「車旅日記」2005年冬【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】最終日(人吉-天草-熊本空港)走行距離240㎞ その1-人吉駅、一勝地駅、球泉洞駅、佐敷駅、上田浦駅、千丁駅、有佐駅、不知火‐道の駅
車旅日記2005年2月13日
2005・2・13 9:01 人吉駅
町に濃い霧が立ち込めている。
駅の背後の峰に幽玄が漂い、温泉街の地下から方々に上がる湧き上がる湯煙が、かえって今朝の寒さを感じさせる。
朝湯に浸かり、人吉の人情にも包まれた。
わざわざ車を止めて、頭を下げながらオレの横断を促した青年がいた。
土産はこの町で揃えることにした。
気に入ってくれるかどうかは分からないが、絵葉書にしたよ。
できれば駅を描いたものがあるとよかった。
とても素敵な駅だから。
まだ開いてはいないが、脇には駅弁を商う建物がある。
いい風情だ。
球磨川を渡れば人吉を離れる。
もうすぐの話だ。
また来たいと思う。
湯もよかったよ。

2015年8月14日撮影
9:44 一勝地駅(2月11日の熊本空港より571㎞)
球磨川沿いを佐野元春の甘いメロディに乗せて、新たな気持ちで車を走らせている。
球磨村に着いて、雪が舞った。
一勝地駅は大正3年開業で、開業当時の姿を現在まで残している。
蔵のような造りで、今はJAが管理を任されている。
すれ違いで八代行と人吉行が入線してきた。
ディーゼル音が消えるまで耳を澄まして聞いていた。
やがて聞こえなくなると、雪が舞うこの小さな村に再びの静寂が訪れた。
地に足をつけて、まず一勝をということで、この駅発行の切符は珍重されているという。
駅の看板にも受験生に勧めてくださいとある。
でも、この駅に寄ることがあるのなら、そんなことよりも風景を愛でるべきだ。
美しい神話でも残っていそうでいて、雪の舞う寒い朝が似合う、九州の優しい風景がここにある。
10:04 球泉洞駅(2月11日の熊本空港より577㎞)
激流の球磨川はここにきて緑に澱んでいる。
川べりには集落があり、激しい気象条件に耐えながら暮らしを守り続けている。
レンガ造りのトンネルは現在も使用に耐えている。
幾度の強烈な台風に見舞われた鉄橋にも同じことが言える。
大正時代の日本人は、未来を鑑みた栄光の仕事をしたのだろう。
崖にへばりつくように駅がある。
見上げると険しい断崖が聳えている。
駅舎は開放的な造りで、ガラスに覆われた小さな待合室が設けられている。
夏に喫茶店でも開くと素敵だろう。
涼し気な造作だ。
その夏の日をオレは想像できる。
さて、川の流れは止まった。
また海へ向かう。
10:37 佐敷駅(2月11日の熊本空港より594㎞)
キャンプ場や吊橋を横目に球磨川を離れ、あともう少しで八代海に出る。
天草が見えるだろう。
しみじみとしたメロディに泣きそうになりながら芦北町へと向かった。
佐敷海を抱くように暮らしている人々と町並。
映画のロケに使われそうな旅情に満ちた町だった。
角のお寺の鐘撞堂がまたいい。
夕暮れ時なんかたまらないだろう。
泣きそうだ。
球磨川には雪が舞っていたが、空が明るくなってきた。
じきに厚い雲間から日が差しそうだ。
11:42 上田浦駅(2月11日の熊本空港より614㎞)
行き止まりの道を走り鉄路に下りた。
八代海に面した村で、ご老人の話す熊本弁を聞いた。
広場で子供たちが遊び、ひとりのご老人が彼らに対して怠りなく視線を送っている。
目が合った少年が頭を下げる。
とても賢そうだ。
どんつきにある神社の石段下で犬が吠えた。
波の音が聞こえる。
海辺に下りた。
波が寄せてくる。
対岸は天草。

2015年8月13日撮影
ここを歩いていることが、今オレが九州にいる理由なのだろう。
蜜柑畑があり、夏はよさそうだ。
集落に線路は敷かれているが駅はなく、また一山を越える。
眼下に小学校が見えて、坂を下った。
少女が縄跳びをして遊んでいる。
そんな光景を眺めていると新八代行2両編成の列車がやってきて、ひとりの乗客を乗せて去った。
行ってしまった人を3人が見送る。
駅舎は駐輪場も兼ねた赤い屋根を乗せたログハウス風の造り。
今は何の音もしない。
そうそう、空はもう晴れている。
寒いけどさ。
12:41 千丁駅(2月11日の熊本空港より648㎞)
3号国道を走り、球磨川が海へと到達する姿を見て、すぐに前川を渡る。
あの3号国道は去年の夏はサンダーロードになったけど、今日はよく晴れて違った印象を与える。
何だかありがたそうな駅名に魅かれて、この小さな駅に立ち寄った。
のどかな村だ。
遠くに八代の製紙工場の煙突が見えて、盛大に煙を吐き出している。
列車がやってくる。
タクシーが1台止まっている。
彼は仕事にありつけるだろうか。
黒くて見たこともない顔をした特急列車が通過していった。
千丁は畳表発祥の地だという。
13:02 有佐駅(2月11日の熊本空港より654㎞)
線路伝いに進んだ。
まるで逃げているみたいだ。
千丁から6㎞。
八代の煙はまだはっきりと見える。
新八代から博多までリレー特急が走るようになったためか、電化複線化された線路と装置は立派で、この村で一番近代化された地帯だ。
女性の名前を連想させる駅に、大洞時子さんという方の絵がかけられている。
駅長さんの顔は厳つく、彼から「肥後もっこすとはオレのような男を指すのだ」と言われたら、素直に頷くだろう。
白髪交じりの意志の強そうな人だった。
住宅のような駅舎だが、かなり古そうな待合室がホームに置かれている。
この駅にも照明装置が屋根から垂れ下がり、駅前の木に括りつけられている。
夜の顔を見てみたい。
これより宇土半島へ。
13:43 266号国道 道の駅-不知火(2月11日の熊本空港より670㎞)
宇土半島の付け根、松橋から三角へ。
不知火とは八代海で起こる現象だったのか。
蜃気楼による海上の漁火の怪火現象で、妖怪にも喩えられる。
水島新司さんの「ドカベン」に登場する剛速球投手を思い出す。
九州は神話の国。
そして熊本は火の国。
ここから見えるあの煙はやはり八代のものだろう。
人吉では厚かった雲はすっかりとれて、青空から暖かな日差しが降り注ぎ、波が光る。
道の駅は賑わっている。
天草から宇土半島を伝って人々がやってくる。
この道を走る喜びに浸る。
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