「鉄旅日記」2013年春【青春18きっぷで、甲斐駿河途中下車旅】その2-源道寺、入山瀬、下部温泉、塩之沢、甲斐常葉、市川大門、甲府、新府、穴山、東山梨、東所沢(身延線、中央本線、武蔵野線)
鉄旅日記2013年3月3日その2・・・源道寺駅、入山瀬駅、下部温泉駅、塩之沢駅、甲斐常葉駅、市川大門駅、甲府駅、新府駅、穴山駅、東山梨駅、東所沢駅(身延線、中央本線、武蔵野線)
12:23 源道寺(げんどうじ)駅(身延線 静岡県)
ここらあたりじゃもう春だ。
五分咲きというところだが駅横ではもう花が開いている。
こうして立っていても寒いという感覚はない。
さっきから駅舎もなく、どこにも行き場のない駅で次の列車がくるのを待っている。
何気なく線路を見つめたら、いつからそうなっていたのか気づかなかったけど、複線になっていた。

12:52 入山瀬(いりやませ)駅(身延線 静岡県)
まだ富士の懐をうろついているが、やっぱり今日はダメだな。
どうあっても富士山はオレの前には現れないらしい。
雲がとれる気配はなく、逆に暗くなってきた。
SL文庫を見に行って公園横の廃屋を写真に収める。
オレの目の前にマスクをした駿河娘が二人並んで座っている。
目元から察すると二人とも美人に違いない。
富士周辺が南米系外国人の入植地であることを覗わせる者も二人乗り合わせている。
ここから甲府方面に戻る。



15:31 下部温泉(しもべおんせん)駅(身延線 山梨県)
信玄公隠し湯には大温泉郷が形成されていた。
駅を降りて曲がりくねった道を上がっていくとそれはあった。
観光用ポスターに採用されていた場所で写真を撮り、人気の絶えた15:00の温泉町を後にした。
中心街にいく途中に、かつて料理屋が並んでいた一角があった。
今は廃墟となっている。
随分と時代が過ぎているようだ。
人が集まるべき場所で、人の姿を見かけない異様さに村上春樹さんの「1Q84」に登場する「猫の町」を思った。
足湯がある下部川沿いの駐車場で休み、駅に戻る橋の上で、さっきの特急列車に乗ってきたリュックを背負う若い女性と擦れ違う。
喜びに満ちた旅人。そんな感じのステキな女性だった。
待ってる列車がこない。
身延線はそういう事情で動いているらしい。



下部温泉温泉街にて



16:12 塩之沢(しおのさわ)駅(身延線 山梨県)
富士宮方面に2駅戻る。
桜の老樹が聳える駅。
今年も開花が待ち遠しい。
列車がやってくる音が聞こえる。
随分と人の手で削られた富士川とゆばと温泉の看板を記憶する。
それだけだけど、田舎の小径を行きつ戻りつ「悪くねえな」とつぶやいた。
久遠寺をはじめこのあたりには神社仏閣がひしめき、本栖湖が近い。

16:30 甲斐常葉(かいときわ)駅(身延線 山梨県)
小さな川を渡った先にごく小さな町が見えた。
駅を降りて最初に見えた風景の中で好ましいものの最右翼に位置するものだ。
あの先に行ってみたい。
川辺にはブルドーザーが置かれていた。
それは最も嫌いな部類に属する風景だ。

去年も降りた市川大門(いちかわだいもん)駅(身延線 山梨県)にて

甲府(こうふ)駅(中央本線/身延線)で乗り換え、松本方面へ。

18:19 新府(しんぷ)駅(中央本線 山梨県)
武田勝頼公ゆかりの新府中は闇の中。
駅舎もなく、ほんの僅かな上屋はこんな風が雨を運べば役割を果たせない。
何度も通り過ぎる度に、降りてもきっと何もないだろうと予想していたとおりの駅で、まるで当然のようにこの駅から乗るのはオレひとり。
降りるのもオレを除けばひとりだった。
城跡に向けて坂道を上がったけど、とても行き着かない。
振り返った先、韮崎の夜景がいつものように美しい。
戦国時代に無敵を誇った甲州武田軍団が滅亡へと至る行程は信じがたいほどの呆気なさだった。
織田軍の侵攻が始まると信州伊那谷に敷かれていた重厚な防御線は、高遠城を守る仁科盛信を除いて戦わぬ内に城を焼いて潰え去り、ここ新府も何らの役割も果たさずに自軍の手によって焼かれた。
夢の跡はたいてい儚く、形として残っているものは無情を伝える。

18:44 穴山(あなやま)駅(中央本線 山梨県)
そろそろ寒くなってきた。
新府に続き穴山も予想通りの駅だ。
深い闇の中でログハウス風の駅舎がポツネンと光っている。
駅を出て少し歩くとドンツキにあたり能見城跡がある。
穴山氏を紹介する文に、武田家を裏切った記述がおそらく意図的に省かれていた。
武田家滅亡に親族衆の最大の実力者、穴山梅雪の徳川家への寝返りが大きな影響を与えている。
甲斐の国人は動揺し、櫛の歯が欠けるように武田勝頼の周りには人がいなくなり、天目山での最期の時には守る者は100人もいない。
穴山梅雪もまた同じ年に本能寺の変の混乱に巻き込まれ悲惨な最後を遂げている。
人を裏切ると、人からどう見られ、どんな末路が待っているのかをあの時代は多くの例を挙げて訴えている。
東京方面へ戻る。

