*

「鉄旅日記」2016年春【東日本大震災被災地へ】初日(東京-水沢)その1-郡山、杉田、五百川、高城町、矢本、野蒜、陸前赤井、石巻、女川(東北本線/仙石線/石巻線)

公開日: : 最終更新日:2024/05/27 旅話, 旅話 2016年

鉄旅日記2016年3月5日その1・・・郡山駅、杉田駅、五百川駅、高城町駅、矢本駅、野蒜駅、陸前赤井駅、石巻駅、女川駅(東北本線/仙石線/石巻線)

2016・3・5 9:22 郡山(こおりやま)駅(東北新幹線/東北本線/磐越東線/磐越西線/水郡線 福島県)
宇都宮は寒く、襟元を固めた。

寒々とした関東平野の果てに山並みが見えると、あれは日光かと思い、一際目立つのが男体山かと思い巡る。
たぶん間違いないだろう。

鬼怒川はどこで渡ったのだったか。
荒々しい面相は鬼怒川温泉周辺と変わらない。

かつての余部鉄橋のような鉄骨橋の存在に驚嘆し、鉄路は北へ伸び、町並に「みちのく」が現れてくる。

白河城は駅の目の前に観光天守閣を聳えさせ、観光地然としていた。

須賀川の家並みは美しく、所縁の顔が浮かぶ。

2週間後、ここ郡山で、友人Eさんとの再会を提案しているが、実現するだろうか。
彼は、まるで奇跡のような善人で、5年前には地元福島で起きた原発事故のことを、何の義理もないのに、たんに自身が福島県民という理由から、オレや放射能が飛散した地域に暮らす人々に対して詫びていた。

久々にアーケード街を歩く。
記憶は薄れ、彼やもう一人の友人と飲みに行った店「モルツ」はなくなっていた。

旅立ちを前にして、最愛の存在と離れる罪や悔い、不安、様々な心配など、ネガティブな要素が身中を乱したが、昨日の夕方クルマから降りたオレに吹きつけた風がそういったものを一掃し、最高の旅になる予感を運んでくれた。
春風っていうのは、そうじゃなきゃいけないよ。

今は後悔もなければ寂しさもない。

10:00 杉田(すぎた)駅(東北本線 福島県)
小高い場所に卍を描いた光恩寺がある。
あそこまで上がれば背後の雪山がより鮮明に見えるだろうに。

名山はたいてい不意に姿を見せる。
雪を被っていれば幻のような現れ方をする。
とっさの反応は、「あれっ?富士山?」!
仰天したよ。
馬鹿な話だけれど。
寝ぼけていたとしか思えない。
あれは、安達太良山なのだろうか。

この国の景色に対するオレの知識は、未熟を通り越して無知に等しいと、こんな時に実感する。

笑い声が聞こえる小さな駅前。
パステルカラーの郵便局がかわいらしい。
福島の青少年は訛りを隠さない。


10:17 五百川(ごひゃくがわ)駅(東北本線 福島県)
2駅戻る。
伊達政宗の話に出てきた地名だ。
確かそこでの読み方は「ごひゃくがわ」ではなかった筈だ。

アサヒビールの福島工場が、若干の違和感をまといながら、田野が広がる風景にはまっている。
婆に連れられて爺を迎えにきた小さな男の子。
笑顔でいっぱいだ。
ああいう光景に胸が詰まるようになった。

最愛の存在がこれから見せてくれる様々を想えば、オレの人生は果てしなく幸福なものへと進んでいくだろう。

13:07 高城町(たかぎまち)駅(仙石線 宮城県)
五百川からの混雑は凄まじかった。
福島大学の学生は見目もよく、礼儀をわきまえた立派な青年たちだった。
福島駅を過ぎて、新幹線が信夫山に吸い込まれていく様は痛快だった。
あれは信夫山が腹をぶち抜かれて痛んでいるわけではなくて、風景に目障りとなる新幹線を人々の視界から隠しているのだと思う。

その奇景が5年前の津波を吸収し、沿岸を被害から救ったという名勝松島は、未来永劫人を引きつけて止まないだろう。
ああ本当に無事だったのだと安心したよ。

ひたすらに青く、穏やかな太平洋は東塩釜で姿を見せる。
フランス人と思しき清潔な青年をはじめ、大勢を松島海岸駅で降ろしてガランとした車内。
離れていた7年の間に、東北本線経由で仙台に出る鉄路が敷かれていたことを知った。

ここ高城町は松島観光地帯から続く土地で、海辺にある二軒の巨大な日本旅館が、まるで鯨が陸揚げされたかのような偉容を誇っている。

列車は石巻に向かっている。
海に面した護岸が殺風景になり、5年前の震災跡が剥き出しの更地という姿をとって現れだしている。
そしてそれは途方もなく広大な面積を占めている。

