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「車旅日記」2003年夏【北海道初上陸。2,300㎞を移動した5日間の記録でございます。】4日目(帯広-襟裳岬-苫小牧-札幌)走行距離374㎞ -帯広東急イン、帯広緑ヶ丘公園、忠類、襟裳岬、様似駅、静内駅、恵庭中島公園、札幌東急イン

公開日: : 最終更新日:2023/04/27 旅話, 旅話 2005年

車旅日記2003年8月16日
2003・8・16 帯広東急イン826号室(8月13日の函館空港より1,584㎞)
昨夜釧路からの爆走でほぼ予定した時間通りに帯広に着き、疲れてしまった。
ビールも煙草も昨夜は美味かった。
ただし650㎞の走行は本当に効いたよ。

釧路駅を出ると市内で迷い、まるで横浜港のような賑わいを持つ一角に迷いついた。

昨夜の釧路の明かりは夢のようなものだ。
なかなかそこには辿り着けない。
いずれ辿り着きたいが、一度の人生じゃもうそこには行くことはできないかもしれない。
ガンダーラのように、そこは果てしなく遠い。

帯広が近づくと白く輝く十勝大橋が見えてくる。
街が近い。
その安心感で気持ちが緩んだわけじゃないが、少しばかり街の造りがややこしい。
駅に向かって放射状の道が方向感覚を奪い、焦ってしまった。

だから街歩きは朝に。

帯広駅は新しい。
列車は1時間に1本くらいやってくる。
まるで新幹線駅のような構内の土産物屋は朝から開き、街には昨夜の平原祭りの余韻が残っている。

十勝平野の大穀倉地帯、帯広。
豊かさを感じる街だ。
繁華街も結構広い。

10:37 帯広緑ヶ丘公園(8月13日の函館空港より1,590㎞)
帯広の中心街を流している。
地図に印刷されていた印象的な建物を探した。

かつて屯田兵が開拓した新しい街。
公園内には百年記念館がある。
脇では老人たちがゲートボールに興じている。

どうやら望みの建物は見つけられそうにない。
そもそも何の建物なのか記されていない。

北の街の象徴的建造物はテレビ塔。
札幌、旭川、そしてここ帯広。
やり残したことはあるが、この街ともこれでお別れだ。

知床斜里まで右腕を散々に焼いた太陽はその後姿を見せず、厚岸では僅かな光を寄越しはしたが、今朝はまた姿を見ない。
空は雲のないブルーグレー。

半袖姿を見かけないが、オレは半袖でいる。
寒さは感じない。

11:48 236号国道-道の駅忠類(8月13日の函館空港より1,642㎞)
真っ平らな十勝平野。
十勝川と出会えなかったことが残念だ。

帯広から南に延びる鉄道はなく、物資輸送は車と水運に頼る。
この町を拓いた者たちはどの方角からやってきたのだろうか。

空が広い風景も見慣れ、今日の空はひたすらのグレー。
町はなく、海が近い。

ここではかつてナウマン象が発掘されたらしく、町おこしのシンボルになっている。
1台の車が通り過ぎるとほんの一瞬静寂が訪れ、どこかの鐘の音が聞こえる。

13:28 襟裳岬(8月13日の函館空港より1,723㎞)
トウモロコシ畑、ひまわり畑、地平線。
十勝平野を抜け広尾へ。
難工事とそれに伴う費用の莫大さから黄金道路と呼ばれる国道を南へ。

灰色の海の波は高く、右側の崖の険しさが緊張を強いる。
所々に設けられた駐車帯では、決して少なくない数の男たちが岸に押し寄せる波を黙って眺めている。

襟裳公園道路から岬に至る風景は根室半島を思い出させる。
かつて歌われたように何もなく、広大な緑の荒野が広がっている。

岬の入口には小さな町があり、野球をしている一団の脇をひっきりなしに観光客が通り抜けていく。
岬には歌碑があり、海を眺めると碁石を置いたように岩場が沖まで続いている。

襟裳半島に入ってから一日振りに日が差し、随分あたたかくなった。
海はやはり青い方がいい。
エメラルド・グリーンをまぶした青い姿が美しい。

苫小牧まで海を見る。
土産が多くなった。

14:14 様似駅(8月13日の函館空港より1,761㎞)
襟裳半島で顔を見せた太陽はまた足だけ残して隠れ、海辺には相変わらず強い波が押し寄せ、町の人々は昆布を干す。

ここはアボイ岳からの静風が吹き下ろされる日高本線の終着駅。
1日に6、7本しか運行されないホームに静内行のワンマンカーが止まり、乗客の姿は一人も見えない。
終点の苫小牧まで130㎞ほど。

