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「車旅日記」2005年冬 2日目(都城-人吉)走行距離284㎞ その2-伊集院駅、串木野駅、川内駅、薩摩高城駅、大隅横川駅、吉松駅、人吉駅前ホテル 【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】

公開日: : 最終更新日:2025/05/24 旅話, 旅話 2005年

車旅日記2005年2月12日・・・伊集院駅、串木野駅、川内駅、薩摩高城駅、大隅横川駅、吉松駅、人吉駅前ホテル

14:11 伊集院駅(2月11日の熊本空港より385㎞)
桜島フェリー乗場で迷い、市街地を西へ。
山形屋、天文館。
去年の8月以来だが、随分と早い再会になった。

やがて鹿児島中央駅を通り過ぎる。
巨大な観覧車が回り、昨年9月開業と聞いていたが、すべてが軌道に乗っているようで、市電通りを含めてたいした賑わいだった。

一瞬城山に目をやり、寄らずにいることで生じるであろう後悔を消した。
鹿児島中央駅に対しても同じことだ。
必ずまたくるから。

24号県道を東シナ海へ。
曖昧な道路標示に迷い、上がった丘から最後にもう一度桜島を拝む。
山頂には再び雲がかかっていた。

友の家から見える桜島の眺めもきっとこんな感じだろう。
彼の生家は高台の吉野町になる。

特徴のない道が続いている。
日豊本線は鹿児島中央で終わり、ここは鹿児島本線の停車場。

駅前には馬上の島津義弘公の銅像があり、時計は兜の形をしている。
朝鮮半島の四川で、中朝軍20万人の大軍を僅か1万人の軍勢で破り、関ヶ原合戦では史上に類を見ない敵中突破で鹿児島への帰還を果たした英雄。
この二つの事実は、死地からの生還をも意味している。

駅舎は随分古く、コンビニと理髪店が入居していて、店先というか、つまり駅前に何枚もタオルが干されている。
滅多に見ることのない牧歌的な光景だ。

薩摩娘は美人が多く、坊主頭の妙な男がタクシー乗場前に腰かけ、ちらほらとだが駅にやってくる人々の姿がある。

時刻表を見ると都城行の特急があり、県道に面した駅前の角には由緒を持つであろう饅頭屋がある。

14:56 串木野駅(2月11日の熊本空港より403㎞)
県道から3号国道へ。
東市来、湯之元、市来といった町を過ぎていく。

曇った空の下の町も曇っていた。
鹿児島市内まで50㎞弱だが、それ以上の距離を感じさせる町並。

ここ串木野駅は、市制が敷かれている町の駅にしては質素で、白壁のペンキは剥がれ落ちている。

待ち人はいる。
彼等は列車の発車時刻を知ってそこにいるのか、知らずにそこにいるのか聞いてみたい。
いずれにしても退屈気に座っている。

駅前には最上階にカラオケ施設を置いたステーションホテルが建ち、市内の車通りは多い。
通り過ぎた中古車店では自由の女神を見かけた。

15:36 川内駅(2月11日の熊本空港より416㎞)
川内スーパーアリーナともいうべき巨大施設が建っていて、今日は祭なのか大勢集まってわいわいやっている。

新幹線駅として生まれ変わった鹿児島第二の都市、川内。
真っ直ぐに延びる新幹線の線路に見入っている人々を見かけた。

このあたりには鹿児島を一歩も出たことのない人もいるだろう。

去年の夏に立ち寄った出水では、人々は巨大な新幹線駅の出現に戸惑い恐れるように遠巻きにしているような印象を持ったが、川内はもともと人も多いのだろう。
人も車も流れは絶えない。
大きな街に着いたよ。

東シナ海を見てから人吉へ向かおう。

2013年8月13日撮影

16:05 薩摩高城駅(2月11日の熊本空港より430㎞)
串木野と川内で少しイヤな目に遭って、くさくさしたけど水に流す。

駅舎もなく駅員もいないこの駅の跨線橋から東シナ海を眺めた。

これ以上は近寄れないが、こうするためだけにここまで足を延ばしたんだ。
これから川内へ引き返して人吉へ向かう。

3号国道を外れたこの人気のない場所で。
オレより高い位置から共同墓地が東シナ海を見下ろし、視界を遮っている岩場にはカラスが群がり盛んに鳴いている。

しばらく海に体を向けていた。
潮の香りが身に染みついた。

17:44 大隅横川駅(2月11日の熊本空港より496㎞)
川内川に沿った平板な景色。
薩摩路に工事が続く。

やがて日が差してきた。
途中の宮之城は川内川に抱かれた豊かな町だった。
かつて列車が走っていたことも頷ける規模の町で、アーケード街が交わる中心街は賑やかで、川内川はやはり豊かだった。

