「車旅日記」2003年晩秋【紀伊半島に焦がれる日々。南海道を往くのは2度目でございます。】2日目(南紀白浜-潮岬-新宮-十津川-伊勢志摩)走行距離421㎞ -白良浜、白浜駅、見老津駅、潮岬、紀伊大島樫野灯台、湯川駅、瀞峡街道・熊野川、十津川、熊野きのくに、紀伊長島駅、伊勢志摩
車旅日記2003年11月23日
2003・11・23 8:36 某リゾートクラブ南紀白浜
いい朝だ。
青い海が見える。
闇の中にいちゃいけない。
こんな朝を迎えるといつもそう思う。
外に出れば、より気分も晴れるだろう。
このマンションの前に立つ「喫茶食事」の看板を掲げている店は営業を始めている。
昨夜そんなに遅い時間にここに着いたわけじゃないが、その頃には閉まっていたんだ。
やっているんだな。
よかったよ。
9:40 白良浜(11月22日のJR奈良駅より208㎞)
名勝三段壁に海水浴場。
ようやくオレは白浜の中心にいる。
たいした賑わいで、この町の価値も分かった。
三段壁は絶景だ。
そこで人生を終えようとする者が絶えないらしく、名勝の案内板に生相談の看板が混じる。
中国人の大集団の声が聞こえ、アロエの花を初めて見た。
初めてといえば、この白良浜の白い砂浜。
間近に寄せるエメラルド・グリーンの波。
こんなにも美しい海辺をオレはこれまで知らずにいた。
白浜、、、素敵な町だった。
10:05 白浜駅(11月22日のJR奈良駅より215㎞)
もうじき新大阪行の特急列車がやってくる。
ここは特急停車駅で、南紀の中心都市。
駅への道は町の玄関通り。
椰子の木が植わり、次にスナック街が続く。
パンダの町とある。
見かけた駅員はみんな女性で、横に長い駅の背後にこんもりとした小山がある。
町は白良浜を囲むように形成されている。

2008年7月20日撮影
10:57 見老津駅(11月22日のJR奈良駅より253㎞)
青黒い海の沖合を船が行く。
この無人駅のホームに上がり海を眺めた。
旅先のオレがやりたいことはこんなこと。
街道に面した待合所に待ち人がひとり。
ホームにひとり。
そしてまたひとりやってきた。
雲ひとつない美しい空。
そして海。
この頃は暦がいいのだろう。
2年前にこの道を逆方向から走った時もまた天気には恵まれた。
そして晴天は京都へと続いていた。
小さな湾を囲むように海辺の道は蛇行している。
2年前に車を止めた道の駅には寄らなかった。
懐かしさはあった。
あの時、闇に包まれようとしているあの場所で、オレが見ていたものが何だったのかを知った。
人に話せばどうということじゃないが、こんな日に眺める懐かしい海は格別だ。
あの時も彼女を想い、そうしていた。
波の音とは案外大きい。
12:00 潮岬(11月22日のJR奈良駅より285㎞)
本州最南端の灯台の町はおとなしい。
観光地然としたところもなく、ひっそりとしている。
明治23年にここでトルコ軍艦が遭難したという事実を初めて知った。
町にも岬にも歴史がある。
それにしても関西人とはやかましい。
こうしている時にも隣でがやがやしている。
駐車場はやたらに広いのに、何もオレの横で騒がなくてもいいものを。
台風の報道では必ず登場する有名な岬。
ここは潮の流れが早い。
そう話す話が聞こえてきたが、見てわかるものじゃない。
だが沖合の流れはこれまでに見てきたものとは違っているように見えた。
ここに来れたことはうれしいが、ひとりで長くいられるような場所じゃない。
12:38 紀伊大島樫野灯台(11月22日のJR奈良駅より298㎞)
大島は案外大きな島だ。
台風で波が打ち寄せると通行止めになる桟橋を渡り、串本の島へ。
静かにひっそりと本州の一番南に浮かんでいる。
ここは日本とトルコの交流地点。
遭難記念碑の近くでトルコ青年が小さな店を出していた。
微笑ましい光景だ。
灯台から眺めた海は穏やかに凪ぎ、いくつかの船舶が無事に難所を越えようとしていた。
13:35 湯川駅(11月22日のJR奈良駅より334㎞)
ホームから海が見える駅。
ここは那智勝浦湯川温泉を持つ小さな駅。
ここらあたりに駅員の姿はなく、まるで子供のようにホームに駆け上がった。
小さな湾が見渡せて、浜で夫婦が釣りをしている。
42号国道は素晴らしい。
それも新宮まで。
2台隣にオレと似たような男がいる。
たぶん目的も似たようなものだろう。
これからどこへ行くのか見当はつかないが、食事が必要だ。
海とは一旦お別れ。

