*

「車旅日記」1996年秋 2日目(新潟‐鳴子温泉) 道の駅豊栄、道の駅朝日、道の駅温海、象潟駅-茶房くにまつ、蚶満寺、九十九島、矢島、鳴子サンハイツ 【夏をあきらめきれず、秋。再び夏のルートへと向かったのでございます。】

公開日: : 最終更新日:2025/05/13 旅話, 旅話 1996年

車旅日記1996年11月2日

1996・11・2 8:17 7号国道‐豊栄(道の駅)
よく眠れたよ。
ここは本当に最良のエリアだった。
ちゃんと朝食の用意もある。
ほぼ万全だ。

しかし雨は止んでいない。
じきに止みそうな気配もない。

けど失望はしない。
こうして路上で一晩明かすと自然と覚悟する。

このツアーは昨日まではあと2日だった。
それが今朝の話ではあと3日になっている。
これもごく自然な成り行きだ。

これから酒田を目指す。
その先はいろんなものとミーティングしながら決めていく。

9:48 7号国道‐朝日(道の駅)
雨は降り続いている。
相変わらずオレは移動している。

ここは静かなところだ。
しんしんと降りてくる雨音以外はすべて雑音に聞こえる。

クラクションを数度鳴らしたバカがいた。
心貧しく悲しいヤツがまたやってきた。

まあ、それはいい。
もうしばらくで海に出るはずだ。

5月以来の日本海。

11:09 7号国道‐温海(道の駅)
国境を越えて山形入り。

太陽も雨も関係ない。
やっぱり海はいいよ。

さっきまで絶えず波に洗われる巨岩の上にいた。
オレの前には海しかない。
その雄大さに素直に感動した。

この先しばらくは海岸線を走れることがうれしい。

ここは去年の5月に立ち寄った場所じゃないだろうか。
あの時は暗くてあたりの状況はよくつかめなかったけど、ふと空を見上げた時の星の多さに驚いた。

土産はここで揃えた。
素晴らしい物産品の数々だった。
選ぶのにあれほど慎重を期したことは今までになかった。

その中には彼女への土産も含まれている。
今の二人の関係にはそんな必然性などどこにもない。

でも小さなこけしを手にして、彼女に送ることに決めた。

渡せる渡せないは関係ない。
ツアーの最中で決断したことに異論を挟みたくなかった。

13:40 象潟駅-茶房くにまつ
とても上品な町に着いた。

駅前には松尾芭蕉の碑が立っている。
彼がここを最北の地として上方へ帰ったように、オレもここをツアー2日目の最北地として鳴子へ向かうことにした。

コーヒーとピザトーストを平らげて、2杯目のコーヒーを注文した。
駅に立ち寄って、この店に入ったことを幸運に思いたい。

1階は土産物屋で、おそらくこの店のおかみさんのお母上にあたる人が店を見ている。
オレが笑顔を向ければ笑顔を返してくれる。
そんなおかみさん。

2杯目のコーヒーが運ばれてきた。
久しぶりだよ。
こんな美味いコーヒーは。

この店には余計な音は存在しない。
人の穏やかな営みが奏でる音と、おかみさんが豆を挽く音だけがわずかに聞こえるだけ。
2杯目はさっきより量が増えていた。

象潟を知ったのはつい数日前のことだった。
最近愛読している紀行文に書かれていた。

司馬遼太郎さんは象潟を絶賛していた。
オレには彼のように方々を歩いている時間はない。
ただ、ここが素晴らしいところだという見解には賛成だ。

コーヒー豆を挽いているおかみさんを見れば分かる。
彼女や1階のお母上の姿勢に町の雰囲気が凝縮されている。

ここで土産の品を2つ増やした。
ひとつは「なまはげ」の鈴。

なぜだかオレは鬼とか、ああした面構えに惹かれる。
こいつは職場の机に飾る。

もうひとつは絵葉書。
今夜、この中のどれか1枚を選んで彼女に便りを出す。

タフなだけだと思っていたオレに、旅行者としてのゆとりを与えてくれたこの町に感謝したい。

2杯目のコーヒーもとても美味かったよ。

14:50 蚶満寺
素晴らしい場所にいる。
ここには九十九島という景勝地がある。

