*

「鉄旅日記」2009年皐月【四国へ、途中下車の旅】4日目(高知-宇和島)-高知、朝倉、伊野、斗賀野、須崎、窪川、中村、宿毛、宇和島(土讃本線、土佐くろしお鉄道中村線/宿毛線、予土線)

公開日: : 最終更新日:2024/06/06 旅話, 旅話 2009年

鉄旅日記2009年5月4日・・・高知駅、朝倉駅、伊野駅、斗賀野駅、須崎駅、窪川駅、中村駅、宿毛駅、宇和島駅(土讃本線、土佐くろしお鉄道中村線/宿毛線、予土線)

2009・5・4 7:32 高知(こうち)駅(土讃本線 高知県)
よさこい。
夜に来いという古語だという。

はりまや橋を渡ることはなかったけど、街は知った。

10年前より小さく感じもして、南国の熱気もそれほどとは思わなかったけど、好きな街だ。

桟橋通りの先を臨みながら発着の際に流れるアンパンマンのメロディーに微笑んでいる。

8:05 朝倉(あさくら)駅(土讃本線 高知県)
交換待ちで10分以上の停車。
オレにはうれしい事態だ。

高架駅だった高知から線路が地上に下りたのは高知を離れて2駅ほど。
市内の平板な風景が続いている。

乗客は運動部の若者を除けば僅か。
高知商業前で降りたのも僅か。
この車両に乗り合わせた少女たちからは次で降りると聞こえた。

ログハウス調の新しい駅舎だ。
はりまや橋までは6キロ。
市内とは路面電車でつながっている。

角の雑居ビルは廃墟のようだった。
戦国の頃、本山氏の城があった町。
司馬遼太郎さんの「夏草の賦」に出てきたか。

8:39 伊野(いの)駅(土讃本線 高知県)
さっきここまでオレを運んだ4両編成は折り返し高知行き。

涼しい朝だ。
ビールじゃなく、あたたかいココアを選んだ。

土佐電鉄の終点でもある伊野。
ここから出る路面電車は1時間に3本だった。

ここは紙の町。
もはや高知市ではない。

岡山行の特急がやってきた。
ここから本州は遠いな。

駅を出ると左手にテレビ塔。
酒を飲ませる店は2軒ほど。
侘しいとも言えるが、この風情は好きだ。

西武ライオンズで活躍した渡辺智男投手を擁した伊野商業が桑田清原のPL学園を抑え込んで全国制覇したのは20年以上前。

このあたりに仕事で来たのは10年以上前。
お世話になったN印刷さんは健在だった。

発車して雄大な仁淀川を渡る。
あの川は何かの舞台になっていたっけな。

旅情があふれてきた。
「高知線の歌」というのがあるらしい。

9:26 斗賀野(とがの)駅(土讃本線 高知県)
「高知線の歌」には、まもなく斗賀野山。

ここで8分の停車。

気付けば並走する国道県道もなく、土佐の山深いあたりを西に向かっている。

ここ佐川はこのあたりじゃ中心的な町。
田畑に上る煙り。
山肌に張り付いたような工場があった。

細かい雨が落ちてきた。

まもなく吾桑。

10:47 須崎(すさき)駅(土讃本線 高知県)
多度津を出た土讃本線はここ須崎で海に再会する。

有数の漁港で津波の街だという。
そんな石碑があったよ。
過去に何度も被害に遭っている。
オレの知識の中にもそんなのがあった気がする。

売店のない駅を出て通りを左へ。
すぐに戻って駅前の喫茶店で時間を潰すことになると思ったけど、そうはならなかった。

港から近くのスナックが入っている雑居ビルを見て昨日の奈半利での感慨と同じものを持ち、商店が尽きるところまで歩こうと決めて駅前通りを左に行くと、一大商店街が現れた。

