国道が快調だ。
始まりの江戸川渡河から一気に利根川までという計画は、ほぼ9割の行程を終えた。
松戸を抜け、馬橋、新松戸の駅への表示を横目に柏を過ぎ、雨に煙った小さく灯る町に着いた。

天王台駅周辺は我孫子駅前によく似ていて繁華街に広がりはなく、反対側の出口にはだだっ広いロータリーが広がるのみ。
メイン・ストリートの先には、パチンコ屋の看板が街金融のそれのようにセンスなく光り、文字の一角が欠けている。

金町に来てからちょうど7年。
ここまでの道には記憶に引っかかっているものもあった。
ただし記憶から取り出したからといって、気持ちが温まるとか、そうした類のものじゃない。
悲しくさせるものでもない。

飲み物は野菜ジュースにした。
何やらいい予感がある。

2019年3月10日撮影

21:31 水海道駅(46㎞)
利根川大橋のムコウに取手の街が見える。
とてもきれいに見える。
2月に賛美した取手の街角には粋なBARもあって、234号国道に入った街はしばらく明るかった。
テレビ塔は街道沿いに建っていた。

関東鉄道常総線の駅にはどことなく品がある。
6年前に逆を行った道だが、新守谷駅周辺くらいしか覚えていなかった。

その手前の守谷には未完成の未来ができつつあった。
つくばエキスプレスはそうした姿をしている。

音楽は尾崎豊へ。
国道を逸れて、「米軍キャンプ」の切ないメロディが流れてこの駅に着いた時、駅の外で少女がひとり寂しげに立っていた。

若者たちが便所の前でたむろしている。
ここらあたりまで来ると、あの年代の者たちもかわいいものだ。
近寄る気にはならないが。

第一ホテル以外には目ぼしい建物のない街。
駅のホームに看板が立ち並ぶ様は、見慣れたものと何かが違う。
その違いをうまく表現できないが、すでに東京を離れたのだと、オレは言いたいのだろう。

駅舎は丸みを帯びて、とてもこじんまりとしていた。

2014年4月27日撮影

22:15 下妻駅(71㎞)
真っ暗な関東平野に僅かな町の明かりが覗く。
そんな道を走っていたよ。
もう20年も前に尾崎豊が言いたかったことがやっと分かったような気がして、幸せな気持ちで車を走らせていたよ。

古い街に着いた。
商店街の構えには、長いこと保ってきたのだという誇りを感じる。
新興勢力の姿はなく、22時を過ぎたばかりの街はすでに寝静まっている。

それにしても小さな駅だ。
この街の名がついた駅にしては簡素に過ぎるように思う。
ローカル私鉄駅の哀しみをこうした光景に見る。
商店街の外れに位置する場所柄も物寂しく、客待ちのタクシーもあるかなしか。
夜に浮かんだ街はどことなく白かった。

いろいろ言ったけど、この街を好きになりそうだ。
街中を走りながら、そんな感情の芽生えを感じて、今ここにいる。

親切な駅長さんに便所を借りた。
雨は上がり、星がいくつか瞬き始めた。

2018年4月30日撮影

23:05 真岡駅(102㎞)
雨が完全に上がり、街路が明るくなった。
まだまだ夜は続いていく。

下館の跨線橋の下を1両編成のディーゼル車が小山へ向かう。
あれは最終列車じゃないだろう。

234号国道と並走する鉄道は、下館からは関東鉄道に替わって真岡鐡道。
心許ない単線のレールを走る鉄道の営業はすでに終わり、街は静けさに満ちている。

駅前のタクシー会社の車も概ね戻ったようだ。
その中、明かりの消えた駅前で客を待ち続ける運転手には何かアテがあるのだろうか。
この街の酒場で黄金週間を陽気に祝う存在を信じてのことだろうか。

東京を出て、千葉、茨城ときて、栃木県に入っている。
千葉、茨城両県とはしばらくお別れ。
この栃木にもそうは長くいない。

地図を眺める。
北には東北の山河が果てしないまでに続いている。

駅のホームにはトロッコ列車風のメルヘン号が静かに朝を待っている。
明かりの消えたホームに忍び込み、わずかな空を見上げる。
人の声に敏感になるが、誰もいやしないさ。
気の荒い者も、こんな時間にここで暴れたりしないさ。

跨線橋から鉄道基地を眺めて車に戻った。
真岡鐡道はSLを走らせるのか。

真岡は繊維の街とのこと。
古い街だ。
歴史のどこに登場したのかは記憶にない。

さっきのタクシーも去って、街は闇と静寂に完全に支配され、抵抗する勢力の姿は微塵もない。

2014年4月27日撮影

23:35 益子駅(113㎞)
線路を越えて真岡の中心街へ。

狭い路地で、聴いていた尾崎豊のCDを痛めてしまった。
その傷が心に残っている。
たいした話じゃないが。

真岡の街並はなかなかに美しかった。
由緒を持つであろう旅館にホテル。
角には真岡新聞社がある。
業界紙かもしれないが、気骨のある記事を載せていそうなたたずまいを見せていた。