川内から薩摩大口までつながっていた宮之城線。
薩摩大口は、水俣から肥薩線の栗野までつながる山野線も通していたターミナル駅だったが、宮之城線、山野線と運命を共にしている。

かつての駅名はバス停にその名をとどめていた。
温泉地を抜けると薩摩町。
県道に入り丸岡展望台の表示から長い坂を下る。

そしてこの旅最初の驚愕がやってきた。
遥かな霧島連山をそこで目にしたんだ。
穏やかな日差しに照らされて遠くに望めたその一帯はまさしく神域だった。
桜島にも再会できて、もう十分だと思っていたが、これで心置きなく鹿児島を離れることができる。

今オレがいる場所には歴史的建築物がある。
駅開業100周年の記念碑があるが、この駅舎はおそらく開業当時の物だろう。
駅員の姿はなく、待合室は閉め切られているが、構内はきれいに清掃されている。

このような駅がいくつも残るのが肥薩線で、全国の鉄道ファンは黙っていないらしい。

夜になれば、この駅には小さな明かりがつく。
その照明器具が葡萄の房のようにいくつも下りている。

いつまでもこのままでいてほしいと思う。

18:16 吉松駅(2月11日の熊本空港より511㎞)
川内川を渡ると吉松駅。
クリスマスには地上120メートルの巨大ツリーが現れるという。

駅舎は町役場といった風情だが、奥に展示されているSLが、ここがターミナル駅であり、鉄道基地であることを想像させる。

SLの脇には客車も置かれている。
いい季節になったらビヤ・レストランにでもなるのだろうか。

駅を出て正面右手には栗野岳。
広大な山域は北薩の雄大さを物語る。

鹿児島ではよく遊んだ。
満足して国境を越えられるよ。

2013年8月12日撮影

22:48 人吉駅前ホテル(2月11日の熊本空港より554㎞)
繁華な明かりが溢れていた京町温泉街の手前で完全な夜になった。
えびの高原は闇に消え入りそうだったが、かろうじて残った空の明かりの下で、オレの目には輝いて見えた。

人吉街道へ。
ループ道に灯が点っている。
その光景を下界から見上げ、峠道へ。

さっきまでいた下界の明かりは実力以上の存在感を見せて旅人の気持ちを和らげる。
「また来いよ」。
そう言われている気がしないでもない。

鹿児島で落とすべき金は結局宮崎で落とした。
あれは縁だろう。

人吉駅前にいる。
城を模した時計台は最終列車が去った後も下からの明かりに照らされ、ここが人吉なのだと胸を張っている。

最終は八代行20:40。
この駅を終点として到着する列車はその先も数本あるのだろう。
数人が改札口から出てくると俄かに駅前の車通りが増した。
ただ、静まるのにたいした時間は要しないだろう。

急流球磨川が流れる人吉。
温泉場の風情は色濃く、城下町としての顔も併せ持つ。

繁華街は駅から徒歩5、6分のところに形成されている。
スナック以外は閉まっている店が多いが、開いている店からは酔客の大きな声が漏れてくる。

オレが入ったのはビヤ・レストラン。
個室に通されて読みかけのページを捲った。
注文した料理はどれも美味く、量も多い。
これが東京が持たない実力。
ビールを2杯に出羽の酒。
つまみを3品。

オレのようにひとりでやってくる客はいない。
どこの町でもたいていそうだ。

車寅次郎も見知らぬ町で寂しい思いをしたこともあるだろう。
だからきっと同じようなさすらい人の松岡リリーとは気が合った。

宮之城あたりから晴れ出した空はそのままに、ここ人吉で素晴らしい星空を提供した。
立ち止まって空を見上げたオレを急ぎ足で抜かしていった女性がいた。
仕方のない話だ。
その女性が過ぎ去ってからあらためて見上げる。

昨日の北斗七星を取り巻く星々。
美しい。
この旅の印象を人に尋ねられることがあるのなら、気恥ずかしいがこう答えるだろう。

星がきれいだったよ。

熊本八代から撤退した西郷軍が踏みとどまった人吉。
この国最後の大規模な内戦の記憶がここには残る。
峠を下りたところに古戦場の表示を見た。

人吉にはお城もある。
東京に帰ったら読まないといけない本が増えた。

さっき到着した列車から人が降りて、駅が暗くなる。
あの時計台のライトアップも消された。
その駅前にタクシーが2台。
少ないが、人が集まる町として現在も生きている。

この町を気に入っている。
朝がきたらまた湯に浸かって、下の土産物屋ですべてを済ます。

熊本はさすがに焼酎の国。
コンビニでは焼酎の水割りが売られている。
これがまた美味い。

そして窓辺のこの場所は寒い。
南国の九州で吐く息が白いのを見て、わけもなく面白いと思っている。

駅前にいたタクシーが消えた。
これでこの夜も終わりだよ。

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