どこまで続くのかと歩き続ける。
小綺麗な飲食店もあり街を見直していると、不意に通りの先を塞ぐように巨大な物体が左から右に動いていく様を見て仰天した。

線路を渡ると錦浦湾に沿って広がる富士が浜。
この旅で4度目の海辺に出た。
そこを船が通っていたんだ。

すっかり街を気に入り大商店街に戻る。
飲食店の軒は続く。
それもようやく尽きて川端通りへ。

「餅は餅屋で」と言うが、餅屋を初めて見たのはその途中でのことだ。

桜の城山公園に坂本龍馬首切り地蔵。
オレが好むものは何でも揃っている街だった。

ついでと言っては失礼だが、甲子園の常連明徳義塾はここ須崎にある。

じきに窪川行が来る。
ビールを買って城山を眺めている。

まるで終着駅のような風格を持つ駅だが、土讃本線はまだ続く。
名物は鍋焼きラーメンとのこと。




11:59 窪川(くぼかわ)駅(土讃本線/土佐くろしお鉄道中村線 高知県)
土讃本線の旅はここが終点。

どういう理由か知らないが、次の若井駅までの旧中村線と重複する区間は旧中村線、現在土佐くろしお鉄道に譲り、JRは窪川で途切れることになる。

かつての姿は知らないが、終着駅の色濃い風格のある駅だ。
清流と霧の高原、四万十町窪川。

駅の外ではどうも食事をとれそうな店はざっと見渡したところない。

あぁ、ここにもお遍路さんの姿があるな。

14:59 中村(なかむら)駅(土佐くろしお鉄道中村線/宿毛線 高知県)
窪川を出てから中村まですべてが無人駅。

10分近く集落のない区間があり、やがて海岸線に出る。
人は乗ってくるが鄙びたところだ。

この先に中村があるのか。
本当にあるのなら、まるで地の果てにできた楽園だ。

やがて到着する。

京都から移り住んだ公家の一条さんが築いた街。
他の土佐人とは違い都の血を根っこに持つこの街の美人率は相当なものらしい。

想像とは違ったが、四万十川に沿ったいい街だった。

なるほど、ある区画が京都を模した碁盤の目になっている。
一条神社、中村城址、沈下橋。
一条さんは戦国前期、新たに勢力を増した長宗我部元親と伊予勢に攻められ滅んだというが、今もこの山奥にできた街では慕われていることが窺える。

