*

「鉄旅日記」2003年冬【ご縁と別れがあり、34歳の誕生日を北九州で迎えた日の記憶でございます。】初日(宇部-飯塚-博多)その1-山口宇部空港、宇部新川、宇部、下関、小倉、折尾、飯塚、博多(宇部線/山陽本線/鹿児島本線/筑豊本線/篠栗線)

公開日: : 最終更新日:2024/05/17 旅話, 旅話 2003年

鉄旅日記2003年2月15日・・・山口宇部空港、宇部新川駅、宇部駅、下関駅、小倉駅、折尾駅、飯塚駅、博多駅(宇部線/山陽本線/鹿児島本線/筑豊本線/篠栗線)

2003年2月15日の記憶
天気はあまり覚えていない。
背筋を伸ばして歩ける服に着替えて、京成電車に乗り羽田空港に向かった。

努めて2か月前の記憶を辿ろうとしたが、その行為はすでに無意味だった。
それだけ旅立つこととは魅力にあふれている。
一日前のオレはすでにそこにいない。
今年最初の旅は空になった。

山口宇部空港までは1時間45分。
前回は去年の12月。
2か月前じゃ、オレの中では過去とは言いがたい。
よく覚えていたよ。
建物も風景もあの日の情景も。

感傷はない。
すぐにルートを決めて、宇部新川駅行の高速バスに乗り込んだ。
乗客はほんの僅か。
旅人はオレのみ。

宇部とはなかなか賑やかな街だ。
そんな印象を持って国際ホテルの角を曲がり、全日空ホテルを過ぎて駅へ。

窓口で飯塚行の切符を購入する。
鉄道の利用者も少なく、改札口に立つ駅員の姿もなく、構内にある噴水の装置は止まっていた。

2015年8月13日撮影

宇部行には時間があったから小郡方面のホームに行った。
跨線橋は木造で、ぎしぎしと軋む。
宇部は山口県内では下関に次いで人口第2の街と聞いていたが、駅はずいぶんと寒々しい。
宇部興産の煙突は見えず、冬の冷たい風が吹いていた。

ワンマンカーに乗るのは初めてだ。
土曜日の昼下がりということもあって高校生の姿を多く見かける。
元気なのはどこの町でも女子高生。
厚東川を渡り宇部駅までは約10分。
そこで下関行の山陽本線に乗り換える。

宇部駅は12月に彼女の運転する車から眺めている。
ターミナル駅にしては小さいという印象だけを抱いて離れた。
駅構内は広大でホームの数も多かった。

2009年9月19日撮影

下関まで敷かれた線路は2号国道とほぼ並走する。
町から次の町に行くには一山越えなきゃならない。
車の旅も同じで、12月も彼女の車で暗くなりかけた町並を1時間ばかり抜けて海峡へ向かった。

厚狭、新下関。
新幹線の停車駅も荒野の中にたたずむ風情で、華やいだものは見られない。
山陰本線とは下関のひとつ手前の幡生で合流する。

下関。
8月の香りを求めた。
真夏の2夜を過ごした街。
そこで羽田以来の雑踏に遭遇した。

九州へ渡る次の列車は行橋行。
小倉で乗り換えなきゃならない。

下関を出ると関門海峡まで大鉄道基地が広がる。
関門トンネルの通過時間は3分ほど。

門司へ。
荒涼とした風景が最初に見える。
かつても現在も多くの者が降り立ち、旅立ち、多くの者が去っていった街。
そして、これまでに訪ねたこともない者がなぜか懐かしさを誘われる街。
オレの世代で、門司が持つ情感に覚えのない者はいないだろう。

そして小倉。
近づくにつれて巨大な観覧車が目に入り、海辺に面した方に目を向ければ工場群の煙突が屹立し、盛んに白い煙が排出されている。
多くの北九州人が暮らす日本有数の街までやってきた。
「こくら~こくら~」という20年前の上野駅で聞いたような、のんびりとしたアナウンスが構内に響き、電車を降りて地下通路のうどん屋に入り、九州人と再会した。

次は折尾まで。
北九州は工業の街。
そう言えば社会科の時間に教わった。
八幡製鉄所がこの国に最初に生まれた工場だった。

小倉から折尾まで、海岸線に沿って京浜工業地帯に勝るとも劣らない工場群が続く。
現在にも続く北九州工業地帯。
歴史は、古いものを洗い流していくだけではないのだと気づかされた。

戸畑で、若松との間に架かる若戸大橋を眺め、スペースワールドという異次元空間の出現に感慨を誘われ、やがて折尾に到着する。
郷愁にかられる駅で、雨が落ちてきたのはその時だった。
ちょっとした美術館がホームにあり、駅は2層構造になっていて、駅舎は開業当初からそこにそのままの姿でいる存在として風格をたたえ、錆びたような匂いを嗅ぐ。