駅に寄っただけで街を理解したと公言するつもりはこれまでもなかったが、真岡の素敵な一面をこの真夜中にオレは見たのだろう。

焼物の町へ。
星がきれい。
10年前に最上川の畔で、無造作に夜空に散らばり、今にも落ちてきそうな数多の星に恐怖を感じたほどじゃないにしても、信じがたいほどの星の数だ。

無人のホームで、何時間も前に最終列車が出たホームで、虫の声に癒されながらしばらく上を向いていた。
この旅最初の立ち去りがたい場所になったよ。

観光町の益子駅はとても立派な造りをしている。
町のシンボル的存在でもあるだろう。
線路はこの駅で上下交差することはなく、たった1本の線路だけが敷かれている。
その姿は愛らしくもあり、ここで列車を待つ者は目の前の民家の連なりに町の規模を実感する。
有名な町だが、小さな町だ。

星を見ながら煙草に火をつける。
いくつもの星の下で、ほんの一瞬だけでも絵になりたいからさ。
駅のホームというのは、そうするのに適した場所だ。

これから北へ向かうオレを天上から北斗七星が眺めていた。
木造の傘の下で深い味わいを感じて、この町を離れる。

24:23 烏山駅(141㎞)
関東平野に人家が稀になり、那須連山に近づく。
国道についた番号は294。
この町で線路は絶え、白河の関まで険しい道が続いていく。

真岡ほどの規模じゃないが、ここは歴史を持つ文化都市のようだ。
立派な終着駅がある。
ホームには始発列車が止まり、ホームから盗み見た駅構内には、人が集まるのに相応しい空間がある。

そして見上げれば相変わらずいくつもの星が煌めいている。
辿り着いた先がここだったらいい。
そう思えた古い駅と広場にいる。

たまに車がやってくるが、犬とも言えない動物の泣き声の他は、今は何も聞こえてこない。
交番のポリスの姿も見えない。

宇都宮に向かう終列車は何時に出るのだろう。
烏山線を守ろうという看板だけが寂しかった。

那珂川が流れ、城跡がある町。
少し町中を走ったら、もう今夜の身の振り方を考える時間。

2013年3月31日撮影

25:25 黒磯駅(188㎞)
赤く点滅する鉄塔の群れが荒野に屹立する様はどこか不気味で、退廃した未来を思わせる。
映画「ブレード・ランナー」的な光景だった。

大田原の手前から400号国道。
大田原はなかなかの街だった。
市庁舎も立派で洒落た店もある。

東北本線からは外れているが、この時代に鉄道は必ずしも必要じゃない。
明治からの歴史の中では、あるいは鉄道が敷かれていた時代を持ったのかもしれない。
重みのある街を真夜中に見た。

街中を抜けて西那須野で新幹線高架と交差すると4号国道。
街道に24時間営業の店が闇に点滅するように存在し始める。

黒磯駅は近い過去に新しくなったのだろうが、風格を併せ持った立派な駅だ。
ここを訪ねた者をして、何事かが待ち受けていそうに感じさせる堂々とした姿をしている。

30年前の話になるが、この街でジャイアント馬場は大木金太郎とのPWF、アジアヘビーの2冠戦に勝ち、その3年後にジャンボ鶴田は、狂犬ディック・マードックから鹿児島で失ったUN王座を奪還している。
あれから黒磯で興行が打たれた記憶はない。

そんなことがきっかけで街の名を知ってきたオレにしてみれば、黒磯は伝説の街といえる。
ここを過ぎれば白河の関。
関東平野最後の宿場町なのだろう。

どうやら近くに道の駅がある。

2019年9月23日撮影

25:54 枝室街道‐道の駅明治の森黒磯(196㎞)
白河の関には届かなかったが、今夜はここで終える。
キャンピングカーをはじめ、たくさんの車が秩序に沿って夜を明かそうとしている。
橙色の灯に包まれたこの空間をとても気に入っている。

路上で眠るのは久しぶりだ。
疲れはある。
大切にしていたCDに傷をつけたり、様々な不安もあったけど、今ここでこうしていることがうれしい。

仮に何らかの犠牲を伴うにしろ、その事実をおおらかに受け流して楽しまなきゃいけない。
楽しむということは、ある境を経ると意志が必要になるものだ。
こうして最後にビールを飲めた今日は、素晴らしい一日だったのだろう。

走行距離は200㎞弱。
思い返せば長い道程だった。
これが旅の初日。

それにしても、ここらじゃいつもこんなに星が見えるのか。

関連記事

「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】初日(長岡-会津-福島-山形)走行距離388㎞ その2-福島駅、峠駅、今泉駅、荒砥駅、アパホテル山形駅前大通

