「車旅日記」1996年秋【夏をあきらめきれず、秋。再び夏のルートへと向かったのでございます。】2日目(新潟‐象潟‐鳴子温泉) 道の駅豊栄、道の駅朝日、道の駅温海、象潟駅-茶房くにまつ、蚶満寺、九十九島、矢島、鳴子サンハイツ
鉄旅日記1996年11月2日
1996・11・2 8:17 7号国道‐豊栄(道の駅)
よく眠れたよ。
ここは本当に最良のエリアだった。
ちゃんと朝食の用意もある。
ほぼ万全だ。
しかし雨は止んでいない。
じきに止みそうな気配もない。
けど失望はしない。
こうして路上で一晩明かすと自然と覚悟する。
このツアーは昨日まではあと2日だった。
それが今朝の話ではあと3日になっている。
これもごく自然な成り行きだ。
これから酒田を目指す。
その先はいろんなものとミーティングしながら決めていく。
9:48 7号国道‐朝日(道の駅)
雨は降り続いている。
相変わらずオレは移動している。
ここは静かなところだ。
しんしんと降りてくる雨音以外はすべて雑音に聞こえる。
クラクションを数度鳴らしたバカがいた。
心貧しく悲しいヤツがまたやってきた。
まあ、それはいい。
もうしばらくで海に出るはずだ。
5月以来の日本海。
11:09 7号国道‐温海(道の駅)
国境を越えて山形入り。
太陽も雨も関係ない。
やっぱり海はいいよ。
さっきまで絶えず波に洗われる巨岩の上にいた。
オレの前には海しかない。
その雄大さに素直に感動した。
この先しばらくは海岸線を走れることがうれしい。
ここは去年の5月に立ち寄った場所じゃないだろうか。
あの時は暗くてあたりの状況はよくつかめなかったけど、ふと空を見上げた時の星の多さに驚いた。
土産はここで揃えた。
素晴らしい物産品の数々だった。
選ぶのにあれほど慎重を期したことは今までになかった。
その中には彼女への土産も含まれている。
今の二人の関係にはそんな必然性などどこにもない。
でも小さなこけしを手にして、彼女に送ることに決めた。
渡せる渡せないは関係ない。
ツアーの最中で決断したことに異論を挟みたくなかった。
13:40 象潟駅-茶房くにまつ
とても上品な町に着いた。
駅前には松尾芭蕉の碑が立っている。
彼がここを最北の地として上方へ帰ったように、オレもここをツアー2日目の最北地として鳴子へ向かうことにした。
コーヒーとピザトーストを平らげて、2杯目のコーヒーを注文した。
駅に立ち寄って、この店に入ったことを幸運に思いたい。
1階は土産物屋で、おそらくこの店のおかみさんのお母上にあたる人が店を見ている。
オレが笑顔を向ければ笑顔を返してくれる。
そんなおかみさん。
2杯目のコーヒーが運ばれてきた。
久しぶりだよ。
こんな美味いコーヒーは。
この店には余計な音は存在しない。
人の穏やかな営みが奏でる音と、おかみさんが豆を挽く音だけがわずかに聞こえるだけ。
2杯目はさっきより量が増えていた。
象潟を知ったのはつい数日前のことだった。
最近愛読している紀行文に書かれていた。
司馬遼太郎さんは象潟を絶賛していた。
オレには彼のように方々を歩いている時間はない。
ただ、ここが素晴らしいところだという見解には賛成だ。
コーヒー豆を挽いているおかみさんを見れば分かる。
彼女や1階のお母上の姿勢に町の雰囲気が凝縮されている。
ここで土産の品を2つ増やした。
ひとつは「なまはげ」の鈴。
なぜだかオレは鬼とか、ああした面構えに惹かれる。
こいつは職場の机に飾る。
もうひとつは絵葉書。
今夜、この中のどれか1枚を選んで彼女に便りを出す。
タフなだけだと思っていたオレに、旅行者としてのゆとりを与えてくれたこの町に感謝したい。
2杯目のコーヒーもとても美味かったよ。
14:50 蚶満寺
素晴らしい場所にいる。
ここには九十九島という景勝地がある。
田園にいくつもの島が点在している。
ここは以前は海で、1804年に起きた大地震がこのような景観を作ったという。
自然の驚異。
そしてこの世界に存在する一番の芸術家とは大自然。
松尾芭蕉が眺めた象潟は大地震の前で、当時の景観は宮城県の松島のようだった。
あたりを歩き回った。
誰もいない。
かろうじて草むらの中に何か別な生き物が存在していたに過ぎない。
地上に隆起した島々。
きっと海にあっても陸にあっても景観は変わらないだろう。
オレに何らかの影響力があるのであれば、この地を最良の言葉で宣伝するだろう。
そして、この地を歩き回ってみて、朝からずっと降り続いている雨に感謝した。
田園に降り注ぐ細雨。
とても豊かな風景だと思うのはオレだけに限った話ではないだろう。
お寺の公衆トイレにはチップボックスなるものがある。
そこで集まったお金は清掃代金などにあてられるという。
なるほどよく掃き清められているし、花も活けられている。
それでオレも手持ちの小銭をすべて投じた。
242円か。
一茎の花くらいには換えられるだろう。
15:01 九十九島
象潟駅の観光案内の女性が紹介してくれたスポットに立っている。
彼女の好意的な態度には出会った時すでに感謝した。
そして今、彼女の眼力の確かさにあらためて感謝した。
ガードレールのムコウにススキが揺れ、背後には田園が広がり、その中に島が点在している。
素晴らしい眺めだ。
季節は秋。
この風景をずっと忘れないだろう。
16:46 108号国道‐矢島
貧しげな食料を揃えて鳴子温泉に向かう途中。
もうじき夜が訪れる。
そして今日一日オレの目を楽しませてくれた東北の山河も闇に包まれる。
宿へ急ごう。
温かい湯に浸かろう。
冷たいビールを飲もう。
21:10 鳴子サンハイツ
無事だ。
家族にも電話を入れた。
メジャーリーガーたちのスーパープレーも見ることができたし、あとは寝るだけだ。
ツアーはあと二日あるけど、明朝を期して東京へ向かう。
本荘からここまでのルートはとてつもなくハードだった。
さすがに疲れたよ。
今回のツアーは始終ひとり。
これまでのように行く手に友人が待っているわけじゃない。
ここから200㎞を南下すれば最良の友人が暮らしているが、彼とは連絡をとっていない。
つまり今回はまったくのひとりを味わいたかったのだろう。
そう理解している。
とにかく無事に着いて安心したのだろう。
ひどく酔った。
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