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「車旅日記」1996年秋【夏をあきらめきれず、秋。再び夏のルートへと向かったのでございます。】最終日(鳴子温泉‐米沢‐東京) 鳴子サンハイツ、鳴子温泉駅、芦沢駅、赤湯駅、米沢郊外、磐梯、猪苗代湖、新白河駅、氏家、春日部、三軒茶屋、東京町田

公開日: : 旅話, 旅話 1996年

鉄旅日記1996年11月3日
1996・11・3 9:09 鳴子サンハイツ
拝啓
その後、元気ですか?
東京の天気はどうだった?
テニスはできたのですか?
オレの道中は昨日までずっと雨だったよ。
そういうわけで、月はどこにも昇らなかった
だけど東北の広大な田園地帯に細雨が降る風景というのは悪くない。
なんか豊かだなって、茫々としていたよ。
これから東京へ向かう。
土産を買ったよ。
それにしても、このハガキは貴女のもとにいつ着くんだ?
敬具
11・3早朝、宮城鳴子 上天気

いい朝だ。
ここから見える東北の山河はまだ色づいていない。

そう言えば、それほど寒くない。
こっちにはもう冬が来ているものだとばかり思っていた。

今朝の朝食はまた貧しい。
2本の牛乳パックとチョコレートだけだ。
そして東京へ向かう。

今、彼女にあてたハガキを書き上げた。
テレビをつけず、どこかの川か滝の音が聞こえる中で書いた。

宿にいる時もツアーの途中。
なるべく世間のくだらない動向には耳でさえ関わりたくない。

そんな中でもオレが興味を持つことがひとつある。
それが彼女のこと。

「オレと一緒に来ないか?」。
そんな言葉が走ってきたルートに落ちている。

オレの気持ちを伝える言葉。
それはいくらでも生産できるんだ。
これからも数か所で落としていくだろう。

そして今夜はきっと月が昇る。

「あれは女なのか?」。
数日前、そう彼女に尋ねた。

月が女性であるならば、今のオレにはすなわち彼女だな。

再会を楽しみにしている。

10:04 鳴子温泉駅
彼女への手紙をポストに投じた。

そして駅にいる。
3度目ともなると、もう馴染みだな。
ここで何をしてきたっていうわけじゃないけれど。

まだどっちに行こうか決めかねている。
東京に進路をとるにはもったいない空だよ。

11:23 芦沢駅
ススキの穂が揺れる。
この寂しい駅を通る列車は東北を縦断している。

ここを通る列車が青森まで行くとはとても思えない。
それほどひっそりとしている。

待合室には誰もいない。
駅長の姿も見えない。
駅前にはクリーニング屋があるだけで、そこさえ閉まっている。

この駅に列車が止まるのはいつだろう?

鳴子から47号国道、紅葉のルートを通ってきた。
そのルートは13号国道に入った今も続いている。

渓谷、鉄橋、ススキの群生、小川のせせらぎ、リヤカーを押す青年、彼に寄り添い歩く恋人。

すぐには思いつかないけど、心の底でオレが接したかったものすべてが通り道にあったような気がしたよ。
車の中に流れるブルースもよかった。

今、特急列車が通り過ぎた。
山形行の特急。

神寂びたこの駅には20分後に同じく山形行の列車が止まる。

13:18 赤湯駅
きれいな町だ。
そしてきれいな駅だ。

駅では山形弁に混じって、オレが暮らしているあたりで話されている言葉も聞こえる。

ここには山形新幹線が止まるのか。
ドーム型の駅にはライトアップのための設備が施されている。
そう言えば、少年の頃に両親に連れられて入った赤色の湯は、この町の湯だったのだろうか。

紅葉のルートは正解だった。
とても気分良かったよ。

14:18 121号国道‐米沢郊外
喜多方の北28㎞の地点。
まだ紅葉ルートは続いている。

車を降りて煙草に火をつけ、この山峡に囲まれた世界でしばし茫然としていた。

この道はよく整備されていて、とても走りやすい。
アラニス・モリセットの悲しい歌声が峠によく響く。

穏やかな午後。
今はそんな時間。

15:20 121号国道‐喜多方ラーメン本舗
友は在宅していなかった。
ラーメン屋は混んでいる。

仕方がない。
朝のチョコレートの残りで食いつなぐことにした。
あれからアイスボックスで冷やしたから、少しはマシな味になっている。

紅葉のルートは終わった。
でもここからの風景もなかなかのものだ。

田野で老夫婦が炭を焼いている。
その脇には小さな祠がある。

忘れていた日本の小景。
東北の山河は秋色。

天気もいい。
それほど空腹は気にならない。

さあ、混雑した121号国道に戻ろう。

15:57 猪苗代塩川線-磐梯
日を浴びて赤く光るススキが美しい。
だけど今は渋滞中。
ここらは福島のメッカか。

ようやく腹に物を入れた。
喜多方のじゃないけど、チャーシュー麵とても美味かったよ。

あと1時間で日が暮れる。
青空の中で赤く染まった山々がとても美しい。

16:43 115号国道‐猪苗代湖
湖畔の道は渋滞している。
次の信号を左に曲がればそこに出る。

そこは49号国道。
ここから見える湖は白く霞んでいる。

空は青く、雲は紅く染まっている。
背後の山々、あれは何という色だろう。

日は今、新潟方面に沈もうとしている。
このツアー最後の寄港地は幻想的な色に包まれている。

そしてもうじき夜が来る。
次に湖が見える時、何色をしているのだろう。

19:14 新白河駅
あといくつの町に寄れるだろう。
そんなことを考えた。

ここは以前、東京に帰るオレを友が送ってくれた場所。
その友とは今回連絡がつかず、郡山はすぐに通過してしまった。

でも友よ。
またいつか会えるだろう。

今回はひとりきりのツアーを完成させたかった。
その反面、ひとりを寂しく思うことがあった。
それが友への思いなのだろう。

電話には今夜も父親が出た。
OK、これから帰るよ。
うん、気をつけて帰るよ。

20:53 4号国道‐氏家
宇都宮を前にして断続的な渋滞が続いている。
この前もそうだったな。
思い出したよ。

地方都市の中にも東京化している町がある。
そう感じたよ。

23:05 4号国道‐春日部くるまやラーメン
かなりハードなルートだった。
4号国道は順調にオレを家に運ぶかわりに休息を許さない。

白河から200分で、ようやく腰を伸ばすことができた。
そしてここがおそらく最後の町になる。

長かったのか、そうでなかったのかよく分からないが、これから家に帰る。

思いは達したのかどうかも分からないが、これからまっすぐ家に帰るよ。

24:37 246号国道‐三軒茶屋
さっき大声で「バカヤロー」と怒鳴った。

夜を選んで帰ってきたのに今夜の東京も相変わらず狂っている。
この都会はどうしようもないくらい動脈硬化が進行している。

この連中は一体どこから湧いてきたのか。
いずれにしろ、このイカレタ都会は何とかした方がいい。
なかなか怒りが収まらない。

結局いろんな町を通ってきて分かったことは、本質的にはこの東京が一番貧しいってことだ。

26:27 東京町田
無事に帰ってこれた。

今すべてを終えて、それでいいじゃないかと思っている。
昨日までの雨も、月が昇らなかったことも、最後の東京大渋滞も。

ツアーの始まりでは怯えていた。
だけど楽しめた。

そしてツアーが終わってもまた何かが始まっていく。
始めなければならないものが何なのかは分かっている。

それを思い、また怯えている。

でもやがてそっちにも旅立つのだろう。
そう、3日前のように。

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