「車旅日記」2004年秋 最終日(城崎-京都)走行距離256㎞-レイセニット城崎、城崎駅、豊岡駅、久美浜駅、宮津駅、西舞鶴駅、東舞鶴駅、福知山駅、京都駅 【瀬戸内から山陰へ。そんな旅がしたかったのでございます。】
車旅日記2004年11月21日・・・レイセニット城崎、城崎駅、豊岡駅、久美浜駅、宮津駅、西舞鶴駅、東舞鶴駅、福知山駅、京都駅
2004・11・22 8:57 レイセニット城崎413号室
強い風の音を聞いていた。
悪い夢を見ていた。
荒天になるだろうと感じていた。
起きてみると違った。
薄い青を引いた空に雲は見当たらず、円山川に霧がかかっている。
二日前に大井川、鴨川でもそんな光景を目にしている。
荘厳な気配をたたえた川辺で迎える朝を、これまでに経験したことはない。
10:20 城崎駅(11月20日の京都駅より656㎞)
円山川の眩しさに目を細め、城崎中心街へ。
駅周辺地蔵湯あたりの賑わいは有名な温泉地に相応しい。
朝早いというのに大勢の客が和んだ表情で歩き、駅の待ち人も多い。
「駅そば」を持つ駅だったのだな。
夜の顔とは随分違う。
温泉館のような立派な駅舎。
駅横の交番には「湯の町」の簾がかかり、駅舎を挟んで反対側には足湯がある。
情緒のある町だ。
雨でも降れば、松山や吉野の時と同じように歴史の雨と表現することだろう。
土産はここで購入することにしたよ。
色褪せることのない素敵な記憶ができた。
この町にいた時間は長かったような気がするよ。
止まっていたわけじゃないが、この町で、急いでばかりいた歩みを少しばかりゆるめることができたようだ。

2008年5月2日撮影
10:47 豊岡駅(11月20日の京都駅より668㎞)
9月の台風で水に浸かった豊岡。
各地からボランティアがこの町を目指したことは聞いていた。
駅には「御礼復興支援ボランティア」の看板が掲げられていた。
町には何事もなかったかのように穏やかな時間が流れているが、まだ自宅に戻れない人もいるとタクシー運転手から聞いた。
但馬の要衝、豊岡。
古い趣のある駅には喫茶店が入り、観光案内所には幸せの鐘が置かれ、小さな女の子がちょこんと座っていた。
災害の後ということもあり、この町には寄らない方がいいかと思っていたが、町は歓迎してくれている。
晴天の下の2004年豊岡。
同じ国に暮らす者として覚えておきたい。
11:28 久美浜駅(11月20日の京都駅より680㎞)
円山川を渡ると丹後の国。
京丹後市という市制が敷かれていた。
河梨峠で滞っている際に得意先から電話が入り、この駅ですべてを片付けた。
丹後平野に単線の線路が蛇行する様はどことなく健気かつ牧歌的だった。
峠から見えたこの国の田園。
ありふれてはいるのだろうが、そんな場所にそうそういられるものじゃない。
いいものだと思う。
近くの姿のいい山は甲山(かぶとやま)というらしい。
山頂には展望台があるという。
久美浜湾はここからじゃ見えず、あれからしばらくいるが列車も来ない。
とても素敵なポストカードを5枚頂いた。
ひととき曇った空がまた明るくなってきた。
国鉄宮津線から第三セクターの北近畿タンゴ鉄道になって、駅は新しくなったという。
立派なお寺のようで、タクシー運転手が土産物屋の番をしながら客を待っていた。
13:45 宮津駅(11月20日の京都駅より722㎞)
丹後半島の裾を走り抜け宮津湾へ。
宮津線の歴史は古いのだろう。
鉄道ファンの間で名所として語られていてもおかしくない古い橋梁が、国道を跨いでいる。
峰山という町を過ぎて、天橋立左折の表示が消えると眼下に宮津湾が広がる。
宮津の町に人に姿は多く見られない。
昼時というのに勤め人の姿もほぼない。
初老の男女が行き交う町角に活気は見られないが、歴史を持つ町としての格は感じる。
宮津は細川家の所領だったが、その細川幽斎、忠興親子に滅ぼされた一色義清なる人物の自刃跡が残っている。
ただし文献には彼の名前は見られないという。
ほど近い大江は、鬼の話で有名な大江山の所在地。
新鮮な気分でいる。
昼食で入った回転寿司屋のメニューはどれも安かった。
鍋焼きうどん400円とある。
萎びて見えた寿司もそこそこいけたから、きっと何もかもが美味いのだろう。
宮津から福知山にも線が延びる。
ワンマンのディーゼル車がさっき福知山に向けて去った。
ここは丹後の国。
京都じゃない。
車寅次郎はこの港町でも恋をした。