19:42 東山梨(ひがしやまなし)駅(中央本線 山梨県)
こんな夜に、こんなにも何もない駅に降り立つと途方に暮れるどころではない。
周囲に赤提灯が一軒だけの駅舎もない駅だった。
何をすることもできず、たまたまやってきた下り列車で山梨市へと一駅戻る。

22:21 東所沢(ひがしところざわ)駅(武蔵野線 埼玉県)
東京方面に戻り、西国分寺で武蔵野線に乗り換える。
西武池袋線に乗り換える新秋津をひとつ行き過ぎる。
高架駅の西国分寺を出ると武蔵野線は徐々に地上へと降りて行き、やがて空堀のようなところを走る。
たぶんここまでが空堀区間だろう。
地上へと階段で上がると駅とその周辺はひとつ隣の新秋津に限りなく似ている。
さらに灯の数を減らしたような感じだ。
築地直送を謳う居酒屋が煌々とした光を放ち、適当な相手は思い浮かばないが、「じゃあ次は東所沢で一杯やるかっ」という手もないことはないなと思う。
オレの家も近い。

関連記事
-
-
「鉄旅日記」2014年春 初日(東京-紀伊勝浦)その1-熱田、尾頭橋、八田、四日市、亀山、一身田、津、高茶屋、松阪(東海道本線、関西本線、紀勢本線) 【青春18きっぷで、紀伊半島へ】
鉄旅日記2014年3月8日その1・・・熱田駅、尾頭橋駅、八田駅、四日市駅、亀山駅、一身田駅、津駅、高
-
-
「鉄旅日記」2009年秋 3日目(大分-佐賀)その2-大牟田、銀水、西鉄銀水、瀬高、荒木、久留米、鳥栖、佐賀(鹿児島本線/長崎本線) 【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】
鉄旅日記2009年9月20日・・・大牟田駅、銀水駅、西鉄銀水駅、瀬高駅、荒木駅、久留米駅、鳥栖駅、佐
-
-
「車旅日記」2005年冬 2日目(都城-人吉)走行距離284㎞ その2-伊集院駅、串木野駅、川内駅、薩摩高城駅、大隅横川駅、吉松駅、人吉駅前ホテル 【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】
車旅日記2005年2月12日・・・伊集院駅、串木野駅、川内駅、薩摩高城駅、大隅横川駅、吉松駅、人吉駅
-
-
「鉄旅日記」2020年初秋 2日目(高松)その1 ‐瀬戸大橋遠景、丸亀城、少林寺、津嶋神社参道、津島ノ宮駅、詫間海軍航空隊跡、箱浦(浦嶋伝説の地)、父母ヶ浜 【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】
車旅日記2020年9月20日・・・瀬戸大橋遠景、丸亀城、少林寺、津嶋神社参道、津島ノ宮駅、詫間海軍
-
-
「鉄旅日記」2013年夏 2日目(徳山-南宮崎)その2-津久見、日代、浅海井、狩生、佐伯、直見、宗太郎、南延岡、南日向、東都農、佐土原、南宮崎(日豊本線) 【青春18きっぷで、鹿児島県志布志へ】
鉄旅日記2013年8月11日その2・・・津久見駅、日代駅、浅海井駅、狩生駅、佐伯駅、直見駅、宗太郎駅
-
-
「鉄旅日記」2021年春 最終日(松本-東京)その1 ‐松本、一日市場、信濃大町、信濃木崎(大糸線) 【週末パスで信濃へ。妙高高原駅で引き返し、松本の友人を訪ね、大糸線を旅して思い出の白馬へ。先の旅から一週間後のことでございました。】
鉄旅日記2021年4月25日・・・松本駅、一日市場駅、信濃大町駅、信濃木崎駅(大糸線) 20
-
-
「鉄旅日記」2013年夏 最終日(岩国-東京)-岩国、海田市、岡山、西大寺、播州赤穂、山科、南草津、豊橋、愛野、菊川、熱海(山陽本線、赤穂線、東海道本線) 【青春18きっぷで、鹿児島県志布志へ】
鉄旅日記2013年8月14日・・・岩国駅、海田市駅、岡山駅、西大寺駅、播州赤穂駅、山科駅、南草津駅、
-
-
「鉄旅日記」2020年晩秋 2日目(砺波-武生)その4‐七尾、金丸、宝達、宇野気、本津幡(七尾線) 【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】
鉄旅日記2020年11月22日・・・七尾駅、金丸駅、宝達駅、宇野気駅、本津幡駅(七尾線) 1
-
-
「鉄旅日記」2012年春 その1-新子安、石川町、山手、磯子、根岸、大磯、二宮、鴨宮、早川、根府川、伊東、熱海、函南、東田子の浦(京浜東北線、根岸線、東海道本線、伊東線) 【青春18きっぷで、相模・駿河・甲斐途中下車旅】
鉄旅日記2012年3月20日その1・・・新子安駅、石川町駅、山手駅、磯子駅、根岸駅、大磯駅、二宮駅、
-
-
「車旅日記」2000年夏Part.2【友を訪ねて備後福山へ。長門宇部へ。2000㎞に及ぶ長大な旅路でございました。】最終日(東京町田-東京葛飾)
車旅日記2000年8月16日 2000・8・16 23:09 東京葛飾金町 旅が終わってほっとして