13:39 矢本(やもと)駅(仙石線 宮城県)
冷たい風だけど柔らかさを感じる。
「北国の春」という昔の流行歌を思い出し、あの歌が売れていた時代の素晴らしさを想う。

矢本は町で、昭和によく見た商店街の風情が懐かしさを誘う。

3駅戻る車内に今いる。
視界の果てに疎らになった防風林が見える。
流された松の話は、奇跡の一本松に限らず、沿岸各地に残っているのだろう。

あの日、この鉄路も波に飲まれて寸断された。
少し内陸へと位置を移して、今こうして人々を運ぶことを再開している。

13:55 野蒜(のびる)駅(仙石線 宮城県)
槌音が響く駅。
かつて車窓から眺めた美しい駅前風景は津波にさらわれ、あの更地の一隅に埋もれている。

人の住まない高台で再生した野蒜駅。
駅長が「降りてくれてありがとう」と言ってくれた。

ここに町ができるのはいつの頃か。
さしあたり、「始まり」という言葉だけがここにはある。
余所者の勝手な願いだが、ムリにでも希望を口にして、生きていってほしい。

14:09 陸前赤井(りくぜんあかい)駅(仙石線 宮城県)
閑静な住宅街に列車が止まった。3分の停車。
津波の痕跡はないが、あのひどい揺れに恐怖した記憶を消さないつもりでいるようだ。
オレの中に残っているそんな記憶も消すつもりはない。

復興住宅と思しき建設中の団地が、あたりで異彩を放っている。

14:25 石巻(いしのまき)駅(仙石線/石巻線 宮城県)
駅も、かつてコーヒーを飲んだことのある喫茶店も、駅前風景も無事だったよ。
石巻が被害に遭った。それだけが伝わり、細部が漏れていたから心配していた。

駅前に集っていた人々の中に、何か別の理由で打ちひしがれている人がいて、それを気遣う人の姿があったけど、5年前に受けた苦悩を表情に浮かべる姿はない。
5年とはそういう歳月なのだろう。
それなりに長い歳月が過ぎている。

石巻には2週間後に泊まりにいく。その時に多くを話そう。

14:57 女川(おながわ)駅(石巻線 宮城県)
報道と電通オフィスに貼られていたポスターで、この駅への運行が再開されたことは知っていた。
かつて2度訪れたあの駅は、あの震災で流されてしまったんだ。

あの日に眺めた青く穏やかな湾から津波がやってくるとは、、、まさに悪夢だ。
海辺で言葉を交わした少年は無事だったのだろうか。

海に向かって続く広い遊歩道はパステルに彩られ、両側には商店がゆったりと並び、多くの人々がここを訪れている。
この活気はオレをうれしくさせている。


渡波地区は駅も駅前商店も無事だった。
何だ。大丈夫じゃないか。
壊滅した漁場にも網が張られ、震災前に見ていた湾景と大差ないように見える。

復興と呼んで構わないだろう。
オレのように外からきたいい加減な手合はこうしてさっさと安心したがるだろう。
でも本当にそう思いたいよ。
それも5年という歳月がもたらす感慨だ。

折り返しの列車に乗って、万石浦に戻ってきて、女川へ向かう行きの列車で降りていった少女は、あの日に悲しい目に遭ったりはしなかっただろうかと、家路を辿るその後ろ姿を思い出して、想った。

復興住宅の整備はまだこれからだということは新しい街区を見て知った。
政治とは、人が暮らしていく意味とは、善行とは、そしてオレにできることが何かあるのか・・・。
様々浮かぶ。

郡山教会の牧師さんの話を2年にわたって聞く機会があり、興味深く耳を傾けて、福島の現状についてはよく理解したつもりになれたけれど、牧師として彼女が伝えたかったことを正確に理解できたとは思っていない。

ただ、人のために祈るという行為を尊く思っている。

車窓から眺める万石浦~旧北上川




関連記事

「鉄旅日記」2020年盛夏【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】最終日(門司港-東京)その2‐若松渡場、戸畑渡場、戸畑、下関(若戸渡船/鹿児島本線)

鉄旅日記2020年8月16日・・・若松渡場、戸畑渡場、戸畑駅、下関駅(若戸渡船/鹿児島本線)

記事を読む

「鉄旅日記」2014年冬【まるごと日光・鬼怒川 東武フリーパスで、野州旅】最終日(鬼怒川温泉-東京)-小佐越、大桑、大谷向、下今市、西新井、大師前(東武鬼怒川線/東武大師線)

