「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】初日(東京-新大宮)その2-宇治山田、東青山、青山町、名張、大和八木、大和西大寺、新大宮(山田線/大阪線/橿原線/奈良線)
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最終更新日:2020/09/12
旅話 2017年
鉄旅日記2017年3月18日
18:35 宇治山田(うじやまだ)駅(近鉄山田線/近鉄鳥羽線 三重県)
伊勢志摩から、お伊勢さんの街まで戻る。
暗い時分に伊勢にいるのは初めてだ。
ここにいられる時間は18分。
エレガントな夜の駅景を撮って、ビール。
3度目ともなれば、こうしてここにいることもオレにとっては日常で、そんな過ごし方で伊勢を離れることに、いかなる悔いも存在しない。
特別な感情もなく、たんたんとした気持ちでいる。
土産に赤福を買って帰りたいが、明後日どこか別の伊勢の町で。
賞味期限が限られているし、リュックも膨れている。
大阪へ向かう急行車中は寂しいものだが、これが最強神を戴く街の日常。
伊勢神宮が皇室と関係を持つのは、壬申の乱の際に大海人皇子が戦勝を祈願したことに由来するという。
そして伊勢神宮が太陽神を祀っていることから、この国は「倭国」から「日本国」へと改められ、国の象徴ともなった。
19:20 東青山(ひがしあおやま)駅(近鉄大阪線 三重県)
数分の停車。
改札を出て驚いた。
駅灯以外に駅前を照らす照明はなく、真正な闇の中に紛れた。
夜の利用者はいないのだろうか。
かろうじて駅前に小丘公園があることが判別できた。
改札口に人の姿はなく、乗降客もない。
19:38 青山町(あおやまちょう)駅(近鉄大阪線 三重県)
東青山を出ると私鉄線には珍しく長大なトンネルをくぐった。
伊勢と伊賀の国境を通過したのだろう。
ここは伊賀になるのか。
国全体が峻険な山河のような神秘的な一帯には、現代には消えてなくなりつつある太古からの闇がある。
数分の停車。
ここには降りる客が散見され、それぞれを待つ迎えの車が放つ光が、深い闇に対して拳一つ分の抵抗を試みている。
東京にいたんじゃ理解できないが、闇とは巨大な存在なのだと、オレは人生で初めて知った気がする。
とても敬虔な気持ちでいる。
19:56 名張(なばり)駅(近鉄大阪線 三重県)
オレの足跡が微かに残っていた名張。
あれから気にはしていたよ。
さっき鈴鹿あたりで思い出した、数年前のある日の事。
終着駅をいくつか辿り、伊勢奥津からここ名張に出て、信楽へと抜けて初夏のスコールに打たれたあの日。
翌日も同じような雨に打たれた。
確かあの日は、ロータリーに車を止めることが躊躇われて、駅舎が見える地点まで移動して、名張の印象を綴ったんだ。
オレが新橋から姿を消して丸8年が経ち、気づけば昔の話になった。
飲み屋の灯がきれいだった名張駅前。
昼と夜の違いはあるけど、立地から何から記憶のままだった。
名張饅頭にもちょっと惹かれた。
あと5分ここにいられれば、購入を真剣に考えたかもしれない。
飲み屋の前から関西弁が聞こえ、口の利き方を知らない愚鈍そうな青年が、自動改札機を通らない切符を入れて詰まらせて、駅長を困らせていた。
20:37 大和八木(やまとやぎ)駅(近鉄大阪線/近鉄橿原線 奈良県)
この街の明かりが気に入った。
名店街の灯を気に入った。
大阪線と橿原線が十字に交差する構造が気に入った。
繁華街があるターミナル駅に着いたことが、
まだこんな街があることを知らずにいたことが、
嬉しかった。
奈良県に入って、記憶している奈良駅前の灯よりもあるいは盛大ではないかと錯覚する街の明かりの中で、オレは浮かれたよ。
息子二人と手をつないだまだ若い父親とすれ違い、この身を重ねてみる。
こんなに好きにやれているんだ。
50歳になるまであと2年だが、まだ全然イケるだろう。
ここではもう少し歩きたかったが、たぶんこれでサヨナラだ。
旅はまだ続くが、この駅に再訪することは約束できない。
だから「またね」という言葉は浮かんでこなかった。
21:05 大和西大寺(やまとさいだいじ)駅(近鉄橿原線/近鉄京都線/近鉄奈良線 奈良県)
こうして近鉄のターミナル駅の雑踏に入ると、未踏の地にいることが実感できる。
JRの鉄路から抜け出してみたら、日本が広くなった。
八木の明かりはここにはなく、特徴のない十字路だった。
でも京都奈良大阪につながる十字路だ。
人の多さははるかに八木に勝る。
奈良は都会とは言えないが、人の流れは、近くに多くの人が暮らす街があることを語っている。
22:13 新大宮日の出屋101
伊勢志摩への道、近鉄大阪線の道。
オレは一体何を見たかったのか。
見たかったものをそこに見たのか。
分からない。
そういうものだ。
そしてそれでいい。
オレの想像を凌駕するものをそこに見ていたら、自分の想像力の限界を嘆かなきゃならない。
ただ人生と同じように矛盾もあり、八木みたいな街に出会うとうれしい。
あの街は想像以上だったから。
ここ新大宮は、どうやら奈良駅界隈からは独立した飲み屋文化を持つ地帯らしい。
奈良駅から続く三条通りの灯を知っているオレとしては、ここ新大宮の明かりに驚かざるをえない。
街、そして駅。
好奇心と知識欲を刺激してやまない。
地図を見たら、西大寺からこのあたりにかけて平城宮跡を発見した。
「壬申の乱」は吉野と大津朝廷との現代的な意味では局地戦だが、太古の歴史が奈良県全土を包んでいる。
そんな一帯は他に例を見ない。
さらにその一帯は古代遺跡のように風化に任せ、かつて時代を象徴した大和の国は物語に登場することも少なく、人類の記憶からも遠ざかりつつあるが、オレの中では今、一大ブームを迎えている。
黒岩重吾さんがかつて描いた王家の骨肉話を、興味深く読み進んでいるところだ。
飛鳥から吉野へ。
さらに金剛山から笠置へ。
奇しくも今回は古代中世の王家の戦いの歴史を辿る旅となる。
希望は絶望を凌ぐ。
そうあったからこそ人類の繁栄があった。
ただしその対極は紙の表裏関係と同じで、ちょっとした風が吹けば簡単に裏返る。
そんな話を読み進んでいる。
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