「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】初日(東京-新大宮)その1-近鉄富田、富田、近鉄四日市、湯の山温泉、伊勢若松、平田町、鈴鹿市、鳥羽、賢島(名古屋線/湯の山線/鈴鹿線/山田線/鳥羽線/志摩線)
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最終更新日:2020/09/10
旅話 2017年
鉄旅日記2017年3月18日
2017・3・18 12:06 近鉄富田(きんてつとみだ)駅(近鉄名古屋線/三岐鉄道三岐線 三重県)
鈴鹿山脈の雪は消えていない。
多くの洲が形成された水郷地帯を過ぎて伊勢の町に着く。
この駅から、かつて足跡を記した西藤原駅へと三岐鉄道が延びている。
場末のJR駅は錆び、広大な構内もまた時代から錆びて、与えられるものもなく放置されている。
どうしようもない斜陽に、どうしようもなく哀愁を感じて立ち尽くす。
そして、例えば海を眺める時のように離れがたい思いにとらわれる。
ただ、ここで起きている事態をオレは歓迎はしていない。
未来の姿を気にかけている。
商店街に位置する近鉄駅には人の姿がある。
四日市でも同じことが起きている。
近鉄とJR。
この地域の利便性、活用性、立地性などを考えると、その勝負は、永遠性を伴う切ない結果を世の中に晒し続けている。
車窓から見る長良川
富田(とみだ)駅(関西本線 三重県)にて
12:20 近鉄四日市(きんてつよっかいち)駅(近鉄名古屋線/近鉄湯の山線 三重県)
かつての公害都市の繁栄を初めて目にしている。
この賑わいは、名古屋を出てから見続けてきた風景の中では異質であり、不意打ちを食らわされたような気になる。
3年前にも、JR駅前から幅の広い道の先、遠くに見えた四日市繁華街。
駅には東京でも流行っているシュークリーム屋も入っている。
北勢人の何たるかを云々する間もなく、大急ぎでビールとフレンチトーストを腹に入れて、湯の山に向かう車中で揺られている。
前方に目を移すと鈴鹿山脈が壁のように塞がっている。
あの山々を越えた先は滋賀県。
2年前に乗った近江鉄道の線路が山並みに沿って敷かれている。
12:58 湯の山温泉(ゆのやまおんせん)駅(近鉄湯の山線 三重県)
この線路沿いの道を往き来したよ。
あまり思い出すこともない遠い過去のような気がする。
新橋で恋をしていた頃だ。
あの旅の最後には豪雨に遭い、湖岸を走り、長浜で想いは綴られた。
あの時代は、もはや現在とつながるいかなる物も持たず、かつて車寅次郎がこの湯の町で3度目の恋をしたことを語るように、今じゃ完全な歴史の一コマになった。
だから懐かしく思う。
駅前風景に変わりはない。
ただひとつ。
随分と小さく感じたよ。
四日市からここに至る途中、甲子園で見かけたことのある菰野という町を通る。
トレーニングウェアに身を包んだ多くの少年少女たちが、気怠げに午後の練習へと降りていった。
あるいはどこかの町で午前の練習を終えて、帰り着いたところなのかもしれない。
オレがあの時分だった頃から30年が経過している。
人生とはまるで冗談だ。
13:49 伊勢若松(いせわかまつ)駅(近鉄名古屋線/近鉄鈴鹿線 三重県)
住宅と畑の真ん中に、何らの必然性を漂わすこともなくターミナル駅がある。
駅構内を移動する姿は多く見られるが、改札の外へと向かう姿はない。
近くを幹線道路が通ることもなく、鈴鹿中心街に鉄路を伸ばすにあたり、最短な場所に駅を設けたというような印象を受ける。
従って、ここ若松に用はなく、ことごとくが鈴鹿に用を持ち、列車に乗っている。
その鈴鹿には現在何がある。
北勢人には、尾張人に見られる見栄を感じることはない。
以前この地域で車を走らせた際にも感じたが、とても親切な人種のようだ。
室町の名門、北畠氏の支配地域として登場する歴史のページ以外、あまり目にすることのない一帯だ。
14:04 平田町(ひらたちょう)駅(近鉄鈴鹿線 三重県)
ロータリーの先に商店街が見える。