車旅日記2005年7月16日・・・福島駅、峠駅、今泉駅、荒砥駅、アパホテル山形駅前大通 17:00

記事を読む

「鉄旅日記」2012年春【青春18きっぷで、鶴見線・伊豆・駿河途中下車旅】その2-新清水、静岡、草薙、興津、裾野、御殿場、駿河小山、国府津、逗子、横須賀、田浦、新川崎(東海道本線、静岡鉄道、御殿場線、横須賀線)

鉄旅日記2012年4月8日その2・・・新清水駅、静岡駅、草薙駅、興津駅、裾野駅、御殿場駅、駿河小山駅

記事を読む

「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】初日(東京-新大宮)その2-宇治山田、東青山、青山町、名張、大和八木、大和西大寺、新大宮(山田線/大阪線/橿原線/奈良線)

鉄旅日記2017年3月18日・・・宇治山田駅、東青山駅、青山町駅、名張駅、大和八木駅、大和西大寺駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2018年神無月【北陸へ。信州へ。友を訪ねての巡礼旅でございます】2日目(越前大野-福井-米原-名古屋-松本)その1-越前大野、南今庄、敦賀、武並(越美北線/北陸本線/東海道本線/中央本線)

鉄旅日記2018年10月7日・・・越前大野駅、南今庄駅、敦賀駅、武並駅(越美北線/北陸本線/東海道本

記事を読む

「鉄旅日記」2007年皐月【夜汽車に乗って東京を離れ、山陰山陽へ。鉄旅最初の長旅でございました。】最終日(岡山-東京)-岡山、長船、明石、米原、大垣、沼津、平塚、北千住、東京葛飾(山陽本線/赤穂線/東海道本線)

鉄旅日記2007年5月6日・・・岡山駅、長船駅、明石駅、米原駅、大垣駅、沼津駅、平塚駅、北千住駅(山

記事を読む

「鉄旅日記」2019年弥生Part.3【明知鉄道、名鉄築港線。その2線に乗るために、東海道を下っていったのでございます。】最終日(多治見-東京)その1-多治見、瑞浪、明智、岩村、極楽、恵那(中央本線/明知鉄道)

鉄旅日記2019年3月24日・・・多治見駅、瑞浪駅、明智駅、岩村駅、極楽駅、恵那駅(中央本線/明知鉄

記事を読む

「車旅日記」2004年夏【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】4日目(鹿児島-田原坂-長崎)走行距離384㎞その1-鹿児島東急イン、城山公園、鹿児島中央駅、出水駅、八代駅、熊本駅

車旅日記2004年8月14日・・・鹿児島東急イン、城山公園、鹿児島中央駅、出水駅、八代駅、熊本駅

記事を読む

「鉄旅日記」2019年年始【雪が見たくて北へ向かいました。そして初めて仙台空港線に乗ったのでございます。】初日(東京-一ノ関)その2-新津、新発田、坂町、小国、今泉、西米沢~上杉家御廟~上杉神社~南米沢(信越本線/羽越本線/米坂線)

鉄旅日記2019年1月5日・・・新津駅、新発田駅、坂町駅、小国駅、今泉駅、西米沢駅、南米沢駅(信越本

記事を読む

「鉄旅日記」2019年長月【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】最終日(宮古-東京)その1‐宮古、岩手船越、浪板海岸、吉里吉里(三陸鉄道リアス線)

鉄旅日記2019年9月23日・・・宮古駅、岩手船越駅、浪板海岸駅、吉里吉里駅(三陸鉄道リアス線) 2

記事を読む

「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】2日目(新大宮-大阪難波)その1-近鉄奈良、新田辺、三山木、JR三山木、狛田、下狛、新祝園、祝園、学園前、学研奈良登美ヶ丘(奈良線/京都線/けいはんな線)

鉄旅日記2017年3月18日・・・近鉄奈良駅、新田辺駅、三山木駅、JR三山木駅、狛田駅、下狛駅、新祝

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】最終日(三次-東京)その1‐三次、上下、府中(福塩線)

鉄旅日記2020年7月26日・・・三次駅、上下駅、府中駅(福塩線)

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その5‐備後落合、備後庄原、三次(芸備線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・備後落合駅、備後庄原駅、三次駅(芸

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その4‐宍道、加茂中、出雲横田、出雲坂根(木次線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・宍道駅、加茂中駅、出雲横田駅、出雲

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その3‐黒松、仁万、出雲市、荘原(山陰本線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・黒松駅、仁万駅、出雲市駅、荘原駅(

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その2‐益田、三保三隅、浜田、波子(山陰本線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・益田駅、三保三隅駅、浜田駅、波子駅

→もっと見る

    PAGE TOP ↑