「鉄旅日記」2003年冬【ご縁と別れがあり、34歳の誕生日を北九州で迎えた日の記憶でございます。】初日(宇部-飯塚-博多)その1-山口宇部空港、宇部新川、宇部、下関、小倉、折尾、飯塚、博多(宇部線/山陽本線/鹿児島本線/筑豊本線/篠栗線)
鉄旅日記2003年2月15日・・・山口宇部空港、宇部新川駅、宇部駅、下関駅、小倉駅、折尾駅、飯塚駅、博多駅(宇部線/山陽本線/鹿児島本線/筑豊本線/篠栗線)
2003年2月15日の記憶
天気はあまり覚えていない。
背筋を伸ばして歩ける服に着替えて、京成電車に乗り羽田空港に向かった。
努めて2か月前の記憶を辿ろうとしたが、その行為はすでに無意味だった。
それだけ旅立つこととは魅力にあふれている。
一日前のオレはすでにそこにいない。
今年最初の旅は空になった。
山口宇部空港までは1時間45分。
前回は去年の12月。
2か月前じゃ、オレの中では過去とは言いがたい。
よく覚えていたよ。
建物も風景もあの日の情景も。
感傷はない。
すぐにルートを決めて、宇部新川駅行の高速バスに乗り込んだ。
乗客はほんの僅か。
旅人はオレのみ。
宇部とはなかなか賑やかな街だ。
そんな印象を持って国際ホテルの角を曲がり、全日空ホテルを過ぎて駅へ。
窓口で飯塚行の切符を購入する。
鉄道の利用者も少なく、改札口に立つ駅員の姿もなく、構内にある噴水の装置は止まっていた。
宇部行には時間があったから小郡方面のホームに行った。
跨線橋は木造で、ぎしぎしと軋む。
宇部は山口県内では下関に次いで人口第2の街と聞いていたが、駅はずいぶんと寒々しい。
宇部興産の煙突は見えず、冬の冷たい風が吹いていた。
ワンマンカーに乗るのは初めてだ。
土曜日の昼下がりということもあって高校生の姿を多く見かける。
元気なのはどこの町でも女子高生。
厚東川を渡り宇部駅までは約10分。
そこで下関行の山陽本線に乗り換える。
宇部駅は12月に彼女の運転する車から眺めている。
ターミナル駅にしては小さいという印象だけを抱いて離れた。
駅構内は広大でホームの数も多かった。
下関まで敷かれた線路は2号国道とほぼ並走する。
町から次の町に行くには一山越えなきゃならない。
車の旅も同じで、12月も彼女の車で暗くなりかけた町並を1時間ばかり抜けて海峡へ向かった。
厚狭、新下関。
新幹線の停車駅も荒野の中にたたずむ風情で、華やいだものは見られない。
山陰本線とは下関のひとつ手前の幡生で合流する。
下関。
8月の香りを求めた。
真夏の2夜を過ごした街。
そこで羽田以来の雑踏に遭遇した。
九州へ渡る次の列車は行橋行。
小倉で乗り換えなきゃならない。
下関を出ると関門海峡まで大鉄道基地が広がる。
関門トンネルの通過時間は3分ほど。
門司へ。
荒涼とした風景が最初に見える。
かつても現在も多くの者が降り立ち、旅立ち、多くの者が去っていった街。
そして、これまでに訪ねたこともない者がなぜか懐かしさを誘われる街。
オレの世代で、門司が持つ情感に覚えのない者はいないだろう。
そして小倉。
近づくにつれて巨大な観覧車が目に入り、海辺に面した方に目を向ければ工場群の煙突が屹立し、盛んに白い煙が排出されている。
多くの北九州人が暮らす日本有数の街までやってきた。
「こくら~こくら~」という20年前の上野駅で聞いたような、のんびりとしたアナウンスが構内に響き、電車を降りて地下通路のうどん屋に入り、九州人と再会した。
次は折尾まで。
北九州は工業の街。
そう言えば社会科の時間に教わった。
八幡製鉄所がこの国に最初に生まれた工場だった。
小倉から折尾まで、海岸線に沿って京浜工業地帯に勝るとも劣らない工場群が続く。
