「車旅日記」1998年夏 初日(東京-伊那-木曽)-東京町田、相模湖駅、鳥沢駅、道の駅甲斐大和、勝沼、長坂、伊那市駅、道の駅日義 木曽駒高原 【伊那、木曽から志賀高原へ。気乗りのしない旅で選んだ行き先は、初夏の信濃路でございました。】
車旅日記1998年7月18日
1998・7・18 12:48 東京町田
久しぶりに空がよく晴れている。
この空の下を旅立てるとは素晴らしい。
今回ほど旅の趣旨が明確じゃないことも珍しい。
どこへ行くつもりなのか。
今もオレにはよく分からない。
今日に行き着くまでの日常もまたそんな迷走状態だった。
昨日も気の抜けたまま仕事をして、酒を飲んで帰っただけ。
そんな日々が続いていた。
いくつかオレの中の約束事もあったが、そのどれもが果たされていない。
そして見えるもの、考える対象物がすべて悲しげな色をしていた。
徐々にではあるが、堕ちていっているような錯覚も起こった。
遅く目覚めてからかなりの時間が経ったが、まだ後ろ髪を引かれるように狭い部屋を行ったり来たりしている。
出かけるんだろう?
太陽もまた、6時間後には落ちていくから。
15:20 相模湖駅 44㎞
旅の最初はこんなもの。
体調は悪くないが、決してよくもない。
だらだらした日常にも疲労感は残る。
さらに満足感がない分タチが悪い。
そんなものと今闘っている。
川や湖といった水辺に人々が集まっている。
きっと今日から夏が始まったのだろう。
ここに来るまで学生時代によく聞いていたカセットをかけていた。
こんな楽曲を聴きながら、オレは様々なことに思いを馳せていたんだったな。
そんな感傷が生まれた。
稲垣潤一の声は思い出と一緒にある。
これでまた、しばらく聴くことはないだろう。
16:10 鳥沢駅 67㎞
20号国道を行っている。
いい風情だ。
山間では何となく人々が落ち着いて生活しているような印象を受ける。
この駅構内は終日禁煙。
きっとこのあたりの住民が駅をどう扱いたいかという気持ちが現れた結果なのだろう。
いい試みだとは思う。
このまま山間を縫って木曽まで行く。
そうに決めた。
日が暮れるのはどこらあたりだろう。
いくぶん涼しくはなったけど、今日は暑い。
体から噴き出す汗の臭いもまた強烈だ。
ここにきて、ようやく98年の夏が始まった。
17:14 20号国道‐甲斐大和(道の駅) 92㎞
ここに立ち寄ったのは2年前のことになる。
つい最近だと思っていたが、それでも2年の月日が流れている。
それなりに感無量だ。
今オレは今年最初の夏の夕暮れに車を走らせながら沿道を眺め、楽しんでいる。
オレが思うところの正しい高校生を見かけた。
よく鍛えられていそうな少年だった。
甲斐の道は、若者よりもむしろオッチャン、オバチャン、じいちゃん、ばあちゃんがよく似合い、そのとおりの風景が作られている。
オレの記憶の中の夏の風景とも一緒。
小さな頃、田舎で過ごした時の風景だ。
ひどく懐かしく感じて、自然に笑みを浮かべていた。
今回は初めて海を見ない旅になるだろう。
カナカナと鳴くヒグラシの声がとても愛しい。
5月に出した友への手紙に、「もう独りの旅はごめんだ」と書いたけど、今回は少しばかり違った心境でいる。
17:38 20号国道‐勝沼 99㎞
親父への土産の赤ワインを購入するために立ち寄ったら、桃をもらったよ。
だからこうした場所はいい。
勝沼のことは、東京に帰ったらみんなに触れ回るよ。
素晴らしい人情の町だと。
19:14 20号国道‐長坂 148㎞
町が見当たらないから仕方なくコンビニに寄って用を済ませた。
夏の暑さは引いて、このあたりじゃ今夜はそれなりに涼しくなるだろう。
今日もまた日が暮れた。
寝場所として想定しているあたりはかなり寂しいところのようだ。
20:53 伊那市駅 209㎞
近くで花火の音が聞こえる。
川沿いの小さな街にたどり着いている。
ここにきてルートの再考を促されている。
地図上では権兵衛峠を行くのがいいが、そこへ至る表示は見当たらず躊躇する。
一度塩尻に出てから南下する方がよさそうだ。
今家族に電話を入れ、涼しい場所でちゃんと生きていることを伝えた。
少年たちが明るい場所に集まってくる事情は都会も地方も変わらない。
22:45 19号国道‐日義 木曽駒高原(道の駅) 286㎞
ここに落ち着いてから10分ほど経つ。
すでに一杯やりだしている。
つまりここが今日の終着点。
信濃路はよく整備されている。
道も明るい。
東北の山中を走っている時の妙な焦燥感を持たずに済んだことはとてもありがたかった。
バカな走り方をするヤツに出くわさなかったことも幸運だった。
きっと明日も快適な旅になるだろう。
町田では今回のツアーに特に理由は見当たらないと書いた。
でもこうしていると理由などどうでもよくなる。
こうしているのが好きなんだよ。
過剰な付加価値など必要ない。
だから今回は考えたことを記すのではなく、単に思ったことを記していこうと思う。
考えなければ、彼女のことも仕事も浮かんでこない。
うまく表現できないけど、空を見て、通り過ぎる町並を眺め、特にストーンズをかけて走る時に、オレは一番自由を感じる。
そんな時は日常を忘れる。
本当は旅先で日常を客観的に眺めてみたいと思っていたけど、自由を感じると、そんなことはどうでもよくなる。
特に問題も見当たらない。
だからこうしてできるだけ自由でいたいと思う。
明日はこのあたりで遊ぶつもりでいる。
夜だからあたりのことはよく分からないが、何となくここを気に入ったよ。
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