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「車旅日記」1998年夏【20代最後の旅でございます。青森港から北海道上陸を目指して北へ向かったのでございますが・・・。】4日目(遠野-釜石-気仙沼-鳴子温泉)-遠野徳田屋旅館、遠野駅、釜石駅、釜石大観音、道の駅高田松原、気仙沼港、南気仙沼駅、小梨駅、一ノ関駅、鳴子サンハイツ

公開日: : 旅話, 旅話 1998年

車旅日記1998年8月15日
1998・8・15 8:00 遠野 徳田屋旅館
4日目。
宿で知り合った男を駅まで送ることから今日は始まる。
ルートも決まっている。

大雨にならなければいいが。

8:13 遠野駅 1377㎞
束の間の友は駅に消えていった。
8:26発の盛岡行急行で花巻に向かうと言っていた。

名は互いに名乗らなかった。
旅を心得ている者同士。
それでいい。

昨日ビールを飲んだ場所は駐車場になっている。
朝ゆえに人通りもほとんどなく、カラスの声が一番耳につく。

この街を気に入ったよ。
宿のオバチャンも言っていたけど、のんびりとしたところがまたいい。

特にこの駅は好きだな。
イーハトーブの駅という感じで、ちょっぴりロマンを感じさせる。
JRの「TRAING」の広告もここでは雰囲気造りに一役買っている。

さぁオレもこの先へ。

9:43 釜石駅 1421㎞
鉄の街の玄関口には、鉄の街らしく新日本製鉄の釜石工場が構えている。
駅を挟んで反対側は険しい山並。

オレは日本海から太平洋にやってきた。
このあたりの海には日本海の町並が持っている哀愁とは別種の、どこか鉛色の切なさを感じる。

土産はここで揃えた。
地元の人はとても気さくで、険しい土地柄で生きる人の温かみを感じる。

東北は、今年は梅雨が明けないらしい。
子供たちは海にも行けず、体を持て余しているという。
去年も鳴子で聞いたが、今年も米の心配があるだろう。

釜石は予想通り小さな街だった。
駅周辺には深い霧が立ち込めている。

釜石の夏は寒い。
何年か後にこの街を思い出すことがあったら、そんな印象も一緒についてくるだろう。

駅前で自転車に乗った外国人の家族が、地元の青年に道を聞いていた。
青年はとても親切に答えていた。

素晴らしい街だ。

10:34 釜石大観音 1424㎞
全長48メートルの大観音様が立っている。
霧でぼんやりとしか見えなかったが、その分神秘的に見えた。

霧の中に不意に観音様が現れたように感じて、しばらく眺めていると何だかありがたい気持ちになる。

観音様の穏やかなお顔を見ていると心も和む。
何度も心の中で手を合わせた。

いろいろな神様に祈る機会があったけど、いくつもの願いを聞いてもらうのは図々しいから、今のオレの状況を踏まえて縁結びの神様に頭を下げた。
家族が一緒だったら、やっぱりそうすることを勧めただろう。

大観音へと上がるエスカレーターで、「この世は自分の努力だけではどうにもならないことがあり、、、」という朗々としたアナウンスが流れていて、妙にオレは納得していた。
そしていくつもの神様の穏やかな表情に顔もほころんだ。