2014年3月9日撮影
14:44 168号国道-道の駅瀞峡街道・熊野川(11月22日のJR奈良駅より376㎞)
熊野川沿いを行く素晴らしいドライブ。
陽光に照らされた山並が美しい。
まだ紅葉には早いが、ところどころ色づき、街道と川と山々の陰陽をなした景観が見事だ。
こんな道をかつて走ったことがある。
あの飛騨街道が懐かしい。
聞こえてくる鳥の声には聞き覚えがあるが、声の持主の種族が浮かんでこない。
海を離れれば清流に深い山並。
南紀には何でもある。
「めばる」という高菜で包んだ握り飯が美味かった。
このあたりの名物料理という。
16:09 425号国道十津川村芦ノ瀬川流域(11月22日のJR奈良駅より416㎞)
熊野川、十津川、芦ノ瀬に向けて両側から山が迫る十津川郷。
大阪方面からやってきた大型バスの通行によりところどころ退路は断たれ、脇に逸れたこの山国道には誰一人いない。
この場所で放尿。
とても原始的な気持ちになる。
小川のせせらぎは耳に心地よく、見上げた遥かな高所に家々が並ぶ。
温泉地では川から石を積み上げたような家が並んでいた。
秘境十津川。
司馬遼太郎が好んで題材にしていた尊王心に篤い歴史的な一帯だ。
あるいは平家の落人との説もあるのだろう。
あんなにも高所に家を構えた理由は、防戦のためか、次の峰へと逃れるためか。
ここは奈良県。
ふと気づくと名を持たない豪快な滝に出会う。
18:09 42号国道-道の駅熊野きのくに(11月22日のJR奈良駅より484㎞)
気温6度。
暖かかった南紀もすっかり日が落ちて随分と寒くなった。
十津川の山の中で往生も、下北山村から飛ばしてすっかり疲れてしまった。
かなり首が凝っている。
十津川からの425号国道はまさに日本の原風景だった。
ああした場所は他にいくつもあるのだろうが、その中でも国道を通しているのはあのあたりだけかもしれない。
果てしない山道は満足に舗装もされておらず、ガードレールすらない。
すれ違う車はないが、運転には慎重を要した。
眼下に見下ろした下北山村の明かりはまるで真珠を並べたようだった。
ようやく村に出た。
そんな安堵感は疲労を連れてくる。
日が暮れてからあの山国道を走っていたら大変な目に遭っていただろう。
大昔の旅人の気持ちが理解できそうな険しい街道だった。
それにしても色づく峰々、巨岩。
観光地として人々を呼ぶ土地が持つものに匹敵する観光資源は転がっていた。
熊野に寄れなかったのは残念だが、難儀な道中も今となれば楽しい。
生きていることの素晴らしさを感じている。
19:08 紀伊長島駅(11月22日のJR奈良駅より531㎞)
小さな町に着いた。
42号国道もカーブの多い街道で、今夜も星がきれいだ。
尾鷲で見た美しい明かりは工場のものか。
旅はまだ続く。
客の姿はまばらな駅。
南紀の駅はおおむねこんな感じだった。
客のアテのない駅前に止まるタクシー運転手が、アイツは何者だろうという目でオレを見ている。

2014年3月9日撮影
23:15 某リゾートクラブ伊勢志摩(11月22日のJR奈良駅より625㎞)
追憶のルートは、2年前の記憶が正しければ、当時より通行が容易になっていた。
神の存在を感じた小さな隧道はどこへいったのか。
それでも伊勢志摩は遠く果てしない。
この闇の中を一体いつまで走れば着くのか。
そうした焦燥感はあった。
鵜方駅まで来ると俄かに町の様子が変わり、交通量も増えた。
賢島で見た都会的リゾートの明かりが志摩マリンランドだろう。
鄙びている割にはここらあたりの店は結構遅くまで開いていて、お薦めの店で食事もできた。
正体の掴めないオレを評判通りの味でもてなしてくれたよ。
そして南紀人の人懐こさに、ひとりでいることを忘れた。
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