四国の小京都、中村。
とうとう辿り着いた。

中村を知ったのは古い。
子供の頃に中村高校の活躍を甲子園で見たんだ。

その中心街は駅からはかなり歩く。
足摺岬へはここから行く。

城下の墓地に大逆事件で処刑された幸徳秋水のものを示す表示があった。
彼のことはよく知らないが、中村の出身だったのか。

中村は現在は四万十市になっている。


16:44 宿毛(すくも)駅(土佐くろしお鉄道宿毛線 高知県)
四国最果ての地、宿毛。

近年中村から延びた新しい高架線の終着駅。
乗客は少なく、中学生の少女たちが担任の先生とその家族とばったり出くわす微笑ましい光景が見られた。

教育が悪い方向にだけ向いているわけじゃないことが彼等の会話から窺えた。
少し眠り、この町に着く頃にはすでに彼等の姿はない。

最果てらしいどこか乾いた印象を持つ町だ。
松田川を見に行く他にやることはなく、駅の土産物屋は店仕舞いを始めている。

改札待ちの男女の喫煙量が凄い。
灰皿に近づく隙間を設けようとせず、猛然と煙りを上げている。
まるでちょっとした火事だ。

少し前にこの駅で起きた、列車が行き止まりの駅舎を突き抜けた惨事の跡はなく、タクシー運転手は暇をもて余している。

昨日両親に送ったカツオが届いたと父からメールが入った。
すでに刺身に姿を変えているらしい。
両親の口に合うことを祈る。

これから中村に戻り特急南風に乗り換えて再びの窪川へ。
そしていよいよ宇和島へ。

22:41 宇和島ターミナルホテル406号
中村線での記述は改める。

途中に町はあった。
密林の先に忽然と中村の街が現れたわけじゃなかった。

わざわざオレの目の前に席を移してきた二人の少女がいたのは中村に向かう途中。
目的は知らないが、オレが格好よく見えたか。
あるいは変なヤツに見えたかのどっちかだ。

死ぬまで人に言うつもりはないが、間違いなく前者だ。

旧中村線区間は出会いより別れの一帯だった。
窪川に着くまで見送りの光景をいくつか目にした。

見送られる者は例外なく若く、都会風の洗練さを身につけた男女で、見送る者は母親に親戚、友人一同。
まるで今生の別れで、双方の涙はオレに伝った。

予土線は閑散路線だった。
窪川と宇和島を除いて無人駅しかない。

約2時間の道中で乗り降りしたのは15名。
沿線に予土線存続を訴える看板をいくつか見た。

町はなく、四万十川に沿っていく。
さらに沿線には道も集落もなく、駅に着くとそこにだけ人の営みが現れる。

大正、昭和、十川、江川崎。
時代から逃げ遅れたような村でありながら、超然とした村だった。

そこを出地とするステキな若者は生まれ続ける。
途方もなく、その事実は大きい。

宇和島は遠かった。
街の灯が遠かった。
四国の終着駅と呼ばれる宇和島。
夜になって街に出れば灯は消え、人通りは絶えている。
闘牛で有名な活気のある街も過去にその座を置き忘れたのか。

ホテルのフロントでお勧めの店を聞いていってみた。

半ば閉店していて、通された広い座敷にはオレひとりだけで、独り身なことも含めて店員のおばちゃんに気の毒がられたが、出てくる酒も料理も美味かった。

宇和島の実力は理解したつもりでいる。
ライトアップされた宇和島城。

幕末に賢人候がいたことで知られている。
繁華街は城下にあった。
いくつもの夜の灯がそこにだけ、あたりの闇を追い払うように、切ないくらいにあった。

宇和島東の甲子園での快挙は、宇和島を全国制覇の街にもした。
駅前の南国ムードは明日の朝に満喫する。

この国でたいていの人に知られた街はどこも活気にあふれていると思っていた。
中村にここ宇和島。

本州には、そして東京にはあまりにも遠いということか。

ただ、太刀魚巻、美味かったな。
他の街じゃ食えないらしい。

それをオレは実力と表現している。

関連記事

「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】2日目(新大宮-大阪難波)その3-橿原神宮前、六田、吉野、近鉄御所、御所、尺土、二上山(吉野線/御所線/南大阪線)

鉄旅日記2017年3月18日・・・橿原神宮前駅、六田駅、吉野駅、近鉄御所駅、御所駅、尺土駅、二上山駅

記事を読む

「鉄旅日記」2020年初秋 最終日(高松-東京)その2 ‐茶屋町、岡山、倉敷、倉敷市、水島、常盤、栄、三菱自工前(宇野線/伯備線/水島臨海鉄道)/倉敷センター街、阿智神社、倉敷美観地区 【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】

鉄旅日記2020年9月22日・・・茶屋町駅、岡山駅、倉敷駅、倉敷市駅、水島駅、常盤駅、栄駅、三菱自

記事を読む

「鉄旅日記」2015年夏 4日目(西鉄柳川-広島)その2-田川後藤寺、糸田、糒、金田、門司港、厚狭、湯ノ峠、四郎ヶ原、南大嶺、美祢(平成筑豊鉄道糸田線、平成筑豊鉄道伊田線、鹿児島本線、美祢線) 【日本最南端の終着駅、枕崎までの往復旅】

鉄旅日記2015年8月15日その2・・・田川後藤寺駅、糸田駅、糒駅、金田駅、門司港駅、厚狭駅、湯ノ峠

記事を読む

「鉄旅日記」2020年文月 2日目(香住-東萩)その1‐香住、柴山、餘部(山陰本線)/余部鉄橋 【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】

