「鉄旅日記」2006年如月 その1-取手、土浦、勝田、阿字ヶ浦、那珂湊、日立、大津港(常磐線/茨城交通) 【房総半島から1週間。常磐線に乗って、下っていったのでございます。】
鉄旅日記2006年2月11日・・・取手駅、土浦駅、勝田駅、阿字ヶ浦駅、那珂湊駅、日立駅、大津港駅(常磐線/茨城交通)
2006・2・11 いわき東急イン618号室
出発は遅れた。
2時間ばかりだろうか。
起きる決心をしたのは、悪い夢を見て、暗い道に入り込もうとするところを、後部座席に座っていた男からラリアットのような一撃を受けたから。
その男は旧知の男だった。
他意はない。
夢にも他意はないだろう。
起きて座り込んだ時は虚ろだった。
今朝は怖気づくような寒さじゃなく、冬にしては暖かった。
みどりの窓口には行列ができている。
向かう先はいわき。
どうやら直行なら4時間もかからない距離らしい。
まずは取手まで。
江戸川堤の寒々しい風景を過ぎると千葉県。
普段暮らす町は境界線にある。
松戸、柏、我孫子を過ぎて、利根川の堤では男たちが一列に並び、無限を思わせる河川敷にゴルフボールを飛ばしている。
どこにも網が張られているようには見えず、なんだか可笑しみのある風景だった。
取手は栄えている。
これまでに常磐線で何度か通り、街は土浦に向けて左側にあるのだと思っていた。
乗場もそっちにある。
やけに狭い街区だったが、線路を挟んで反対側にも出口があることに気づき、長い通路を抜けると、本来の取手の街があった。
駅ビルに駅名だけを貼りつけた出口より、以前の取手がよく分かる街並だった。
そしてこっちには、どこか城を思わせる横長の駅舎が構えていた。

2009年10月10日撮影
牛久通過時には牛久沼を確かめ、やがて土浦。
かつて恋人と霞ヶ浦を目指した際に寄ったのが土浦だと思うが、記憶に残っているものはなく、霞ヶ浦が尽きる場所にできた街であることを知った。
駅の高架からその様を見渡せた。
反対側の出口には東急百貨店がある。
新装なった街区なのだろう。
人々の歩みがよそよそし気に見える。

2013年3月31日撮影
うっすらと見える筑波山。
ふと気づけば関東平野。
友部、水戸そして勝田。
茨城交通との接続がいい。
たいして待たずに阿字ヶ浦行に乗る。
ディーゼル音を轟かして、なかみなと線は鄙びた景色を突き進む。
終点の阿字ヶ浦は、オレの想像など遥かに及ばない鄙びて乾いた場所だった。
海辺までは徒歩約10分。
車通りの多い道に出て最初に出迎えるのは、廃墟となったかつての集客店。
九十九里の荒涼とした海岸の先に煙を噴き上げる工場の煙突。
テトラポットが置かれた海岸は魅力に乏しく、波打ち際にいた時間はわずかだった。
バンガロー小屋の脇を通り、駅に戻る。
緑と赤のペンキが塗られた小ぎれいな番屋のような駅舎。
鉄道マニアがカメラをぶら下げてそれらしく振舞っている。
オレはああした存在とは違うと思っているが、はたから見れば同じなのだろう。
2018年4月30日撮影
那珂湊で降りる。
古めかしい案内板が掲げられた駅を出る。
待合所では2人の老人が缶ジュースを片手に語り合っている。
2018年4月30日撮影
駅前には目ぼしいものが見当たらない。
港までは遠かった。
先週と同じようにビールと中華丼の昼食。
テレビじゃ、消防士が主役の2時間ドラマ。
那珂湊を離れる前に駅の壁に貼られた町の歴史に触れる。
江戸時代には大層賑わい、水戸藩の御用港として重要な役目を担っていたが、幕末に起こった藩内の内紛で戦場となり、焼け、さらに昭和の大火が追い打ちをかけ、当時の面影はほぼ焼失したとある。
水戸の騒ぎは血なまぐさく、最後のお家騒動とも言えるもので、天狗派も書生派も有力者は一人残らず悲惨な運命を辿った。
そのかつての戦場を、かつて繫栄した港町を、茨城交通が守っている。
歴史を知らなければ、現在もあの鉄道が奮闘している理由は分かりづらいかもしれない。
先述の老人2名はまだ会話をやめていない。
勝田には現代的な駅舎が建っていた。
駅から延びる大通りに沿う商店の連なりは長くはないが、駅周辺で遊ぶことはできるだろう。
2018年4月30日撮影
日立へ。
何の変哲もないと思えた駅で多くの乗客が降りた。
彼等について出口に向かうと、背後に低い山並を従えた立派な街に出くわした。
日立セメントの「ブレード・ランナー」的かつ怪物的な建物に煙突の煙。
今じゃ叩かれ放題の東横インにイトーヨーカ堂。
日立関連のこざっぱりとした社屋群は整っていて、お洒落な街路。
2018年4月30日撮影
横綱級の大企業が抱える城下町には品があり、巨大なコンベンションセンターの用途に疑問は持つものの、日立という大企業が大切に育ててきた街。
太平洋も見える。
その風景に近づこうと線路をくぐって反対側に回り、坂の途中から見えた風景を前にして立ち止まってしまった。
臨海に高架車道が見えるが、まだ建設中なのか車通りはなく、海岸は機械的に均され、眼下には貧しげな家が数軒、日立に対して意地を張るかのように洗濯物を干している。
あれは何か巨大な勢力に見捨てられた者の姿。
現に1軒は廃屋になっている。
2018年4月30日撮影
海側の簡素な駅舎の前には、豪農を思わせる旅館が通りを挟んで鎮座している。
街の明暗とは、あれほどの差を伴うものなのだろうか。
北茨城へ。
大津港駅で降りる。
何もないところだということは降りてみてすぐに分かった。
そこは日に何本か終点の役割を受け持つ駅でもある。