でも車に戻ってからこうも思った。
人の優しい顔もありがたいと。

ここで働く人々はみんな素敵だった。
岩手はとてもいいところだよ。

縁結びの神様に祈る時に彼女の顔が浮かんだ。

そしてその彼女の残像と一緒に下界へと続く階段を下った。

12:17 45号国道‐高田松原(道の駅) 1480㎞
昨日とは打って変わって今日は寒い夏の日。

三陸は晴れることがあるのだろうか。
そんなことを思ってしまうほど、この一帯は曇天の下が自然だ。

あわよくば昼飯でも食おうと思って寄った大船渡。
駅前商店街は半分以上がシャッターを下ろし、食堂の看板を見かけることもなかった。

途中外国人のヒッチハイカーを見かけたが、彼の行為の意図が分からないうちに通り過ぎてしまった。
そのことをしばらく後悔していた。

曇天は続いている。
次は気仙沼まで。

13:08 気仙沼港 1500㎞
目の前のベンチに幼い子供と父親が座って海を眺めている。

いい風景だと思う。
漁師の親子だったりするとなおさらいい。

ここには以前両親と立ち寄っている。
上のホテルで美味い寿司を食べたことを覚えている。

今日も魚市場は賑わい、レストランはどこもいっぱい。
仕方なく1050円の握り弁当を購入して車の中で食べた。

なるべく人間(じんかん)にいたかったけど、ああいう場は家族連れや、複数で来ている人々優先でいい。
文句はないよ。

弁当は美味かった。
たまげたよ。

13:25 南気仙沼駅 1501㎞
街全体に魚の匂いがする。

用を足しに駅に寄った。
駅に寄るとなぜかほっとする。

多かれ少なかれ駅はその街の顔。
そこに挨拶を済ませば、本当にその街に行ったという記憶が鮮やかに残る。

ここも含めてまた来てみたいと思う。

ひとりでも。
あるいは二人でも、三人でも。

14:11 小梨駅 1524㎞
若干の眠気が襲い、人の姿のないこの小さな駅に立ち寄った。

駅員の姿はなく、構内にひとりの老婦人が座っていた。
そのご婦人に挨拶してホームに立った。

こんなにも小さな駅もあるものか。

不意に「線路は続くよ、どこまでも」という歌を思い出した。

15:18 一ノ関駅 1553㎞
岩手第二の都市一関。
駅前は今回通ってきたどこよりも賑わっていた。

蝉の声を久しぶりに聞いたような気がする。

平泉に行く中継地として栄え、新幹線も止まる。
活気に満ちた街だ。

祭りの準備ができている。
今夜あるいは明日もまた賑わうのだろう。

弁当売りのおじさんお薦めの弁当を2つ購入。
今夜のと明日朝の分。

食が充実すると気持ちも潤う。
これまではたいして気にしてこなかった。

それにしても地方駅はいい。
うまく表現できないけど、いつも惹かれる。

21:50 鳴子サンハイツ 1622㎞
鳴子に着くといつも雨。
今夜のは少し激しい。

4日間行動を共にしたコロナがこの雨をシャワー代わりに使ってくれるといい。

全体に東北は涼しかったけど、オレはひとりで暑がっていた。
窓全開でサングラスをかけてストーンズが流れる。
のってるよ。

鳴子に向かう道は小雨まじりだったけど気分はよかった。
5月には独りを恥じたけど、今回は行き先々で誇り高い旅人を見て気が変わった。

車で、バイクで、あるいは自転車で。
彼らを見ていると自然に勇気が湧く。

少し心配なのはアウトドア装備で回っているバイカーたちが今夜をどう過ごすのかだ。
雨は激しくなる一方。

旅が5日にまたがるのは今回が初めて。
初日がつい昨日のことのように思える。

もっといろいろな町で眠りたい。
日常ではどちらかというと批判的になるけれど、こうしてあちこち回ってみると、実はこの国はとても素晴らしいのだということに気づく。

東北人は控え目で大方は礼儀正しい。
同じ格好のヤツを東京で見かけるといい感情を持てないが、こっちでは違う。

みんないい青年だ。
きっと何かをわきまえているのだろう。
善意の中で生きていこう。

旅は明日で終わる。
とても残念だ。

郡山の友人に連絡をとったが、明日の再会はムズカシイとのこと。
彼らへの土産も用意していたけれど、まあそれはいい。

オレはひとときの浮世離れで、彼らは生活の最中。
仕方がない。

明日の夜無事に東京に帰ることを約束するが、忘れちゃいけないのは、明日は東京に帰る日じゃなくて、5日目の自由な日ということ。

雨の音だけが聞こえる。

98年に育った蝉は、もうその声を届けてはくれないのだろう。

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