「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】3日目 金沢を後にして‐その3(R8→北陸道)小矢部、富山駅、有磯海SA
車旅日記1996年5月5日
22:15 8号国道‐小矢部
恋する女よ。
あれからオレはまだ走っている。
駐車場を出る際に契約上のつまらない会話を交わして以来、ずっとひとりさ。
ねぐらは車だけれど、停止させる場所は決めたよ。
だからそこまで走るんだ。
大丈夫だよ。
最初からこんな旅になる計画だったからね。
月のない夜だよ。
初めてだな。
月のない夜は。
だけど寂しくないよ。
今夜きっと君はオレの無事を陽気に祈ってくれているんだろう。
その想いが今夜のオレには月の代わりになるよ。
目には見えていないけど、オレには見えるんだよ。
今夜の月がね。
さあ、まだオレは走るよ。
23:22 富山駅
恋する女よ、あれから走り続けてとうとう富山まで来たよ。
さすがにこのオレも疲れた。
だから今夜はもう国道に別れを告げようと思う。
確かすぐ近くをハイウェイが通っているはずなんだ。
空を見た。
月が昇っていた。
やっぱり今夜も月が昇った。
さっき高岡市街を通過した時、確かに月はオレを照らしてくれたんだ。
月はオレを忘れちゃいなかった。
思わずシャウトしたよ。
うれしくてさ。
そして道路標示は富山駅への距離を教えたんだ。
ブラザーと呼ぶ男とこのあたりをうろついたのは2年前の大晦日。
あの夜、オレは家族に電話を入れ、当時恋していた女性の電話番号を聞いた。
ブラザーはなすこともなく、オレの電話が早く終わらないものかとイライラしながら待っていた。
あの時に聞いた電話番号はそれから1年もの間、記憶の中にしっかり刻み続けられたけど、今じゃもう忘れてしまった。
あの大晦日の夜、富山駅には寄る辺なき者たちが束になって大声で騒いでいて、街は大きな明かりに包まれていたような印象を受けたが、今夜はごく普通の夜で、駅に集う人々に不穏なものはない。
だけどからまれないように注意深く車を出す。
さあハイウェイに乗ろう。
今夜の旅ももうすぐフィニッシュだ。
24:17 北陸自動車道-有磯海SA
恋する女よ、ここがオレの居場所なんだ。
かつて相棒と疲れ果ててたどり着き、新年を迎えた場所。
言ってみりゃ所縁の場所なんだ。
何となくここに決まったよ。
落ち着けるんだ。
ある意味で故郷とも言える。
実はあの夜もオレは何かを始めようとしていた。
車を止めた場所からは電話ボックスが見えたんだ。
ずっと考えていた。
そう、富山駅で聞いた電話番号にかけるかどうか。
ブラザーに言ったよ。
「もう少ししたら惚れた女に電話してこようと思うんだ」。
ヤツは尋ねたな。
「惚れた女とは?」
「誰でもない。お前の知らない女だ」。
オレの発言は、ビールを開けてじきに訪れる新年を祝おうとするヤツの気分に水を差してしまったようだった。
分かっていたよ。
ずっと野郎同士でタフにやるつもりでいたんだろう。
やがて言葉少なになり、ビールも底をついてきた。
そうだな兄弟。
やっぱり二人で終わらせよう。
外も寒いしな。
「さっきの電話のことだけど、やめたよ」。
その後オレとその女性は、少しの発展性を加えて、次に訪れた冬にすべてのストーリーを終えた。
その女性の名前は誰にも明かされることはなかった。
今回のツアーは今までと少し違ったよ。
うまく言えないけど、オレの心の内では確かにそうだった。
なぜオレはこんなところを走っているのか?
そんなことを思いながら国道を走っていたんだ。
だけど君がいる金沢に照準が合ってから、本当の意味でオレは国道の生活に戻れたんだ。
それからはいくつもの街を通り抜けながら、ハンドルを握る自分に誇りを感じ続けていたよ。
恋する女よ、たとえひと時でも今夜君に会えてうれしかった。
君に会えた時点でこのツアーも終わりだって思っていたけれど、その逆だったよ。
あれからオレはアクセルを踏みながらここまで来た。
ずっと君を感じ続けながらね。
そしてこの手記も君に宛てた手紙の形をとっている。
ビールを置いて、まるで東京でひとりの夜を送っている時のようにこれを書いている。
ずいぶん旅慣れたもんだろう。
そうそう、あれから月はもう一度姿を見せてくれたよ。
富山でハイウェイに乗るつもりでいたけれど、国道での夢を捨てきれずに8号国道に戻ったんだ。
そしたらその上空にね。
星はともかく、月はオレの友人だよ。
きっとこれからもオレを照らしてくれるさ。
君に教えてあげたい。
オレは何も持っていないけれど、オレと一緒にいれば月と友達になれるっていうことをね。
歯を磨いてきたよ。
オレの今日はこれで終わる。
深夜のサービスエリアにはマヌケな音楽が流れていたよ。
周りから見たオレはきっと変なヤツだろうけど、いいじゃないか。
好きなんだよ。
こういうスタイルがさ。
明日もこのまんまだよ。
家に帰り着くまでね。
ところで恋する女よ、君はもう眠りについただろうか。
初めて明かすわけじゃないけど、好きだよ。
とてもね。
おやすみ。
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