しかし何もない。
駅前にセブンイレブンが進出したことを町ではありがたく思っていることだろう。
次の列車の到着は1時間先。
しばらく歩く。
でも海は遠い。
五浦海岸という景勝地があるということだが、一山越えなきゃそこには着かない。
町には似つかわしくないお洒落な美容室の横を通って線路を渡り、舗装されていない線路脇の道を歩き、跨線橋を渡り駅へ戻る。
駅前で待つタクシーの数は少なくなく、運転手がオレに目を向ける。
古い蔵のような駅舎を好ましく思い、缶コーヒーと煙草を手にしてしばらく眺めていた。
2018年4月30日撮影
気が済むと気さくな駅長さんに挨拶してホームへ。
待合室の椅子には座布団が置かれ、暖かかったけど、ホームの方がいい。
松本清張の短い話を読了すると、煙草に火をつけて、茜に染まった西の空を正面に見る。
先頭を飛ぶカモメの号令に従って、群れがきれいな三角形を保ちながら東へと去っていく。
この世界を生きるのは人間だけじゃないと思えるのは、人間が集まるために造られた場所で、たったひとりで、そんな光景を眺める時くらいのものなのかもしれない。
忘れがたい思いに包まれ、人生の名場面とも感じられ、ひとりを楽しむ。
跨線橋を渡ってきたご婦人の姿が見えないと思ったら、まるで蛾のように、階段の途中に張り付くように風を避けていた。
おそらく旅人になれる者の数は限られている。
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2009年秋 初日(東京-新山口)その1-金町、北千住、東京、岡山、笠岡、尾道、糸崎、入野(常磐線/山手線/東海道・山陽新幹線/山陽本線) 【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】
鉄旅日記2009年9月18日・・・金町駅、北千住駅、東京駅、岡山駅、笠岡駅、尾道駅、糸崎駅、入野駅(
-
-
「鉄旅日記」2014年冬 初日(東京-鬼怒川温泉)-下今市、新藤原、川治湯元、川治温泉、湯西川温泉、龍王峡、鬼怒川公園、新高徳、鬼怒川温泉(東武鬼怒川線/野岩鉄道) 【まるごと日光・鬼怒川 東武フリーパスで、野州旅】
鉄旅日記2014年12月6日・・・下今市駅、新藤原駅、川治湯元駅、川治温泉駅、湯西川温泉駅、龍王峡駅
-
-
「鉄旅日記」2019年弥生Part.3 最終日(多治見-東京)その2-中津川、坂下、落合川、南木曽、十二兼、洗馬、塩尻(中央本線) 【明知鉄道、名鉄築港線。その2線に乗るために、東海道を下っていったのでございます。】
鉄旅日記2019年3月24日・・・中津川駅、坂下駅、落合川駅、南木曽駅、十二兼駅、洗馬駅、塩尻駅(中
-
-
「鉄旅日記」2020年初秋 2日目(高松)その1 ‐瀬戸大橋遠景、丸亀城、少林寺、津嶋神社参道、津島ノ宮駅、詫間海軍航空隊跡、箱浦(浦嶋伝説の地)、父母ヶ浜 【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】
車旅日記2020年9月20日・・・瀬戸大橋遠景、丸亀城、少林寺、津嶋神社参道、津島ノ宮駅、詫間海軍
-
-
「鉄旅日記」2021年師走 初日(東京-古川)その3 ‐千徳、宮古、盛岡、古川(山田線/東北新幹線)/蛇の目寿司 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】
鉄旅日記2021年12月4日・・・千徳駅、宮古駅、盛岡駅、古川駅(山田線/東北新幹線)/蛇の目寿司
-
-
「車旅日記」1997年梅雨明け【疲れきっていた若き日々。またしても向かうのは北でございました。】(東京-鳴子温泉-東京)2日目~最終日-いわき久ノ浜パーキング、亘理、名取、松山町、鳴子サンハイツ、町田
車旅日記1997年7月20日 7:03 6号国道‐いわき久ノ浜パーキング 太陽光線で目が覚める。
-
-
「鉄旅日記」2019年長月 初日(東京-盛岡)その2-郡山、福島、曽根田、仙台、一ノ関(東北本線) 【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】
鉄旅日記2019年9月21日・・・郡山駅、福島駅、曽根田駅、仙台駅、一ノ関駅(東北本線) 11:0
-
-
「鉄旅日記」2018年神無月 2日目(越前大野-福井-米原-名古屋-松本)その1-越前大野、南今庄、敦賀、武並(越美北線/北陸本線/東海道本線/中央本線) 【北陸へ。信州へ。友を訪ねての巡礼旅でございます】
鉄旅日記2018年10月7日・・・越前大野駅、南今庄駅、敦賀駅、武並駅(越美北線/北陸本線/東海道本
-
-
「鉄旅日記」2013年春【青春18きっぷで、房総途中下車旅】その2-上総興津、安房小湊、安房天津、安房鴨川、和田浦、九重、若井、竹岡、上総湊、佐貫町、青堀、稲毛海岸、新習志野(外房線、内房線、京葉線)
鉄旅日記2013年3月9日その2・・・上総興津駅、安房小湊駅、安房天津駅、安房鴨川駅、和田浦駅、九重
-
-
「鉄旅日記」2021年夏 最終日(上田-東京)その3 ‐十日町、越後川口、渋川、敷島(飯山線/上越線) 【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】
鉄旅日記2021年7月11日・・・十日町駅、越後川口駅、渋川駅、敷島駅(飯山線/上越線) 1