「車旅日記」2003年晩秋【紀伊半島に焦がれる日々。南海道を往くのは2度目でございます。】3日目(伊勢志摩-吉野-奈良-京都)走行距離239㎞ -大王崎、御座港、鵜方駅、飯高駅、天誅組終焉之地、吉野駅、吉野神宮駅、吉野口駅、京都ホーユウコンフォルト二条城
車旅日記2003年11月24日
2004・11・24 9:40 大王崎
薄曇り。
小雨が時に混じる。
夜の感覚などはいい加減なもので、宿から歩いてすぐの場所に大王崎という港があることなど、昨夜は及びもつかなかった。
そんな唐突ともいえる港で迎えた朝。
空気は清々しく、少し冷たいけど爽やかな風が吹いている。
近くに灯台が見える。
数組の一団がその灯台を目指して歩いていく。
朝を迎えるなら、いつもこんな場所がいい。
10:13 伊勢志摩御座港(11月22日のJR奈良駅より641㎞)
賢島を見渡す突堤では、雨の中でありながら釣り人の姿が数人認められる。
空を見た。
オレの見立てではやがて雨は上がる。
伊勢志摩はリゾート地と思っていたが、真珠が有名であることがオレの中でその存在を肥大化させていたようだ。
丸山大橋を渡った先には小さな商店街が見られたけど、あとは言ってみれば僻地だ。
ここで生まれた子供は、大人になるまで自由に街には出られない。
この寂しげな港から賢島行きのフェリーが出る。
この静けさを気に入っている。
雨の朝にこんな場所にいると哲学的になる。
明日は休むよ。
京都に着いたら彼女に会いにいく。
11:20 鵜方駅(11月22日のJR奈良駅より666㎞)
伊勢志摩の道は近鉄線路の手前で混雑する。
途中パールロード、スペイン村の表示が出るあたりで車の流れは変わり、ここは伊勢志摩の玄関口。
住人はこの駅からオレが通ってきた半島へと様々に移動していく。
立派な造りの現代的な駅だ。
構内には浦島太郎を想像させる亀の置物がある。
あれはこのあたりの話か。
納得してもいい。
竜宮城とは案外こんな町に面した海底にあるのかもしれない。
志摩半島の中心はここから大王崎までの区間にほぼ形成されている。
大王崎の手前で見た海が、今回の旅で見る最後の海となった。
さっきまで駅の階段を上がる人々の姿が見られたけど、今は誰もいない。
駅前通りをモバイル・ショップの女性が歩いていく。
そして数台の車が行き交う。
この風情はオレの旅に相応しい。
13:21 166号国道-道の駅飯高駅(11月22日のJR奈良駅より741㎞)
志摩半島から伊勢へ。
ピンク色の花畑を抜けて左に曲がり、石垣上の畑を過ぎて小さなダムを越えると、伊勢路は渓谷に沿う。
紅葉の中、川のせせらぎに耳をそばだてながら走る。
ロッド・スチュワートの甘いバラードが過去の甘い記憶を引き出す。
あの道を走るために、わざわざここまできたのだろう。
人生における必然を感じる。
トンネルを過ぎると伊勢市内。
川沿いに武家屋敷と見紛う家並があり、小雨の中を人々が歩いていく。
京都の鴨川の風情に似ている。
そして外宮。
2年前が懐かしい。
宇治山田駅近くのゲームセンターで笑い転げていた女子たちを思い出す。
どうしているだろうか。
今も仲良くしているのだろうか。
もしかしたら進学に伴って別の街へといってしまった子もいるかもしれない。
吉野へ。
畑の中を参宮線が往く。
たまらない旅情がある。
伊勢の匂いが残るあたりに鄙びた駅でもあればよかったが、辿り着けない。
42号国道に出ると紀伊長島方面へと延びる線路に出る。
雨に濡れている鉄路もまた哲学的。
どうやら本降り。
空の色も変わった。
さっきのオレの見立ては外れるのか。
天上界の事情までは知らない。
ようやく吉野へ。
少し寒くなった。
峰々に靄がかかる。
14:27 16号県道(奈良)-東吉野村天誅組終焉之地碑前(11月22日のJR奈良駅より786㎞)
険しい和歌山街道は雨に煙り、走行に難儀した。
高見越えでは猿の一団を見かけた。
母猿の背にしがみつく子猿の愛らしいこと。