北の大地はやはり広い。
内地から移り住んだ人々が拓いた北海道。

でも先人は神を呼び忘れたらしい。
寺社は見当たらず、代わりに聖書の言葉を記した木札をたまに見かける。

2012年8月13日撮影

15:50 静内駅(8月13日の函館空港より1,820㎞)
道南日高国道。
苫小牧に向かう車の流れに切れ目はなく、思ったように進まず札幌が遠い。

様似の親子岩は鳥の群生地。
ここはお前たちが作ったわけじゃない。
堂々と群れをなして浜辺の人間たちを見つめる鳥たちが、そう言っているような気がしたよ。

通り過ぎた浦河はきれいな町だった。
236号国道沿いの商店はすべて新しく明るい色をしている。

日高本線の中心地を思わせるが、駅だけが古く、外れに放置されていた。
まるでもう用がなくなったもののように、ひっそりと古びていた。

道南の町々は祭の季節。
櫓が組まれ、待ちきれない人々が会場に姿を見せている。

ぽっぽとピンク色の文字が印象的な静内駅。
木目をあしらったきれいな駅だ。
構内も新しい。

様似からこの町に向かった列車は今どのあたりだろう。
海はまだ青さを残し、道南の小さな町もやがて暮れていく。

2012年8月13日撮影

18:35 恵庭市中島公園(8月13日の函館空港より1,930㎞)
札幌が遠かった。

静内を出て線路は海側を走り、川に架かる鉄橋は古く、癒しの風景が随所に見られた。
通り過ぎた占冠村が、この夏の水害に見舞われていたことに気づいたのは、東京に帰ってからのことだった。

鈍色の空と、思うように流れない日高国道に心を曇らしているうちに、北海道に上陸して以来初めての渋滞にはまり込み、随分長いことつまらない気持ちでいた。
沙流川渡河に伴う、日高方面へ向かう237号国道との合流が原因だった。
その地が門別。

解放されたように走り出し、川の先に見える煙突群を発見して、そこが苫小牧だと知ると道はにわかに北に転じ、道央自動車道を横にしていつの間にか都会的な道を走っていた。
太平洋にお別れの言葉を言っていない。

36号バイパスを北に向かっている。
千歳に向かうバイパスは空港道路のように広く、風景は幕張あたりに似ている。
千歳駅を発見できずバイパスに戻り、ようやく札幌が近くなってきた。

北海道の風景はここにはなく、閑静な住宅街。
何となく寂しい気持ちでいる。

そう言えば、ここじゃ蝉の声も聞こえない。

22:58 札幌東急イン1240号室(8月13日の函館空港より1,958㎞)
北海道最後の夜。
帰りたくないけど、帰りたいよ。

今も道東にいればこんな気持ちにならなかったかもしれないけど、札幌まで戻ってくれば家が恋しくなる。
不思議なものだ。
36号国道を走って札幌圏に入った時に、この旅は終わったような気持にさせられた。

明日も行きたい場所はある。
函館までは300㎞強。
3日前は450㎞走って札幌に着いた。
でも明日の今頃は東京。
今と同じように熱闘甲子園が始まるのを待っているだろう。

明日は制約が多くなる。
函館に18:00に着かなきゃ東京行最終便には間に合わない。
今日門別で起こったような事態に巻き込まれないことを願うばかり。

テレビ塔が遠くから見えた。
3日前より札幌入りはスムースに行われ、3日振りにこのホテルに荷物を下ろすと、すぐに出かけて中島公園へ。

札幌の大きさは3日前に知った。
でも慣れない。
こんなに心許ない気持ちで街を歩くのは初めてだ。

京都でも大阪でも博多でもこんなことはなかった。
どこか怯えに似たものを感じていた。
それがこの国で一番大きな街との出会いだった。

キリンビール園でビールを4杯。
ジンギスカン用の大きなテーブルに通されて面食らったけど、ひとりでこうしている理由を考えながら飲むビールは美味かった。
まだ店を出たくないと思えるまでそこにいて、ジャガイモがこんなにも美味く、腹持ちがいいことを知った。

札幌駅へ。
大通公園は素晴らしい。
燦然と輝くテレビ塔は美しく、ベンチに腰掛けて吸った煙草はことのほか美味く、ようやく札幌が体に入ってきた。

時計台には期待しない方がいい。
連中は言っていた。
でも連中はライトアップされた姿を見たのだろうか。
そして過去に対する想像力が欠如している。
そう解釈しながら眺めた時計台は美しく、その下で恋人たちが記念撮影をしていた。

札幌駅。
その偉容も3日前に承知済み。
ただ、その巨大な駅を離れていく列車は、東京行を除けば道内を走るものばかり。
空のようにどこの街にも行けるわけじゃない。
札幌駅の限界がそこにあり、それだけに街の大きさには驚かされる。

北も南も駅ビルには巨大な時計が設置されている。
あれがこの街の、時計台に対する敬意。
オレはそのように理解した。

帰りの大通公園。
テレビ塔のライトアップは終了していた。
不良少年連中が車座になって気勢を上げ、外国人カップルが物珍しそうに眺めている。

札幌は大きい。
まだ怯えが残っている。
12階から見下ろす街の流れは終わらない。
すすきの始発の市電がどこまで行くのか知らないが、続きは東京で。

天候に恵まれた北の旅だが、甲子園では雨だったのだな。
広陵、PL学園の敗退を知った。
この4日間で知った世界のニュースは甲子園の結果とニューヨークの停電だけ。

こんな時間になってもまだこの街にやってくる者たちがいる。
眼下で大型バスがたくさんの乗客を吐き出して北へ去った。

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