「車旅日記」1996年秋【夏をあきらめきれず、秋。再び夏のルートへと向かったのでございます。】初日 (東京‐三国峠‐新潟)- 橋本、拝島、東松山、籠原駅、高崎、月夜野情報サービスセンター、猿ヶ京湖城閣、越後湯沢駅、堀之内パーキング、道の駅豊栄
車旅日記1996年11月1日
1996・11・1 12:13 東京町田
昨夜の決意は固かったけど、雨が邪魔をした。
それに少しばかり時間が遅すぎた。
夜の爆走を断念して休息にあてた。
そしてずいぶんと眠ってしまった。
夏の出発より、もう遅れをとっている。
これから夏のルートをいく。
いずれにしろ雨の中の出発だ。
若干の気後れが起き抜けの行動をひどく緩慢にしている。
だけど昨夜、「オレは旅に出る」と言った。
寿司屋に集まっていた連中が温かく送り出してくれた。
餞別をくれた人もいる。
送り出してくれた人々の中には彼女の顔もあった。
だから出発だ。
晴れの日も雨の日もある。
天気に気持ちを奪われていては、この先何事も立ちいかなくなる。
だから出発だ。
荷物をまとめよう。
14:08 16号国道‐橋本
東京脱出は今回も難航を極めている。
だけど雨が上がり始めたようだ。
13:00頃から始まった東京脱出。
日は短い。
でもオレにはどうでもいい。
始まりは雨空だったから。
そして最初にこのルートをとったことも別に後悔はしていない。
こんな旅は、何でもありだよ。
それにしても、あっちでもこっちでも土木行政が幅を利かしている。
15:10 16号国道‐拝島
東京脱出。
まだ手間取っている。
さっき雑踏に埋め込まれるように駅があった。
そしてそんな雑踏に紛れ込んでいる。
いつの間にかルートは16号国道を外れている。
昨夜彼女に言ったとおりだ。
明るいうちに東京を抜けようなどと思わない方がいい。
その計画は必ず破綻する。
東京とは、つまりそういう街。
16:38 407号国道‐東松山
ペース配分がつかめない。
あれは夏の日だった。
群馬のどこらあたりかは忘れたが、美味いつけ麺を食わせてくれる店があった。
そこの主人と温かく触れ合った時はまだ微かに明るかった。
でも今はこの時点ですでに暗い。
ここらは人家もまばらで、炭を焼く家が一軒見える。
旅の空の下にある町。
しかし、本当に暗くなった。
同時にこれから長い夜が始まっていく。
17:27 籠原駅
家を出てコンビニで口をきいて以来、人とは無縁でいた。
そして駅の人波に同化した。
みんなそれぞれの目的を持ってここにやってくる。
そこに紛れ込んだオレにも目的はある。
取りあえずは走ることだ。
ルートもつかめている。
あの夏の日からすでに2時間遅れをとっている。
急ぐ必要はないけれど、急ぎたい思いだ。
今は一刻も早く知らない土地へ踏み出したい。
18:38 17号国道‐高崎
洋服の青山。
次にアルペン。
明かりが照らしてくる。
いくぶん雲が切れてきたような気がする。
今ひとつ気乗りしないままここまできたけど、さっき窓を全開にして風を作った時、旅の途中であることを実感した。
20:12 17号国道‐月夜野情報サービスセンター
どの季節であろうが、ここまでくれば完璧な夜だ。
ここで朝を迎えようとする人々もちらほら見える。
オレはここを知っていた。
ここまでのレースだと思って走ってきた。
外に出た。
外気はまだそれほど冷たくない。
背筋を伸ばした。
思ったより疲れていない。
猿ヶ京までは16㎞と出ている。
そこへ行けば風呂がある。
あの夏、そこの女将が優しく接してくれたことを覚えている。
うまくすれば、そこで数時間ぶりに人と口をきくことができる。
20:40 猿ヶ京-湖城閣
風呂の夢は潰え、これから三国越え。
少し悲しい気持ちになった。
あの夏の女将は今夜は姿を見せなった。
21:47 越後湯沢駅
馴染みのスキー場を通り、三国越えを果たし、またここにたどり着いた。
やっぱりここで家族に電話を入れた。
今この町は閑散としている。
夏は避暑地としての役割を果たし、これから迎える冬では本格的なリゾート地としての役割を務める。
町は冬を迎える前の雰囲気に包まれてひっそりとしている。
それでいい。
ありのままの姿に接したかった。
また雨が落ちてきた。
国境を越えると人の気性も気象条件も変わる。
それもありのまま。
これからあの夏の夜を越える。
どこまで行くのかオレにもよく分からない。
ただ今夜の車にはシェラフとビールが積んである。
つまり、いつどこでくたびれ果てても準備は万全ということだ。
23:00 17号国道‐堀之内パーキング
あの夜に追いついたよ。
夏の日はここで終わり、翌日に遭難した。
よく覚えているけれど、決してイヤな記憶じゃないことは確かだ。
今夜はこれより先へ行く。
少し疲れたけど、まだいけるよ。
このルートを走る連中は紳士的なのが多い。
オレの横に大型トラックを止めている男は弁当を食っている。
彼は一体どこからきたのか。
国に残してきた大切な人はいるのだろうか。
彼には好感を持っている。
ところでオレはどうなのだろう。
とにかくこの先気分よくいきたい。
この夜はまだ終わらない。
25:07 7号国道‐豊栄(道の駅)
悪夢の場所を過ぎて、ルートの名はいつの間にか8から7になっている。
ここは素晴らしいエリアだ。
オレのように半端なヤツでも安心していられる場所だ。
つまりここが今夜の寝場所になるわけだ。
そして「月」の伝説は今夜で終わった。
新潟エリアはどこへ行っても雨。
おまけにさらに降りがひどくなってきた。
まあいいさ。
初日の役割としてはこんなところでいい。
距離もかなり稼げた。
明日になればもう少しマトモなことを考えられるようになるだろう。
そんな気がするよ。
今日に関しては心の底から楽しめたという感覚はないけど、今夜のオレにビールを用意していたのは賢明だった。
これでこの夜も締まった。
今夜はシェラフもある。
きっと寒い思いはせずに済むだろう。
さらにこんな状況でも彼女の夢を見ることを可能にしてくれるかもしれない。
この雨は明日には止むのか?
いずれにしろ今夜はこれでおしまい。
食料も尽きた。
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