「車旅日記」1996年1月【旅を友として生きていくと決めた27歳。年頭の誓いでございます。】-町田、伊勢原駅、山北駅、沼津駅、富士駅、道の駅富士川、吉原駅、田子の浦
車旅日記1996年1月1日
1996・1・1 20:43 東京町田
始動だ。
久し振りに動かした筋肉に張りはなく、関節も痛みを訴えている。
それでも動き出さなければならない。
とりあえず眠気はクリアーできそうなんだ。
目的はあるようでない。
日の出に手を合わせたい。
それだけだ。
感傷的になる要素も今は持ち合わせていない。
つまり、この先何を考えようとまったくのフリーということ。
頭の片隅に置いておきたい女性はいる。
道々、彼女のことを思い出しもするだろう。
ただしオレはフリーなんだ。
そんなオレが何を思っていくのか楽しみではある。
オレがこれから出かける理由は、つまりそういうことなんだ。
1時間後には車の中にいる。
1996・1・2 0:37 伊勢原駅
ルートを246にとって、最初の休憩場所。
新年も明けて2日目に入っている。
電車はまだ動いていて、数メートル先にはタクシーが列を作っている。
一応祭も盛りを過ぎて、日常に戻っていく準備がこれから町々で着々と進んでいくことだろう。
夜の街には若者がいる。
彼等も暇なのだろう。
このオレのように。
ここは縁のなかった地方都市だが、こんな街にもライトアップされたメインストリートがあることに新鮮な驚きを覚えたよ。
そのストリートを抜けて国道に戻る。
だけど聞いてくれ。
オレはいまだに目的を定められずにいる。
それでもこうして駅での休憩を済ませたことにより、体もそして心も国道の生活に戻った。
ツアーはこれから。
ブルース・スプリングスティーンをかけている。
1:17 山北駅
山の中に入り込んでいる。
今この場で、月に照らされているのはオレだけだ。
夜の田舎町はとても穏やかだ。
冷静でいなければ恐怖が先立つ。
これからさらに山を登りつめなければならない。
道を少し外している。
これまで通ってきたのは旧道だろうか。
土地勘が試される。
さて、テープが1本終わった。
まだしっくりこないけど、家を出てから60㎞。
もう抜き差しならないところまできた。
これから戻ろうたって戻れないよ。
完全に国道の生活に復帰したんだ。
こんな中、父親が置いておいてくれたチューインガムがありがたい。
これによって眠気はクリアーになり、冷静さを取り戻したよ。
2:31 沼津駅
やかましい所だな。
オレの周りを怪しげな連中が走っている。
いるんだな。
やっぱ。
こんな街にも。
そんな夜だ。
だからって怯えたりしないよ。
目的地が決まったんだ。
それにしても、連中の目的ってのは一体何なんだろうな。
3:12 富士駅
恐怖を感じながら走っている。
しばらく自分を見失ったかのように走っていた。
たどり着いたこの駅に人はいない。
寒風が吹いているだけだ。
これは本当のことを言っているんだが、オレがひとりで走る時はいつも月がきれいだ。
今夜もそうなんだ。
ずっと月を見て走ってきた。
そして今夜のオレの行動に今さらながら戸惑いを覚えている。
行き先に友はいない。
隣には恋人もいない。
誰もいないんだ。
ただ車を走らせている。
当り前のことだが、走り始めてからはわずかな街明かりを除けば、ずっと闇の中なんだ。
ひとりでいると寂しいよ。
こんな感慨に捕らわれるのは3度目のツアーにして初めてだ。
本来こんな闇の中では、普段のように家族のいる暖かい家で布団にもぐっているべきなんだろうな。
今夜アウトローでいるオレが悲しい。
この時間、車を走らせているのは大半がさっき出会ったようなクレイジーな連中みたいだ。
でも、ここまできたら仕方がない。
連中と一緒に朝を迎えるまでだよ。
3:34 1号国道‐富士川(道の駅)
ここで寝るべきだな。
夜が白々と明けてくるまで。
そして、もうしばらく走れば目的地だ。
それにしても、こんな場所があったとは。
初めて道路行政に感謝する気になったよ。
おやすみ。
4:08 1号国道‐富士川(道の駅)
オレは路上生活者にはなれないな。
落ち着いて眠れないよ。
その代わり体は休まった。
視線もしっかりとしている。
走ろう。
もともと行き当たりばったりのツアー。
現地に着けばもっとリラックスできるかもしれない。
それはそうと誰かに聞きたいんだが、神社ってのはこの時間でも入れるのかね?
