「車旅日記」2003年夏【北海道初上陸。2,300㎞を移動した5日間の記録でございます。】最終日(札幌-苫小牧-室蘭-函館)走行距離366㎞ -札幌東急イン、支笏湖、苫小牧駅、室蘭駅、地球岬、豊浦駅、5号国道パーキング、函館駅、函館山、函館空港
車旅日記2003年8月17日
2003・8・17 7:56 札幌東急イン1240号室
東京へ帰ろう。
そんな願望が表に現れている。
旅先でのこんな朝は初めかもしれない。
オレが生きていく場所は東京。
新しく始めよう。
見下ろした36号国道に人通りはなく、街は昨夜騒ぎすぎて疲れているようだ。
札幌にはなかなか溶け込めなかったが、いい街だ。
どこの街ともどこかが違っていた。
いつか冬にもう一度訪ねたいと思う。
帰ろう。
9:20 支笏湖(8月13日の函館空港より2,005㎞)
湖の波音が聞こえる。
朝の日差しは柔らかく心地いい。
札幌から30㎞。
あの大都会の近くにもこんな湖が存在する。
札幌とは魅力的な街だ。
対岸で雲をかぶっているのは樽前山か。
朝の陽光を浴びた湖面は輝き、さざ波が立ち、果てしなく艶やか。
北海道最後の日にこんな場所に来れたことがうれしい。
時間的な心配はもうやめよう。
何とかなるだろう。
さざ波が耳にも心地よく、空は明るく、函館に向かう海辺でもこんな気持ちでいられることを願っている。
10:09 苫小牧駅(8月13日の函館空港より2,039㎞)
日は陰り、低く雲が垂れ込めている。
道南のターミナル駅の夏は肌寒い。
しかし道南人は半袖シャツで出かけてきている。
街はまだ完全に目を覚ましてはいないようだが、王子製紙の煙突だけは盛大に煙を上げている。
南の工業都市。
思えば北海道に上陸してからこの街に来るまで、工場群を見たことはなかった。
風が冷たい。
この街の夏は短い。
駅周辺にはダイエー、丸井今井、長崎屋などが並び、賑やかで、大抵の物はこの街で揃いそうだ。
12:21 室蘭駅(8月13日の函館空港より2,111㎞)
最後の大きな街。
駅はまるで小さな観光案内所のようだ。
東室蘭行が12:40に出るが、待ち人はひとり。
室蘭本線は東に苫小牧、西は長万部まで延びる。
沿岸は断続的な工業地帯。
坂の上から眺めた室蘭は白く、きれいな港町が見えた。
思わず口笛を吹く。
アーケード街は暗く、歩く人の姿をあまり見かけない。
回転寿司屋だけが繁盛しているが、不思議と廃れた印象は受けない。
街の建物はどれもきれいだ。
12:38 地球岬(8月13日の函館空港より2,115㎞)
室蘭は坂の多い街。
断崖の頂にある地球岬。
津軽海峡から室蘭市内までを見渡せる。
ここが岬巡りの最後の場所になる。
遠く仄かに下北半島が見え、遥かなる海を眺めるオレに向けて冷たく強い風が吹きつけた。
その風はとても爽やかで、つまらないことはすべて忘れた。
函館や神戸を思い出させるここは港の街。
南へ。
函館へ。
13:44 豊浦駅(8月13日の函館空港より2,162㎞)
親なる断崖を去り、室蘭港を渡す白鳥大橋で海風を右手に受ける。
毎年夏に海峡を渡る際にしてきたことだ。
北の風は冷たく、この場所に吹く風もごうごうと凄まじい。
北の大地に夏の風が吹く期間は短い。
僅かに覗く海を眺め、夏を恋しく思い、切なくも思う。
もうじきオレの夏も終わる。
道路標示にはとうとう函館の文字が登場し、この小さな町を列車が通過していく。
空は青。
橋から見えたムコウの空も青かった。
14:49 5号国道-長万部八雲間(8月13日の函館空港より2,222㎞)
線路のムコウに広がる海。
いつもオレが求めている風景がここにあった。
すべての車が去ると波音だけが聞こえる。
頭上は雲に覆われているけど、この雲の先の空は明るく白い。
海上に広がる空がそんな色をしている。
夏にしては涼しい風を浴びてきた。
連中にしてみれば、この風にずっとあたり続けることはできないだろうが、こうして柵にもたれているオレにはちょうどいい。
いい時間が過ぎた。
もう思い残すことはない。
16:55 函館駅(8月13日の函館空港より2,311㎞)
函館に着くと雨が降り出した。
北海道の夏は終わり、明日には雨になる。
港は静かにたたずみ、駅は北の玄関口に相応しい清潔さを持ち、多くの人々が札幌あるいは津軽海峡をくぐる列車の到着を待っている。
この街から始まった旅は2,300㎞の記憶とともにじきに終わる。
街や空気に、すべての役割を終えた海峡の街の侘しさを感じ、開港から100年のその先に思いを馳せる。
函館が持つ観光都市としての魅力は褪せることはないだろう。
17:36 函館山(8月13日の函館空港より2,313㎞)
あの有名な函館の風景を見たくてロープウェイ乗場に行った。
でもそこからじゃよくは見えない。
仕方なく1,000円以上する往復乗車券を求めて飛び乗った。
10分おきに運転されているが、満足できる時間はない。
日も暮れかかって少し肌寒い山頂で、すぐに外を目指し、灰皿を見つけて煙草に火をつけた。
そして決めた。
これを吸い終えたら山を下りようと。
街を見下ろすこんなにも素晴らしい風景をオレはこれまでに見たことがなかった。
素晴らしい旅だったと言える。
煙草の火を消すと、ためらいもなく乗場へ。
ひとりのオレにはそれでいい。
空港へ。
函館の記録(2008年6月7日)
18:24 函館空港(8月13日の函館空港より2,324㎞)
旅の余韻に浸る余裕もなく車を返す手続きをして、女性店員の運転する車で空港へ。
旅の終わりにビールを1杯。
ロシアへの玄関口にあたる空港は、よくよく見ればきれいだった。
18:50便は到着遅れで15分出発が延びている。
よくあることだ。
無事に飛びさえすればそれでいい。
函館の素晴らしい記憶を持てたことを喜ぶ。
時間はなかったが、最大の思い出がこの街に残された。
これで北の大地ともお別れ。
目の前には最後の大地、空港滑走路がオレを東京へ帰す便の到着を待っている。
別れの時はいつも短く、そして切ない。
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