規模は大きくないようだ。
ビジネスホテルも見られる。
ここが近鉄鈴鹿線の終着駅。
若松からの客はほとんどがここまで乗ってきた。
鉄路がここで止まったのは、まさか鈴鹿川が邪魔だったからじゃあるまい。
その川向うを関西本線が走っている。
悪いが、ここにいられる時間は3分しか設定できなかった。
14:27 鈴鹿市(すずかし)駅(近鉄鈴鹿線 三重県)
古代に鈴鹿関が置かれた地域は、今じゃサーキット場関連の他に聞くことのない街。
だけどサーキット好きには世界的な街。
古代の鈴鹿関とは関西本線の関宿を指すらしい。
そこには東海道の宿場町の風情が残っていて、かつてあの駅に寄ったからこそ、今に至るまで旅が続いていると言っても過言じゃない、とても大切な記憶がそこにはある。
3月の風は冷たい。
でも冬が終わったことも、同時にこの風は教えている。
だからオレは、この風に対して寒いとこぼしたりはしない。
年老いた男たちが、おそらく酒の出る何かの集まりから解放されて、ぞろぞろとやってきた。
駅に接した小料理屋を見つけて感嘆の声を挙げ、会話には「東京」という単語が聞こえる。
かつて東京にいた思い出話のようだ。
駅前を歩いていた身なりのよくない男が不意にビルの中に消えた。
そこは将棋会館で、中を除くと少年の姿もある。
なるほど。
あれがある一定の周期で天才を出す知的機関の土曜日の姿か。
ただ、あの建物を含めた風景には場末の侘びしさがある。
空きが目立つ周辺の佇まいは想像を外れていない。
市役所がある。
だからここが街中。
その街歩きは10分で終わった。
旧国鉄伊勢線、伊勢鉄道鈴鹿駅は外れに位置していて、高架は黒ずんでいた。
この街が車好きで賑わうのは9月か。
よくは知らないんだ。
さっき追憶した旅でこの駅を探したけど、なぜかその時はこの場所に辿り着けなかった。
そして40年以上前、テレビ放送はなかったけれど、この街で世界の強豪が集まる注目のプロレス興行が打たれ、豪華カードが並んだ。
そのシリーズで唯一客が埋まらなかったと聞いている。
16:30 鳥羽(とば)駅(参宮線/近鉄鳥羽線/近鉄志摩線 三重県)
8分だけここに戻ってきた。
さしたる用もなく、東京から3度鳥羽を訪ねた者はそうはいないことと思う。
伊勢は伊勢神宮、鳥羽は真珠島。
沖には人が暮らす島がいくつか浮かんでいる。
三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台、神島も含まれる。
街は潮にも時代にも錆びているけど、ここに来なきゃ揃わない物があるのだろう。
だからこうして人を集めている。
オレはどこの街でも物質的な物を求めたことはないが、また来たいと思う街だ。
伊勢は桓武平氏発祥の地ということで、最近まで長く「新・平家物語」を愛読していた身として何事かを思いたかったが、どの場所が相応しいのか。
具体的にこの地域が小説の舞台に表れることはなかった。
鳥羽湾景
17:15 賢島(かしこじま)駅(近鉄志摩線 三重県)
ここの記憶は曖昧なままだ。
ここが島だとは実感しづらいが、あの短い橋でつながっていることは事前に地図で見て知っていた。
立派な建物が島のどこからでも見える。
あれが、ドラマ「華麗なる一族」でも使用された志摩観光ホテルなのだろう。
伊勢エビ料理が有名で、去年「サミット」も開催されている。
鳥羽に泊まった何年も前の旅で、わざわざオレはここに寄ったことがる。
経緯は覚えていないが、手っ取り早く海に出たくて選んだ先に近鉄の終着駅がたまたまあって、特急に乗れば大阪まで一本で行けることに感嘆したことは覚えている。
駅前にいられる場所はなかった。
正確には、近鉄駅に入り込んだファミリーマートときれいな待合室があるから、そこでビールでも飲んでりゃいいが、海口を出ても英虞湾は臨めず、空いた時間は宇治山田に持っていくことにした。
名古屋からここまで、近鉄風景は概して平板だった。
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