2014年3月21日撮影
14:11 西舞鶴駅(11月20日の京都駅より751㎞)
宮津を出て、日本海につながる広大な湾景を横目に走る。
由良川橋梁を見るに及んで、そこが確かに2年前の道であることを確認した。
あの赤い鉄橋は忘れがたい。
田辺城址を過ぎる。
関ヶ原合戦の際、細川幽斎籠る田辺城は、西軍に包囲されながらも最後まで持ちこたえた。
そして「かまぼこの街、舞鶴」と謳う西舞鶴駅へ。
総ガラス張りのコンサートホールのような駅だ。
1階がKTR、2階がJR、3階は会議室やホールになっているという。
舞鶴はかつての軍港だが、今も港には巨大な船が停泊しているはずだ。
2年前の朝方に通過した際には、ただならぬ歴史を感じながら天橋立に向かったんだ。
宮津もそうだが、ここ舞鶴も9月の台風で水害に遭っている。
おそらく今日過ぎてきた道中に、バスが立ち往生した地点が存在している。
台風の季節が終わった頃にこのあたりに寄ることがあれば、その話が持ち上がるだろう。
長く語り継がれるような凄絶な光景だった。
ある意味2004年を象徴する地域となった但馬、丹後。
愛すべき町並だった。
駅ビルのガラスに空が映っている。
ちょっぴり鈍かかった青空だ。
冬と呼ぶには早いが、暦の上じゃ向寒。
そんな季語が似合う天候と静かなる町並。

2014年3月22日撮影
14:44 東舞鶴駅(11月20日の京都駅より759㎞)
舞鶴と冠した町も、西と東じゃ随分違う。
単に伊佐津川を挟んで位置しているという事情だけではなさそうだ。
行ったことがないからこの比喩が妥当かどうか自信はないが、南北朝鮮のように町並や雰囲気まで違う。
町の中心は西舞鶴になるのだろうが、ここ東舞鶴も小さくはなく、例えば市制が分かれていたとしても違和感は持たない。
東舞鶴駅も高架ホームを持つ新しい駅だ。
KTRのように、さして遡らない頃に生まれ変わったのだろう。
丹後街道も舞鶴線も、西舞鶴から東舞鶴へは山の中を走る。
でも舞鶴に来たら海に行かなきゃな。
この国でも有数の歴史を持つ港町だから。

2014年3月22日撮影
15:55 福知山駅(11月20日の京都駅より803㎞)
北の町に着いた。
福知山はそんな気分にさせる町。
空は青く澄み、緑色の駅ビルを出ると左右にテレビ塔が見える。
遠くからは福知山城も見えて、そこからはテレビ塔よりもお城の方が存在感は勝っていた。
灰色の厳めしい軍艦が停泊する舞鶴を離れ、西日差す道を京へと向かう。
由良川に沿った田舎国道。
あの時の気分は旅人として忘れたくない。
そんな瞬間のためにオレは生きている。
途中、鬼の故郷、大江へ。
KTRの高架線がなぜか古びて見えて、今も鬼が住んでいそうな姿のいい山が並んでいる。
福知山は遠かった。
かつて一度9号国道から町を眺めたことがあるが、その後この京都北都に寄る機会を持てずにいた。
想像していたより空気のいい素敵な町で、プロレス界の絶対王者小橋建太を生んでもいる。
駅は大きく、軽喫茶、「駅そば」、ラーメン屋などが入る。
壁にはクリスマスの装飾が施され、しばらくすれば点火されるだろう。
授業がはけた高校生たちで駅前広場は賑わい、聞こえてくる京都弁は耳に心地いい。
20:12 京都駅(11月20日の京都駅より908㎞)
三段池公園は由良川を渡った先にあった。
あの川が流れ込む清潔な町を離れ、夕暮れ迫る道も残すは京都のみ。
帰宅途中トンネルを歩く中学生たち。
山間の集落に沿って敷かれた山陰本線。
そして9号国道は老ノ坂まで穏やかに流れた。
途中嵐山を目指して夕闇の道に分け入ったが迷い、戻ること2度。
亀岡駅のホームが通勤客を集めている光景を保津川の対岸から何度か眺める羽目になった。
老ノ坂を下ると9号国道は滞る。
堀川五条までその列は延々と続く。
山に囲まれた京の都に納税米でも運ぶ列のように、京の入口まで途方もなくつながっていた。
あんな大規模な渋滞は、工事でもしていない限り東京では発生しない。
しびれを切らして堀川通りの手前で右折するとライトアップされた東寺の五重塔が見えた。
思えばオレの京都とは、あの塔を初めて見て、京都という街を感じるところから始まった。
様々な感慨を持って908㎞の旅を終えた。
仕事の話が済んで八条口でビールを飲んでいる。
満足できるだけ飲んだら烏丸口へ。
京都駅のクリスマス・ツリーは今年も大勢の人々を笑顔にさせているだろう。


