*

「車旅日記」2000年春【一年のブランクを経て、旅再開。出発場所は東京町田から、下町葛飾へと変わっております。】最終日(郡山‐茂木‐下館‐東京)郡山スターホテル、新白河駅、黒羽くらしの館、茂木駅、下館駅、みつかいどうロードパーク、葛飾金町

公開日: : 最終更新日:2024/04/13 旅話, 旅話 2000年

車旅日記2000年5月7日
2000・5・7 8:35 郡山スターホテル510号室
最後の朝がやってきた。
空は相変わらず曇っている。

朝食の場所は昨日集まって飲んだ店。
オレたちが座っていた席はただひっそりとしていた。

思い出の場所に行った時のような気分だったよ。

友の暮らす街でひとりの素敵な女性と出会えて、友との再会も喜べたこの旅は、運にも恵まれた素晴らしい旅だった。

あと今日を残すのみ。

心境としてはやるべきことをすべて終えて、東京に帰るというのに一番近い。

今日も走ったことのない道を往く。

それが今回の旅のこだわり。

10:08 新白河駅 1309㎞
たんたんと事が運んでいる。

今日最初にかけたバート・バカラックもたんたんとライヴを進行して終わり、やがて何度か寄ったことのあるこの駅に着いた。

郡山への最後の挨拶もたんたんとしたもので、もう離れてしまった。

道中頭に浮かんだことを思い出せない。

何か不安を抱えていたような気がする。

10:53 294号国道‐黒羽くらしの館 1340㎞
鉄道沿線を外れたこのルートに期待は抱いていなかったが、旅情あふれる素晴らしいカントリーロードだった。

ところどころ狭い区間もあるが、大体はよく舗装され、とても走りやすい。

路傍には石碑がいくつか並び、沿道の道々がたどってきた歴史に対する住民のリスペクトが感じられる。

田圃を越え、いくつもの川を渡ると、この場所に出た。

「くらしの館」はとても興味深いものだった。

そこにいたのはわずかな時間だが、思わず笑みがこぼれた。

車の中で甲斐バンドの「シーズン」がかかると目頭が熱くなった。

さよなら昨日までの素晴らしき日々。

12:02 茂木駅 1386㎞
少しタフなワインディングロードを抜け、ここは真岡鉄道の終着駅。

終着駅には他の駅には感じない思いを持っている。
オレが本当にやりたいと思っているのは線路を歩いていくことなんだ。

真岡を通り過ぎたその旅はここで終わる。
その時の気持ちに思いを馳せた。

初日の栃木路とはずいぶん趣が違う。
今日の方が野趣に富んでいる。

こうした駅に寄ると、まだ旅の途中であることを実感できる。

関東にもまだまだ知らない場所が残されている。

13:30 下館駅 1430㎞
益子市街を抜けると、ルートには東京の匂いがちらほらしてきた。

遠くに見えた立派な益子駅が、この旅最後の旅情を映す場所を思わせた。

見慣れない列車が止まっている。
この駅にはJRに関東鉄道、そして真岡鉄道が通っている。

東京にも近くなってきた。

コーヒーとカロリーメイトを買いに立ち寄った店の女性がことのほか素敵だった。

14:24 294号国道‐みつかいどうロードパーク 1462㎞
下館からは平らな田園地帯。

6号国道まではあとわずか。
オレの暮らす町までおそらく50㎞を切っている。

この旅の終わりも近い。

広大な田園が広がっている。
見渡す限りに山を見ないため、東北の山河とは趣を異にするが、なかなかの眺めだ。

もしかしたら車を止めるのはここが最後になるかもしれない。

294号国道はドライバーには親切で、立ち寄ることはなかったが、ここに着くまでに2つの道の駅が用意されていた。
次に通ることがあるなら計画を立てやすい。

さあ、もう少し。
もうじきこの旅も終わる。

とうとう特定の女性を想うこともなく、この旅も終わる。

20:59 東京葛飾金町 1504㎞
金町に帰り着いたのは約5時間前。
長い旅だったけど、帰りはすんなりといった。

心配していた車の傷は、どうやら以前からあったものらしい。
心を曇らせる必要などなかった。

6号国道では柏あたりで滞っただけで、苛立つことはなかった。
東京入りがこんなにも楽だとは思っておらず、事は計画通りに運び、5日間一緒だった品川ナンバーのヴィッツに別れを告げた。