2009年9月23日撮影

地上に下りるとハイテクの匂いがする客車が待っていた。
筑豊本線と聞けば古い客車がホームにやってくるものと勝手に想像していたが、暖房が効いた最新鋭のコンピューター・トレインが待っていた。
古い街のそこだけに未来があるような。

九州の鉄道事情は豊かなのかもしれないと、文字通り豊な気持ちで筑豊へ。
途中の直方は街だが、筑豊への道は果てしなく民家が続く。
山陽路に見た山並はなく、人の暮らしだけが続き、やがて飯塚へ。

降りた駅の人影はやはりまばらだった。
雨だれの中、駅を出る。
駅を出て正面の通りの右手には、蛇行するアーケード街が薄暗いまま見捨てられている。
客の姿はなく、並み居る店も営業している気配はない。

宇治山田でも同じような光景に出会った。
地方都市とはこのようなものかと曇り空を見上げ、川まで歩き駅へと引き返した。
博多行の列車に乗るには随分待たなきゃならない。
喫煙所でおもむろに見渡すと、市内の地図があることに気づき覗くと、中心街は川向うに形成されていることが分かった。

駅は玄関でしかないようだ。
おそらく何もないと嘆息した、かつての宇佐も江津もそうだったのだろう。
再び雨の中を歩きだした。

繁華街までは約10分。
道を行く車は9割が筑豊ナンバー。
僅かに北九州ナンバーが混じる。

炭鉱町の在処がどこか分からずじまいだったが、日本一荒っぽいと聞いたことのある筑豊にいることは実感した。
そこにあった繁華街はなかなかのものだ。
ひな祭りに装われたアーケード街を歩き嘆息して、12月の山口市内もこんなものだったかと思い返し、時間が来て駅に戻った。

雨が降っていた。
夕暮れ近かった。
筑豊に来たかったが、筑豊には田川もあれば、直方もある。
どこで降りるのがいいのか分からず飯塚を選んだが、これでよかったのだろう。

飯塚からの筑豊本線の車窓は一変する。
不意に民家は途切れ、谷間に駅があったり、トンネルを抜けた先に駅があったり、駅からダムが見えたり。

筑豊から筑前へ。
随分と奥地へきたのかと思ったが、そこから博多までは約30分ほど。
博多の手前2、3駅前から博多の匂いがしたが、博多駅で香った甘い匂いが何だったのかは忘れてしまった。

大博通りを北へ。
椰子の木が通りに沿って群生するアジア有数のメイン・ストリートをまずは祇園まで。
雨はまだ降っている。

2020年8月16日撮影

中洲までは遠くない。
いくつもの歓楽街を抜けて那珂川へ。
話に聞いていた屋台は5軒しか出ていない。

愛想の良さそうな女将と若い主人が出している屋台に入った。
まだ夜も早く、他に客はいない。

ビールを続けるには寒く、途中から酒に変えて、博多の天ぷら料理を食べながら那珂川の夜景を眺めた。
いい眺めで、街中の川辺の風景とは縁を持たなかった分、趣深く感じた。

女将から炭鉱町は三池、梅は大宰府と聞いて、他の客が来る前に店を出た。
ほろ酔い加減で歩く碁盤の目のような博多の街は眩しく、ここまで来た奇運を想い、また歩き出した。

関連記事

2018年秋【サンキューちばフリーパスでめぐる上総下総安房旅】最終日(松戸-五井-大原-安房鴨川-松戸)その3-安房鴨川、江見、君津、千葉、西船橋(内房線/総武本線)

鉄旅日記2018年9月23日・・・安房鴨川駅、江見駅、君津駅、千葉駅、西船橋駅(外房線/内房線/総武

記事を読む

「車旅日記」2006年皐月【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】初日(東京葛飾-黒磯)-天王台駅、水海道駅、下妻駅、真岡駅、益子駅、烏山駅、黒磯駅、道の駅明治の森黒磯

車旅日記2006年5月2日・・・天王台駅、水海道駅、下妻駅、真岡駅、益子駅、烏山駅、黒磯駅、道の駅明

記事を読む

「鉄旅日記」2009年秋【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】5日目(松浦-若松)その1-松浦、有田、伊万里、唐津、筑前前原、姪浜、天神、西鉄福岡、博多(松浦鉄道/筑肥線/福岡市地下鉄空港線)