166号国道を離れて吉野へ。
思いがけず旧跡に出くわす。
五条で見かけた天誅組の文字。
この3日で彼等の始まりと終わりに接した。
ここは小川が流れる静かな場所。
川を渡れば吉村寅太郎の墓がある。
ここで15名が戦死したという。
死に場所として、ここなら悪くないだろう。
幕府軍に追われ背後の大山塊を彷徨い、歴史に名を残した彼等に敬意を。
雨が上がった。
15:29 吉野駅(11月22日のJR奈良駅より813㎞)
とうとう辿り着いた吉野。
想像以上に素晴らしい場所だ。
すべてに歴史的な匂いがついている。
近鉄の終着駅、吉野。
改札口を挟んで、少年がホームと先に広がる風景を一心に眺めていた。
オレも同じようにする。
駅に漂う旅情はこれまでに寄った駅の中でも1、2を争う。
その駅を出ると幽山の麓。
僅かでも時間を残していれば山に登るが、そうした時間はない。
ケーブル駅の真上の木々はすでに紅い。
紅葉との縁を持とうとはしなかった人生だが、こんな歴史的な場所で遭遇すると、これまで生き延びられたことに感謝したくなる。
吉野川沿いの169号国道。
架かる橋にも街道沿いの町並にも歴史を嗅ぐ。
杉の香りを同時に嗅ぐ。

2017年3月19日撮影
15:41 吉野神宮駅(11月22日のJR奈良駅より814㎞)
歴史の雨が降る。
こんな町で雨に降られると不思議と気分がいい。
駅前で3人の少女がボール遊びをしている。
大鳥居をくぐれば吉野神宮。
着いたばかりでこの町のことはよく分からないが、この土地を気に入っている。
離れがたくて、踏切を渡った先にあったこの駅に寄った。
雨足が強くなってきた。
もうじきこの歴史的な町の日も暮れる。
16:21 吉野口駅(11月22日のJR奈良駅より828㎞)
歴史の雨は吉野を離れると上がり、鄙びた吉野口へ。
この小さな駅に近鉄とJRが乗り入れ、それぞれの方向へと分かれていく。
待ち人の姿はあまり見られず、村は靄に包まれている。
奈良から始まった旅ももうじきに終わる。
この靄が晴れれば、日が暮れる。
この寒さはこの村に似合う。

2013年4月7日撮影
21:25 京都ホーユウコンフォルト二条城401号
奈良から始めた旅は864㎞を走り、18:00過ぎに無事にトヨタレンタカーに車を返すことで終了した。
このごく事務的な手続きが、旅の終わりを意味することに若干の寂しさを感じる。
雨足は鈍くなったものの、まだ細かい雨が残る中を奈良駅へ向かう。
駅の反対側に見えた三井ホテルの明かりは1年前にはあっただろうかと記憶を手繰り、古くなった奈良駅の階段を上がり下がりして京都行の快速電車を待った。
京都に着くまでの気分はよかった。
決心のつかないオレは、3月の時のように、京都にはまだ着かないでほしいと思いながら、脱力気味に列車に揺られていた。
京都駅は改札口の先に広がる風景が素晴らしい。
ライトアップされた京都タワーの白い姿が浮かび上がり、この季節にはクリスマスのイルミネーション。
果てしなく続くように見える階段を見上げれば、金色と緑色に煌めくクリスマス・ツリー。
どこからかゴスペル・ソングが聞こえてくる。
帰ってきた。
そんな気持ちを抱きながら降りていた京都駅は、もう遠いものになってしまった。
この3年で何かが始まり、そしてその何もかもが終わり、街は変わらず、オレだけが変わり、やがてこうしてオレはこの古都に帰ってきた。
バス乗り場で京都駅を振り返る。
ただ茫々としていた。
ガラス張りの京都駅に映る京都タワーが艶めかしく美しい。
隣のルミナ京都堀川でビールと軽い食事。
21:00過ぎに京都駅を出る東京行最終をやり過ごすには、こうしてビールでも飲まなきゃ諦めがつかなかった。
これで明日が決まった。
ホテルの前に止まっていたタクシーをつかまえて、八坂の石段下まで。
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