小さいなりの割によく走る車で、財布をずいぶん助けてくれた。
1500㎞を走って約7000円。
ボディにキスしてやりたかったよ。

名残惜しくて何度か振り返る。
レンタカー屋は怪訝そうな顔をしている。

ひとりで旅しなきゃ、この気持ちは分からないだろう。

今夜はどこの車庫に収まるのだろう。
夏にまた指名するよ。
今回とまた同じやつに乗っかりたいものだ。

部屋に戻ると真っ先にビールを開ける。
そいつが今飲んでいる十和田ワインや、さっきまで飲んでいた田沢湖ビールよりも効いたよ。
疲れや焦り、不安がその1本に降りかかったのだろう。

ひと通りの片づけを終えて夕食の買い出しに行き、かごをぶら提げて物色している時、昨日郡山で友人に紹介された女性を思い出した。

彼女は郡山駅近くで、オレと同じようにひとり暮らしている。
こんなふうに買い物もするだろう。

「またお会いしましょう」。
そう言って昨夜自転車で帰っていく彼女を見送った。

はっきり言うが、オレは社交辞令を言ったことはこれまでにない。

もうひとつ。
ウソを言うわけでも希望的観測を書き残したいわけでもなく、彼女にはまた会えると確信している。

もしかしたら今後、彼女の存在が大きくなっていくかもしれない。
昨夜の友人と彼女との別れの後は泣きたかったよ。

今日は旅の最終日。
ここに帰ってきてからもテレビなんかつけないでやっていこうと思った。

寂しくなるかもしれないと思いつつ、さっき手に入れたオリジナル・ラヴの楽曲が救ってくれた。
これでいい。

旅の空の下にいる間に、今度は佐賀で悲劇が起きたという。
詳細など知りたくなかった。
聞きたくなんかないんだ。
馬鹿なヤツらが何をしたかなんか知りたくない。

オレには心配する人がいる。
その人たちを守れる場所にいないことで自身を責める時は、どうしていいか分からなくて、悲しくて。

映画「グリーンマイル」に登場する大男のコーフィーの言葉をよく思い出す。
「もう悲しいことを見聞きしたくないんだ。つらくて。」

そして彼はグリーンマイルを歩き、電気椅子に座る。

一度ひとりで旅に出てみるといいんだ。
そしたら分かるだろう。

東北じゃ胸を張って生きていたのに、なぜ東京じゃうまくいかなったのか。
そんなことも考えた。

ひとつ確信したことがある。
人生において不安を持たない時期などないのだと。

旅を彩ってくれた様々な楽曲の中で、気分を高揚させてくれたものを再びかけることはなかった。

もう終わったことなのだと、前を向いて次のCDをセットした。

それでいい。

夏にはどこに行こうか。
どうでもいいが、今夜の酒代はずいぶん高くついた。

関連記事

「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】3日目(仙台-山形-大曲)その2-羽前豊里駅、真室川駅、及位駅、院内駅、湯沢駅、横手駅、後三年駅、大曲グランドホテル

車旅日記2006年5月4日・・・羽前豊里駅、真室川駅、及位駅、院内駅、湯沢駅、横手駅、後三年駅、大曲

記事を読む

「鉄旅日記」2018年秋【サンキューちばフリーパスでめぐる上総下総安房旅】初日(松戸-流山-潮来-銚子-東金-松戸)その2-湖北、下総松崎、成田、香取、延方、北浦、佐原、大戸(我孫子支線/成田線/鹿島線)

鉄旅日記2018年9月22日・・・湖北駅、下総松崎駅、成田駅、香取駅、延方駅、佐原駅、大戸駅(我孫子

記事を読む

「鉄旅日記」2014年冬【まるごと日光・鬼怒川 東武フリーパスで、野州旅】最終日(鬼怒川温泉-東京)-小佐越、大桑、大谷向、下今市、西新井、大師前(東武鬼怒川線/東武大師線)