鉄旅日記2009年9月22日・・・松浦駅、有田駅、伊万里駅、唐津駅、筑前前原駅、姪浜駅、天神駅、西鉄

記事を読む

「鉄旅日記」2007年如月【初日天王寺、2日目奈良。宿泊地だけを決めて、心のままに移動した記録でございます。】初日(東京-天王寺)-東京、名古屋、大垣、米原、草津、柘植、京都、木津、京橋、天王寺(東海道新幹線/東海道本線/草津線/奈良線/学研都市線/大阪環状線)

鉄旅日記2007年2月10日・・・東京駅、名古屋駅、大垣駅、米原駅、草津駅、柘植駅、京都駅、木津駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2020年初秋【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】2日目(高松)その2 ‐祖谷口駅、小歩危駅、大歩危駅、剣山リフト乗場、恋人峠、穴吹駅、黒田屋高松西インター店

車旅日記2020年9月20日・・・祖谷口駅、小歩危駅、大歩危駅、剣山リフト乗場、恋人峠、穴吹駅、黒

記事を読む

「鉄旅日記」2019年師走【由利高原鉄道鳥海山ろく線に乗りにいきました。初冬の日本海は荒々しく、美しゅうございました。】最終日(酒田-東京)その3‐押切、帯織、長岡(信越本線)

鉄旅日記2019年12月8日・・・押切駅、帯織駅、長岡駅(信越本線) 15:35 押切(おしきり)駅

記事を読む

「鉄旅日記」2015年春【名鉄電車2DAYフリーきっぷで行く、中京旅】初日その1(東京-岩倉)-蒲郡、三河鳥羽、吉良吉田、西尾、桜町前、新安城、知立、猿投、赤池、豊田市、新豊田(名鉄蒲郡線/名鉄西尾線/名鉄本線/名鉄三河線/名鉄豊田線)

鉄旅日記2015年3月7日その1・・・蒲郡駅、三河鳥羽駅、吉良吉田駅、西尾駅、桜町前駅、新安城駅、知

記事を読む

「鉄旅日記」2015年春【ひらパーGo!Go!チケットで行く、京阪旅】初日その3(東京-宇治)-中書島、伏見桃山、桃山御陵前、桃山、JR藤森、木幡、黄檗、京阪黄檗、京阪宇治(京阪本線/奈良線/京阪宇治線)

鉄旅日記2015年3月21日その2・・・中書島駅、伏見桃山駅、桃山御陵前駅、桃山駅、JR藤森駅、木幡

記事を読む

「鉄旅日記」2018年神無月【北陸へ。信州へ。友を訪ねての巡礼旅でございます】初日(東京-米原-福井-越前大野)その2-越前花堂、花堂、越前大野、越前大野城(越美北線)

鉄旅日記2018年10月6日・・・越前花堂駅、花堂駅、越前大野駅(越美北線) 16:33 花堂(な

記事を読む

「鉄旅日記」2008年皐月【旅は京都から始まり、山陰から下関へ。そして四国へと渡ったのでございます。】3日目(柳井-徳島)-柳井、大畠、西条、岡山、高松、高松築港、オレンジタウン、引田、池谷、鳴門、徳島(山陽本線/本四備讃線/高徳本線/鳴門線)

鉄旅日記2008年5月4日・・・柳井駅、大畠駅、西条駅、岡山駅、高松駅、高松築港駅、オレンジタウン駅

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】最終日(上田-東京)その2 ‐北飯山、飯山、蓮、森宮野原(飯山線)

鉄旅日記2021年7月11日・・・北飯山駅、飯山駅、蓮駅、森宮野原駅

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】最終日(上田-東京)その1 ‐上田、滋野、長野(しなの鉄道/信越本線)

鉄旅日記2021年7月11日・・・上田駅、滋野駅、長野駅(しなの鉄道

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】初日(東京-上田)その4 ‐長野、御代田、小諸、上田(信越本線/しなの鉄道)

鉄旅日記2021年7月10日・・・長野駅、御代田駅、小諸駅、上田駅(

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】初日(東京-上田)その3 ‐しんざ、十日町、越後鹿渡、津南、戸狩野沢温泉(北越急行ほくほく線/飯山線)

鉄旅日記2021年7月10日・・・しんざ駅、十日町駅、越後鹿渡駅、津

「鉄旅日記」2021年夏【4度目の緊急事態宣言前。飯山線に乗りたくて旅を思い立ちました。湯檜曽駅で夏の第一声を聞き、信越路を歩いた記録でございます。】初日(東京-上田)その2 ‐湯檜曽、水上、越後湯沢、六日町(上越線)

鉄旅日記2021年7月10日・・・湯檜曽駅、水上駅、越後湯沢駅、六日

→もっと見る

    PAGE TOP ↑