「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】初日(東京-新大宮)その2-宇治山田、東青山、青山町、名張、大和八木、大和西大寺、新大宮(山田線/大阪線/橿原線/奈良線)
鉄旅日記2017年3月18日・・・宇治山田駅、東青山駅、青山町駅、名張駅、大和八木駅、大和西大寺駅、新大宮駅(山田線/大阪線/橿原線/奈良線)
18:35 宇治山田(うじやまだ)駅(近鉄山田線/近鉄鳥羽線 三重県)
伊勢志摩から、お伊勢さんの街まで戻る。
暗い時分に伊勢にいるのは初めてだ。
ここにいられる時間は18分。
エレガントな夜の駅景を撮って、ビール。
3度目ともなれば、こうしてここにいることもオレにとっては日常で、そんな過ごし方で伊勢を離れることに、いかなる悔いも存在しない。
特別な感情もなく、たんたんとした気持ちでいる。
土産に赤福を買って帰りたいが、明後日どこか別の伊勢の町で。
賞味期限が限られているし、リュックも膨れている。
大阪へ向かう急行車中は寂しいものだが、これが最強神を戴く街の日常。
伊勢神宮が皇室と関係を持つのは、壬申の乱の際に大海人皇子が戦勝を祈願したことに由来するという。
そして伊勢神宮が太陽神を祀っていることから、この国は「倭国」から「日本国」へと改められ、国の象徴ともなった。
19:20 東青山(ひがしあおやま)駅(近鉄大阪線 三重県)
数分の停車。
改札を出て驚いた。
駅灯以外に駅前を照らす照明はなく、真正な闇の中に紛れた。
夜の利用者はいないのだろうか。
かろうじて駅前に小丘公園があることが判別できた。
改札口に人の姿はなく、乗降客もない。
19:38 青山町(あおやまちょう)駅(近鉄大阪線 三重県)
東青山を出ると私鉄線には珍しく長大なトンネルをくぐった。
伊勢と伊賀の国境を通過したのだろう。
ここは伊賀になるのか。
国全体が峻険な山河のような神秘的な一帯には、現代には消えてなくなりつつある太古からの闇がある。
数分の停車。
ここには降りる客が散見され、それぞれを待つ迎えの車が放つ光が、深い闇に対して拳一つ分の抵抗を試みている。
東京にいたんじゃ理解できないが、闇とは巨大な存在なのだと、オレは人生で初めて知った気がする。
とても敬虔な気持ちでいる。
19:56 名張(なばり)駅(近鉄大阪線 三重県)
オレの足跡が微かに残っていた名張。
あれから気にはしていたよ。
さっき鈴鹿あたりで思い出した、数年前のある日の事。
終着駅をいくつか辿り、伊勢奥津からここ名張に出て、信楽へと抜けて初夏のスコールに打たれたあの日。
翌日も同じような雨に打たれた。
確かあの日は、ロータリーに車を止めることが躊躇われて、駅舎が見える地点まで移動して、名張の印象を綴ったんだ。
オレが新橋から姿を消して丸8年が経ち、気づけば昔の話になった。
飲み屋の灯がきれいだった名張駅前。
昼と夜の違いはあるけど、立地から何から記憶のままだった。
名張饅頭にもちょっと惹かれた。
あと5分ここにいられれば、購入を真剣に考えたかもしれない。
飲み屋の前から関西弁が聞こえ、口の利き方を知らない愚鈍そうな青年が、自動改札機を通らない切符を入れて詰まらせて、駅長を困らせていた。
20:37 大和八木(やまとやぎ)駅(近鉄大阪線/近鉄橿原線 奈良県)
この街の明かりが気に入った。
名店街の灯を気に入った。
大阪線と橿原線が十字に交差する構造が気に入った。
繁華街があるターミナル駅に着いたことが、
まだこんな街があることを知らずにいたことが、
嬉しかった。
奈良県に入って、記憶している奈良駅前の灯よりもあるいは盛大ではないかと錯覚する街の明かりの中で、オレは浮かれたよ。
息子二人と手をつないだまだ若い父親とすれ違い、この身を重ねてみる。
こんなに好きにやれているんだ。
50歳になるまであと2年だが、まだ全然イケるだろう。
ここではもう少し歩きたかったが、たぶんこれでサヨナラだ。
旅はまだ続くが、この駅に再訪することは約束できない。
だから「またね」という言葉は浮かんでこなかった。
21:05 大和西大寺(やまとさいだいじ)駅(近鉄橿原線/近鉄京都線/近鉄奈良線 奈良県)
こうして近鉄のターミナル駅の雑踏に入ると、未踏の地にいることが実感できる。
JRの鉄路から抜け出してみたら、日本が広くなった。
八木の明かりはここにはなく、特徴のない十字路だった。
でも京都奈良大阪につながる十字路だ。
人の多さははるかに八木に勝る。
奈良は都会とは言えないが、人の流れは、近くに多くの人が暮らす街があることを語っている。
22:13 新大宮日の出屋101
伊勢志摩への道、近鉄大阪線の道。
オレは一体何を見たかったのか。
見たかったものをそこに見たのか。
分からない。
そういうものだ。
そしてそれでいい。
オレの想像を凌駕するものをそこに見ていたら、自分の想像力の限界を嘆かなきゃならない。