鉄旅日記2014年12月7日・・・小佐越駅、大桑駅、大谷向駅、下今市駅、西新井駅、大師前駅(東武鬼怒

記事を読む

「鉄旅日記」2017年冬【会津へ。会津へ行きたかったのでございます。】最終日(喜多方-会津若松-会津高原尾瀬口-下今市-東京)その2-大塚山古墳群、会津若松、芦ノ牧温泉、大川ダム公園、芦ノ牧温泉南(会津鉄道)

鉄旅日記2017年12月3日・・・会津若松駅、芦ノ牧温泉駅、大川ダム公園駅、芦ノ牧温泉南駅(会津鉄道

記事を読む

「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】最終日(新潟-五泉-弥彦-柏崎-長岡)走行距離246㎞ その2-青海川駅、安田駅、北条駅、長鳥駅、来迎寺駅、長岡駅、東京葛飾金町

車旅日記2005年7月18日・・・青海川駅、安田駅、北条駅、長鳥駅、来迎寺駅、長岡駅、東京葛飾金町

記事を読む

「鉄旅日記」2019年年始【雪が見たくて北へ向かいました。そして初めて仙台空港線に乗ったのでございます。】最終日(一ノ関-東京)その3-名取、岩沼、福島、郡山、新白河、上野(東北本線)

鉄旅日記2019年1月6日・・・名取駅、岩沼駅、福島駅、郡山駅、新白河駅、上野駅(東北本線) 15:

記事を読む

「鉄旅日記」2018年師走【伊勢のいくつもの終着駅に降りまして、神島で2018年最後の満月を眺めたのでございます。】2日目(津-松阪-伊勢奥津-鳥羽-神島)その2-多気、伊勢神宮外宮、伊勢市、鳥羽、鳥羽マリンターミナル(参宮線/鳥羽市営定期船)

鉄旅日記2018年12月23日・・・多気駅、伊勢神宮外宮、伊勢市駅、鳥羽駅、鳥羽マリンターミナル(参

記事を読む

「鉄旅日記」2016年春【下北半島から東日本大震災被災地へ】最終日(石巻-東京)その1-石巻、西塩釜、下馬、塩釜、岩切、利府、伊達、郡山、白河(仙石線、東北本線、利府支線)

鉄旅日記2016年3月21日その1・・・石巻駅、西塩釜駅、下馬駅、塩釜駅、岩切駅、利府駅、伊達駅、郡

記事を読む

「鉄旅日記」2020年睦月【秋田内陸縦貫鉄道に乗りにいきました。五能線の名所も歩いた旅初めでございます。】最終日(鷹ノ巣-東京)その3‐余目、三瀬、羽前水沢、間島(陸羽西線/羽越本線)

鉄旅日記2020年1月13日・・・余目駅、三瀬駅、羽前水沢駅、間島駅(陸羽西線/羽越本線) 14:0

記事を読む

「鉄旅日記」2003年冬【ご縁と別れがあり、34歳の誕生日を北九州で迎えた日の記憶でございます。】最終日(博多-小倉-門司港-宇部)その1-博多そして小倉

鉄旅日記2003年2月16日 2003・2・16日の記憶 日曜日の朝だった。 34歳の誕生日に

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】最終日(三次-東京)その1‐三次、上下、府中(福塩線)

鉄旅日記2020年7月26日・・・三次駅、上下駅、府中駅(福塩線)

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その5‐備後落合、備後庄原、三次(芸備線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・備後落合駅、備後庄原駅、三次駅(芸

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その4‐宍道、加茂中、出雲横田、出雲坂根(木次線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・宍道駅、加茂中駅、出雲横田駅、出雲

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その3‐黒松、仁万、出雲市、荘原(山陰本線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・黒松駅、仁万駅、出雲市駅、荘原駅(

「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】3日目(萩-三次)その2‐益田、三保三隅、浜田、波子(山陰本線)

鉄旅日記2020年7月25日・・・益田駅、三保三隅駅、浜田駅、波子駅

→もっと見る

    PAGE TOP ↑