田園にいくつもの島が点在している。
ここは以前は海で、1804年に起きた大地震がこのような景観を作ったという。

自然の驚異。
そしてこの世界に存在する一番の芸術家とは大自然。

松尾芭蕉が眺めた象潟は大地震の前で、当時の景観は宮城県の松島のようだった。

あたりを歩き回った。
誰もいない。
かろうじて草むらの中に何か別な生き物が存在していたに過ぎない。

地上に隆起した島々。
きっと海にあっても陸にあっても景観は変わらないだろう。
オレに何らかの影響力があるのであれば、この地を最良の言葉で宣伝するだろう。

そして、この地を歩き回ってみて、朝からずっと降り続いている雨に感謝した。
田園に降り注ぐ細雨。
とても豊かな風景だと思うのはオレだけに限った話ではないだろう。

お寺の公衆トイレにはチップボックスなるものがある。
そこで集まったお金は清掃代金などにあてられるという。

なるほどよく掃き清められているし、花も活けられている。
それでオレも手持ちの小銭をすべて投じた。

242円か。
一茎の花くらいには換えられるだろう。

15:01 九十九島
象潟駅の観光案内の女性が紹介してくれたスポットに立っている。
彼女の好意的な態度には出会った時すでに感謝した。

そして今、彼女の眼力の確かさにあらためて感謝した。
ガードレールのムコウにススキが揺れ、背後には田園が広がり、その中に島が点在している。
素晴らしい眺めだ。

季節は秋。
この風景をずっと忘れないだろう。

16:46 108号国道‐矢島
貧しげな食料を揃えて鳴子温泉に向かう途中。

もうじき夜が訪れる。
そして今日一日オレの目を楽しませてくれた東北の山河も闇に包まれる。

宿へ急ごう。
温かい湯に浸かろう。
冷たいビールを飲もう。

21:10 鳴子サンハイツ
無事だ。
家族にも電話を入れた。
メジャーリーガーたちのスーパープレーも見ることができたし、あとは寝るだけだ。

ツアーはあと二日あるけど、明朝を期して東京へ向かう。

本荘からここまでのルートはとてつもなくハードだった。
さすがに疲れたよ。

今回のツアーは始終ひとり。
これまでのように行く手に友人が待っているわけじゃない。

ここから200㎞を南下すれば最良の友人が暮らしているが、彼とは連絡をとっていない。
つまり今回はまったくのひとりを味わいたかったのだろう。
そう理解している。

とにかく無事に着いて安心したのだろう。
ひどく酔った。

関連記事

「鉄旅日記」2018年弥生 初日(東京-会津若松)その3-只見、会津川口、会津本郷、南若松、会津若松(只見線/会津鉄道) 【青春18きっぷを握り、目指したのはまたしても会津。練馬から旅立つ最後の旅でございます。】

鉄旅日記2018年3月3日・・・只見駅、会津川口駅、会津本郷駅、南若松駅、会津若松駅(只見線/会津鉄

記事を読む

「鉄旅日記」2020年晩秋 2日目(砺波-武生)その6‐三国港、田原町、福井駅(えちぜん鉄道三国芦原線/福井鉄道) 【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】

鉄旅日記2020年11月22日・・・三国港駅、田原町駅、福井駅電停(えちぜん鉄道三国芦原線/福井鉄

記事を読む

「鉄旅日記」2018年如月 初日(東京-直江津)その1-保谷、代々木、都留市、富士山、河口湖(西武池袋線/山手線/中央本線/富士急行) 【冬の町を見たくて、週末パスを買いました。】

鉄旅日記2018年2月10日・・・保谷駅、代々木駅、都留市駅、富士山駅、河口湖駅(西武池袋線/山手線

記事を読む

「車旅日記」2006年初夏 最終日(近江八幡-長浜-揖斐-岐阜)-ホテルはちまん、近江八幡駅、安土駅、彦根駅、長浜駅、垂井駅、美濃赤坂駅、揖斐駅、木知原駅 【これが最後の車旅でございます。鈴鹿山脈を回るように、終着駅を探して走ったのでございます。】