ただ人生と同じように矛盾もあり、八木みたいな街に出会うとうれしい。
あの街は想像以上だったから。
ここ新大宮は、どうやら奈良駅界隈からは独立した飲み屋文化を持つ地帯らしい。
奈良駅から続く三条通りの灯を知っているオレとしては、ここ新大宮の明かりに驚かざるをえない。
街、そして駅。
好奇心と知識欲を刺激してやまない。
地図を見たら、西大寺からこのあたりにかけて平城宮跡を発見した。
「壬申の乱」は吉野と大津朝廷との現代的な意味では局地戦だが、太古の歴史が奈良県全土を包んでいる。
そんな一帯は他に例を見ない。
さらにその一帯は古代遺跡のように風化に任せ、かつて時代を象徴した大和の国は物語に登場することも少なく、人類の記憶からも遠ざかりつつあるが、オレの中では今、一大ブームを迎えている。
黒岩重吾さんがかつて描いた王家の骨肉話を、興味深く読み進んでいるところだ。
飛鳥から吉野へ。
さらに金剛山から笠置へ。
奇しくも今回は古代中世の王家の戦いの歴史を辿る旅となる。
希望は絶望を凌ぐ。
そうあったからこそ人類の繁栄があった。
ただしその対極は紙の表裏関係と同じで、ちょっとした風が吹けば簡単に裏返る。
そんな話を読み進んでいる。
関連記事
-
「鉄旅日記」2012年夏【青春18きっぷで、北海道途中下車旅】3日目(室蘭-岩見沢)-室蘭、苫小牧、鵡川、静内、様似、追分、夕張、新夕張、清水沢(室蘭支線、室蘭本線、日高本線、石勝線、夕張支線)
鉄旅日記2012年8月13日・・・室蘭駅、苫小牧駅、鵡川駅、静内駅、様似駅、追分駅、夕張駅、新夕張駅
-
「車旅日記」2005年冬【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】最終日(人吉-天草-熊本空港)走行距離240㎞ その1-人吉駅、一勝地駅、球泉洞駅、佐敷駅、上田浦駅、千丁駅、有佐駅、不知火‐道の駅
車旅日記2005年2月13日 2005・2・13 9:01 人吉駅 町に濃い霧が立ち込めている。
-
「車旅日記」1996年夏【再び北を目指した夏。不慮の事故に遭い、打ち切らざるを得なくなったのでございます。】最終日 事故から帰京を振り返って。
車旅日記1996年8月15日 1996・8・15 東京 望郷の思いとは別に昨日家に帰り着いた。
-
「JR東海&16私鉄乗り鉄☆たびきっぷ」でめぐる東海旅】初日(東京-岳南江尾-豊橋-三河田原-岡崎-尾張瀬戸-勝川-枇杷島-桑名)その4-新瀬戸、瀬戸市、高蔵寺、新守山、勝川、枇杷島、蟹江、桑名(愛知環状鉄道/中央本線/東海交通事業常北線/東海道本線/関西本線)
鉄旅日記2018年9月15日・・・新瀬戸駅、瀬戸市駅、高蔵寺駅、新守山駅、勝川駅、枇杷島駅、蟹江駅、
-
「鉄旅日記」2017年夏【私鉄王国で過ごす夏】2日目(大垣-姫路)その2-新今宮、天下茶屋、堺東、三国ヶ丘、上野芝、百舌鳥、百舌鳥八幡、金剛、千早口、高野山、極楽橋、新今宮、大阪、姫路(南海本線/南海高野線/阪和線/高野山ケーブル/大阪環状線/山陽本線)
鉄旅日記2017年8月12日・・・新今宮駅、天下茶屋駅、堺東駅、三国ヶ丘駅、上野芝駅、百舌鳥駅、百舌
-
「鉄旅日記」2012年春【青春18きっぷで、銚子へ、房総へ。】その2-猿田、旭、八日市場、八街、成東、本納、茂原、千倉、佐貫町、姉ヶ崎、市川(総武本線、東金線、内房線、外房線)
鉄旅日記2012年3月12日その2・・・猿田駅、旭駅、八日市場駅、八街駅、成東駅、本納駅、茂原駅、千
-
「鉄旅日記」2011年夏【みちのくひとり旅】4日目(鹿角花輪-花巻)-鹿角花輪、荒屋新町、盛岡、北上、和賀仙人、横手、大曲、角館、田沢湖、雫石、小岩井、花巻空港、新花巻、花巻(花輪線/東北本線/北上線/田沢湖線/釜石線)
鉄旅日記2011年8月16日・・・鹿角花輪駅、荒屋新町駅、盛岡駅、北上駅、和賀仙人駅、横手駅、大曲駅
-
「鉄旅日記」2016年春【東日本大震災被災地へ】最終日(水沢-東京)その2-気仙沼、一ノ関、小牛田、大河原、福島、安積永盛、久喜(大船渡線、東北本線)
鉄旅日記2016年3月6日その2・・・気仙沼駅、一ノ関駅、小牛田駅、大河原駅、福島駅、安積永盛駅、久
-
「鉄旅日記」2013年如月【休日おでかけパスで、上総下総途中下車旅】その2-久留里、上総亀山、横田、木更津、巌根、袖ヶ浦、長浦、姉ヶ崎、八幡宿、浜野(久留里線、外房線)
鉄旅日記2013年2月17日その2・・・久留里駅、上総亀山駅、横田駅、木更津駅、巌根駅、袖ヶ浦駅、長
-
「鉄旅日記」2007年如月【初日天王寺、2日目奈良。宿泊地だけを決めて、心のままに移動した記録でございます。】最終日(奈良-東京)-奈良、亀山、桑名、弥冨、富士、沼津(関西本線/東海道本線)
鉄旅日記2007年2月12日・・・奈良駅、亀山駅、桑名駅、弥冨駅、富士駅、沼津駅(関西本線/東海道本