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「車旅日記」2005年冬【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】最終日(人吉-天草-熊本空港)走行距離240㎞ その2-上天草、三角駅、肥後長浜駅、宇土駅、上熊本駅、肥後大津駅、熊本空港駅、東京葛飾金町

公開日: : 最終更新日:2023/04/27 旅話, 旅話 2005年

車旅日記2005年2月13日
14:31 107号県道 上天草市大矢野島旅館大国横空地(2月11日の熊本空港より702㎞)
天草五橋の最初の橋、天門橋を渡り天草上陸。
橋の先の峰が荒々しく削られていて、妙な雄大さを感じさせた。
セメント工場でもあるのだろうか。
次に渡ることがあったら、あの山容はさらに変貌していることだろう。

目の前の小さな湾に小島が浮かんでいる。
八代海は上島に視界を遮られ十分には見えないが、海は穏やかに凪ぎ、輝いている。

天草上陸によって、この旅に箔がついた。
天草は次の前島橋を渡ると上島、下島、長島と続く。
下島、長島間に橋は架かっていない。

天草四郎はどこの港から島原へと渡ったのだろうか。
400年前を生きて、少年のまま人生を終えた彼は、島原湾を歩いて渡ったという伝説を持つ。

パールラインを走る通行量は多く、先の道の駅に集っていた人々も天草を目指したのだろう。
島内はとても賑わっている。

この島の中心地にあたる大矢野あたりの町並はちょっとしたもので、266号国道沿いに椰子の木が植わり、天草の歴史に南国ムードを持ち込んでいる。

ここから引き返すことになる。
ちょうどいい空地があってよかったよ。

15:12 三角駅(2月11日の熊本空港より716㎞)
天門橋は立派な橋だった。
狭い海峡の名は地図に記されていない。

JR三角線の終着駅、三角。
旅を前にして検索した姿はあまりにも廃れていて、そういった印象を持ってここに着いたが、あれは裏手から写したものだったのか。
正面から眺めると随分違う。

駅前には町のホームページにも載っていた渦巻形のオブジェが海に向いている。

2015年8月13日撮影

そしてフェリー乗場に物産館。
そこに廃れた印象はないが、駅横商店の品数の薄さには驚かされた。

見渡したところホテルなどの宿泊施設は目につかない。
かつての交通の要衝は天草に架けられた橋によって、通過地点になってしまったかのようだ。

駅舎は3階建ての洋館で、時計台が空に延びて、天辺に十字架が据え付けられている。
灯台のある駅と大書されているが、どれを指しているのだろう。
海から駅舎を隠すように見張り台のようなものが設置されていて、鉄階段には錠が施されている。
うまくは言えないが、三角の港に似つかわしい終着駅だった。

いよいよ空港へ。
宇土までに気になる駅があれば寄っていく。

最後にオレが見る海は島原湾になる。

2015年8月13日撮影

15:46 肥後長浜駅(2月11日の熊本空港より734㎞)
天草街道を東へ。
島原半島を左手に見て、雲仙普賢岳がよく見える。

2015年8月13日撮影

普賢岳の山頂には雲がかかっている。
数年前に暴れて麓の人々を恐怖の底に落とした火山は、島原湾を挟んで眺めると富士山のように姿がいい。

前方には金峰山に二の岳。
風光明媚な街道だ。
この57号国道は九州横断国道で、大分まで続く。
その国道の終点もまた三角だった。

当り前だが、オレが見ていた峰々は昔からあった。
天草四郎も普賢岳を目指して船団を組んだのだろう。

道は天草帰りの車で混雑している。

ここは民家に挟まれるようにある。
初老の男が列車の到着を仁王立ちで待っている。
駅舎を持たないひっそりとした駅で、国道からその入口を探すのは困難を極めた。

16:19 宇土駅(2月11日の熊本空港より747㎞)
三角線の単線の線路が町中を通り、列車の往来が稀なレールはただひたすらに西日を浴びている。
寂しい一帯に打ち捨てられた家が並んでいた。

島原も金峰山も今は視界から外れ、町外れにあるのであろう宇土駅を眺めている。

面白い駅舎だ。
かつてここに壁があったであろうと思われる旧舎に、郵便局を思わせる新舎が出っ張っている。

入るとガランとしたホールで、中央に大きなテーブルが置かれ、そこで女性客が列車を待っていた。

肥後路も最終盤に入っている。
駅の背後にある高架は新幹線のものだろう。

九州新幹線停車駅の顔触れは知らないが、おそらくこの町に止まることはないのだろう。

17:07 上熊本駅(2月11日の熊本空港より763㎞)
大正時代の歴史的建造物を間近に見たくて、夏のルートを数キロ辿った。
熊本方面には夕方の混雑が始まっている。