鉄旅日記2020年7月24日・・・香住駅、柴山駅、餘部駅(山陰本線)/余部鉄橋 2020・7

記事を読む

「鉄旅日記」2019年年始 初日(東京-一ノ関)その1-金町、上野、高崎、六日町、長岡、見附(常磐線/高崎線/上越線/信越本線) 【雪が見たくて北へ向かいました。そして初めて仙台空港線に乗ったのでございます。】

鉄旅日記2019年1月5日・・・金町駅、上野駅、高崎駅、六日町駅、長岡駅、見附駅(常磐線/高崎線/上

記事を読む

「鉄旅日記」2009年晩秋 最終日(和田山-東京)その1-和田山、福知山、丹波竹田、石生、篠山口、三田、神鉄三田、宝塚、阪急宝塚、川西池田、川西能勢口、伊丹、阪急伊丹(山陰本線/福知山線) 【陰陽を行き来した3日間。この国の秋は美しゅうございました。】

鉄旅日記2009年11月23日・・・和田山駅、福知山駅、丹波竹田駅、石生駅、篠山口駅、三田駅、神鉄三

記事を読む

「車旅日記」1997年1月【空しい日々を振り払い、28年目の人生もまた旅。そんな年頭の姿でございます。】-町田、愛甲石田駅、御殿場駅、岩波駅、熱海駅、西湘パーキング、奈良北

車旅日記1997年1月4日 1997・1・4 1:01 東京町田 明かりをつけた部屋にストーンズの

記事を読む

「車旅日記」2006年皐月 5日目(青森-安達)その2-宮古駅、吉里吉里駅、盛駅、大船渡駅、気仙沼駅、女川駅、石巻駅、利府駅、道の駅あだち 【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】

車旅日記2006年5月6日・・・宮古駅、吉里吉里駅、盛駅、大船渡駅、気仙沼駅、女川駅、石巻駅、利府駅

記事を読む

「鉄旅日記」2020年卯月 初日(東京-新津)その3‐仙台、北山、葛岡、山形(仙山線) 【緊急事態宣言発令直前のことでございます。常磐線全線運転再開を祝して人知れず旅に出たのでございます。】

鉄旅日記2020年4月4日・・・仙台駅、北山駅、葛岡駅、山形駅(仙山線) 12:25 仙台(せんだ

記事を読む

「鉄旅日記」2018年弥生【秩父へ。西武線とのお別れでございます。】-練馬区役所、芦ヶ久保、西武秩父、御花畑、秩父、入間市(西武秩父線/秩父鉄道/西武池袋線)

鉄旅日記2018年3月24日・・・芦ヶ久保駅、西武秩父駅、御花畑駅、秩父駅、入間市駅(西武秩父線/秩

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2022年新春 初日(東京-湯瀬温泉)その1 ‐松戸、神立、友部、水戸、いわき(常磐線) 【巨大な土偶が貼りつく木造駅を見たくて冬の東北を旅しました。】

鉄旅日記2022年1月8日・・・松戸駅、神立駅、友部駅、水戸駅、いわ

2021年神無月~2022年如月【SNSへの投稿より】写真をお楽しみいただけますと幸いでございます。ー下高井戸商店街、辻清人先生、紅葉の頃、金町夕景、今年も暮れゆく東京、金町睦月如月、柴又

2021年10月30日 母校を訪ねるのは卒業以来30年振りでご

「鉄旅日記」2021年師走 最終日(古川-東京)その4 ‐立小路、赤倉温泉、村山、さくらんぼ東根(陸羽東線/奥羽本線/山形新幹線) 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月5日・・・立小路駅、赤倉温泉駅、村山駅、さく

「鉄旅日記」2021年師走 最終日(古川-東京)その3 ‐瀬見温泉(陸羽東線)/湯前神社/山神社 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月6日・・・瀬見温泉駅(陸羽東線)/湯前神社/

「鉄旅日記」2021年師走 最終日(古川-東京)その2 ‐川渡温泉、鳴子御殿湯、鳴子温泉(陸羽東線)/東鳴子温泉神社 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月5日・・・川渡温泉駅、鳴子御殿湯駅、鳴子温泉

→もっと見る

    PAGE TOP ↑