鉄旅日記2014年12月7日・・・小佐越駅、大桑駅、大谷向駅、下今市駅、西新井駅、大師前駅(東武鬼怒

記事を読む

「鉄旅日記」2019年弥生Part.2【青春18きっぷ常磐旅。この当時、常磐線は富岡止まりでございます。そしてこの季節、臨時駅の偕楽園駅に列車が止まります。】その3-常陸太田、東海、大甕、南中郷、石岡(水郡線常陸太田支線/常磐線)

鉄旅日記2019年3月10日・・・常陸太田駅、東海駅、大甕駅、南中郷駅、石岡駅(水郡線常陸太田支線/

記事を読む

「車旅日記」2004年夏【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】3日目(宮崎-志布志-枕崎-鹿児島)走行距離382㎞その2-隼人駅、枕崎駅、開聞駅、指宿、鹿児島東急イン

車旅日記2004年8月13日・・・隼人駅、枕崎駅、開聞駅、指宿、鹿児島東急イン 2004・8・13

記事を読む

「鉄旅日記」2020年睦月【秋田内陸縦貫鉄道に乗りにいきました。五能線の名所も歩いた旅初めでございます。】初日(東京-湯沢)その2‐新白河、郡山、福島、仙台、あおば通(東北本線)

鉄旅日記2020年1月11日・・・新白河駅、郡山駅、福島駅、仙台駅、あおば通駅(東北本線) 8:22

記事を読む

「鉄旅日記」2019年弥生Part.2【青春18きっぷ常磐旅。この当時、常磐線は富岡止まりでございます。そしてこの季節、臨時駅の偕楽園駅に列車が止まります。】その2-湯本、内郷、水戸、偕楽園、下菅谷、中菅谷(常磐線/水郡線)

鉄旅日記2019年3月10日・・・湯本駅、内郷駅、水戸駅、偕楽園駅、下菅谷駅、中菅谷駅(常磐線/水郡

記事を読む

「鉄旅日記」2018年弥生【青春18きっぷを握り、目指したのはまたしても会津。練馬から旅立つ最後の旅でございます。】初日(東京-小出-会津若松)その2-土合、越後湯沢、大沢、上越国際スキー場前、越後堀之内、小出(上越線)

鉄旅日記2018年3月3日・・・土合駅、越後湯沢駅、大沢駅、上越国際スキー場前駅、越後堀之内駅、小出

記事を読む

「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】初日(長岡-会津-福島-山形)走行距離388㎞ その1-長岡駅、小出駅、田子倉駅、只見駅、会津水沼駅、会津坂下駅、猪苗代駅

車旅日記2005年7月16日・・・長岡駅、小出駅、田子倉駅、只見駅、会津水沼駅、会津坂下駅、猪苗代駅

記事を読む

「鉄旅日記」2008年初秋【秋になると北陸に行きたくなるものでございます。能登半島をはじめ、いくつもの終着駅へと行き着いたのでございます。】2日目(羽咋-福井)その1-羽咋、七尾、穴水、和倉温泉、北鉄金沢、内灘、粟ヶ崎、金沢(七尾線/のと鉄道/北陸鉄道浅野川線)

鉄旅日記2008年9月14日・・・羽咋駅、七尾駅、穴水駅、和倉温泉駅、北鉄金沢駅、内灘駅、粟ヶ崎駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2019年霜月【津軽鉄道、弘南鉄道に乗りにいきました。羽州街道を歩いた晩秋の旅でございます。】初日(東京-五所川原)その4‐青森、新青森、津軽新城、鶴ヶ坂、浪岡(奥羽本線)

鉄旅日記2019年11月2日・・・青森駅、新青森駅、津軽新城駅、鶴ヶ坂駅、浪岡駅(奥羽本線) 19:

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】最終日(武生-東京)その3‐西金沢、新西金沢、野町、鶴来、金沢、上野(北陸鉄道石川線/北陸新幹線)

鉄旅日記2020年11月23日・・・西金沢駅、新西金沢駅、野町駅、鶴

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】最終日(武生-東京)その2‐敦賀、北鉄金沢、内灘、金沢、野々市(北陸本線/北陸鉄道浅野川線)

鉄旅日記2020年11月23日・・・敦賀駅、北鉄金沢駅、内灘駅、金沢

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】最終日(武生-東京)その1‐越前武生、武生、三方、美浜(北陸本線/小浜線)

鉄旅日記2020年11月23日・・・越前武生駅、武生駅、三方駅、美浜

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】2日目(砺波-武生)その6‐三国港、田原町、福井駅(えちぜん鉄道三国芦原線/福井鉄道)

鉄旅日記2020年11月22日・・・三国港駅、田原町駅、福井駅電停(

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】2日目(砺波-武生)その5‐福井、新福井、勝山、福井口(えちぜん鉄道勝山永平寺線)

鉄旅日記2020年11月22日・・・福井駅、新福井駅、勝山駅、福井口

→もっと見る

    PAGE TOP ↑