駅には世界の駅の写真が展示されていて、東京駅の姿もある。
今じゃ文化遺産となった上熊本駅舎。

入口脇には目立たない姿で市電の始発駅がある。
文化財駅は21世紀ともうまく付き合い、ボーダフォンショップとコンビニが併設されている。

夕方の列車からたくさんの人々が降りてきた。
背後には大鉄道基地が控えている。

これから空港に向かうよ。

2009年9月20日撮影

18:10 肥後大津駅(2月11日の熊本空港より784㎞)
緑色に塗られた壁に瓦屋根の駅舎。
通りから坂を下ったどんつきにある。

九州横断列車の停車駅、肥後大津。
この駅を終点とする列車の本数は多い。

熊本発の豊肥本線の電化された単線のレールは都会的な防護壁を構えながら阿蘇へ向かう。
武蔵塚のあたりまでは都市近郊の匂いがした。

ここは豊後街道。
大名行列はこの道を通ったのだろう。
途中に杉並木を見た。

都市型の鉄道風景も阿蘇の外輪山が見えだすと俄かに郷愁を帯びてくる。
この駅周辺は火の国の香りがするよ。

迎車を待つ高校生の一団。
最後まで残っていた少女も行ってしまったら、とたんに駅前は寂しくなった。
すれ違った肥後娘に魅かれ、何だかオレは人生を喜んだ。

便所を探して近所の公園に向かう途中で聞き慣れない動物の鳴き声がして、そっちに目を向けると玄関先に黒豚が繋がれていた。
面白いよな。

これで最後。
もう煙草も吸わないよ。

そして雄大な阿蘇から光が消える。

2009年9月20日撮影

19:06 熊本空港(2月11日の熊本空港より794㎞)
終わったよ。
無事だ。
何よりだ。
まずはほっとしている。
こうしてビールを飲むと、その思いがまず先にくる。
それでいい。

やっぱり長い3日間だったよ。
今日球磨川あたりにいた頃の記憶は随分古いものになっている。
あの時の空に今夜の月は予感できなかった。
そして今夜の月はC Moon。
星はあまり見えない。

一本前の便に乗ることもできたけど、予約していた便で搭乗手続きを済ませた。
熊本空港を利用する機会はもうないかもしれない。
もちろんオレのことだ。
確かなことは言えないが、そんな理由でしばらく空港にいたかった。

5月になってみないと分からないが、旅はしばらくいいという気持ちでここに座っている。
大好きだけど、そういう気持ちでいる。

その理由が分からないと言うつもりもない。
好きな女性がいる。
その女性との5月を考えたい。
遥か熊本の地で考えるべきことじゃないかもしれないが、たぶんこの3日間を東京で過ごしていたら、この強い気持ちは生まれなかっただろう。

九州とのお別れの時間は十分にとった。
さっさと離れるわけにはいかなかった。

これでしばらく九州上陸の予定はたたないだろう。
名残り惜しくて、車を返したあとバスには乗らずに空港ビルまで歩いた。

揚げ芋はこれで3日続きになる。
オレの腹はこれで十分に膨れる。
でももうウグイスパンだけはたくさんだ。

最後のビールを飲んでいたら熊本出身の友人を思い出した。
鹿児島でもそうだった。
宮崎には知人を持たないから滞在は長くはならなかった。

旅の日程はあるいは無意識的にそのように決まったのだろう。
さあ、お別れだ。

煙草を吸いに外に出たら寒かった。

24:42 東京葛飾金町
上空の話から始めよう。
熊本空港を出たANA機は空港上空を旋回した。
二度と下りない空港ビルが見えて、暗いながらも天に突き出ている山域は阿蘇。

肥後大津で上空を飛ぶ飛行機を眺めた。
同じように周辺の町で、ふと空を見上げた者は、あれが東京行最終便だったことに関心など持たないだろう。

そしてしばらく光は消える。
目を覚ますと行きと同じように名古屋上空に差し掛かったことを知った。
四日市から続く中部の大都会の明かりは見事なものだったよ。

空から眺めればどの街明かりも順位付けなど不要な夜景を見せる。
次に見えた夜景は着陸態勢に入るとのアナウンスが入った時だった。
あの街はどこだったのだろう。
ひと際大きな明かりが見えたんだ。
駅と周辺の集合体。
東京にしては少しこじんまりとしているように見えた。

その時少し赤みを帯びた三日月が視線と同じ位置に浮かんでいた。
東京湾に近づくにつれて月の姿はぼやけて、やがて姿を消した。
湾に浮かぶ船舶の数は今夜は少なかった。

着陸して人々が立ち上がった時、チーフ・スチュワーデスが明日のバレンタイン・デーにちなんでチョコレートを用意していると告げた。
クールだ。
オレは受け取らなかったけど。

月の行方が気になっていた。
だからこの町に着いて最初にしたことは空を見上げることだった。

もう月は出ていなかった。

今かけているサンボマスターをBGMにして都城に向かったのは2日前のことになる。

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