5:28 1号国道‐富士川(道の駅)
あれからボーっとしていたわけじゃないんだ。
去年別れた恋人と一緒に石段を上がった久能山東照宮を目的地に定めて、お詣りに行ったんだけど、閉まっていたんだ。
やっぱりね。
バカだと思うだろうけど、言わないでくれ。
オレもそう思うんだ。
そして今は帰り道にあたるわけだ。
オレにはもっと先の目標が必要だったんだって思っているよ。
ただ、これから向かう場所で日の出を拝むわけだが、そこが今日のオレには最適な場所だっていう気がするよ。
そこに行くのは何回目になるのかよくは覚えていないけど、所縁の場所なんだ。
問題は海からの日の出になるのかどうかだけど、まあ大丈夫だろう。
これから地図を見て方角を確認したら、後は現地に行って東の空を見上げていればいいんだよ。
それだけの話だ。
6:01 吉原駅
まだ夜は明けない。
したがってこの町にはまだ朝は来ていない。
日常ならぼちぼち人の手によって無理やり夜は開け放たれるんだろうが、今日は正月2日だよ。
そう言えばね。
そして、そんな朝になんでこのオレがこんなところにいるのか一瞬考えたよ。
おかしな話だ。
ところで空の一角が明るくなってきたよ。
ってことは東の空ってのはあのあたりなんだな。
これで分かった。
さあ、行くか。
6:40 田子の浦
ひとりで来るのは初めてだけれど、やっぱいいなここは。
海があって、富士山がある。
素晴らしい朝だ。
ここがオレの海なんだ。
オレの家から西へ150㎞。
長い夜だったけど、来てよかったって心底思っているよ。
今年もまたここで遊ばせてほしい。
それが今フッと思ったオレの願いだよ。
(赤富士に)今年はいい年でありますように。
関連記事
-
-
「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】2日目-友人夫婦と過ごした一日
車旅日記1996年5月4日 1996年5月4日の記憶 一夜明けた。 友人夫婦はそこでしっかりと生
-
-
「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】初日(東京葛飾-黒磯)-天王台駅、水海道駅、下妻駅、真岡駅、益子駅、烏山駅、黒磯駅、道の駅明治の森黒磯
車旅日記2006年5月2日・・・天王台駅、水海道駅、下妻駅、真岡駅、益子駅、烏山駅、黒磯駅、道の駅明
-
-
「鉄旅日記」2020年弥生 初日(東京-高山)その3‐上諏訪、塩尻、洗馬、中津川(中央本線) 【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】
鉄旅日記2020年3月20日・・・上諏訪駅、塩尻駅、洗馬駅、中津川駅(中央本線) 10:27 上諏
-
-
「鉄旅日記」2012年春【青春18きっぷで、銚子へ、房総へ。】その2-猿田、旭、八日市場、八街、成東、本納、茂原、千倉、佐貫町、姉ヶ崎、市川(総武本線、東金線、内房線、外房線)
鉄旅日記2012年3月12日その2・・・猿田駅、旭駅、八日市場駅、八街駅、成東駅、本納駅、茂原駅、千
-
-
「鉄旅日記」2015年夏【日本最南端の終着駅、枕崎までの往復旅】2日目(新南陽-鹿児島中央)その3-宇土、松橋、八代、出水、牛ノ浜、草道、鹿児島中央(鹿児島本線/肥薩おれんじ鉄道)
鉄旅日記2015年8月13日その3・・・宇土駅、松橋駅、八代駅、出水駅、牛ノ浜駅、草道駅、鹿児島中央
-
-
「鉄旅日記」2020年初秋 初日(東京-高松)その2 ‐石山、京阪石山、石場、膳所、京阪膳所(京阪石山坂本線)/今井兼平之墓/義仲寺 【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】
鉄旅日記2020年9月19日・・・石山、京阪石山、石場、膳所、京阪膳所(京阪石山坂本線)/今井兼平
-
-
「車旅日記」2004年春【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】4日目(旭川-稚内)走行距離428㎞その1-藤田観光ワシントンホテル、愛別駅、上川駅、白滝駅、丸瀬布駅、遠軽市太陽の丘公園 瞰望岩、遠軽駅、オホーツク氷紋の駅
車旅日記2004年5月4日・・・藤田観光ワシントンホテル、愛別駅、上川駅、白滝駅、丸瀬布駅、遠軽市太
-
-
「車旅日記」1996年夏【再び北を目指した夏。不慮の事故に遭い、打ち切らざるを得なくなったのでございます。】最終日 事故から帰京を振り返って。
車旅日記1996年8月15日 1996・8・15 東京 望郷の思いとは別に昨日家に帰り着いた。 後
-
-
2018年秋 最終日(松戸-五井-大原-安房鴨川-松戸)その3-安房鴨川、江見、君津、千葉、西船橋(内房線/総武本線) 【サンキューちばフリーパスでめぐる上総下総安房旅】
鉄旅日記2018年9月23日・・・安房鴨川駅、江見駅、君津駅、千葉駅、西船橋駅(外房線/内房線/総武
-
-
「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】3日目 金沢を後にして‐その3(R8→北陸道)小矢部、富山駅、有磯海SA
車旅日記1996年5月5日 22:15 8号国道‐小矢部 恋する女よ。 あれからオレはまだ走ってい