現在にも続く北九州工業地帯。
歴史は、古いものを洗い流していくだけではないのだと気づかされた。
戸畑で、若松との間に架かる若戸大橋を眺め、スペースワールドという異次元空間の出現に感慨を誘われ、やがて折尾に到着する。
郷愁にかられる駅で、雨が落ちてきたのはその時だった。
ちょっとした美術館がホームにあり、駅は2層構造になっていて、駅舎は開業当初からそこにそのままの姿でいる存在として風格をたたえ、錆びたような匂いを嗅ぐ。
地上に下りるとハイテクの匂いがする客車が待っていた。
筑豊本線と聞けば古い客車がホームにやってくるものと勝手に想像していたが、暖房が効いた最新鋭のコンピューター・トレインが待っていた。
古い街のそこだけに未来があるような。
九州の鉄道事情は豊かなのかもしれないと、文字通り豊な気持ちで筑豊へ。
途中の直方は街だが、筑豊への道は果てしなく民家が続く。
山陽路に見た山並はなく、人の暮らしだけが続き、やがて飯塚へ。
降りた駅の人影はやはりまばらだった。
雨だれの中、駅を出る。
駅を出て正面の通りの右手には、蛇行するアーケード街が薄暗いまま見捨てられている。
客の姿はなく、並み居る店も営業している気配はない。
宇治山田でも同じような光景に出会った。
地方都市とはこのようなものかと曇り空を見上げ、川まで歩き駅へと引き返した。
博多行の列車に乗るには随分待たなきゃならない。
喫煙所でおもむろに見渡すと、市内の地図があることに気づき覗くと、中心街は川向うに形成されていることが分かった。
駅は玄関でしかないようだ。
おそらく何もないと嘆息した、かつての宇佐も江津もそうだったのだろう。
再び雨の中を歩きだした。
繁華街までは約10分。
道を行く車は9割が筑豊ナンバー。
僅かに北九州ナンバーが混じる。
炭鉱町の在処がどこか分からずじまいだったが、日本一荒っぽいと聞いたことのある筑豊にいることは実感した。
そこにあった繁華街はなかなかのものだ。
ひな祭りに装われたアーケード街を歩き嘆息して、12月の山口市内もこんなものだったかと思い返し、時間が来て駅に戻った。
雨が降っていた。
夕暮れ近かった。
筑豊に来たかったが、筑豊には田川もあれば、直方もある。
どこで降りるのがいいのか分からず飯塚を選んだが、これでよかったのだろう。
飯塚からの筑豊本線の車窓は一変する。
不意に民家は途切れ、谷間に駅があったり、トンネルを抜けた先に駅があったり、駅からダムが見えたり。
筑豊から筑前へ。
随分と奥地へきたのかと思ったが、そこから博多までは約30分ほど。
博多の手前2、3駅前から博多の匂いがしたが、博多駅で香った甘い匂いが何だったのかは忘れてしまった。
大博通りを北へ。
椰子の木が通りに沿って群生するアジア有数のメイン・ストリートをまずは祇園まで。
雨はまだ降っている。
2020年8月16日撮影
中洲までは遠くない。
いくつもの歓楽街を抜けて那珂川へ。
話に聞いていた屋台は5軒しか出ていない。
愛想の良さそうな女将と若い主人が出している屋台に入った。
まだ夜も早く、他に客はいない。
ビールを続けるには寒く、途中から酒に変えて、博多の天ぷら料理を食べながら那珂川の夜景を眺めた。
いい眺めで、街中の川辺の風景とは縁を持たなかった分、趣深く感じた。
女将から炭鉱町は三池、梅は大宰府と聞いて、他の客が来る前に店を出た。
ほろ酔い加減で歩く碁盤の目のような博多の街は眩しく、ここまで来た奇運を想い、また歩き出した。
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