車旅日記2006年7月17日・・・ホテルはちまん、近江八幡駅、安土駅、彦根駅、長浜駅、垂井駅、美濃赤

記事を読む

「鉄旅日記」2014年春 最終日(紀伊勝浦-東京)その1-紀伊勝浦、太地、湯川、那智、三輪崎、新宮、鵜殿(紀勢本線)/丹鶴城公園 【青春18きっぷで、紀伊半島へ】

鉄旅日記2014年3月9日その1・・・紀伊勝浦駅、太地駅、湯川駅、那智駅、三輪崎駅、新宮駅、鵜殿駅(

記事を読む

「鉄旅日記」2012年春 その2-恵那、瑞浪、土岐市、多治見、千種、鶴舞、金山、天竜川、袋井(中央本線、東海道本線) 【青春18きっぷで、名古屋往復】

鉄旅日記2012年3月25日その2・・・恵那駅、瑞浪駅、土岐市駅、多治見駅、千種駅、鶴舞駅、金山駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2019年長月 初日(東京-盛岡)その2-郡山、福島、曽根田、仙台、一ノ関(東北本線) 【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】

鉄旅日記2019年9月21日・・・郡山駅、福島駅、曽根田駅、仙台駅、一ノ関駅(東北本線) 11:0

記事を読む

「鉄旅日記」2021年師走 初日(東京-古川)その1 ‐金町、東京、くりこま高原(常磐線/東北新幹線) 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月4日・・・金町駅、東京駅、くりこま高原駅(常磐線/東北新幹線) 20

記事を読む

「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】初日(東京-大阪茨木 R246→R1→名神高速)その3-関駅、その後

車旅日記1996年5月3日 16:36 関駅 あれから2時間経ってようやくここに戻ってきた。

記事を読む

「鉄旅日記」2015年春 初日その1(東京-岩倉)-蒲郡、三河鳥羽、吉良吉田、西尾、桜町前、新安城、知立、猿投、赤池、豊田市、新豊田(名鉄蒲郡線/名鉄西尾線/名鉄本線/名鉄三河線/名鉄豊田線) 【名鉄電車2DAYフリーきっぷで行く、中京旅】

鉄旅日記2015年3月7日その1・・・蒲郡駅、三河鳥羽駅、吉良吉田駅、西尾駅、桜町前駅、新安城駅、知

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2022年水無月 初日(東京-中山平温泉)その1 ‐金町、石岡、友部、水戸(常磐線)【鳴子温泉郷の湯を求めての旅でございます。】

鉄旅日記2022年6月11日・・・金町駅、石岡駅、友部駅、水戸駅(常

「鉄旅日記」2022年皐月 ツレと訪ねた下部温泉~富士宮~田子の浦旅でございます。最終日(下部温泉-東京) ‐下部温泉、波高島、身延、甲斐大島、内船、西富士宮、富士宮、東田子の浦(身延線/東海道本線)/富士浅間神社【Facbookへの投稿より振り返ります。】

鉄旅日記2022年5月29日・・・下部温泉駅、波高島駅、身延駅、甲斐

「鉄旅日記」2022年皐月 ツレと訪ねた下部温泉~富士宮~田子の浦旅でございます。初日(東京-下部温泉) ‐市川大門、下部温泉(身延線)【Facbookへの投稿より振り返ります。】

鉄旅日記2022年5月28日・・・市川大門駅、下部温泉駅(身延線)

「鉄旅日記」2022年皐月 最終日(磐梯熱海-東京)その3 ‐駒形、前橋大橋、高崎、本庄(両毛線/高崎線)【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】

鉄旅日記2022年5月8日・・・駒形駅、前橋大島駅、高崎駅、本庄駅(

「鉄旅日記」2022年皐月 最終日(磐梯熱海-東京)その2 ‐国定(両毛線)/国定忠治墓(養寿寺)【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】

鉄旅日記2022年5月8日・・・国定駅(両毛線)/国定忠治墓(養寿寺

→もっと見る

    PAGE TOP ↑