2020年7月26日撮影
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2022年新春 2日目(湯瀬温泉-三沢)その4 ‐板柳、川部、撫牛子、大釈迦、鶴ヶ坂(五能線/奥羽本線) 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】
鉄旅日記2022年1月9日・・・板柳駅、川部駅、撫牛子駅、大釈迦駅、鶴ヶ坂駅(五能線/奥羽本線)
-
-
「鉄旅日記」2016年夏 初日(東京-弘前)-福島、仙台、北山形、新庄、秋田、井川さくら、大館、弘前(東北本線/仙山線/奥羽本線) 【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】
鉄旅日記2016年8月10日・・・福島駅、仙台駅、北山形駅、新庄駅、秋田駅、井川さくら駅、大館駅、弘
-
-
「鉄旅日記」2021年春 最終日(松本-東京)その1 ‐松本、一日市場、信濃大町、信濃木崎(大糸線) 【週末パスで信濃へ。妙高高原駅で引き返し、松本の友人を訪ね、大糸線を旅して思い出の白馬へ。先の旅から一週間後のことでございました。】
鉄旅日記2021年4月25日・・・松本駅、一日市場駅、信濃大町駅、信濃木崎駅(大糸線) 20
-
-
「鉄旅日記」2022年新春 2日目(湯瀬温泉-三沢)その5 ‐青森、三沢(青い森鉄道)/ホテル天水 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】
鉄旅日記2022年1月9日・・・青森駅、三沢駅(青い森鉄道)/ホテル天水 17:17&nbs
-
-
「車旅日記」2000年春 初日(東京‐足利‐鬼怒川‐会津若松‐新潟豊栄)その1‐葛飾金町、幸手駅、古河駅、渡良瀬遊水地北エントランス、藤岡駅、佐野厄除け大師、足利駅 【一年のブランクを経て、旅再開。出発場所は東京町田から、下町葛飾へと変わっております。】
車旅日記2000年5月3日 2000・5・2 東京葛飾金町 前夜祭 旅に出る前夜。 これほどの胸の
-
-
「鉄旅日記」2012年春 その2-恵那、瑞浪、土岐市、多治見、千種、鶴舞、金山、天竜川、袋井(中央本線、東海道本線) 【青春18きっぷで、名古屋往復】
鉄旅日記2012年3月25日その2・・・恵那駅、瑞浪駅、土岐市駅、多治見駅、千種駅、鶴舞駅、金山駅、
-
-
「鉄旅日記」2020年弥生 初日(東京-高山)その3‐上諏訪、塩尻、洗馬、中津川(中央本線) 【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】
鉄旅日記2020年3月20日・・・上諏訪駅、塩尻駅、洗馬駅、中津川駅(中央本線) 10:27 上諏
-
-
「鉄旅日記」2018年エイプリルフール その3-谷田川、磐城石川、磐城塙、常陸大子、玉川村、常陸大宮、上菅谷、水戸(水郡線) 【8年振りに金町に帰ってまいりました。青春18きっぷはまだ3日分残っております。呼んでくれたのは会津でございました。】
鉄旅日記2018年4月1日・・・谷田川駅、磐城石川駅、磐城塙駅、常陸大子駅、玉川村駅、常陸大宮駅、上
-
-
「鉄旅日記」2020年卯月 最終日(新津-東京)その4‐浪江、いわき、常陸多賀、石岡(常磐線) 【緊急事態宣言発令直前のことでございます。常磐線全線運転再開を祝して人知れず旅に出たのでございます。】
鉄旅日記20220年4月5日・・・浪江駅、いわき駅、常陸多賀駅、石岡駅(常磐線) 16:34 浪江
-
-
「鉄旅日記」2005年秋 初日(東京-名古屋)-根府川、島田、豊橋、岡崎、名古屋(東海道本線) 【軽井沢で挙式する身内を祝うために、初めて鉄道で旅をいたしました。】
鉄旅日記2005年11月5日・・・根府川駅、島田駅、豊橋駅、岡崎駅、名古屋駅(東海道本線) 200
